天才剣道少女は愛する姫を守る勇者になります

メイ

文字の大きさ
21 / 23

家族の義理

しおりを挟む
わたしは急いで、宮殿に戻った。

そして昨日打ち合わせに使った会議室へと案内されると、そこには皇帝陛下、セレナ様、そして大臣さんが既に席についていた。

だがどうやら様子がおかしく、全員が困っている顔をして落ち着かない様子だ。

神妙な面持ちで部屋はシーンと静まり返っていた。

そんな様子に嫌な予感をしながらも、会釈して向いの席に座る。



「メイ殿、急に呼び出してしまい申し訳なかった。実は困ったことが起こっての・・・」



わたしが席につくと、皇帝陛下がすぐに話を切り出した。

それから隣に座る大臣さんに向けて頷き、話をするように促す。



「メイ様、まずはこれをご覧ください」



大臣さんはそう言うと、わたしに1枚の紙を手渡した。

その紙を受け取り、書かれている文章を読む。

だがその内容は、わたしの予想を遥かに上回ることが書かれていた。



マルチーズ家が魔人アリエスと名乗る者に、姉エイプリルの首を差し出すように要求されていること。

そしてそれを防ぐために、勇者の派遣を要請する内容であった。



「というわけのなのじゃ。マルチーズ家はお主の実家だ。だが、こうして聖女ではなく冒険者として活動している以上、複雑な事情があるのじゃろ。

そして冒険者であるお主を無理強いする権利は我々帝国にはない。じゃが、マルチーズ家が属するウィシュタリア王国は、わが帝国と友好関係にある。

だから、できればその要請を受けてほしい」



「お父様、そんなことを言えばメイに無理強いしているのと同じではないですか?メイ、貴女の意思が一番大事なのよ。

断るなら断ったらいいわ。複雑な事情があるのでしょう?」



マルチーズ家・・・もう二度と帰らないと思っていた。

何故なら、わたしにとって、家族の元に帰るのは大きなトラウマであったからだ。

あの180°変わった両親達の冷たい表情と言葉が未だに忘れられない。

今までやさしく接してくれていたのが、手のひらを返すように変わってしまった・・・。

だが、きっと彼らはわたしが勇者であると知ると、喜んでマルチーズ家の一員として再びわたしを迎え入れるであろう。

しかしわたしはもう知ってしまった。

彼らはわたしを愛していない。何故なら彼らが愛しているのは、わたしではなく聖女としての力なのだから・・・。

たとえ帰ったとしても言い様に利用されるのがオチであろう。

その為、このままマルチーズ家に帰らない選択肢が一番の最善手だと思われる。



でも・・・。

エイプリルお姉様は、血のつながった唯一の姉妹だ。

確かにわたしに冷たくあたったが、それでも大事な家族であるのは事実。

たとえそれが友人達よりも優先度が下がっていたとしても、わたしは彼女を見捨てることができない。

相手は魔人だ。対抗できるのは、わたしが持つ勇者らしき力だけなのだから・・・。

魔人リブラはセレナ様を誘拐するために、多くの人達を殺した。

今回も相手は魔人、わたしが彼女達を見捨てれば、お姉様は確実に殺されマルチーズ家も只では済まないであろう。





「セレナ様、お気づかい。ありがとうございます。ですが・・・わたしはお姉様を見捨てることはできません。

たとえそれが捨てられた家族であっても、わたしに助ける力があるのなら、手を差し伸べない理由はありません!」



「そうか!ありがとう!さすが、勇者だ!出発は明日の朝だ。準備しておいてくれ」



わたしの返答に皇帝陛下は上機嫌に言葉を返す。

それから大臣さんを伴い、部屋を出て行った。

反対していたセレナ様が何か言う前に、この場を去る。そんな印象が見て取れた。

だがセレナ様はうつ向いたまま特に口を開こうとしなかった。



皇帝陛下たちが去って暫くわたし達は沈黙していた。

広い部屋にはポツーンとわたしとセレナ様だけが取り残される。



どれくらい時間がたったであろう?

暫くするとセレナ様は決意を込めた顔で話を切り出した。わたしはそんな彼女の目をじっと見つめる。

本当は目上の女性の目をじっと見つめるのは不敬にあたる。

しかしこの時、セレナ様の目を反らしてはいけないと直感が訴えた。



「メイ、貴女がどうしてマルチーズ家の一員ではなく冒険者として活動してるのか教えてくれないかしら?」



その言葉にわたしはこくりと頷く。

そしてセレナ様に事情を説明した。。



◇◇◇◇

「酷いわ!メイ、なぜ依頼を受けたの?そんなの家族じゃないわ、貴女に助ける義理なんてないじゃない」



セレナ様はわたしの説明に憤慨して声を荒げる。

彼女の反応が嬉しかった。

わたしの為に怒ってくれる、その事実だけで胸にぐっと暖かいものが込め上げる。

セレナ様に頼めばきっと、マルチーズ家にいかないようにに必ず力を貸してくれるような気がした。

このままマルチーズ家に帰らなければどれだけ楽だろうに・・・。



しかしマルチーズ家とわたしは血のつながっているのもまた事実。

そしてまたここまで育ててくれたのは、偽りの愛だったかもしれないものの全てマルチーズ家のおかげなのだ。

だからわたしはここで甘えてはいけない。

家族との縁を断ち切るために、勇者として戦いエイプリルお姉様と両親を守ることで家族の義理を果たそう。

そうすれば、これで貸し借りはなしだ。

家族のために、最後の義理を果たす。

わたしはそう決意したのだ。



「セレナ様、ありがとうございます。ですが家族がここまで育ててくれたのも、また事実なのです。

だからわたしは家族の義理を果たすために、勇者として戦います」



「メイ!貴女はやさしすぎるわ。危険にばっかり飛び込んでわたしは貴女が心配です。

だけど、それが貴女の魅力なのよね・・・」



セレナ様はそう言うと、そっとわたしの手を両手で包み込む。

すべすべしてやさしいセレナ様の手。

それはマシュマロのように柔らかく、絹のように艶やかだった。

それからセレナ様は、わたしをじっと見つめる。

そのサファイヤのような瞳は、この世のどの宝石よりも綺麗だった。



わたしのことをこんなにも思ってくれる人がいる。

友人いや親友として、こうして手をとってくれる人がいる。

だからわたしは絶対に負けない。

相手がどれだけ強くても絶対に負けるつもりはない。

わたしはぐっと心に誓った。



「ありがとうございます、必ず魔人を倒してすぐにセレナ様の元に帰ります。だから暫く待っていてください」



「ううん。駄目よ。私も一緒に同行します」



ええ、貴女の無事を祈って待ってます。

そう言ってくれると思っていた。しかし、同行という思いがけない言葉の切替しにわたしは慌てて否定する。



「え!駄目ですよ、戦いは危険が伴います。セレナ様はお城で待っていてください」



「それは無理ですよ。貴女が居ないときに、また違う魔人が攻めてきたらどうするんですか?」



「え?」



その可能性は考えていなかった。

確かに魔人に対抗できるのはわたしだけだ。

また違う魔人がこのお城に攻めれくれば、今度は確実にセレナ様を奪われてしまうだろう・・・。

でも戦場は危険だし。

わたしは答えに詰まり心の中で葛藤する。

だがそんなわたしの心境を見透かすように、セレナ様はニッコリと微笑んだ。



「その可能性はあるわよね?。魔人リブラに手も足もでなかったのに、スカーレット達では私を守ることはできないでしょ。

だから貴女の隣が一番安全なのよ。それにこう見えてそこそこ強いのよ、お城の中でも私の魔法は上位の力を秘めているんですから!」



「こ・皇帝陛下にお許しいただければ・・・」



わたしはセレナ様の言葉に折れた。

がっくりと首を落とすと、かすれるような声を絞り出し返答する。



「大丈夫、お父様の説得は簡単よ。任せておいて。あとメイ。マルチーズ家に帰るときに、私にいい考えがありますわ」



「いい考えですか?」



「ええ、任せておいて」



セレナ様はそう言うと、怪しげな笑みを浮かべるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

小さくなって寝ている先輩にキスをしようとしたら、バレて逆にキスをされてしまった話

穂鈴 えい
恋愛
ある日の放課後、部室に入ったわたしは、普段しっかりとした先輩が無防備な姿で眠っているのに気がついた。ひっそりと片思いを抱いている先輩にキスがしたくて縮小薬を飲んで100分の1サイズで近づくのだが、途中で気づかれてしまったわたしは、逆に先輩に弄ばれてしまい……。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです

冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。 しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。 アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。 後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。 婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。 そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。 仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。 エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。

処理中です...