天才剣道少女は愛する姫を守る勇者になります

メイ

文字の大きさ
22 / 23

マルチーズ家

しおりを挟む
「いやー勇者様御一行様、ようこそお越しくださいました」



マルチーズ家の邸宅に着くと、執事はニコニコとして屋敷の奥へと案内する。

その言葉に、セレナ様はニッコリと微笑むと執事の後へと続いた。

その後に、スカーレットさんとわたしが続く。



ワイマール帝国から馬車で3日。わたし達はマルチーズ家の邸宅へとやってきた。

同行したのは、セレナ様、スカーレットさん、そしてワイマール騎士30名だ。

なお屋敷に案内されたのは上記3名、騎士達は外で待機している。



セレナ様の同行について皇帝陛下は最後まで難色を示していたが、

「メイ以外でわたしを守れる方がいらっしゃるのですか?もし魔人が攻めてきたら今度こそこの国は滅びますね」

というセレナ様の言葉に渋々同行を許可した。

どうやら皇帝陛下との力関係は完全にセレナ様の方が上のようだ。

なお、セレナ様を命に代えて守るようにと皇帝陛下に念を押されたのは言うまでもない。



「セレナ様・・・本当にばれないでしょうか?」



わたしはヒソヒソと前を歩くセレナ様の耳もとで言葉をささやく。

その言葉にセレナ様は振り向くことなく、わたしだけに聞こえるような小さな声で言葉を返した。



「貴女の変装は完璧ですよ。どこからどうみても年若い男性冒険者にしか見えません。でもできる限り声を出さないように気をつけてくださいね」



その言葉に不安な気持ちがあるものの、わたしはコクリと頷いた。

そう、今のわたしはセレナ様の提案で変装していた。



普段のわたしの服装は、魔導士用の純白の白いローブに剣を持つという一見歪な恰好をしている。

通常剣士の冒険者はズボンが主流で、女性であってもスカートやローブ等のひらひらした物は着用しない。

しかしわたしの技は剣術ではなく剣道だ。

剣道では、ローブ等の裾が長い衣類の方が、足運びが読まれにくく都合がいい。

その為、冒険者になった時から着用しているローブをそのまま継続して着用しているというわけだ。

しかし今回のわたしは銀色の胸当てに、紺色の長ズボンを着用している。

そして頭にはオレンジ色のターバンを巻き、顔の下半分をフェイスマスクで隠していた。

また体全体に汗でも落ちにくい化粧を施し、褐色の肌となっている。



セレナ様はマルチーズ家に行く際に、わたしにある提案をした。

それは変装することであった。

マルチーズ家に勇者がわたしであることがバレなければ、安心して家族の義理が果たせるのではないかという提案だった。

再会した際の家族の反応が怖かったわたしは喜んで、その提案を受けたのだ。



それからわたしは、前を歩く執事を覗き見る。

彼の名前はセバス。

長年マルチ―ズ家に仕えている老齢の執事で、幼少期から付き合いのある人物だ。

彼はマルチーズ家を慕い、幼少期のわたしを見下すことなく接してくれた生真面目でやさしい人物であった。しかしわたしに聖女の力がないと分かるや否や真っ先にわたしを切り捨てた人物でもある。

わたしの侍女やお世話係を全て外し、使用人達に劣悪な待遇を指示したのも彼であった。

それにはお父様達の思惑と指示もあったであろう。

しかしわたしはセバスと良い関係を結べていたと思っていたのに、この手のひら返し。

両親達と同じように彼に対しても、信用ならない人物だと思っている。

だがそんな長年付き合ってきた彼も、どうやらわたしのことに気づいていないようだ。



(なんだか、大丈夫そうね)



わたしは彼の顔を見ながら、くすりと心の中で笑みを浮かべるのあった。



◇◇◇◇

案内されたのは、マルチーズ家の食堂であった。

セバスが扉を開けると、3人の人物が席につきセレナ様達を出迎えた。

テーブルには色とりどりの豪華な料理が並べられている。

奥の一番いい席に座っているのは、当主であり母であるジュン=マルチーズ。

その次席に、姉であるエイプリル=マルチーズ。

そしてその隣が、父であるジュライ=マルチーズだ。



しかしわたしは目に映るその光景に、思わず顔が引きつった。

両親達の顔をを久しぶりに見たからではない。

彼女達の態度が、帝国王女であるセレナ様を迎える上で非常に失礼であったからだ。



通常、お客様は上座に座らせるのが常識だ。

しかしお母様達は上座に堂々と座り、セレナ様の顔を見ても立ち上がる素振りすら見せない。しかも料理に口をつけており、既に食事を始めていた。

マルチーズ家は最高貴族であり、王よりも偉い。

幼少期からわたしもそう教わってきたし、実際末席とはいえマルチーズ家に加わっていた時は特に気にしていなかった。

しかし迎えられる側から改めて彼女達の態度を見ると、それは貴族の礼儀いや人間としての常識から外れた異様な光景であった。

幼少期のわたしも知らなかったとはいえ、彼女達と同じ行為をしていたかと思うと非常に恥ずかしかった。



だが流石はセレナ様だ。

そのような光景を見ても、表情1つ崩さない。

スカートの両端を手に取りカーテーシーの格好をすると、お母様達に向かって挨拶の言葉を投げかけた。



「ワイマール帝国の第1王女。セレナ=ワイマールと申します。本日はマルチーズ邸にお招きいただき誠に光栄でございます」



「そうかよく来たセレナ殿。私はこの家の当主、ジュン=マルチーズだ。この度は勇者の派遣ご苦労であった。まあ食事を用意しているので、席に座り給え」



セレナ様の言葉にお母様は鷹揚な態度で応対する。

しかしその態度を気にすることなく、スカーレットさんは席を引き、セレナ様はその椅子に腰かけた。それに続き、セレナ様の両端にスカーレットさんとわたしも腰かける。

すると今度はお父様がスカーレットさんの方へ顔を向け話しかけた。



「僕はジュライ=マルチーズだ。貴公が噂の勇者かな?成程、女性でありながら鍛え上げられた肉体は素晴らしいな。勇者が見つかったというのも半信半疑だったが、貴公が勇者なら納得できるというものだ」



「私はエイプリル=マルチーズよ。お父様のおっしゃる通りね。勇者が女性だったのは少し残念なんだけど、彼女なら私の護衛に相応しいと思うわ。期待しているわよ」



その言葉にスカーレットさんは沈黙し、セレナ様の方を向く。

そしてセレナ様が頷くのを確認すると、言葉を返した。



「私の名前はスカーレット。ワイマール帝国の騎士団長をしております。今回はセレナ様の護衛で同行させて頂きました。恐れ多いのですが、私は勇者様ではございません」



「は?ではいったい勇者は誰が?」



スカーレット様の言葉にマルチーズ家の3人は驚いた顔で言葉をあげる。

それからハッと気が付くと、一変、微妙な表情でセレナ様の隣に座るわたしを見た。

その反応に、セレナ様はくすりと笑みを浮かべると、わたしの代わりに言葉を述べる。



「はい。隣の彼が我がワイマール帝国の勇者。勇者ヒカル様です」



セレナ様の言葉に続き、わたしは立ち上がりぺこりとお辞儀をする。

ヒカル。それが変装した際のわたしの偽名だ。

前世のヒカリの名前をとって、ヒカルである。



「こんな弱そうなのが勇者だと?セレナ殿、馬鹿も休み休みいったらどうですかな?」



「こんなヒョロヒョロのモヤシみたいなのが勇者?プッ、絶対うそでしょ」



セレナ様の言葉に父のジュライと姉のエイプリルは嘲笑う顔で、セレナ様とわたしを交互に見つめる。

流石にその態度にはスカーレットさんとわたしもムッとした。

しかしセレナ様は特に気にすることなく、言葉をつづける。



「彼の姿は一見華奢ではありますが、剣術はスカーレットよりも上です。

そして先日、我が帝国に攻め入った魔人リブラと名乗る族を討伐しております。

実力的には十分ですので、ご安心ください」



「そうか、それなら安心だ。命をかけて我が娘を守ることを期待しているぞ」



「承知しました」



その言葉に母のジュンが答え、セレナ様が会釈を返す。

ただジュライとエイプリルが勇者を嘲笑う姿勢は崩さなかった。

その後も何度か会話を続けるが、メイいやヒカルを罵倒する言葉を続けていく。

声を出せないわたしの代わりに、セレナ様が落ち着いて反論の言葉を述べられた。



ただ意に返さないように気を付けていても、悪口というものは周りの空気を悪くするもの。

結局、終始最悪な雰囲気で食事会が終わるのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです

冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。 しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。 アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。 後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。 婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。 そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。 仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。 エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。

私が偽聖女ですって? そもそも聖女なんて名乗ってないわよ!

Mag_Mel
恋愛
「聖女」として国を支えてきたミレイユは、突如現れた"真の聖女"にその座を奪われ、「偽聖女」として王子との婚約破棄を言い渡される。だが当の本人は――「やっとお役御免!」とばかりに、清々しい笑顔を浮かべていた。 なにせ彼女は、異世界からやってきた強大な魔力を持つ『魔女』にすぎないのだから。自ら聖女を名乗った覚えなど、一度たりともない。 そんな彼女に振り回されながらも、ひたむきに寄り添い続けた一人の少年。投獄されたミレイユと共に、ふたりが見届けた国の末路とは――? *小説家になろうにも投稿しています

処理中です...