天才剣道少女は愛する姫を守る勇者になります

メイ

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魔人襲来

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翌朝・・・。

いよいよ今日が魔人アリエスとの約束の日。

襲来時刻が決まっていない以上、騎士達は早朝から布陣を組み、魔人襲撃に備えていた。

ワイマール帝国軍30名、ウィシュタリア王国軍30名、マルチーズ軍40名の計100名の騎士達が一同に会す。



既に担当者は割り振られている。

また混乱を避ける為、指揮系統もそれぞれの軍が独立して戦闘を行うことで合意していた。

ただいつ魔人が襲ってくるのか、そもそも本当に相手が魔人なのかはわからない。

騎士達は私語を交わしたりまったりと寝転ぶ者も居たりとゆったりとした雰囲気で思い思いにくつろいでいた。ただワイマール帝国軍を除いては・・・。

ワイマール帝国は、魔人リブラの襲撃を経験し多くの仲間が殺されたことを嫌という程経験している。相手が同じく魔人なら自分達もただでは済まない。

ワイマール帝国軍は皆、神妙な面持ちで武器の手入れを念入りに行っていた。

その緊張と不安を紛らわすかのように・・・。



「スカーレット殿、ワイマールの騎士達は少し緊張しすぎてはないですか?

いつ魔人が襲ってくるかわからない以上、これでは騎士達が疲弊してしまいますよ?」



そう言うと騎士の男性は、ニッコリとスカーレットさんに微笑みかけた。

そして手に持つカップに口をつけて、紅茶を飲む。

そのしぐさは洗練されていて、騎士としてはかなり優雅なしぐさだ。

顔も整っており、もし若い女性が見れば思わずため息をついていたであろう。

だが同席していた、スカーレット、ヒカル、セレナは騎士の緊張感のない姿に乾いた視線を向けていた。

一方、同じく同席していたエイプリルは彼にべったりとくっつき黄色い声をあげている。

その様子がなおさら緊張感のなさが浮き彫りになっていた。



騎士の名前はウィシュタリア王国の騎士団長で名前は、ガイ=ウィシュタリア。

ウィシュタリア王国の第3皇子という高貴な血を持ちながら、騎士団長を行っている。

グレーの髪と水色の瞳をした貴公子だ。スラっとした長身であるものの、線は太くしっかりと鍛えられているのが見て取れる。

なお、姉エイプリルの婚約者である。

婚約者の危機として、こうして馳せ進ぜたというわけだ。



◇◇◇◇

今、わたし、セレナ様、スカーレットさん、ガイさん、そして姉のエイプリルは責任者として騎士達の後方に陣取っていた。

なおこの場に、当主である母と父は居ない。朝から顔を見ていないので、ずっと屋敷に引きこもっているのだろう。

そして当たり前だが責任者と言えどもワイマール関係者以外は、魔人の強さを目の当たりにしたことがなく緊張感がない。

その為、待ち時間にくたびれた姉のエイプリルがこうしてティーセットを広げて全員にお茶を振る舞うという奇功に至ったのだ。

だがそんな彼のノホホンとした雰囲気に、スカーレットさんは苦言を呈した。



「ガイ殿、逆に貴殿達はもっと緊張感をもったらどうなのだ?

先日、私は魔人に殺されかけた。魔人の前では我々の攻撃は通用しない、それ程に魔人は強いのだぞ?」



だがその言葉にガイとエイプリルはプッと噴き出した。



「いやすまない、すまない。貴殿の心配はよくわかった。

だがこの場には聖女であるエイプリルがいるし、勇者様もいる。だがはっきり言って、僕だけで問題ないかと思っている。まあせっかくの助言だ、一応気をつけるようにはしよう」



「ガイ様、頼りにしていますわね。勇者が思っていたよりも頼りないのでガイ様だけが頼りです」



ガイの言葉にエイプリルは甘えたしぐさですり寄る。

そして彼の右肩にギュッと抱き着いた。



「エイプリル様、淑女として他の前でそれは見苦しいかと思います。ご自重ください」



「あれ?セレナ様は妬いていらっしゃるのかしら?聞くところによると、まだ婚約者はいないようで。妙齢ですし、早く行動に移さないと生き遅れてしまいますわよ?」



「あらご忠告ありがとうございます。ですが私は今気になっている方がいらっしゃるの。

彼女いえ彼は本当に素晴らしい人なんですよ。」



「あらそれはいったいどなたかしら?」



あれ?それは初耳だな。

わたしはできるだけ顔を見せないようにずっと俯いていたものの、セレナ様の気になる人は誰だろうと気になり、思わず顔を上げる。

するとセレナ様と一瞬だが目が合った。



「うふふ。もしかしたらエイプリル様が良く知る人物かもしれませんね」



「貴女もしかしてガイ様を狙っているんじゃないでしょうね?嫌よ絶対に譲らないわ」



「あはは、モテル男は辛いな。だがセレナ様申し訳ない。僕はエイプリル一筋なんだ。残念だが、君の気持には応えることはできない」



「もう!ガイ様ったら」



そう言うと、再び二人はイチャ付き合う。

そんな様子に、わたし、セレナ様、スカーレットさんは思わずため息をついた。



◇◇◇◇

それから数時間が経過した。

上りかかっていた日はすでに南中をすぎ、今は西へと沈もうとしている夕暮れ時。

結局、魔人はこの時間になっても現れていない。



「なあ、本当に出てくるのか?」



「この人数だ。もしかしたら怖気づいて逃げたんじゃないか?」



「いやいや相手は魔人だろ?かなり強いんじゃないのか?」



「いやなんか大したことないらしいぜ。」



疲れ切った騎士達からは既に緊張感は完全に喪失していた。

一方、ワイマール帝国軍は未だに緊張した表情を崩していなかった。

彼らは感じていた。

騎士団長であるスカーレットの緊張の糸が切れていないことに。

彼らの後ろに陣取るスカーレットから発せられる無言の覇気と殺気が、びりびりと後ろから突き刺さっていたからだ。



「ねえ?魔人なんていなかったんじゃないかしら?」



だがそんなスカーレットの隣から、姉のエイプリルから間の抜けた声が飛ぶ。



「ああ僕もそう思うよ。そろそろ暗くなるし撤収しようか」



「そうでしょうか?私はなんだか嫌な予感がしますわ」



「もう、セレナ様ビビりすぎでしょう。こんな時間になっても現れないなら、あいつは逃げて・・・」



だが突然、目の前に移る光景にエイプリルは言葉を中断し目を見開いた。

騎士達の前、前方100メートル先の空間が突然ぐにゃりと折れ曲がったのだ。

そしてそのまま空間が割れると、中から一人の大きな女性が現れた。



2メートルを越えるであろう長身と、出るところは出て、くびれているところはくびれているスタイリッシュでグラマラスなボディ。

目は血のように赤く、パーマがかかったようなフワフワとした長い黒い髪をたなびかせていた。

だがその姿は一目で人間ではないことが見て取れる。

リブラと同じく黒く光沢のある体、そして額から生えた一本の大きな黒い角。

その現れた女性はニヤリと笑みを浮かべると、妖艶な大人の女性の声で語り出した。

そこまで大きな声ではない、しかしその声はハッキリと全員の頭の中に響き渡った。



「きゃは。お待たせいたしました人間共。こんなに集まっているということは、どうやら私の要求は却下されたということかしら?

あっ一応自己紹介しておくね、私がアリエスよ」



◇◇◇◇

突然の魔人の来襲に、兵士達は驚き顔を見合わせる。

一同が唖然としており、誰もアリエスの問いに応えようとはしなかった。

だがそこにある一人の騎士が歩み出た。



(あれいつの間に?)



気がつくと、先程まで近くにいたガイ様がアリエスの近くまで歩み寄っていた。



「いや君がアリエスか。なかなか綺麗な容姿をしているな、驚いたよ。どうだい、せっかく来てくれたんだし、とりあえずお茶でもどうだろうか?」



「あら?誘ってくれるの?ありがとう。でも・・・」



その言葉にアリエスはニヤリと微笑む。

すると、黒い髪の毛がグワッと逆立った。



「ぐふっ」



一瞬だった。

瞬きもする間もない速度で、アリエスの髪の毛はまるで蛇のようにウネウネと動き出す。

そして前に伸びたかと思うと、一瞬でガイ様の体を貫いた。

さらにその威力は絶大で装備していた立派な鎧を貫通する。

ガイ様は吐血すると、そのまま地面に崩れ落ちた。



「ガイ様!」



その姿を見た姉のエイプリルは、自分が狙われているのも忘れて前で倒れるガイ様の元へと駆け寄ろうとする。

だがその右手をスカーレットさんは掴み制止させた。



「離しなさい。一介の騎士が私に触れるな!」



エイプリルは怒りを浮かべて、手を掴むスカーレットさんを睨みつける。

だがその姿にスカーレットさんは大きく首を振る。



「エイプリル様、落ち着いてください。相手の狙いは貴女です。わざわざ前に出てどうするのですか?」



「でも・・・」



スカーレットさんの言葉に、エイプリルは歯噛みする。

だがガイが倒れたことを気にすることもなく、アリエスは言葉をつづけた。



「残念だけど人間のくせに、私を口説くなんてな・ま・い・き。

交渉は決裂ということでいいかしらね?じゃー遠慮なく全員殺してあげましょう」



そう言うと、アリエスは右手を高く掲げピンと指をはじく。



パチン

乾いた音が辺りに響き渡る。

すると先程とアリエスが現れた時と同じように、空間に歪みが発生した。

しかし今度の歪みはかなり大きい。

いったい何が起こるのか・・・。



ドスン。



すると大きな足音と共に、それは現れた。

全長は20メートルを超えた、サイのような姿。

そしてその全身には鱗のような大きな岩に覆われていた。



「おいおい・・・嘘だろう」



「どうすんだよ・・・これ」



前方の騎士達から驚きの声が漏れる。

その姿にわたしは見覚えがあった。

ピナトスの町の冒険者達が力を合わせてやっとの思いで倒したAランクの魔物『アースドラゴン』。



「どうかしら?私の自慢のペット達よ。本当は3匹いたんだけど、1匹は散歩してたら逃げちゃった。まあ2匹で我慢してくれるかな?」



呆然とながめる騎士とわたし達をアリエスは楽しそうにあざ笑う。

見上げるとそこには2体のアースドラゴンが、わたし達を睨みつけているのであった。
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