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明日見流学園の入学式、教室での挨拶も終わり、僕、耳塚柿人は困惑を覚えていた。まるで、異世界にでも来てしまったかのようだった。
思えば朝から違和感が多かった。中学まで部活で使っていたはずのサッカーボールやユニフォーム、スポーツ関連のものは根こそぎなくなっていたし、駅中のコンビニのスポーツ紙には野球やサッカーに関する語句ではなく、「耳かき」の文字が躍っていた。
校長のあいさつの言葉から察するに耳かきなる名前の異状なスポーツは常識として受け入れられている。
クラスメイトの挨拶からして、スポーツが趣味の人はいない。「耳かきサポーター」になるとかいう狂気の夢を語る女子生徒を誰も笑わず、まるで「将来の進路を真面目に聞く」かのような空気だった。
そう。耳かきがスポーツのように扱われていること、それが女性のスポーツであることは話の空気から読み取れた。
いくつかのプリントを鞄にしまい、イヤホンで耳を塞ぎ、スポーツに関する語句が出てこない曲を意図的に選び、再生する。なにもおかしなことはない。昨日までと全く同じ曲が流れてくる。
スマホでネットにつながないのは最後の抵抗だった。スポーツが耳かきになってしまった世界、そんな冗談のような、異世界に自分がいるというのはにわかに信じがたいことだった。
奇妙な夢を見ているだけならまた寝ればよいだけ。さっさと帰ろうと僕は軽めに新たなクラスメイトに挨拶し、教室を出る。
目立たないように速足で階段を下りていく。そして靴を履き替え、校門を出たところで僕の足は止まってしまった。
「ちょっと待った―――!」
少し甲高い声。入学式では見かけなかったから上級生だろうか。明るい茶髪と身長に対して少し幼い顔つきの女子が、校門を出ようとする僕の後ろから不敵な表情で見つめていた。
「えっと…僕に言ってます?」
見た目が整った異性の先輩に大きな声で引き留められ、周りから微妙に注目された状態で、そのまますれ違って帰れる程、残念ながら僕の肝は座っていなかった。
「うん!君に声かけてるの!イヤホンをかけて音楽聴きながら帰る子なんて、やる気アピール凄いね!君、耳かきに興味あるでしょ!?私達、耳かき部なんだ!男は耳かきするなって人もいるけど、耳かきも性別を気にしない時代に来てると思うし、私もそういうのすごくいいと思う!やる気のある子にはぜひ入部してほしいの!!」
ぐいぐい来るこの先輩の気迫は本物だ。そして、周りの視線の羞恥も夢で済ますにはあまりにもリアリティがありすぎる。しかし、僕はまだこのイカれた状況が夢であることをあきらめきれず、聞き返した。
「えっと、その、すみません。耳かき部って何をするんですか?耳掃除?」
空気が凍るのを感じる。渾身の一発ギャグがクラスの中で滑ってしまった時のような。
誰もがフォローしてやらなきゃと思いつつもフォローする言葉すら見つからないような、絶望的な空気。気を使われる方がなんなら辛くなってしまう程の失言をしてしまったのを、僕は自覚した。
「耳かきを…ご存知ない!?そんな、イヤホン、それもカナル型のをしているのに!?耳あかを溜めるための形と言われたイヤホンをしておいて、音楽が好きなだけなの!?そんなことありえる!?」
先輩の不敵な笑顔は一転、困惑と焦りにとって代わり、しかし勢いは堕ちることなく、先輩は悲鳴に近い声音で僕を問い詰める。
「いや、本当に無知ですみません。田舎から来たから、本当にごめんなさい…」
嘘は、言っていない。少なくとも僕は中学までは東北で暮らしていた。この夢の中ではどうだか知らないが、僕の主観では嘘ではない。
その謝罪を聞いて、周りの視線は先輩の方に向く。モノを知らない田舎から出てきた後輩に絡む先輩の図になっているなら、この世界が多少いかれていても、多分これ以上絡むのは難しいはずだ。
「うぐっ…」
その視線に若干気おされつつも、先輩は再び口を開いた。
「そうだったんだね!でも、知らないでカナルイヤホンを選んでるのは耳かきの才能があるよ!むしろ耳かき選手になるために生まれてきたと言っても過言ではないって!ね!話だけでも聞いてってよ!先輩を助けると思って!!お願い!!」
この先輩は周りの空気読めるけど多分自分の欲望の方が優先されるタイプだ。ここで問答して粘り勝ちするよりも、多分部室でこの世界の狂気に付き合った方が早く目覚めることができると僕はこの場で判断し、
「…わかりました。ちょっとだけですよ。」
この情けない先輩に、この場では白旗をあげることにした。
思えば朝から違和感が多かった。中学まで部活で使っていたはずのサッカーボールやユニフォーム、スポーツ関連のものは根こそぎなくなっていたし、駅中のコンビニのスポーツ紙には野球やサッカーに関する語句ではなく、「耳かき」の文字が躍っていた。
校長のあいさつの言葉から察するに耳かきなる名前の異状なスポーツは常識として受け入れられている。
クラスメイトの挨拶からして、スポーツが趣味の人はいない。「耳かきサポーター」になるとかいう狂気の夢を語る女子生徒を誰も笑わず、まるで「将来の進路を真面目に聞く」かのような空気だった。
そう。耳かきがスポーツのように扱われていること、それが女性のスポーツであることは話の空気から読み取れた。
いくつかのプリントを鞄にしまい、イヤホンで耳を塞ぎ、スポーツに関する語句が出てこない曲を意図的に選び、再生する。なにもおかしなことはない。昨日までと全く同じ曲が流れてくる。
スマホでネットにつながないのは最後の抵抗だった。スポーツが耳かきになってしまった世界、そんな冗談のような、異世界に自分がいるというのはにわかに信じがたいことだった。
奇妙な夢を見ているだけならまた寝ればよいだけ。さっさと帰ろうと僕は軽めに新たなクラスメイトに挨拶し、教室を出る。
目立たないように速足で階段を下りていく。そして靴を履き替え、校門を出たところで僕の足は止まってしまった。
「ちょっと待った―――!」
少し甲高い声。入学式では見かけなかったから上級生だろうか。明るい茶髪と身長に対して少し幼い顔つきの女子が、校門を出ようとする僕の後ろから不敵な表情で見つめていた。
「えっと…僕に言ってます?」
見た目が整った異性の先輩に大きな声で引き留められ、周りから微妙に注目された状態で、そのまますれ違って帰れる程、残念ながら僕の肝は座っていなかった。
「うん!君に声かけてるの!イヤホンをかけて音楽聴きながら帰る子なんて、やる気アピール凄いね!君、耳かきに興味あるでしょ!?私達、耳かき部なんだ!男は耳かきするなって人もいるけど、耳かきも性別を気にしない時代に来てると思うし、私もそういうのすごくいいと思う!やる気のある子にはぜひ入部してほしいの!!」
ぐいぐい来るこの先輩の気迫は本物だ。そして、周りの視線の羞恥も夢で済ますにはあまりにもリアリティがありすぎる。しかし、僕はまだこのイカれた状況が夢であることをあきらめきれず、聞き返した。
「えっと、その、すみません。耳かき部って何をするんですか?耳掃除?」
空気が凍るのを感じる。渾身の一発ギャグがクラスの中で滑ってしまった時のような。
誰もがフォローしてやらなきゃと思いつつもフォローする言葉すら見つからないような、絶望的な空気。気を使われる方がなんなら辛くなってしまう程の失言をしてしまったのを、僕は自覚した。
「耳かきを…ご存知ない!?そんな、イヤホン、それもカナル型のをしているのに!?耳あかを溜めるための形と言われたイヤホンをしておいて、音楽が好きなだけなの!?そんなことありえる!?」
先輩の不敵な笑顔は一転、困惑と焦りにとって代わり、しかし勢いは堕ちることなく、先輩は悲鳴に近い声音で僕を問い詰める。
「いや、本当に無知ですみません。田舎から来たから、本当にごめんなさい…」
嘘は、言っていない。少なくとも僕は中学までは東北で暮らしていた。この夢の中ではどうだか知らないが、僕の主観では嘘ではない。
その謝罪を聞いて、周りの視線は先輩の方に向く。モノを知らない田舎から出てきた後輩に絡む先輩の図になっているなら、この世界が多少いかれていても、多分これ以上絡むのは難しいはずだ。
「うぐっ…」
その視線に若干気おされつつも、先輩は再び口を開いた。
「そうだったんだね!でも、知らないでカナルイヤホンを選んでるのは耳かきの才能があるよ!むしろ耳かき選手になるために生まれてきたと言っても過言ではないって!ね!話だけでも聞いてってよ!先輩を助けると思って!!お願い!!」
この先輩は周りの空気読めるけど多分自分の欲望の方が優先されるタイプだ。ここで問答して粘り勝ちするよりも、多分部室でこの世界の狂気に付き合った方が早く目覚めることができると僕はこの場で判断し、
「…わかりました。ちょっとだけですよ。」
この情けない先輩に、この場では白旗をあげることにした。
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