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「耳かき」は大昔から流行ってきたスポーツで、その起源ははっきりせず、女性のスポーツとして発展してきたらしい。2000年代に入ってようやく男性も耳かきの権利運動の末、男子プロなる存在が認められ、マイナーながら男子の耳かき選手志望も増えているのだとか。
狂気そのものともいうべき世界だが、耳かきの話を聞きながら、僕はこの狂った世界に小さくない魅力を感じていた。
「じゃあ、耳かき選手は男女で分かれてるわけじゃないんですね。」
「そうだよー。でも男子プロを一人も入れてないチームとかは認めないって大会も増えて来てるみたい。時代だねー。」
友梨奈先輩、お調子者の耳かき部部長の膝は結構柔らかい。いや、他の女子の膝とか触ったことがないから、友梨奈先輩の膝が特別柔らかいのかは不明だが、とかく柔らかかった。
「それにしても君の耳、本当に耳かきしてないんだね。ここまで大きい耳垢を見るのは久しぶりだよ。みてよみゃーちゃん。」
「みゃーちゃん言うな。でも本当にデカいなこれ。キモい。」
「友梨奈先輩も宮古先輩も普通に恥ずかしいし、キモいは傷つくんであまり言わないでください…」
女子の先輩に耳の中を品定めされているというのは流石にまだ自分にはレベルが高すぎるが、女子の膝枕というシチュエーションでと考えれば、全然お釣りがくるのではないだろうか。
「ごめんごめん!でも、これだけあるとやる側は気合はいるよ!大物は高得点になりやすいからね!」
「そだね。あたしもこのサイズは結構気分乗るかも。」
狂った世界だが、この条件なら何なら戻らなくてもいいかもしれない、と考え始めている自分もいる。
「じゃあ、実戦形式でおしえちゃおっかな。一番わかりやすいと思うし。」
友梨奈先輩は一通り僕の耳を引っ張り、伸ばし、ほぐしてからそんなことを言い出した。
「まあ、いいんじゃない?タイマーは?」
「一応はかろっか。」
「りょーかい。」
宮古先輩は友梨奈先輩の指示に従って、ストップウォッチをスマホでセットする。
「あの、僕はどうすれば?」
「受け側のプレイヤーは耳かきされてる間、妨害のために自由に動けるけど、今回は試合じゃないし、初心者がいきなりやるのは危ないからね。柿人君は今回、攻め側に何をされるのかを覚えると思ってじっとしているのがいいと思うよ。」
「はあ。わかりました。」
つまり、元居た世界での普通の耳かきをされてればよいという事らしい。
「うい、ゆりな。はじめるよ。」
「いつでもこい!」
「よーいドン。と。」
宮古先輩がスマホを操作し、タイマーが動き始める。
「これが、君の耳の中ね。」
「うわ、きたな!」
目の前に友梨奈先輩のスマホが置かれ、そこには沢山の毛。それを軽く搔き分けると、奥に大きな岩のようなカタマリ、手前には粉のような汚れがついていた。
「やらない人ならこれくらい汚れてても全然おかしくないから、気にしなくても大丈夫だよ!まずは、ちょっとこのままだと見にくいから、耳毛をカットするね!」
そういって友梨奈先輩は先が細く長い鋏を手に取った。
「耳の中切ったりしません?」
「あー。大丈夫だよ後輩。友梨奈はいろいろポンコツだけど、耳かきに関することだけは器用だから。耳を切るとかはない。」
「そうだよ!柿人君!私、上手だから!」
遠回しに悪口を言われたことには気づかず、ふんすと鼻を鳴らして、その雰囲気に反した繊細な動きで鋏を耳に入れていく。
「なんか、変な気分ですね。」
モニターの中のはさみが毛を切って刃先に毛や粉の汚れが少しずつ、くっついてくる。耳の中からはシャキシャキと音が子気味よく聞こえてくる。
「鋏が初めてならそうかもね。でも、気持ちいいでしょ?」
「はい。なんか、リラックスできるっていうか。眠くなるかも。」
「えへへー。照れるなぁ…」
「あんまり友梨奈を褒め過ぎないでよー。すぐ調子乗るんだからこの子は。」
耳かきの攻めプレイヤーは相手をリラックスさせられるか、上手に耳垢を取れるかが評価基準になる、とは友梨奈先輩の弁。ポイント制というか評価制の競技らしい。
スマホの画面に目を移すと、耳の穴の真中までしっかり伸びていた毛達はすっかり亡くなり、毛に隠れた岩のような耳垢がしっかりと見えるようになっていた。
「耳毛は剃るんじゃなくて切るんですね。」
「剃る派の人もいるけどねー。私は切る派ー。鋏の方が肌に触れないから安心じゃない?・・・うん。毛はもういいかな。」
「なるほどー。」
友梨奈先輩は鋏を耳から引き抜き、除菌ティッシュで軽くぬぐう。
「よし!ここからが本番だよ!まずは手前の粉っぽいのを軽くとろうか!」
綿棒を取り出し、それを耳に入れていく。柔らかい感触と一緒に粉汚れや、鋏からこぼれた切れた毛が、白い綿棒に色をつけていく。
押されるような感触は、元居た世界で自分でやった耳かきとは全く違う感触だった。
「意外と取れてるって感じしないですね。この画面見ないと触られてることしかわからないかも。」
「あんまり力入れなくても取れる位の汚れだからねー。でもこの触られてる感触も気持ちいいでしょ?」
「ええ。まあ。」
綿棒はゆっくりと動いている。耳かきというよりはマッサージを受けているような感じ。
「綿棒の感触は味わったかな?ここからは本番だよ!」
ムンズッと友梨奈先輩は腕をまくり、見せびらかすように耳かきを取り出した。元居た世界でも馴染みあるデザイン。後ろに毛がついてる奴。普通の竹の耳かきだ。
「じゃーん!竹耳かき!コイルとか金属製とか色々あるけど、初心者にはシンプルに!王道に!ってね!」
「あ、竹耳かきなんですね。」
「梵天、あ、この白いポンポンのことね。これで細かいのをやるのも良いし、匙の方は大きい垢にも、軽くひっかくにも、押してマッサージにも使えるからね。王道だけど、全部できる!竹を征する物は耳かきを征す!古事記にもそう書いてあるよ!」
「書いてない書いてない。」
友梨奈先輩の本気かどうかいまいち分からない熱弁に入る宮古先輩の突っ込み。友梨奈先輩は突っ込みもスルーして耳かきを奥に入れていく。
「この耳垢さ、耳毛のない所にあるでしょ?」
「ええ。取れますか?」
「もちろん!でも、耳の皮膚が薄い所だから、痛みとかあったらすぐに言ってね。」
岩のような見た目の耳垢だが、実際に耳かきの先端が軽く触れると軽くめり込む。あんこに匙を入れるような、そんな見た目。
そして、耳の中では垢に触れてる感じはあまりなく、自分が皮膚だと思ってた場所が映像によって耳垢だったということを示していた。
「耳毛のない所は皮膚が薄いんですか?」
「そうだよー。後、耳垢は耳毛のあるところにしかできないの!だから耳毛の生えてるところよりも奥に垢がある人は、なにかあって押し込まれてるんだよね!耳かき知らない人で奥まで押し込んでるのは初めて見たけど。君やっぱり、耳かきやる才能あるよ!」
垢が動きやすくなるとっかかりを探して耳かきの匙が少しずつ動く。撫でるような動きはごそごそとした音を鳴らすが、画面の中のカタマリは表面の形を変えるばかりだ。
「耳かきやってる人は押し込むんです?」
「試合で相手からとられづらくするために、敢えて押し込む人とか、こういう耳用カメラのない人が自主練で間違って押し込んじゃったとか、そういう人が多いかなー。うーん。大きいまま取りたいんだけど、ちょっと手ごわいね。隙間狙うから、動かないでね。」
さらに匙がうごく。餡子か粘土をこねるように、形をうごかし、耳の壁と垢の間にほんの少しの隙間ができる。
音や感触は映像の見た目よりも遥かに大きなものが入っているように錯覚させた。
「もう少し・・・うん。ここだね!」
「んんっ!」
細々とした繊細の動きから、隙間に耳かきが差し込まれた所で、動きが大胆に。テコの原理で岩のような耳垢が耳からはがれる。
かさぶたを剥がしたり、日焼けした皮膚がめくれるような視覚的な快感と、砂場で作った山を最後に崩す時のような爽快な感触。
自分の体の一部だったものが生暖かい感触と共に耳の壁に少し触れながら取り出された。
「いやー!手ごわかったけど、こんなもんだね。みゃーこちゃん!どう?タイムは?」
「4分29秒。まあまあじゃない?」
なにがまあまあなのかは全く分からないが、片耳の大物を取るのはスポーツの耳かきとしてはまあまあになるらしい。
「耳、めっちゃスース―しますね。聞こえがいいかも。」
「毛を切って、大物とりだからね。この年で初めて耳かきしたなら確かに全然耳の感触変わるかも。」
「そうそう!それに見てよこれ!大きいでしょ!」
「おお。実物もやっぱキモいね。」
友梨奈先輩と宮古先輩の耳垢へのコメントに若干の心の涙を流しながら、目を向ける。ティッシュの上に置かれた耳垢をみると、黒く変色したカタマリが置いてある。1cmはぎりぎりないくらいだろうか。
「確かに汚いとは思うけど、普通に傷つくんでキモいはやめません?」
「悪い悪い。」
「まあ、耳かきやるなら汚い位がちょうどいいよ?私なんか全然たまらないから受けの練習あんまりできないし。」
全く悪びれる様子もなく宮古先輩は応え、友梨奈先輩は耳垢がたまりにくいとかいう、女性として、いや人として他人に聞かせていい物なのか判別のつかない情報を公開する。
「でも僕のは数年溜めたものだし、たまりやすいかは分からないんじゃないです?」
「フッフッフ。カバンにそなえたその強力な制汗剤からみるに、柿人君は、汗を良く書くタイプでしょ?」
ドヤ顔が癇に障る。
「何言ってんのこの人。」
ドヤ顔を指さしながら宮古先輩に尋ねると面倒くさそうに宮古先輩は応えてくれた。
「代謝がいいと耳垢ができやすいから、汗っかきは耳垢がたまりやすいって話。でも友梨奈、アンタそれ、セクハラになるよ?男子だしアタシらみたく耳かきやってるわけじゃないんだから。汗とか気にするでしょ。言い方考えなよ。」
セクハラなのか。汗をかきやすいというのは。いやまあ、言われてムカついたしデリカシーがないのは、確かだが。
「ごめんてー。」
反省してるのかそうでないのか、分からないふにゃ顔だ。
「まあ、気を付けてくださいね。」
「はーい。ともあれ、そういうこと。代謝が高い程、耳垢を作りやすいから、私も基礎代謝上げるために筋トレとかもしてるんだけどねー。耳垢ができにくい体質だから、受けの練習がなかなかできなくって。私はもっぱら攻め専門ってわけ。」
「受けとか攻めとかにも向き不向きみたいなのがあるんですね。」
「ポジションってやつだね。」
「そんな野球か何かみたいな・・・」
「耳かきしらないのに野球なんてマイナースポーツよく知ってるね。まあ、確かに似てるところあるかも。」
「似てないだろ・・・」
「なんか言ったか後輩」
「いえ、何も。」
冷静な顔で野球の攻めと守りのようなものだと括られてしまった。耳かき。ダウナーな宮古先輩が真顔で耳かきをメジャースポーツだと言っていること自体に例えようのないシュールさを感じつつも、鋭い目つきに耳かきに関する突っ込みはやめておこうと心に決めた。
狂気そのものともいうべき世界だが、耳かきの話を聞きながら、僕はこの狂った世界に小さくない魅力を感じていた。
「じゃあ、耳かき選手は男女で分かれてるわけじゃないんですね。」
「そうだよー。でも男子プロを一人も入れてないチームとかは認めないって大会も増えて来てるみたい。時代だねー。」
友梨奈先輩、お調子者の耳かき部部長の膝は結構柔らかい。いや、他の女子の膝とか触ったことがないから、友梨奈先輩の膝が特別柔らかいのかは不明だが、とかく柔らかかった。
「それにしても君の耳、本当に耳かきしてないんだね。ここまで大きい耳垢を見るのは久しぶりだよ。みてよみゃーちゃん。」
「みゃーちゃん言うな。でも本当にデカいなこれ。キモい。」
「友梨奈先輩も宮古先輩も普通に恥ずかしいし、キモいは傷つくんであまり言わないでください…」
女子の先輩に耳の中を品定めされているというのは流石にまだ自分にはレベルが高すぎるが、女子の膝枕というシチュエーションでと考えれば、全然お釣りがくるのではないだろうか。
「ごめんごめん!でも、これだけあるとやる側は気合はいるよ!大物は高得点になりやすいからね!」
「そだね。あたしもこのサイズは結構気分乗るかも。」
狂った世界だが、この条件なら何なら戻らなくてもいいかもしれない、と考え始めている自分もいる。
「じゃあ、実戦形式でおしえちゃおっかな。一番わかりやすいと思うし。」
友梨奈先輩は一通り僕の耳を引っ張り、伸ばし、ほぐしてからそんなことを言い出した。
「まあ、いいんじゃない?タイマーは?」
「一応はかろっか。」
「りょーかい。」
宮古先輩は友梨奈先輩の指示に従って、ストップウォッチをスマホでセットする。
「あの、僕はどうすれば?」
「受け側のプレイヤーは耳かきされてる間、妨害のために自由に動けるけど、今回は試合じゃないし、初心者がいきなりやるのは危ないからね。柿人君は今回、攻め側に何をされるのかを覚えると思ってじっとしているのがいいと思うよ。」
「はあ。わかりました。」
つまり、元居た世界での普通の耳かきをされてればよいという事らしい。
「うい、ゆりな。はじめるよ。」
「いつでもこい!」
「よーいドン。と。」
宮古先輩がスマホを操作し、タイマーが動き始める。
「これが、君の耳の中ね。」
「うわ、きたな!」
目の前に友梨奈先輩のスマホが置かれ、そこには沢山の毛。それを軽く搔き分けると、奥に大きな岩のようなカタマリ、手前には粉のような汚れがついていた。
「やらない人ならこれくらい汚れてても全然おかしくないから、気にしなくても大丈夫だよ!まずは、ちょっとこのままだと見にくいから、耳毛をカットするね!」
そういって友梨奈先輩は先が細く長い鋏を手に取った。
「耳の中切ったりしません?」
「あー。大丈夫だよ後輩。友梨奈はいろいろポンコツだけど、耳かきに関することだけは器用だから。耳を切るとかはない。」
「そうだよ!柿人君!私、上手だから!」
遠回しに悪口を言われたことには気づかず、ふんすと鼻を鳴らして、その雰囲気に反した繊細な動きで鋏を耳に入れていく。
「なんか、変な気分ですね。」
モニターの中のはさみが毛を切って刃先に毛や粉の汚れが少しずつ、くっついてくる。耳の中からはシャキシャキと音が子気味よく聞こえてくる。
「鋏が初めてならそうかもね。でも、気持ちいいでしょ?」
「はい。なんか、リラックスできるっていうか。眠くなるかも。」
「えへへー。照れるなぁ…」
「あんまり友梨奈を褒め過ぎないでよー。すぐ調子乗るんだからこの子は。」
耳かきの攻めプレイヤーは相手をリラックスさせられるか、上手に耳垢を取れるかが評価基準になる、とは友梨奈先輩の弁。ポイント制というか評価制の競技らしい。
スマホの画面に目を移すと、耳の穴の真中までしっかり伸びていた毛達はすっかり亡くなり、毛に隠れた岩のような耳垢がしっかりと見えるようになっていた。
「耳毛は剃るんじゃなくて切るんですね。」
「剃る派の人もいるけどねー。私は切る派ー。鋏の方が肌に触れないから安心じゃない?・・・うん。毛はもういいかな。」
「なるほどー。」
友梨奈先輩は鋏を耳から引き抜き、除菌ティッシュで軽くぬぐう。
「よし!ここからが本番だよ!まずは手前の粉っぽいのを軽くとろうか!」
綿棒を取り出し、それを耳に入れていく。柔らかい感触と一緒に粉汚れや、鋏からこぼれた切れた毛が、白い綿棒に色をつけていく。
押されるような感触は、元居た世界で自分でやった耳かきとは全く違う感触だった。
「意外と取れてるって感じしないですね。この画面見ないと触られてることしかわからないかも。」
「あんまり力入れなくても取れる位の汚れだからねー。でもこの触られてる感触も気持ちいいでしょ?」
「ええ。まあ。」
綿棒はゆっくりと動いている。耳かきというよりはマッサージを受けているような感じ。
「綿棒の感触は味わったかな?ここからは本番だよ!」
ムンズッと友梨奈先輩は腕をまくり、見せびらかすように耳かきを取り出した。元居た世界でも馴染みあるデザイン。後ろに毛がついてる奴。普通の竹の耳かきだ。
「じゃーん!竹耳かき!コイルとか金属製とか色々あるけど、初心者にはシンプルに!王道に!ってね!」
「あ、竹耳かきなんですね。」
「梵天、あ、この白いポンポンのことね。これで細かいのをやるのも良いし、匙の方は大きい垢にも、軽くひっかくにも、押してマッサージにも使えるからね。王道だけど、全部できる!竹を征する物は耳かきを征す!古事記にもそう書いてあるよ!」
「書いてない書いてない。」
友梨奈先輩の本気かどうかいまいち分からない熱弁に入る宮古先輩の突っ込み。友梨奈先輩は突っ込みもスルーして耳かきを奥に入れていく。
「この耳垢さ、耳毛のない所にあるでしょ?」
「ええ。取れますか?」
「もちろん!でも、耳の皮膚が薄い所だから、痛みとかあったらすぐに言ってね。」
岩のような見た目の耳垢だが、実際に耳かきの先端が軽く触れると軽くめり込む。あんこに匙を入れるような、そんな見た目。
そして、耳の中では垢に触れてる感じはあまりなく、自分が皮膚だと思ってた場所が映像によって耳垢だったということを示していた。
「耳毛のない所は皮膚が薄いんですか?」
「そうだよー。後、耳垢は耳毛のあるところにしかできないの!だから耳毛の生えてるところよりも奥に垢がある人は、なにかあって押し込まれてるんだよね!耳かき知らない人で奥まで押し込んでるのは初めて見たけど。君やっぱり、耳かきやる才能あるよ!」
垢が動きやすくなるとっかかりを探して耳かきの匙が少しずつ動く。撫でるような動きはごそごそとした音を鳴らすが、画面の中のカタマリは表面の形を変えるばかりだ。
「耳かきやってる人は押し込むんです?」
「試合で相手からとられづらくするために、敢えて押し込む人とか、こういう耳用カメラのない人が自主練で間違って押し込んじゃったとか、そういう人が多いかなー。うーん。大きいまま取りたいんだけど、ちょっと手ごわいね。隙間狙うから、動かないでね。」
さらに匙がうごく。餡子か粘土をこねるように、形をうごかし、耳の壁と垢の間にほんの少しの隙間ができる。
音や感触は映像の見た目よりも遥かに大きなものが入っているように錯覚させた。
「もう少し・・・うん。ここだね!」
「んんっ!」
細々とした繊細の動きから、隙間に耳かきが差し込まれた所で、動きが大胆に。テコの原理で岩のような耳垢が耳からはがれる。
かさぶたを剥がしたり、日焼けした皮膚がめくれるような視覚的な快感と、砂場で作った山を最後に崩す時のような爽快な感触。
自分の体の一部だったものが生暖かい感触と共に耳の壁に少し触れながら取り出された。
「いやー!手ごわかったけど、こんなもんだね。みゃーこちゃん!どう?タイムは?」
「4分29秒。まあまあじゃない?」
なにがまあまあなのかは全く分からないが、片耳の大物を取るのはスポーツの耳かきとしてはまあまあになるらしい。
「耳、めっちゃスース―しますね。聞こえがいいかも。」
「毛を切って、大物とりだからね。この年で初めて耳かきしたなら確かに全然耳の感触変わるかも。」
「そうそう!それに見てよこれ!大きいでしょ!」
「おお。実物もやっぱキモいね。」
友梨奈先輩と宮古先輩の耳垢へのコメントに若干の心の涙を流しながら、目を向ける。ティッシュの上に置かれた耳垢をみると、黒く変色したカタマリが置いてある。1cmはぎりぎりないくらいだろうか。
「確かに汚いとは思うけど、普通に傷つくんでキモいはやめません?」
「悪い悪い。」
「まあ、耳かきやるなら汚い位がちょうどいいよ?私なんか全然たまらないから受けの練習あんまりできないし。」
全く悪びれる様子もなく宮古先輩は応え、友梨奈先輩は耳垢がたまりにくいとかいう、女性として、いや人として他人に聞かせていい物なのか判別のつかない情報を公開する。
「でも僕のは数年溜めたものだし、たまりやすいかは分からないんじゃないです?」
「フッフッフ。カバンにそなえたその強力な制汗剤からみるに、柿人君は、汗を良く書くタイプでしょ?」
ドヤ顔が癇に障る。
「何言ってんのこの人。」
ドヤ顔を指さしながら宮古先輩に尋ねると面倒くさそうに宮古先輩は応えてくれた。
「代謝がいいと耳垢ができやすいから、汗っかきは耳垢がたまりやすいって話。でも友梨奈、アンタそれ、セクハラになるよ?男子だしアタシらみたく耳かきやってるわけじゃないんだから。汗とか気にするでしょ。言い方考えなよ。」
セクハラなのか。汗をかきやすいというのは。いやまあ、言われてムカついたしデリカシーがないのは、確かだが。
「ごめんてー。」
反省してるのかそうでないのか、分からないふにゃ顔だ。
「まあ、気を付けてくださいね。」
「はーい。ともあれ、そういうこと。代謝が高い程、耳垢を作りやすいから、私も基礎代謝上げるために筋トレとかもしてるんだけどねー。耳垢ができにくい体質だから、受けの練習がなかなかできなくって。私はもっぱら攻め専門ってわけ。」
「受けとか攻めとかにも向き不向きみたいなのがあるんですね。」
「ポジションってやつだね。」
「そんな野球か何かみたいな・・・」
「耳かきしらないのに野球なんてマイナースポーツよく知ってるね。まあ、確かに似てるところあるかも。」
「似てないだろ・・・」
「なんか言ったか後輩」
「いえ、何も。」
冷静な顔で野球の攻めと守りのようなものだと括られてしまった。耳かき。ダウナーな宮古先輩が真顔で耳かきをメジャースポーツだと言っていること自体に例えようのないシュールさを感じつつも、鋭い目つきに耳かきに関する突っ込みはやめておこうと心に決めた。
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