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14話
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伊織がソファに座ると宮古先輩も伊織の膝に頭を乗せる。友梨奈先輩は不貞腐れてポテチを貪るが、新しい耳かき部員候補への期待か、それとも単純に新たな耳かき仲間を見つけた喜びからか、目線はきちんと耳かきの方にむけているのは流石と言ったところか。
「後輩。タイム測れよー。」
「わかってます。それじゃ、3カウントではじめるけど、いい?」
「・・・いつでも。」
膝枕までは気負った様子は見られなかったのに、少し緊張してきたようだ。初めての耳かきだからということだろうか。
「じゃあ、行くよ。3、2、1、スタート!」
「では、お耳拝見します!」
「おおっ!きちんと行動宣言していくスタイル!まさに教本のような動き!」
友梨奈先輩の熱い解説が入る。バカみたいだが、耳かき世界を知らない自分にはこのバカみたいな解説から耳かきの常識を聞くことも多いのでバカにならない。バカみたいだが。教本ってなんだよ。
「おー。どうぞ。」
「・・・少し汚れてますね。細かいのからまずは取っていきますよ。」
伊織は覗き込んで、素早く道具箱から竹耳かきを取り出す。飴耳の先輩に竹耳かきは相性がいいとは言えないが・・・?
「友梨奈先輩、宮古先輩に竹耳かきはどうなんですか?使い込んだ人ならともかく。」
「飴耳に竹耳かきの相性が悪いか!?ということなら、心配ないよ!竹耳かきよりも相性のいいみみかきはもちろん沢山あるけど、竹耳かきは基本の耳かき!どんな耳でも最低限の取れ心地はあるし、使いこなせるなら器用万能の最強ツールなんだから!!」
「ふーん。」
「反応うっす!?君が聞いたんだよ!?失礼では!?」
「反省してまーす」
なるほど、竹は基本。大きな乱闘ゲームで赤帽子を使うようなものだ。であれば、初心者ならとりあえずそれを握るというのは間違っていない。
「耳かき入ります。」
「おう。」
こちらの声は聞こえないほど集中しているようで、伊織の表情は真剣だ。宣言と共に、耳かきの匙は宮古先輩の耳の中に入って見えなくなる。
「痛みや違和感があったらすぐに言ってくださいね。」
「うん。」
伊織の手の動きは丁寧で、ともすれば速さは微塵も感じない。手先は右に左に動きまわり、しかし、手首より下はほとんどブレることなく、垢が取れてティッシュに移す時以外は、同じ位置にとどまっている。
「伊織も腕がいいね。そこの後輩といい、男の耳かきが凄いのか、今年の新人が凄いのか・・・。」
「ありがとうございます。でも、まだ残ってるから動かないでくださいね。」
友梨奈先輩曰く、基本に忠実な耳かき。だが、これはまるで、元いた世界の耳かき店のようなやりとりじゃないか。
「おう。」
そうしてまた時間を忘れたかのような精密かつ丁寧な動きが数十秒つづく。
「最後です。動かないでくださいね。」
「ん。」
返事もどんどん短くなっていき、宮古先輩がどんどんリラックスしていくのが側からでもわかる。これはすごい。そして最後の耳垢がティッシュに落ちた。
「終わりました!」
「はいよ。後輩、タイムは?」
「5分20秒です。」
「友梨奈、どう思う?私は全然ありだと思うけど。」
「私もいいと思うよ!基本に忠実な伊織くんと、破天荒だけど、色々できる柿人くんなら、お互いにいい刺激にもなると思うし!」
宮古先輩も友梨奈先輩も伊織の入部には乗り気だ。まあ、僕たちはそもそも人を選んでる余裕もないのだけど、その中で耳かきが好きなら最高の人材と言える。
「伊織はどうだった?」
「楽しいけど、難しいですね。中学の練習でこれをやられてた時を思い出してやってみたんですけど、5分にも届かないなんて・・・」
伊織も悔しそうに自分の耳かきを振り返っているが、校門で会った時とは違った満面の笑みがあった。これもサマになるが、こっちの笑顔は自分もなんだか嬉しくなるような気さえする。
「よし。じゃあ入部届書こう!すぐ提出してくるから!友梨奈先輩、入部届!」
「私は入部届じゃありません!」
「そういうのいいから!」
先生はトイレじゃありませんみたいなこと言いながら入部届を渡してくる。
「ありがとう。じゃ、早速。」
そして、伊織が入部届を書こうとしたその時。
「伊織!無事!?」
ドアを勢いよく開けて、鶴城先輩が部室に入ってきた。無事!?ってなんだ無事!?って。
「げっ・・・姉さん・・・」
「生徒会長、どうしたんですか?」
伊織の反応からして、おそらく自分たちにとっても楽しいことにはならない展開になるのは予想がつく。だが、聞かないという選択はあり得ない。部員は必要なのだ。
「どうしたもこうしたもないわ!まさかいきなり私の弟を人質にとるなんて!どういう脅迫をしたの!?」
なるほど、耳かき部への勧誘は人質になるらしい。いや、そうはならんでしょ。
「えーっと。一応、念のため言っときますけど、伊織は友梨奈先輩も宮古先輩も関係ないし、僕から誘ったし、生徒会長の弟ってのも初耳なんですけど・・・」
「出鱈目言わないで!可哀想な伊織、また耳かきいじめされるから耳かきはやらないって約束したじゃない!それを無理やりなんて・・・」
「そうだね。柿人くんは一つだけ間違ったことを言ってるよ姉さん。」
「伊織!?」
「僕が自分からやりたいっていったんだ。ここならプレイヤーもやれるって。
ずっと耳かきされる側で外耳炎になることもないんだ。僕は練習耳をやりたくないだけで、耳かきはやりたい!姉さんは関係ないだろ!」
「伊織・・・そこまで・・・いいえ。そこまで洗脳したのね、浅倉友梨奈!」
生徒会長は言葉を詰まらせるが、すぐに再起動して友梨奈先輩を睨みつける。
「えぇ!?私、何にもしてないよ!?」
「そうだぞ。今日は友梨奈はここでポテチ食ってただけだ。」
「ポテチ食べてただけじゃないもん!」
友梨奈先輩と宮古先輩は必死の抗議するが、鶴城先輩は聞く耳を持たない。
「本当だと言うなら見せて!伊織が本気で耳かきをしていると言うところを!」
生徒会長も、中学の時の伊織が大変だったから心配しているだけなのだ。だから、これはまあ、妥当な条件、なのかもしれない。だが。
「どうやって?」
「当然!私と耳かきで勝負して、よ!」
「上等だよ!コテンパンにして、2度と僕に口出せないようにしてやる!!」
「そうはならんでしょ。」
こいつもしかして姉に反抗するためにここに来たんじゃないだろうか?
どちらにせよ、この姉弟喧嘩が終わらないことには、伊織の入部は進みそうになかった。
「後輩。タイム測れよー。」
「わかってます。それじゃ、3カウントではじめるけど、いい?」
「・・・いつでも。」
膝枕までは気負った様子は見られなかったのに、少し緊張してきたようだ。初めての耳かきだからということだろうか。
「じゃあ、行くよ。3、2、1、スタート!」
「では、お耳拝見します!」
「おおっ!きちんと行動宣言していくスタイル!まさに教本のような動き!」
友梨奈先輩の熱い解説が入る。バカみたいだが、耳かき世界を知らない自分にはこのバカみたいな解説から耳かきの常識を聞くことも多いのでバカにならない。バカみたいだが。教本ってなんだよ。
「おー。どうぞ。」
「・・・少し汚れてますね。細かいのからまずは取っていきますよ。」
伊織は覗き込んで、素早く道具箱から竹耳かきを取り出す。飴耳の先輩に竹耳かきは相性がいいとは言えないが・・・?
「友梨奈先輩、宮古先輩に竹耳かきはどうなんですか?使い込んだ人ならともかく。」
「飴耳に竹耳かきの相性が悪いか!?ということなら、心配ないよ!竹耳かきよりも相性のいいみみかきはもちろん沢山あるけど、竹耳かきは基本の耳かき!どんな耳でも最低限の取れ心地はあるし、使いこなせるなら器用万能の最強ツールなんだから!!」
「ふーん。」
「反応うっす!?君が聞いたんだよ!?失礼では!?」
「反省してまーす」
なるほど、竹は基本。大きな乱闘ゲームで赤帽子を使うようなものだ。であれば、初心者ならとりあえずそれを握るというのは間違っていない。
「耳かき入ります。」
「おう。」
こちらの声は聞こえないほど集中しているようで、伊織の表情は真剣だ。宣言と共に、耳かきの匙は宮古先輩の耳の中に入って見えなくなる。
「痛みや違和感があったらすぐに言ってくださいね。」
「うん。」
伊織の手の動きは丁寧で、ともすれば速さは微塵も感じない。手先は右に左に動きまわり、しかし、手首より下はほとんどブレることなく、垢が取れてティッシュに移す時以外は、同じ位置にとどまっている。
「伊織も腕がいいね。そこの後輩といい、男の耳かきが凄いのか、今年の新人が凄いのか・・・。」
「ありがとうございます。でも、まだ残ってるから動かないでくださいね。」
友梨奈先輩曰く、基本に忠実な耳かき。だが、これはまるで、元いた世界の耳かき店のようなやりとりじゃないか。
「おう。」
そうしてまた時間を忘れたかのような精密かつ丁寧な動きが数十秒つづく。
「最後です。動かないでくださいね。」
「ん。」
返事もどんどん短くなっていき、宮古先輩がどんどんリラックスしていくのが側からでもわかる。これはすごい。そして最後の耳垢がティッシュに落ちた。
「終わりました!」
「はいよ。後輩、タイムは?」
「5分20秒です。」
「友梨奈、どう思う?私は全然ありだと思うけど。」
「私もいいと思うよ!基本に忠実な伊織くんと、破天荒だけど、色々できる柿人くんなら、お互いにいい刺激にもなると思うし!」
宮古先輩も友梨奈先輩も伊織の入部には乗り気だ。まあ、僕たちはそもそも人を選んでる余裕もないのだけど、その中で耳かきが好きなら最高の人材と言える。
「伊織はどうだった?」
「楽しいけど、難しいですね。中学の練習でこれをやられてた時を思い出してやってみたんですけど、5分にも届かないなんて・・・」
伊織も悔しそうに自分の耳かきを振り返っているが、校門で会った時とは違った満面の笑みがあった。これもサマになるが、こっちの笑顔は自分もなんだか嬉しくなるような気さえする。
「よし。じゃあ入部届書こう!すぐ提出してくるから!友梨奈先輩、入部届!」
「私は入部届じゃありません!」
「そういうのいいから!」
先生はトイレじゃありませんみたいなこと言いながら入部届を渡してくる。
「ありがとう。じゃ、早速。」
そして、伊織が入部届を書こうとしたその時。
「伊織!無事!?」
ドアを勢いよく開けて、鶴城先輩が部室に入ってきた。無事!?ってなんだ無事!?って。
「げっ・・・姉さん・・・」
「生徒会長、どうしたんですか?」
伊織の反応からして、おそらく自分たちにとっても楽しいことにはならない展開になるのは予想がつく。だが、聞かないという選択はあり得ない。部員は必要なのだ。
「どうしたもこうしたもないわ!まさかいきなり私の弟を人質にとるなんて!どういう脅迫をしたの!?」
なるほど、耳かき部への勧誘は人質になるらしい。いや、そうはならんでしょ。
「えーっと。一応、念のため言っときますけど、伊織は友梨奈先輩も宮古先輩も関係ないし、僕から誘ったし、生徒会長の弟ってのも初耳なんですけど・・・」
「出鱈目言わないで!可哀想な伊織、また耳かきいじめされるから耳かきはやらないって約束したじゃない!それを無理やりなんて・・・」
「そうだね。柿人くんは一つだけ間違ったことを言ってるよ姉さん。」
「伊織!?」
「僕が自分からやりたいっていったんだ。ここならプレイヤーもやれるって。
ずっと耳かきされる側で外耳炎になることもないんだ。僕は練習耳をやりたくないだけで、耳かきはやりたい!姉さんは関係ないだろ!」
「伊織・・・そこまで・・・いいえ。そこまで洗脳したのね、浅倉友梨奈!」
生徒会長は言葉を詰まらせるが、すぐに再起動して友梨奈先輩を睨みつける。
「えぇ!?私、何にもしてないよ!?」
「そうだぞ。今日は友梨奈はここでポテチ食ってただけだ。」
「ポテチ食べてただけじゃないもん!」
友梨奈先輩と宮古先輩は必死の抗議するが、鶴城先輩は聞く耳を持たない。
「本当だと言うなら見せて!伊織が本気で耳かきをしていると言うところを!」
生徒会長も、中学の時の伊織が大変だったから心配しているだけなのだ。だから、これはまあ、妥当な条件、なのかもしれない。だが。
「どうやって?」
「当然!私と耳かきで勝負して、よ!」
「上等だよ!コテンパンにして、2度と僕に口出せないようにしてやる!!」
「そうはならんでしょ。」
こいつもしかして姉に反抗するためにここに来たんじゃないだろうか?
どちらにせよ、この姉弟喧嘩が終わらないことには、伊織の入部は進みそうになかった。
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