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16話
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本人たちは至って真面目に、耳かきをかまえ、膝枕をされている。いや。実際真剣な話なのだ。証拠に宮古先輩も、何も考えていないだけかもしれないが友梨奈先輩も、はなき先生でさえ、耳かきで大事なことを決める事自体を咎めようとはしないし、当時者達の決着がどうなるか、真剣な眼差しで見つめている。
この世界においておかしいのは自分である。この光景が文脈として真剣なものだと理解しながら、間抜けな光景と思えてしまう自分の感性は異物なのだ。
ーーーー突っ込みたい。
衝動を抑え込む。理解している。これは真剣勝負であり、神聖なスポーツであり、弟という立場の人間が姉という権力に対して革命を起こそうとしていることである。それに膝枕耳かきを使うことのなにがいけないのか。順応するべきなのは自分なのだ。
息を大きく吸う。自分もこの世界の空気に染まれるように祈りながら。
「それじゃ、さっきと同じで3カウントで試合開始だ。伊織、頑張って。」
「柿人君・・・うん!必ず、入部するよ!」
伊織は声に応え笑う。まだ会ったばかりでそんなに時間は経ってないけど
、あの整った笑顔よりもこっちの笑顔が素なんだろう。その顔は小学生のような満面の笑みだった。
「友情・・・だね!」
「だな。」
「いいねぇ。青春っぽい」
外野が煽ると膝の上の生徒会長が少し震える。怒りだろうか。それとも別の感情だろうか。
伊織の腹に隠れて表情は見えないが、きっと愉快な気持ちではないだろう。
さっさと始めるに限る。
「じゃあ、行きます。3、2、1、スタート!!」
「では、会長。まずは耳の様子を確認しますね。」
「ええ。お願いするわ。」
宮古先輩にした時と同じに、行動宣言をしながら、耳を覗き込む。片手で軽く耳たぶを引っ張り、もう片手でライトを当て、隅々まで丁寧に。しかし宮古先輩の時よりも数段早く目線が動く。
「あら。行動宣言なんて今時の子にしては珍しいくらい律儀ね。それも早くて丁寧。初心者とは思えないくらい。最後まで維持できるならポイントたかいわよー。」
はなき先生が解説するらしい。ポイント性の試合を実際に自分が見るのは初めてだから解説は助かる。
「大丈夫だと思うよ先生。伊織のやつは、私とやった時も最後まで行動宣言やりきってたから。」
「うんうん!基本に忠実というのはスピードさえ維持できれば手堅く点が取れるからね!」
宮古先輩と友梨奈先輩はそれに応え、そのやりとりの横で伊織の耳かきは既に次のフェーズに入っている。
「奥にとても大きいのがありますが、ほとんど細かい汚れですね。耳毛は薄いので処理せず、まずは粘着綿棒で細かいのをそのまま取らせてもらいます。」
耳の実況をすると、粘着綿棒の包装をめくり、取り出す。
「伊織!?耳かきではなく綿棒を!?」
「ええ。粘着綿棒。見た感じの汚れなら、2、3本取り替えるだけで終わります
。会長もお好きでしょ?」
会長は綿棒に弱いのだろうか。どう考えても耳かきの方がしげきが強そうに思える。しかし、そんな見る側の心境など構うはずもなく、伊織の手先の細い綿棒は会長の耳に潜っていく。
「んんっ!」
耳栓持ってくればよかった。耳に毒だわ。これ。外野になりそうなときは必ず耳栓しよう。
「粘着綿棒は軽く触れるだけでもよく取れるけどー、取るたびに
交換が必要だし、ティッシュの上に落とせないのよねー。それなのにあえて粘着綿棒をとったのはどういう事なのかしらー。」
「ふふふ。どんどん取れますよー。」
ペタペタと、貼り付けて取っていく。素早く的確に。伊織の表情はその精密さに反してひどく嗜虐的だ。なるほど。これが他の人からみた自分になるのだろうか。
外野だからアドバイスをするのは御法度だが、自分と同じように反応を楽しんだ結果負けましたでは話にならない。
「あっ!」
ついに、会長の体が跳ねる。アイマスクも必要かもしれない。なんでこれが国民的スポーツになってるの?
「くっ!やりすぎたか!?」
やりすぎたか!?じゃないよ。なに?あの反応で体が動いたから耳かきの位置がズレたか!くらいの反応なのおかしくない?おかしいよな?
「ふふっまだまだね、伊織。その程度で耳かきで攻めをやるつもり?」
あんな声出してなんで余裕みたいな感じで話しかけられるんだこの人も。イカれてるの?
「宮古先輩。これは乙女の尊厳的にセーフなんですか?」
「姉弟だからな。セーフだろ。」
「そうだよ柿人くん。何言ってるの?禁断の恋とかは漫画の中だけだよ?」
「そういう妄想を真剣勝負の時にいうのは先生感心しないかなー。」
理不尽だ。というか対戦相手は弟でも自分がここで観戦してるんだが。なんだよ乙女の尊厳って。
「っ!まだまだ!細かいのは取れたので、次は竹耳かきで大物を動かしていきます。危ないので、動いちゃダメですよ?」
行動宣言をこの状況でも忘れないのはすごい。すごいけどなんかこう、違うだろ。人として。いや、自分なのだ。間違っているのは。
息を大きく吸い込む。自分がこの世界に染まれるように祈りながら。
試合は佳境に入ろうとしていた。
この世界においておかしいのは自分である。この光景が文脈として真剣なものだと理解しながら、間抜けな光景と思えてしまう自分の感性は異物なのだ。
ーーーー突っ込みたい。
衝動を抑え込む。理解している。これは真剣勝負であり、神聖なスポーツであり、弟という立場の人間が姉という権力に対して革命を起こそうとしていることである。それに膝枕耳かきを使うことのなにがいけないのか。順応するべきなのは自分なのだ。
息を大きく吸う。自分もこの世界の空気に染まれるように祈りながら。
「それじゃ、さっきと同じで3カウントで試合開始だ。伊織、頑張って。」
「柿人君・・・うん!必ず、入部するよ!」
伊織は声に応え笑う。まだ会ったばかりでそんなに時間は経ってないけど
、あの整った笑顔よりもこっちの笑顔が素なんだろう。その顔は小学生のような満面の笑みだった。
「友情・・・だね!」
「だな。」
「いいねぇ。青春っぽい」
外野が煽ると膝の上の生徒会長が少し震える。怒りだろうか。それとも別の感情だろうか。
伊織の腹に隠れて表情は見えないが、きっと愉快な気持ちではないだろう。
さっさと始めるに限る。
「じゃあ、行きます。3、2、1、スタート!!」
「では、会長。まずは耳の様子を確認しますね。」
「ええ。お願いするわ。」
宮古先輩にした時と同じに、行動宣言をしながら、耳を覗き込む。片手で軽く耳たぶを引っ張り、もう片手でライトを当て、隅々まで丁寧に。しかし宮古先輩の時よりも数段早く目線が動く。
「あら。行動宣言なんて今時の子にしては珍しいくらい律儀ね。それも早くて丁寧。初心者とは思えないくらい。最後まで維持できるならポイントたかいわよー。」
はなき先生が解説するらしい。ポイント性の試合を実際に自分が見るのは初めてだから解説は助かる。
「大丈夫だと思うよ先生。伊織のやつは、私とやった時も最後まで行動宣言やりきってたから。」
「うんうん!基本に忠実というのはスピードさえ維持できれば手堅く点が取れるからね!」
宮古先輩と友梨奈先輩はそれに応え、そのやりとりの横で伊織の耳かきは既に次のフェーズに入っている。
「奥にとても大きいのがありますが、ほとんど細かい汚れですね。耳毛は薄いので処理せず、まずは粘着綿棒で細かいのをそのまま取らせてもらいます。」
耳の実況をすると、粘着綿棒の包装をめくり、取り出す。
「伊織!?耳かきではなく綿棒を!?」
「ええ。粘着綿棒。見た感じの汚れなら、2、3本取り替えるだけで終わります
。会長もお好きでしょ?」
会長は綿棒に弱いのだろうか。どう考えても耳かきの方がしげきが強そうに思える。しかし、そんな見る側の心境など構うはずもなく、伊織の手先の細い綿棒は会長の耳に潜っていく。
「んんっ!」
耳栓持ってくればよかった。耳に毒だわ。これ。外野になりそうなときは必ず耳栓しよう。
「粘着綿棒は軽く触れるだけでもよく取れるけどー、取るたびに
交換が必要だし、ティッシュの上に落とせないのよねー。それなのにあえて粘着綿棒をとったのはどういう事なのかしらー。」
「ふふふ。どんどん取れますよー。」
ペタペタと、貼り付けて取っていく。素早く的確に。伊織の表情はその精密さに反してひどく嗜虐的だ。なるほど。これが他の人からみた自分になるのだろうか。
外野だからアドバイスをするのは御法度だが、自分と同じように反応を楽しんだ結果負けましたでは話にならない。
「あっ!」
ついに、会長の体が跳ねる。アイマスクも必要かもしれない。なんでこれが国民的スポーツになってるの?
「くっ!やりすぎたか!?」
やりすぎたか!?じゃないよ。なに?あの反応で体が動いたから耳かきの位置がズレたか!くらいの反応なのおかしくない?おかしいよな?
「ふふっまだまだね、伊織。その程度で耳かきで攻めをやるつもり?」
あんな声出してなんで余裕みたいな感じで話しかけられるんだこの人も。イカれてるの?
「宮古先輩。これは乙女の尊厳的にセーフなんですか?」
「姉弟だからな。セーフだろ。」
「そうだよ柿人くん。何言ってるの?禁断の恋とかは漫画の中だけだよ?」
「そういう妄想を真剣勝負の時にいうのは先生感心しないかなー。」
理不尽だ。というか対戦相手は弟でも自分がここで観戦してるんだが。なんだよ乙女の尊厳って。
「っ!まだまだ!細かいのは取れたので、次は竹耳かきで大物を動かしていきます。危ないので、動いちゃダメですよ?」
行動宣言をこの状況でも忘れないのはすごい。すごいけどなんかこう、違うだろ。人として。いや、自分なのだ。間違っているのは。
息を大きく吸い込む。自分がこの世界に染まれるように祈りながら。
試合は佳境に入ろうとしていた。
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