アユミちゃん

まろ蔵

文字の大きさ
上 下
19 / 32

〈アユミちゃんと幸運の女神〉

しおりを挟む
「ねえ、アユミ。
驚かないで聞いてね。
実は、ママは〈幸運の女神〉なのよ」

ある日の事、ママからいきなりのカミングアウト。

「へぇーっ!
スゴイね。
だからウチは良い事ばかり起こるんだね」
少しも動ぜずママの言葉を受け入れるアユミちゃん。

「じゃあ、行って来まあーす」
いつもの通りポチを従え、お散歩です。

公園に到着すると、ベンチに腰掛けてやおら取りだす可愛いポーチ。

あっ!
アユミちゃん、それ、ママの大事な化粧ポーチじゃないの?
勝手に持ち出したらマズイよう、叱られるよ。

「へへへ、一度これやってみたかったんだよね。
はい、ポチ、こっち向いてぇ」
「くうん?」

「はぁい、下地クリーム塗りぬりぃ、パウダーファンデーションをパンパンポンポン、アイブロウはナチュラルに、アイシャドウで立体感出して、アイライナーで目元くっきり、まつ毛にマスカラ、ボリューム付けたら目元のメイクはオッケーね」

あ、アユミちゃん、何その手際の良さぁ!
もう、どう突っ込んで良いのかも分かんないよぉーーっ!

「ふふん、あとはチークとルージュだね。
チークは、パウダーが使いやすいわよね、質感の異なる3色をブレンドしてやると、血色感と立体感を演出できるの。重ねても濁らず自然で美しいグラデーションを生み出すようにね」

えーっとアユミちゃん、ゴメン、もう何だか分かんない。

「最後にルージュ!
まずティシュで唇表面の余計な油分を取り除いてやってから、リップライナーで唇のふちと全体を塗りつぶしてやるの。
それから、リップブラシで口紅を上唇の口角から中央に向かって塗って行き、下唇も同様に口角から中央に向かって塗れば出来上がり」

ポカーン。
アユミちゃん、スゴイ、凄すぎるよぉー!
ポチ(雄犬)が別嬪さんになってるよぉーーっ!
内股でシャナリシャナリと歩いてるよぉ。

「でしょ、でしょおーぅ。
メイクアーティスト・アユミちゃん、どうよ?」

いやいや、確かにすごい腕だったけどねえ。
現実に帰って忠告するならば、そんなに沢山ママの大事な化粧品を使い倒して大丈夫なの、メチャクチャ叱られると思うよ。

「それに関しては、心配ご無用!
そんな不幸な事には決してならないわ」
白い歯を見せてにっこり笑うと、
「だって、アユミには〈幸運の女神〉がついていますもの」




しおりを挟む

処理中です...