アユミちゃん

まろ蔵

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〈アユミちゃんとスイッチ〉

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今日は年に一度の陰干しの日。
おウチの裏庭にある倉庫を開けて、収納している物を表に出します。

アユミちゃんもさっきから、頑張ってお手伝い。
校倉造りの倉庫から、玉虫厨子や螺鈿紫檀琵琶、魔法のランプなどを運び出します。

するとぉ~っ、倉庫の奥にスイッチ発見!
メモ用紙に書かれて貼り付けられている「さわるな」の文字が如何にも胡散臭いです。

アユミちゃんの年代の男の子でしたら、躊躇せずスイッチを押しちゃう所、いやまだ文字すら読めないかも知れません。
そこは聡明なアユミちゃん、直ぐに幸運の女神のママに尋ねに行きます。

「ママ、ママァー、裏庭の倉庫の奥に変なスイッチがあるんだけど、なあに?」
「あ、あら、アユミちゃん、なんの事かしらぁ?」
ママ、少し目が泳いでいます。

「『さわるな』って書いてある、怪しいスイッチの事だよぉー!」
「え、え、えーっとぉー、そ、そうだったかしら?
あれは、これ、ほれ、、、、。
あああ、ああぁ、そうそう思い出したわぁ。
あれはね、か、換気扇のスイッチよ。
ちっとも、怪しくなんか無いのよぉー。
倉庫がね、湿気無い為に、メモが貼ってあるだけよぉ~!そ、そうなのよぉ~!そうに決まった!」
ママさん、しどろもどろ。

「絶対、ずぅえったいに、触っちゃダメよっ!!!
ね、ね、ねっ!」
「ふーん?
分かったわ、ママ。
有難う!」

アユミちゃん、にっこり笑って倉庫へ向かいます。

そこまで云われてスイッチを押さない子供が居るでしょうか?

アユミちゃん、倉庫の奥に進むと確信に満ちた態度で
「はい、ポチッとな」

、、、。
なんだか少し静かになったような気はしますが、特に何も変わった様子はありません。

「あら、なんだぁ、ホントに換気扇のスイッチだったのかなぁ。
つまんないのぉ」
アユミちゃん、ガッカリして、倉庫から出ます。

すると、、、。
入り口前で、さっきまで走り回っていた愛犬ポチが片足立ちの姿勢で固まっています。

「あらぁ、ポチ何してるの?
サーカスの練習?
蝋人形ごっこ?」
でも、ポチは微動だにしません。

「何、ポチ?
どうしちゃたのぉ?
カチンカチンじゃないのさ。
ママ、ママァー!
ポチが変だよぉーっー!」

さっきまで、キッチンでお昼ご飯の準備をしていた筈のママからも返事がありません。
アユミちゃん、急いで台所へ行ってみると、
あらあら、なんて事でしょう。
ママもフライパンを片手に持ったまま、カチンコチン。
レンジの炎さえ全く動かず、お鍋から立ち上る湯気さえ、揺らめもきもしません。

「ああ、なるほどね。
そういうこと」
アユミちゃん、倉庫に戻るとスイッチを入れます。

途端に表からは
「ワンワン、バウワウ、ガフガフ、ジャウジャウ、ハフハフ、ゴンゴン」
6ヶ国語で吠えるポチの声。

時間のスイッチもアユミちゃんの秘密です。
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