欠落した世界を、君と生きる

木下美月

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三章 狂ったコト

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 あと、どれくらい空にいられるだろうか。
 不意に思考をよぎる疑問。
 恐れているのか?
 何度だって入り込める空間じゃないか。
 例えここで負けたとしても、再度ログインすればいい。だけど。

「最初見た時は天使と錯覚したけど、今は純白の翼をもった悪魔に見える」

 きっと彼と踊る空に価値があるんだろう。
 だからこの一瞬を大切に今日も飛ぶ。

「そっちは竜人?モンスターと化したの?」

 シュウはいつものドラゴンに跨っていなかった。代わりに彼を空に貼り付けるのは、背中に生えた竜の翼だった。

「そうさ。つまり今日は悪役対決。勝った方が魔王になれるのさ」

 そう言ってシュウは右掌をこちらに向けた。僕も右手に剣を創り出す。
 静寂。
 彼の手から炎の弾丸が飛び出した。
 戦いは既に始まっている。
 僕は瞬時に羽をたたむ。
 落下。目を丸くするシュウ。
 炎は僕の頭上を通り過ぎて霧散した。
 落ちる僕に再び炎を放つ。狙いは正確。
 仕方なく翼を広げ、惰性で躱す。
 宙返り。
 落ちた分、舞い上がる。
 まるで夢の中にいる様に身体が勝手に動く。
 死ぬのは面倒だから、惰性で生きている。
 迫ったトラブルからは仕方なく逃れる。
 敵意には、殺意を返す。
 この空は僕の人生を描くキャンバスみたいだ。
 背後を取った。
 スローモーションに振り向くシュウと、目が合った。
 高い位置に持ってきた剣を、そのまま振り下ろす。
 鋭い音が鳴った。
 良い反射神経だ。
 シュウの鱗に覆われた右手の先、竜の様に尖った爪が剣を防いだ。
 僕は鱗に覆われた背中を蹴って、彼が体勢を立て直す前に距離を取る。おまけで羽の弾丸をプレゼントするけど、鱗が硬くて大したダメージはない。
 それでも羽と頭部、関節は脆そうだと気付けたのは重畳だ。
 一定時間が経った。
 左手に剣を創り出す。
 シュウはすかさず僕に迫る。
 炎が飛ぶ。
 身を翻す。
 爪が迫る。
 剣で受け流す。
 炎が迫る。
 滑空。
 彼が追ってくる。
 重たい竜人は落ちる方向には早く進む。
 ならばと、僕は垂直に上がる。
 どんどん高く。雲の上に。
 白い靄の中でも炎の光は目立つから、躱すのは簡単だ。
 しかし純白の僕を、シュウは見失った。
 頬が緩み、無防備な背中に向けて剣を振るった。
 右手の剣で彼の右翼を。
 頑丈だが、数センチは切り裂いた。
 手数で勝負だ。
 左手の剣は、彼の膝に突き刺さる。
 右手の剣で彼の手首を切り落とす。
 左手で刺突、羽に穴を空けて。
 右手で脇腹を抉る。
 血を降らせながらシュウは振り向いた。
 僕の剣でその顔を傷付ける。
 美しいじゃないか。
 血が似合うのは、生きている証だ。
 首を狙って剣を振るう。
 しかし、僕の猛攻はそこで止まった。

「捕まえた」

 彼に掴まれた右手の剣は僕の手を離れ、下に捨てられる。
 そしてその手でシュウは僕の首を掴んだ。
 一瞬だけ苦しいと感じた。
 直ぐに解放された。
 何故だ?
 背中が熱い。
 そうか、翼を焼かれていたんだ。
 やはり僕は堕ちて行く。
 首を絞め上げられていれば、空で終われたのに。
 苦痛に耐えながらも空に拘るか。
 安楽を求めて地に堕ちるか。
 僕は、どちらを求めているのだろうか。
 自分がわからない。
 思考の海に沈んで行く。
 そしてもう直ぐ、物理的に沈む事になる。
 真下は海だ。
 僕は負けたんだな。
 敗因はなんだ?
 いや、そんなものはない。
 シュウは強者で、僕は弱者だ。
 これこそ自然の摂理。
 ならば僕が堕ちるのは予め定められていた運命。
 大いなる流れに逆らえる個人なんていない。
 流れを作っている人間ですら、定められた方向に流されているだけなんだ。
 だから僕は抗うことをやめよう。
 堕ちるなら、どこまでも。
 沈むなら、潔く。
 きっとその流れに乗れれば、少しは楽な人生になるだろう。
 だけど――

「やっぱり、ユキは人間の姿が似合うな」

 ボロボロの羽で飛びながら、傷だらけの笑顔を見せたシュウは、落ちる僕を受け止めた。

 僕は、彼がいるから空を飛びたいんだ。
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