24 / 26
五章 血のイロ
1
しおりを挟む1
あの事件は『酔った社会不適合者の無差別殺人』として片付けられた。
あの酔っ払いは最後まで罪を認めなかったというが、現代では人間の言葉より、ロボの監視映像の方が信頼される。
俺は本格的にユキを探し始めた。
学校に通っていなければ、どこのコミュニティにも入っていない。
手がかりは名前と、人型ロボを連れているという事だけ。
そういえば音楽活動をやっているとも聞いた。
そして街を泳ぐ俺は、小さなカフェバーで見つけた。
透き通る歌声。俺の心に訴えかけてくるような歌詞はアコースティックギターの優しい音色に乗せられて。静かに響いてきた。
美しいヒト。
そう表現するのが相応しいだろう。
中性的な見た目は性別の判断をしかねるが、そんな事は些細な事。彼女に秘められた魅力は女の色気でも、男らしさでもなく、芸術のような美しさなんだ。
「ユキ……」
俺は呟いた。
氷のような冷たさを含んだ表情に触れてみたい。
その憂いが晴れたら、次はどんな美しい笑顔を見せてくれるのだろうか。
「ユキ、目を覚ませ」
俺の声じゃない。
「ユキ」
世界が止まった。
違和感。
ここはどこだ?
僕は誰?
何をしていた?
「ユキ、直ぐに帰ろう」
世界がなくなった。
ここは暗闇。
僕はどこに行かなくちゃいけないんだろうか。
大事な事を忘れている。
頭が痛い。
ユキって誰だ。
『どうか自分を見失わないで欲しい』
これは誰の言葉だったかな。
僕は、
僕は……
「冬野ユキ。貴女は私の友人だ」
「……アール」
最初に感じたのは焦げた臭いだった。
目を開いた場所は悲惨だった。
僕を閉じ込めていたマシンの蓋は開き壊され、入口の扉も外されていて、床には頭から血を流した人が倒れていた。
「シュウ……」
まさかアールがやったのか?
人間に危害を加える事は出来ないようにプログラムされている筈だけど。
そこで思い出したのは『アールは特別』と言っていた母の顔だった。
そうだ、僕はずっとアールに育てられていたんだ。それが両親の実験だとしても、アールはずっと側に居てくれた。
「ユキ、ここを出よう」
「ああ……」
ふらりと立ち上がる僕にアールは手を貸してくれた。人工皮膚の感触が心地良い。
アールはマンションからどうやってこの山奥まで来たのだろうか。何故来たのかも気になる。僕の位置は把握しているのだろうが、僕のピンチまでわかるのか?
壊された扉から出るとき、チラリと振り向いた。
シュウが見せてくれたのは、シュウの記憶だ。
あのマシンは父とシュウの研究の成果。
シュウは僕に真実を教えて、なんのつもりだったんだろう。
少し聞きたかったけど、「危険だ」と手を引くアールに連れられて僕は歩き出した。
まだ少し頭が痛む。
脳に相当な負荷がかかったと思う。
上手く物事を考えられない。
千鳥足で部屋を出て、アールに肩を借りながら階段を一段ずつ降りる。
「すまない。私は全てを知りながら、ユキに黙っていた」
見下ろしたエントランスの先の扉が開きっぱなしで、庭の土が足跡の形に抉れているのが見えた。
通常、ロボはその重量を一点に集中させず、器物を損害しないように歩行するが、アールがそのセーフティを外して、重い身体を全力で動かした事は、抉れた地面を見ればわかった。広すぎる歩幅を見て、走ってきた事も読み取れる。
「お前はいつも僕が良い方に進めるよう動いてくれた。今回だって助けに来てくれたし。何より、僕もアールも、両親にとって実験道具でしかなかったんだ。ほら、僕らは良い仲間だ」
ボヤけた思考は両親への憎しみも、シュウへの懐疑も提示しなかった。
代わりに胸の中に生まれたのはアールへの思い。
両親の命令だとしても、アールが僕から離れなかった事は事実。
「ありがとう」
アールも随分会話が上手くなったな、そう思い横目で彼の顔を覗き込もうとした、その瞬間。
「アールッ!」
アールに後方に押された僕は、階段の一段上に座り込む。
反対に、後方から強い力で突き飛ばされたアールは、重い体で派手に転げ落ちて行く。
「なんて事するんだよ……シュウ!」
後ろで寂しそうに笑った彼を、僕は睨みつけた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる