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エピローグ

生きるロボ

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「え?なんでそんなハードスケジュールにしなきゃいけないの。まあでも折角こっちに来るならね……いいよ、ウチに泊まって行きなよ。相変わらず狭い部屋に住んでるけどね」

 トントンと、軽快に階段を降りながら、イヤホンから心地良い声を聞き流す。

「勿論、エミには感謝してるよ。だから招待したんだし。兎に角、夜七時だからね」

 あれから一年が経つのかと思うと、感慨深い。

 現代の医療技術のお陰で私はまだ生きれた。
 そしてアールの修理も無事に行われた。
 ただ、メンテナンス時にアールの異常が見つけられてしまった。
 そもそもあの事件の取り調べ時にアールの目による録画機能はハッキリとアールの異常を見せつけていた。
 それは人間に危害を加えた事。
 メーカーは躍起になって原因を探し、警察は責任の落とし所を探し兼ねていた。

 だけど、アールは提案したんだ。
「私の異常を見なかったことにすれば良い」
 なんて無責任な、と思うが、これは覿面だった。
 アールは自分のデータが消去されたり、壊されたりしたら、アールを開発した会社が『人に害を与えるロボ』を製造したという情報を流す様にプログラムしていた。
 つまりアールはデータに含まれる証拠を脅しに使って、この国の未来を担う企業に提案したんだ。
 だから研究者達はやむを得ずアールを修理し、野放しにする事を決めた。
 これでアールの異常は迷宮入りとなった。
 その上、アールは最新の技術をその身体に取り入れたんだ。

「ユキ、機嫌がいいな」

「今日は人生で最高の日になるだろう」

 私は伸びた髪が風に靡くのを感じて心地良いと思った。
 もしかしたらそんなに悪い世界じゃないのかな。

「アール、リハーサル通りに頼むよ」

 彼は肩にかけたギターケースを軽く持ち上げて「任せろ」と応えた。


「ああ、待っていたよ、ユキさん。いやあ、見違えたねえ」

「ミカミさん、今日もよろしくお願いします」

 ミカミさんは私の全身を眺めて何度も首を縦に振っていた。似合ってると受け取って良いだろう。
『カフェバーメロディ』で演奏するのは二回目だけど、あの時より遥かに良い演奏が出来るのは、既に確信している。

 今日は金曜日。
 入ってくる客もあの時より多いし、大事な友人も来るんだ。

「アール、ヘマするなよ」

「寝言は寝て言って欲しい」

 この返しの上手さは、プログラムされたロボじゃ真似できないだろう。
 私は十分に笑ってから大きく伸びをした。
 やっと始まるんだ。
 全てが序章だった。
 ここで出会った彼のおかげで、私は再スタート出来る。
 共にスタートを切るのはアールだ。
 ロボと共に生きる世界。
 悪くないな。
 そんな曲を後で書こう。
 誰かの胸に届くかな。
 別に届かなくたっていい。
 私はこの無駄な人生を、音楽で生きていこうと決めた。
 人を変える音楽なんて夢はもう見てない。
 だから私は私の魅力を発揮して、アールを音楽に起用した。
 結局人が変わる時ってのは自分次第なんだ。
 それを知れたのもあの人のお陰かな。
 ただ私がそのキッカケになれたら嬉しいとは思うけど、そんなのは希望的観測に留めておこう。

 人が増えていく中で、私はステージに上がる。
 後方にピンク色の髪をした綺麗な女性を見つけた。結局あの色に戻したんだね、少し笑いそうになった。
 彼女は驚いた様に私を見ていた。通話はしてたけど、姿を見せる事はなかったから変わった私に驚いているんだ。

 さあ、始めようか。
 観客はギターをもつアールを怪訝に見ている。
 そりゃ、ロボがギターを弾くわけないもんね。
 でも、アールは別さ。
 私もアールも、生きているんだ。
 生きてりゃ歌も歌うし、曲も書く。
 それこそ人間の心だと思うね。

 これから素晴らしい日々が始まるに違いない。
 私は確信に似た予感を抱いて、マイクの前に立つ。
 その時、会場は雷に打たれたようにどよめいた。
 そりゃそうだろう。

 ロボのアールが、不器用ながらに笑っているんだから。
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みんなの感想(3件)

くわっと
2019.04.02 くわっと

近未来な世界観が素敵でした。
ロボットとかVR技術が発展し続ければこんな世界になるかなとイメージしてしまいます。
お気に入り登録しましたので、更新楽しみに待ってます!

木下美月
2019.04.02 木下美月

ありがとうございます!
毎日更新していきますので、最後までお付き合い頂けたら幸いです!

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2019.03.31 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

木下美月
2019.03.31 木下美月

ありがとうございます……!!
ぜひ最後までよろしくお願いします!

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神聖 猫荘
2019.03.31 神聖 猫荘

僕も小説を書いてあるんですが先生の作品は読みやすいですね。これからも小説家同士頑張りましょう。もしよろしければ僕の作品も見てくださいね。

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