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縮まる距離

プロポーズと共に※R

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 幾度となく季節が巡った。

春を告げる風が俺の体を優しく撫でる。
 俺は大学を卒業した後、遺産相続の一件からお世話になった弁護士の羽柴さんの紹介で、弁護士の道に足を踏み入れた。

 その道のりは決して楽な道ではなかったし、俺は弁護士資格を取るのに8年以上の歳月を費やした。

「時雨くん、今日からよろしくね」

「はいッ、俺頑張ります」

「う~ん、そこは私に変えようか。一人称で人の印象はだいぶ変わってくるからね」

「はいッ!」




そんなこんなで、私ももう28歳になっていた。







 仕事の帰り道、桜吹雪と共に小雨も舞ってきた。

私は浮足立つ足取りで町中を急ぐ。




そして家の前につき、私は玄関の扉を開けた。





「おかえり、時雨」


「ただいま、天人」

玄関の前に立っていた天人に抱きつく。

天人は私の背中に腕を回し強く抱きしめ返してくれる。



「ご飯が出来てます。一緒に食べましょう」


「うん、ありがとう」


天人の姿は私と出会った頃から何一つ変わっていない。そして、ずっとそこから時が止まったように若々しいままだ。

流石にここまで姿、形が変わらないと私も気づく。

天人は、人間ではないのだろう。
それなら今までの事にも説明がつくのだ。
 このままその事に触れずに二人で過ごしてくのも悪くないのかもしれない。

…けど、これからもずっと側にいることになるのなら、今ここではっきりさせておいたほうがいいと思うのだ。


天人から何も聞かされないより、二人で話し合た方が心持ちも覚悟も決まるというものだろう。

「…天人」

「なんですか?」

「食べ終ったら、大切な話がある」

「…えぇ、分かりました」


いつも通りの、穏やかな食事風景が流れていく。


食べ終わると私達は、庭の見える広間の縁側に二人で腰掛けた。 

雨が降る庭に目を向けながら

「天人」

「…なんですか?」

「お前、人間じゃないんだろ」

「……」

「おれッ…、いや、私は貴方と共にこれからも生きていきたい」

なるべく丁寧に語るように言葉を紡いだ

「貴方が例え人間でなくても、私は貴方という光と共に人生を歩きたい」

「男前過ぎませんか?」

「…全て本心だ」

私の言葉に天人は泣きそうな微笑みを浮べ


「私も、時雨と共にありたいです」

「!」

「時雨の言うとうり、私は人間ではありません。時雨と生きている時間も違いますし、貴方が私を見えていないだけで雨が降ってなくても近くに居る時もあります」

「……」


「時雨、私と共に人生を歩んでください」

「……」

「私の全てを時雨にあげます。ですから、時雨の全ても私に下さい」

「…はい」

嬉しくて少し返事が遅れた。

天人は私の手を握って、銀色の小さなリングを何処からか取り出して私の薬指に嵌めてきた。

「指輪?」

「私は人間では無いので、現世…この世界で貴方との結婚は出来ません。ですが、人間達は結婚するときに指輪の交換をすると聞きました。ですから、これは時雨と私が共に歩んでいくという証明です」

天人のその言葉きいて、薬指に嵌められた指輪を撫でた。


「時雨」

「?」


名前を呼ばれ、指輪を眺めていた顔を上げた。

すると、天人の顔が私の顔の近くに来ていた。
 目を閉じて天人のキスを受け入れる。


もう何度も天人と唇を重ねてるのに、今も少し恥ずかしい。

口づけがどんどん深くなる。

「……んッ…ふぁ…」

「…時雨、愛してます」

その言葉とともに床に押し倒された。


「優しくします…。時雨、貴方を抱かせてください」

 天人の言葉に私はゆっくりと頷き、私は思い出の庭が見える広間で天人に初めて抱かれた。



 



 抱かれてから数刻が過ぎていた、抱かれ疲れ眠ってしまったらしい私は床から起き上がった。起き上がると体の上にかけられていた布団が落ちる、天人がかけてくれたのだろう。
 

 雨の音がするのに私の近くに天人の姿が見えない。
 
私は、その事にキョロキョロあたりを見回す。
 すると、庭に一人で佇む天人の姿があった

雨は天人を避けるように降っている…その光景が何だか懐かしく思えておかしい。

(…紫陽花を見てるのかな?)

私はワイシャツを羽織、布団で体を隠しながら庭に降り立った。

ゆっくりと天人に近づいて、そして、天人の背中に頭をくっつけ体をすり寄せた。

「…起きましたか、時雨」

「うん」

「体は…大丈夫ですか?」

「…ちょっと、腰が痛いかも」

天人は振り返り、私の姿に目を向けた。
 私の姿を見るやいなや天人は私をお姫様抱っこしてきた。

「時雨、そんな姿で庭に出てはいけません。風を引いてしまいます!…あぁ、もうこんなにも濡れて」

「大丈夫だよこれくらい」

「大丈夫ではありません!目を離すのでは無かった。…あぁ、雨に濡れて寒いでしょ…。部屋に行きましょう」

そう言って私を抱きかかえたまま部屋に足を進める。


(何だか前にも、こうやって庭を一緒に見た気がするな)
 天人に抱き抱えられたまま、そんなことを思った。

 
 私の部屋につくと、天人は私を布団の上に降ろし、乾いたタオルで私の体を拭いていく。

拭き終わると、布団の中にはいってきて、抱き合ったまま雨が降り止むまで一緒に眠りについた。


雨は朝まで降り続いた。
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