あの日、さようならと言って微笑んだ彼女を僕は一生忘れることはないだろう

まるまる⭐️

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僕と彼女は幼い頃からの婚約者だった。

この国の王太子である僕と、筆頭公爵を父に、隣国の王女を母にもつ彼女。

2人の婚約は言わば必然だった。

礼儀、他国語、教養、ダンス‥
彼女が未来の王太子妃になるために、血の滲むような努力をしてくれていたのを、僕は子供の頃から見てきたし、知っていた。

それなのに‥

学園に入って僕は恋をした。

サラ・ブラウン男爵令嬢

ピンクブロンドの美しい髪。
大きなシャンパンゴールドの瞳。

愛らしく笑うサラに僕は夢中になった。

2人の仲はあっという間に噂になり、父である国王陛下にも苦言を呈された。
「彼女を大切にしろ」と。

だけど‥

障害があればある程、恋は燃え上がる。

僕はサラ以外の何も見えなくなっていた。

僕を支えるために、今迄の人生の全てを犠牲にして学んでいた彼女のことさえ‥

それどころか、僕とサラが愛し合っているのを知りながら、いつまでも婚約を解消しない彼女に怒りすら感じていた。

僕自身、婚約者がいながら、不貞を働いている自覚はあった。だから、こちら側から婚約の解消を言い出せないことも分かっていた。

だが、僕に愛されていない事が分かっているなら、空気を読んでそちらから婚約を解消しろよ‥と勝手な事を思っていたのだ。

僕はあからさまに彼女を避ける様になった。

月に一度の彼女とのお茶会もすっぽかす。

贈り物も一切しなくなった。

彼女に贈り物をする金があるなら、その金をサラに使ってやりたかった。

筆頭公爵令嬢の彼女は、僕がわざわざ贈らなくても何でも持っている。

男爵令嬢のサラは、高価なドレスも宝石も何も持っていない。

僕がサラに贈り物をするのは当然の事だ‥そう思っていた。

僕が婚約者である彼女を蔑ろにし、僕の色のドレスや宝石を身に纏ったサラを夜会や舞踏会に伴う様になった頃、僕がもう自分の言う事に従うことはないと悟ったのだろう。

父はある提案をして来た。

それは、彼女と婚姻を結んだ後、サラを愛妾として迎えれば良いというものだった。

愛するサラを愛妾になんて出来ない‥僕は父に反抗したが、男爵令嬢であるサラを王太子妃には出来ない。その条件を飲まぬなら、廃太子にすると父は言った。

仕方なく僕は彼女と婚姻を結んだ。
初夜は当然放置した。
直ぐにサラを愛妾として迎えた。

彼女は王宮での立場を失った。
お飾り妃だと後ろ指を刺され、愛し合う2人を邪魔する悪女だと蔑まれた。

そんな周りの声を聞いた僕は愚かにも、王宮にいる人間は全て、僕とサラの味方だと思ってしまった。

サラは愛妾だ。

僕とサラがどれだけ愛し合っていても、サラが産んだ子は庶子として扱われ、僕の子だと正式に認められることは無い。
そんな理不尽、許されるはずがない。

彼女さえいなければ‥

サラは王太子妃になれるのに‥

僕は彼女を罠に嵌める事を思い付いた。

嫉妬に駆られた彼女がサラを害そうとした‥とありもしない罪を作り、彼女を捕え罰しようとした。

彼女が罪人になれば、王太子妃ではいられない‥そう思ったのだ。

彼女の部屋に行き、この日のためにでっち上げた罪を高らかに宣言した僕は、兵に彼女を捕えるよう命じた。

僕の意図を感じとったのだろう。

彼女は素早い動きで走り出し、兵をかわすと、近くのベランダまでたどり着いた。そして、ベランダを背に僕に振り返った。

「さようなら」

そう言って微笑んだ彼女は、そのまま後ろにゆっくりと体重を移動して、ベランダから落ちていった。

一瞬の出来事に僕も兵も動く事さえ出来ない。

こんなつもりじゃなかったんだ。

まさか彼女が死を選ぶなんて‥

それから僕の人生は一変した。

味方だと思っていた王宮に勤める者達は皆、手のひらを返した様に、僕が彼女の罪をでっち上げた事を暴露した。
僕は信じていた腹心にさえ裏切られたのだ。

王宮に勤める者達は貴族の子女が多い。

きちんとした王族としての教育も受けておらず、自分達より身分の低いサラに、心から仕えようとする者など最初からいなかったのだ。

僕は馬鹿だ。
男爵令嬢では、王太子妃にはなれない。
父はそう言ったじゃないか。それなのに僕は本気で、彼女さえいなくなれば、サラが王太子妃になれると信じていた。

筆頭公爵令嬢に冤罪を着せて殺した。
しかも彼女の母は隣国の王女。

僕の行いは隣国との関係に亀裂を生じさせ、国益を害した。

だが、それだけでは無かった。

愛する娘を失った公爵は、このタイミングで彼女の日記を公開した。

そこには僕が知らなかった彼女の悲痛な叫びが綴られていた。

彼女は幼い頃からの婚約者である僕を慕ってくれていた。
だからこそ、あれ程過酷な王太子妃教育を必死になって受けていた。

将来、王となるであろう僕を支えたい‥その一心で‥

だが、僕はサラを愛してしまった。
彼女は何度も、公爵家を通して、婚約を白紙に戻して欲しいと訴えていた。
愛し合う2人を一緒にさせてあげて欲しいと‥

本来なら婚約を破棄されてもおかしくなかった。だが、彼女は王家の立場や僕の立場を思い、白紙にと望んだのだ。

それを拒んでいたのは王である父だった。

筆頭公爵家と縁を結び、安定した国家運営をするために‥
隣国との関係を強固な物にするために‥

そのために彼女は犠牲になったのだ。

僕との婚姻に彼女は絶望していた。

僕には蔑ろにされ、王宮の者達は、お飾り王太子妃だと貶む。

針の筵の毎日。

そして、それ程王家が望んだ婚姻にも関わらず、彼女を守るものは誰もいなかった。

彼女を無理矢理嫁がせた王である父でさえ、婚姻すれば彼女の役目は終わったとばかりに、彼女に構う事は無かった。

他の貴族の手前‥
隣国への手前‥

父に必要だったのは、高貴な血を引く彼女が王太子妃だと言うその建前だけだった。

自分は何の為に生きてきたのだろう‥
何の為にあんなに努力してきたのだろう‥
そしてこれから、何を支えに生きて行けばいいのだろう‥
一生こんな生活が続くのだろうか‥

彼女の日記には、毎日毎日、そんな不安と絶望が記されていた。

そんな彼女に、僕は冤罪を着せて、捕えようとした。

追い詰められた彼女は、死を選ぶしか無かったのだ。

日記を読んだ貴族達は彼女の不遇に涙した。

それと同時に王家の権威は地に落ちた。

特に僕には非難が集中した。

父は保身の為、あっさり僕を切った。
僕は廃太子され、サラと共に北の離宮に幽閉された。

離宮と言っても北の離宮は、手入れも満足に行き届いていない錆れた場所だった。

サラは

「私は王太子妃なんて望んでいなかった。」

「愛妾でも何でもいいから、王宮で贅沢三昧な暮らしがしたかっただけだ」

「こんな所で一生暮らしてなんていけない。」と泣き叫んだ。

そして

「こんな事になったのは、全部貴方のせいよ!」と僕をなじるのだ。

あぁ‥僕が愛したのはこんな人だったのか‥

廃太子される時、公爵は僕に言った。

「その娘は、貴方に何をしてくれたのですか?」

そう‥

サラは僕を破滅に導いただけだった‥

暫くしてサラは死んだ。
病死と言うことにはなっているが恐らくは毒を盛られたんだろう。

これから僕は一生1人でこの離宮で暮らしていく。

結局、誰1人幸せになれなかった僕の選択はどこで間違ったのだろう‥

サラを愛してしまったことか?
王太子の座に固執し、彼女を娶ったことか?
本当にサラを愛していたのなら、あの時、廃太子されたとしても、サラと添えば良かったんだ。
そうすれば、サラの本当の気持ちにもっと早く気付いたはずだ。

そうすれば、少なくとも彼女がこんな形で死を選ぶことは無かった。

そうすれば‥ああすれば‥どうすれば‥

これから僕は、この離宮でずっとこの言葉を繰り返し、後悔しながら生きていく。

そして思い出すのだ。
こんな僕の事を本当に心から愛してくれた彼女の事を‥

最期の時、僕に向かって「さようなら」と言って微笑んだ彼女は、泣きたくなるぐらい綺麗だった。



あの日「さようなら」と言って微笑んだ彼女を僕は一生、忘れることはないだろう‥


おわり


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

テンプレ物ですが、ゆっくりと自身の体重を後ろへと移動し、バルコニーから落ちていった‥というフレーズが頭に浮かび、どうしても作品として残したくなって、書きました。
拙い文章ですが、最後までお読み頂きありがとうございました。🙇


まるまる



















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