私は何も知らなかった

まるまる⭐️

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 部屋に入って来た殿下は私に向かって柔らかな笑みを浮かべた。

 え……?

 殿下が私に笑い掛けてくれるなんて、初めて会ったあの日以来だ。留学から戻られてからの殿下は、眉間に皺を寄せ、私の事をいつも睨みつけていた。だから今更笑い掛けられても、嬉しいと言うより、もはや何故笑っているんだろうと不気味ささえ感じる。ましてこの状況なら尚更だ。

 私は恐怖で後退り、殿下と距離を取った。

「そんなに怯えないでくれ。自分が君に今迄どんな態度で接してきたか、自覚はあるんだ。」 

 殿下は申し訳無さそうな顔をして目を伏せた。

「………」

 私が殿下の真意が分からず、何も答えられないでいると、再び、殿下の方から話し掛けてきた。

「やっと目が覚めたんだな…。体の具合はどうだ? 君は薬を嗅がされて昨夜からずっと眠っていたんだ。何処か苦しい所は無いか?」

 殿下が私に労りの言葉をかけた。

 え? 嗅がされた? 何処か他人事の様な殿下の言葉に違和感を覚える。

「……私を攫ってここに閉じ込めたのは殿下じゃ無いんですか?」

 私は恐る恐る問いかけた。

「閉じ込めた…?あぁ、そうだな。だが君を攫おうと男達を差し向けたのは俺では無い。俺は君を助けて、匿おうとここへ連れて来ただけだ。だいたい、君を攫って俺にどんな徳がある? 」

 殿下は私に向かってハッキリとそう答えた。思えば彼に話しかけて、こうしてきちんとした返事を貰えたのはいつぶりだろう。そんな当たり前の事にさえ違和感を感じる。この人は今、何を考えているんだろうと反対に身構えてしまうのだ。それ位、私達の関係は最悪なものだったんだとつくづく思う。

 だが、知りたい事は沢山ある。私は気を取り直した。

「じゃあ…一体誰が私を連れ去ろうとしたって言うんですか? だいたい、殿下の言う事が本当なら、あんな夜遅くどうして殿下はそんなにタイミング良く私を助ける事が出来たんですか? それにあの日は夜会だったじゃないですか? あ!そうだ! ロザリア様はどうしたんですか?」

 私は頭に浮かんだ疑問を矢継ぎ早に殿下にぶつけた。

「……………」

 殿下がまた、いつもと同じ様に黙り込んだ。だが、いつもと違うのはその表情が柔らかい事だ。

「ほら…答えられないじゃないですか? 」 

「答えられないんじゃない。そんなに1度には答えられないだけだ。1つずつきちんと答える。」

 どうやら答える気はありそうだ。

「まず、そうだな…。タイミング良く君を助けられた理由だな。それは君に監視をつけていたからだ。」

「監視…ですか? まさか、私、ずっと前から狙われてたんですか? え? 誰に?」

「ちょっと待て! それは後でゆっくり話す! とりあえず…次はそうだな。あの日は夜会だったが、君が去った後、直ぐに夜会は散会になった。まぁ、当たり前だよな。夜会の主役があれだけの騒ぎを起こしたんだ。その後、俺は君に付けていた監視から、君が1人で屋敷を出たと連絡を受けた。嫌な予感がして駆けつけてみれば、君は攫われる寸前だった。それからロザリアだな。彼女はいや、彼女だけじゃない。彼女の父親、カシミール公爵を含め、彼らは俺の協力者だ」

「…カシミール公爵も…? 協力者?」

 そう言えば王妃様が殿下はカシミール公爵を慕っていると仰っていたわ。

 私の問いに殿下は辛そうな顔をし、やがて搾り出す様に答えた。

「公爵はこの国の未来を憂いておられた。彼は商いを通じて他国との繋がりが深い。君はメルカゾールが他国にどう見られているか知っているだろ? 俺は手紙を通して君に、他国との関係に注視する様にうながしたはずだ」

 私達の交わしていたあの手紙…。殿下はこの国の未来を憂いていた。父である陛下にも不信感を抱いていた。

「そんな…。じゃあ殿下とロザリア様は恋人同士じゃなかったの? では他の令嬢とは…?」

「あぁ…。ロザリアは俺の従兄妹で協力者。ただそれだけだ。他の令嬢達も態と振る舞った。俺と君の婚約を俺の有責で解消するために…」

 殿下の答えを聞いた私は怒りに震えた。私は苦しんだ。愛されない婚約者だと…。お飾りの婚約者だと…。いつも蔑まれて来た。夜会や晩餐会でもエスコートもされずたった1人であの場所に立っている気持ち、貴方には分からないでしょうね。辛くて、惨めで泣き出したい気持ちを何度も何度も噛み締めて耐えてきた…。

「…どうしてですか? どうしてそこまでして、私との婚約を解消したかったんですか!?」

 私は悔しさを押し殺して殿下に問いかけた。

 殿下は暫く黙り込んでいたが、やがて意を決した様に答えた。

「運命を変えるためだ!」

「運命を変える?」

「あぁ…。これから7年後、メルカゾールはセレジストの属国になる。事実上の征服だ。」

 7年後? 殿下は何を言っているの? 意味が分からない。

 私の怪訝な表情に気付いた殿下が言葉を繋いだ。

「君は信じられないかも知れないが、俺は今、2度目の生を生きている。そして1度目の人生、君は私の父、国王リカルドに殺された…」


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 次回、ザイティガ視点です。



















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