私は何も知らなかった

まるまる⭐️

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「…どれだけ考えても、父に君を殺す理由なんて無い。実際我が国は、君のおかげでセレジストから優遇と援助の両方を受けていた。君を殺めて、父にメリットなんて一つもないんだよ。」

 優遇? 援助? 殿下のこの言葉は私を驚かせるには充分だった。

「……私のおかげ…?では…祖父は私の為にメルカゾールへの援助をしていたんですか?」

 叔母が我が家を訪ねて来てくれた事から、祖父は私の存在知っていたはずだ。

 でも、祖父からは手紙一つ貰った事は無かった。だから私は祖父から疎まれているとずっと思っていた…。

 なのに…。

「ああ。シナール様はリアーナ様と君の事を仕切りに気にされていたそうだ。それを良い事に、父は半ば脅しの様な事をしてセレジストからの譲歩を引き出していた。そしてシナール陛下はその父の脅しに応じていたんだ。メルカゾールで暮らす君達の幸せを守るために…」

 私は初めて知る事実に戸惑いを覚えた。

「では…祖父はお母様と私を疎んでいたのでは無かったのですね…?」

「ああ。寧ろその逆だ。そうでなければ、援助などしないだろう」

『わたくし、お父様に逆らったのは初めてだだの。だから少し怒っているのね』

 母の言葉が甦る。

 母はずっと家族を捨てて駆け落ちした自分を、祖父は許してはいないと思っていたのに…。そう思って死んでいったのに…。

 そうでは無かったの?

 どうしてこんな事になってしまったの?

 誰かの悪意を感じた。

 そう言えばテレサも言っていた。

『リアーナ様の手紙は、本当にシナール陛下に届いていたのでしょうか?』

 あの時、父は明らかに動揺していた。だから母は最期の手紙をテレサに託したんだ。必ずお爺様に届くように…。

 母からの手紙は父が破棄していたのは間違い無いのだろう。では、祖父からの手紙は…?

 祖父は本当に私達に何の連絡も取ろうとしなかったのだろうか?

「分からない事は他にもある。父は君と僕の間に子が出来る事を恐れていた」

「子供…?」

「ああ…。君が殺された時、君は妊娠していたんだ」

 子供の事を私に告げた時、殿下は今にも泣き出しそうな悲痛な表情をした。

「子供…?私と殿下の子供…?」

 私は愕然として、両手で口を覆う。

 私だけで無く、私の子供まで…殺された? 体が震える。

「俺たちの子はどうやら、父に歓迎されていなかったらしい…。本当はこんな話を君に聞かせたくは無かったんだ。だが、君は全てを知りたいんだろう? 自分の死の話を聞くのは辛いはずだ。まして殺されたと聞けば尚更に…。だから俺は決めていた。君がもし包み隠さず話そうと。」

 殿下の表情や言葉から、それが私にとって辛く、悲しい物だと言う事は分かった。

 でも、本当の事が知りたかった。

 私は殿下に頷いた。

 すると殿下は、前世私達の身に起きた事を訥々と話し初めた。

「俺は今では父は君では無く、子を殺めようとしたのかも知れないとさえ考えている。だが、父にとっても孫だ。それにその子もセレジストの血を引いている…。だから分からないんだ。君にしても子にしても、何故父は殺めようとしたんだ? 父にとって益など何も無いのに…」

 そう前置きした上で…。

 *****

 前世、俺たちは、定められた通り、婚姻を結んだ。俺は幼い頃からの婚約者だった君を愛していたし、周りからも羨まれる位、俺たちは仲の良い夫婦だった。だが、俺たちはなかなか子に恵まれ無かった。

 1年が経ち、2年が経つ頃には、羨みは蔑みに変わっていった。君は石女だとの中傷を周りから受ける様になり、俺も当然の事の様に側妃をと勧められた。だが、俺はそれを突っぱねた。すると周りは君を更に追い込んでいく。君は心を病み、塞ぎ込む日が増えていった。

 だから俺は、気分転換にと君を旅行に誘っんだ。旅行から帰ってから暫くして、君の懐妊が分かった。君は大層喜んで、笑顔が増えた。側妃の話も無くなった。俺たちは子供の誕生を待ち侘び、君は暇さえ有れば子供の靴下や手袋なんかをレースで編んで、出来上がった物を俺に見せてくれた。

「ねぇ、見て! 上手く編めたの。可愛いでしょ」そう言って…。

 俺たちは幸せだったんだ。

 そんな時、国境付近で隣国との間に諍いが起きた。俺は父に命じられ、諍いを沈静化するために国境へと旅立った。

 やっと諍いの終結に目処がたった頃、王都から早馬が来て君が亡くなった知らされた。

 信じられなくて、俺は必死に馬を駆った。

 王都を出る時、君は笑って送り出してくれた。元気そうだった。

「ご武運を…。この子と一緒にお待ちしています」

 そう言って、腹を愛おしそうに摩りながら、俺に微笑んでくれたんだ。

 どうか、どうか間違いであってくれ…。

 そう祈りながら俺は馬を走らせ続けた。

 だが、現実は残酷で…。

 城に戻った俺の目の前にいたのは、冷たくなった君だった。

 聞いた話によると、君は階段から足を踏み外して落ちたらしい。腹に子がいた事もあり、出血が酷く、手の施しようが無かったと医師は俺に告げた。

「妊娠中は大きくなったお腹で足元が見にくいの。それに体のバランスが取りにくいから受け身も取れなかったんでしょうね。貴方が留守の時にこんな事になるなんて…。本当に御免なさい…」

 母はそう言って泣き崩れた。

 だから俺は、君が死んだのは不幸な事故だと思っていた。

 だがあの日、メルカゾールがセレジストによって征服された日、シュナイダーははっきり言った。

 君とリアーナ様は殺されたのだと……。

 *****

 「結局、俺たち王族は一言の弁明も許されず、全員処刑される事になった。俺たちは牢に入れられたが、何故か父は別の牢だったんだ。そして俺たちが処刑される前の日、母は俺に懺悔した。君を殺めたのは父だと…。君の背を押したんだと。そして、君が長い間、子が出来なかったのは、自分が茶に薬を盛っていたからだ…と」

 確かに今も王妃様とは定期的にお茶会をしている。もし殿下の言う事が本当なら、王妃様なら私の飲むお茶に薬を入れるのは簡単な事だっただろう。

「それにもう一つ、気になる事があるんだ」

殿下は更に表情を曇らせた。

「何故か俺たちと一緒に、公爵とロザリアも処刑されたんだ…」

 ヒュッ、私は息を吸い込んだ……。

 





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