私は何も知らなかった

まるまる⭐️

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「処刑…ですか?」

 声が震えた。

 殿下が2人の処刑を疑問に思う気持ちはよく分かる。公爵様は王妃様の兄ではあるものの王族ではない。それなのに何故…。

「ああ…。だが俺が気になっているのは伯父とロザリアが処刑されたことでは無い。何故か今、伯父のとっている行動は俺の知る前世とは違っているんだ」

「公爵の行動が前世と違う?」

「ああ…。例えば前世ではロザリア貴族学院に留学していた。公爵も昔、貴族学院に留学していたらしいからその影響だろう。だが、今世では彼女は国を離れていない。それに、彼女は何らかの方法で瞳の色を変えている。」

 瞳の色…。殿下が本当に二度目の人生を送っているのなら、当然ロザリア様の本当の瞳の色を知っているはずだ。では、やはりアンナの言っていた事は本当だったんだ。

「それは、アンナも言っていました。ロザリア様がガラスの様な物を目に入れて瞳の色を変えていると。もしかすると、ロザリア様はセレジスト皇家に何らかの関係があるのでは…?」

 それを聞いた殿下は何故か含み笑いをした。

「さあな…。だがアンナが公爵家にいた期間は短い。そんな短期間で知られてしまう様な事を、本当に隠していると言えるのか? 寧ろそんな風に隠されれば人はその裏を探ろうとする。今の君の様にね。其方の方が公爵の狙いなのかも知れない」

「では…公爵は態とアンナに知らせたと?」

「分からない…。だが1つだけ言える事は伯父もまた、俺と同じ様に運命を変えようと動いているんじゃないか……そんな風に感じると言う事だ」

「え?」 

 私は思わず聞き返した。

 殿下のこの言葉が指し示す答えは一つしか無いからだ。

「…それは…もしかして公爵様もまた、殿下と同じ様に前世の記憶を持っている…と言う事でしょうか?」

 まさか…前世の記憶を持つ者が2人…。もし本当に公爵にも前世の記憶があると言うのなら、もう夢や思い込みなんて言葉では片付けられない…。

 殿下が言っているのは実際に起こる未来と言う事になってしまう…。

「公爵の今までの行動から、少なくとも俺はそう感じた」

 そう感じた…?

「では公爵様に実際にお聞きになった訳ではないのですね?」

「…ああ…。それではこちらの手の内も晒す事になるからな。俺にはまだ分からない。公爵が何を考えて行動しているのか…敵か味方か…。だから俺は協力者として公爵に近づいた。相手の懐に入ってしまうのが一番対策が立てやすいと思ったからだ」

 ……そうだったんだ…殿下の口から実際に聞いて初めて分かった。殿下は盲目的に公爵を信じていた訳ではなかったんだわ…

「俺は最初、シュナイダーと手を結び父を断罪し、王位に就く。そして、君と共に国を建て直し、前世でのあの悪夢の様な未来を変えたいと思っていた。でも…伯父の助言でシュナイダーの野望を知ってしまったんだ…」

「シュナイダーの野望…ですか?」

「ある日、伯父は態々セレジストにいる俺を訪ねて来て言った。シュナイダーは危険な男だと…。幸い俺はシュナイダーとは友人だった。彼と親しく付き合ううち、彼は祖父ロドリゲスの夢を叶えるのが自分の夢だと俺に語った」

 軍神と呼ばれる私の大叔父ロドリゲス…。
 彼は武力で大陸を支配しようとした。だが、道半ばで倒れた。それを継承しようとしているの…?

「それを聞いた俺は、伯父の言った危険の意味が分かった。結局、君やリアーナ様の死は単なる口実で、彼は君達の生死に関係なく、メルカゾールを武力で制圧しただろうと。だから俺はシュナイダーを絶対に皇帝にしてはならないと思った」

 それでいきなりあんな冷たい態度を取って私との婚約を解消しようとしたの…?

 お母様が亡くなって仕舞えば、セレジストの皇位継承権を持つのはシュナイダー以外には私1人だけだ。殿下は私にセレジスト皇位を継がせると言う選択をしたのだろう。

 だが、私をセレジストとの外交の切り札としている陛下は、きっと殿下が申し入れたとしても素直に婚約を解消してくれるとは思えない。だから、自身の有責で婚約が解消される様に私にあんな態度を取ったの…?

 ふざけるな!そう思った。

「何故ですか!? 何故、私に何の相談もして下さらなかったのですか!? 私達は共に戦う夫婦になるのでは無かったのですか!? 突然冷たくされ、怒鳴りつけられ、婚約を解消された。どれ程辛くて悲しかったか…。その上、今度は私にセレジストの皇位を継げと言う。殿下は身勝手過ぎます!! 結局殿下はメルカゾール家が王でいる為だけに私を利用しようとしているだけです!!」

 私は思いの丈を彼にぶつけた。涙が後から後から溢れ出る。それでも私は殿下を詰り続けた。

「…違う…。俺は今度こそ、君の命を守りたかったんだ…。ただ、それだけだった…。君には分からないんだ…」

 殿下はそう呟いた後、私に向かって声を張り上げた。

「分かっているさ。自分がどれ程身勝手な行動をしているかなんて!! だが、君は知らないんだ! 笑いながら待っていると、見送ってくれた妻を突然失った俺の苦しみなんて!!」

「……っ」

「…ずっと恵まれ無かった子を…やっと授かった。嬉しくて、嬉しくて…その子と親子3人の幸せな未来を夢見ていた。だが、その幸せな未来がある日突然目の前から消えて無くなってしまった。あの時の俺の絶望が君に分かるか? 俺は食事さえ喉を通らなくなった。このまま俺も死ねれば君と子に会える…そんな事さえ考えた。だが、そんな時、母に言われた…」

 殿下の頬を涙が伝う。

「王妃様に…?」

『ディアーナはさぞ無念だったでしょうね。母親ってね。我が子の命が何よりも大切なの。彼女だってそうだったと思うわ。きっとお腹の中の子を無事に産んであげられなかった事を悔やみながら亡くなったと思う…。貴方はそれと同じ思いを自分の母親にもさせるの?』

「笑うだろ? その母が誰よりも君を苦しめていた。君が懐妊しない様に薬を盛り、君の死を事故だと俺に信じ込ませた。母から懺悔を受けた時の俺は、もう何も信じられなくなった…」

 殿下は涙を流しながら苦悶の表情を浮かべた。その様子からどれ程彼が苦しんだのか容易に想像出来た。

「だから生まれ変わった俺は心に誓った。もう誰も信じない。俺は俺の手で必ず今世こそ君を守る…と。例えその結果、自分が君の側に居られなくなったとしても、君さえ生きていてくれればそれだけでいいと……」






















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