私は何も知らなかった

まるまる⭐️

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「まぁ、どちらにせよ真実は直ぐに分かるさ。謁見の間でシナール陛下は大々的にディアーナを自分の孫として迎え入れ、後継者へと指名するだろうからな」

「え!? いきなり後継者指名ですか?」

 私は驚きの声を上げた。

「ああ、君を孫として迎え入れるだけなら、君はまた奴らに命を狙われる。それでは君をセレジストに返す意味が無いだろ? だからここで勝負を掛ける。ただでさえ君を攫う事に失敗し、手下は拘束された。奴らは今、不安だろう…。何せ手下が何処まで吐いたか分からないんだからな。その上、突然君がセレジストに戻り陛下から後継者に指名されれば、奴らは必ず焦ってボロを出す筈だ。そこを捉える。そうすれば君はもう安全だ。命を狙われる事も無い。安心しろ。今回の謁見については、既に信頼出来る協力者を通じてシナール陛下とは連絡を取り合っている」

「お爺様と既に連絡を取り合っている? ではもう今回の謁見の筋書きは出来ていると言う事ですか?」

『俺は今度こそ君の命を守りたい…ただそれだけなんだ…』

 殿下のあの時の言葉が思い出される。

「ああ、そうだ。シナール陛下は今度こそ、シュナイダーを廃嫡するつもりだとその人は言った。何よりミンティア様の残した鑑定書を見れば、奴に継承権が無いのは一目瞭然だからな」

 殿下がそこまで信じられる人…。

 そんな人物がセレジストにいたなんて…。

 それも殿下の話から考えると、皇帝であるお爺様に会える人物と言う事になる。

「本当にその人はそれ程信頼に値する人物なのですか?」

 ふと、不安が過った。

 こう言う時、土壇場で覆されれば一気に形成が逆転する。

 だが殿下は私の意図を感じとったのか、辛そうにアンナを見た。

「ああ、大丈夫だ。彼は信頼出来る。何しろその人はシュナイダーに愛する人を殺され、娘まで襲われた犠牲者だからな」

 殿下がそう口にした時、隣のアンナが「まさか…」と呟いた。

「そうだ。その人物とはアンナ、君の父親、メジコン子爵だ」


 *****


 侍従に案内され謁見の間へと足を進めるうち、私はどんどん緊張して来た。ずっと存在さえ認められていないと思っていたお爺様に、もう直ぐお会い出来るのだ。

 謁見の間の扉が開かれた時、その規模に私は震えた。大々的に君を孫だと迎え入れる…その殿下の言葉通り、扉から玉座までは長い真っ赤な絨毯が敷き詰められ、その両端には身分の高そうな貴族達が並ぶ。部屋の隅には、近衛だろうか?何人もの兵士が立っていた。

 その兵士の中の1人を見たアンナが小さな声で「父です」と私に告げた。

 アンナの父親が私に対してどんな感情を抱いているかは分からない。何しろ私と母のせいで家族はバラバラになり、テレサは殺された。でも少なくとも何があったとしても、アンナの事だけは守ってくれるだろう。私にはそれだけでも心強かった。

「行くぞ! 今日で全てを終わらせる」

 殿下のこの気合いの籠った言葉と共に、私達は謁見の間へと足を踏み入れた。

 玉座には母に目元がよく似た、緑の瞳を持つ初老の男性が腰掛けている。

 この方がお爺様…シナール陛下だろう。そして一段下がった場所には1人の青年が此方を睨みつける様に見つめていた。

 この男が恐らくシュナイダーだ。その彼の後ろに寄り添う様に佇む男性…彼がリベルサスだろうか?

 私達はお爺様から見える位置まで辿り着くと、お爺様は立ち上がった。私達はお爺様に向かって揃って頭を下げ、殿下が代表して挨拶を述べた。

「帝国の光り輝く太陽で在られる皇帝陛下にご挨拶申し上げます。私はメルカゾール王太子ザイティガ・メルカゾール、そして此方はディアーナ・ミカルディス、もう1人はメジコン子爵の御息女、アンナ・メジコン。本日は拝謁の申し込みを快くお受け頂き、誠に有難う御座います」

 するとお爺様は柔らかな笑みを浮かべた。

「おう、其方がディアーナか…。本当にリアーナによく似ておる。メルカゾールの王太子よ。よくぞ我が孫娘を守ってここ迄連れて来てくれた。そしてアンナよ。命の危機も顧みず、ディアーナに尽くしてくれた事、礼を言う。2人には孫が本当に世話になった」

 お爺様はそう言って頭を下げた。

 大国セレジストの皇帝が、孫の為に頭を下げたのだ。その光景に周りの貴族達が騒めく。彼らは何も聞かされては居なかったのだろう。

 お爺様は私を壇上に招くと、私の肩を抱きその喧騒を掻き消す様に高らかに宣言した。

「皆の者! 彼女はディアーナ・ミカルディス。我が娘リアーナの残してくれた1である。皆の前で宣言する! このディアーナを本日、このセレジストの皇太女に定める!!」

 ここ迄、殿下の筋書き通りに事が進んでいる。

 お爺様の言葉に周りの貴族達の反応は早かった。皆が一斉にシュナイダーを見つめた。シュナイダーとその後ろの人物は驚きで目を見開いた。

「陛下! ディアーナ様を皇太女に定めるとはどう言う事ですか? それでは、シュナイダー様の立場はどうなるのです!?」

 シュナイダーの後ろから焦った様に聞こえた問いに、お爺様はシュナイダーを一瞥した後、低い声で答えた。

「シュナイダーか? シュナイダーは廃嫡とした上、罪を償わせる。シュナイダーは、嫌、彼の父親ロイドは、弟ロドリゲスの遺児では無い!! そうだな? リベルサス。ロイドは其方の子であろう?」

 お爺様のこの言葉に謁見の間は静寂に包まれた。私達も驚きを隠せない。

「……っ? 陛下、何を仰っているのです? 」

 やっとの事でリベルサスが言葉を発する。

 しかしお爺様は彼を睨みつけた。

「シラを切っても調べはついている。其方は国を奪う為ロドリゲスの遺言を利用し、本来は自身の庶子であるロイドをロドリゲスの子と偽って此処へ連れて来たのであろう? 私は其方のロドリゲスへの忠義を信じたのだがな。…残念な事だ…」

「……っ! 証拠は? 証拠はあるのですか!?」

「まだ言うか!! 鑑定書を取った。結果として、私とロイドに血縁関係は無かった。これだけ言えば満足か? せめて最後位、武人らしく潔くしろ!!」

 お爺様はそう言って彼を怒鳴りつけた。リベルサスは漸く諦めたのか悔しそうに目を伏せたが、直ぐに思い直した様に身を翻し、側に控えていた近衛兵から剣を無理矢理奪うと、その剣を構えた。

 一瞬にして謁見の間は恐怖に包まれる。

 彼は宮殿の中で、しかも皇帝に向かって抜剣したのだ。

「なんと愚かな事を…」

 お爺様は悲しそうに呟いた。
 
 皆が悲鳴を上げて逃げ惑う。それもその筈、リベルサスは名のある武人だ。

 だがそんな中、1人の近衛兵が彼の前に立ち塞がった。

「リベルサス様、剣を抜いて頂き有難う御座います。これで正々堂々、妻の仇が取れますよ」

 兵士はそう言って剣を抜くとにっこり笑い、リベルサスに向かって切り掛かった。

「ふ。貴様ごときがこの私に敵うとでも思っているのかメジコン!」

 リベルサスが叫ぶ。

「いつまでも、ご自分が1番強いとお思いで? 私は1人の兵士として貴方を尊敬していました。ですが、今の貴方は兵士では無い!! 貴方は最後に何時剣を握りましたか?」

 斬り合う2人から周りの貴族達は距離を取っていた。

 メジコン子爵の言葉通り、もうリベルサスは彼の敵では無かった。子爵は剣を大きく振りかぶると「最期に何か言い残す事はありますか?」とリベルサスに問うた。
























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