私は何も知らなかった

まるまる⭐️

文字の大きさ
27 / 28

27

しおりを挟む
 メジコン子爵に剣を振りかぶられたリベルサスは斬られると思ったのか、目をギュッと瞑り、震えながら答えた。

「私はロドリゲス様の意志を継ぎ、この大陸を武力に拠って統一したかっただけだ。その為に力が欲しかったのだ。お前も武人なら分かるであろう?」

 言質《げんち》を取ったメジコン子爵は振りかぶっていた剣を鞘に納めると、リベルサスを拘束した。リベルサスは皇帝であるお爺様に剣を向けただけでは無く、国を乗っ取ろうとした事を暗に認めたのだ。

「全く分かりませんね」

 メジコンはそういう退けると蔑む様な目を向け、リベルサスを見下ろした。

 その姿にカッとしたのだろう。

「貴様!! たかが子爵の分際でこの私を見下みくだすとは! こんな無礼を働いてただで済むと思っているのか!! お前達! こやつを取り押さえろ!」

 リベルサスは激昂し部屋に控える兵に向かって命じたが、彼の言う事を聞く者など誰もいるはずがない。

 その余りにも惨めな姿に、メジコン子爵は憐れむように声を掛けた。

「今更、貴方に何が出来ると言うのです! 昔なら兎も角、今の貴方に付き従う騎士など誰も居ませんよ」

「…何だと…」

 リベルサスは茫然として周りを見回す。すると騎士達は皆、彼を鋭い目で睨み付けた。

「リベルサス様、貴方は昔、優れた騎士だった。私を含め、他の騎士たちも皆、貴方を心から尊敬しておりました。ですが、貴方は権力を握る事に固執し過ぎた。清廉さを失い、剣すら握ろうとしない貴方は最早騎士では無い。私如きに易々と組み敷かれる貴方など私達は見たくは無かった…。貴方には何時迄も、私達騎士の憧れであり続けて欲しかった…。残念ですが、先程陛下も仰っていた通り、こうなった以上、せめて武人らしく潔く罪を償って下さい」

 メジコン子爵はそう言って悔しそうに目を伏せた。

「リベルサス、お主が雇った者共も命惜しさにあっさりと口を割り、全てはお主とシュナイダーの指示だったと白状したぞ。お主は剣の腕だけで無く部下の忠誠さえ失ったようだな。哀れなものよ。何故こうなったか処罰が決まるまでの間、牢でゆっくりと己の罪と向き合うが良い!!」

 お爺様の言葉に数人の兵が駆け寄り、メジコン子爵と共にリベルサスを立たせる。

「放せ!! 俺は大陸を統一する男だ!! 気安く触るな!」

 リベルサスは最後まで往生際悪く暴言を吐き暴れながら連れて行かれた。

 罪の重さから極刑は免れないだろう。

 騎士団に顔が効き、敵に回せば恐ろしい人物……侍女のダリアさんでさえそう評した、傑出した人物であった嘗ての戦争の英雄の無様過ぎる最後の姿だった。

 騎士達に引き連れられて行くリベルサスを見たシュナイダーは、これからの自分の運命を悟ったのか、俯き拳を握り締めてただ震えていた。そんなシュナイダーをお爺様は射抜く様な鋭い目で見つめた。

「己の罪を受け入れる事さえ出来ぬ者が、他国を攻め、多くの民の命を安易に奪おうなどと…愚かな事よ。大きくなり過ぎた国は、いずれ内側から瓦解する事など歴史が証明しておると言うに…。其方はあの様な男に誑かされ道を誤った。本当に其方とロイドは似た者親子よ」

 悲しみを堪え、溜め息を吐いたお爺様にシュナイダーは震えながらも声を荒げた。

「貴方が…貴方が父の事を悪く言うな!! 確かに父は叔母上を殺めたのかも知れない…。でも…父は何も知らなかったんだ! リベルサスに此処に連れて来られた時、父はまだ子供だった。其れを碌に調べもせず養子にまでしておいて、ロドリゲスの息子では無いと分かった瞬間、貴方は父から居場所を取り上げた。皇帝になるべくあれ程努力していた父からだ!!」

 シュナイダーの悲痛な叫びにお爺様は驚いた様に顔を強張らせた。

 そんなお爺様にシュナイダーは冷淡な笑みを浮かべる。

「ふっ。何を驚いているのです。俺が何も知らないとでも思っていたのですか? 貴方がどれ程隠したつもりでも、人の口に戸は立てられませんよ。俺は全て知っています。叔母を殺めた父が貴方から毒杯を賜った事もね。貴方は俺がリベルサスに唆されたと言いましたね? 違いますよ。俺が奴を利用したんだ。俺はアイツが憎かった。アイツさえ父を此処へ連れて来なければ、父は普通の幸せをつかめた。罪人になどならなかった…。だからアイツの力を利用したんですよ。散々利用して捨てるためにね」

「………」

 暴言を吐くシュナイダーをお爺様は何も言わず、ただ憐れむような目で見つめていた。

「アイツは大陸統一なんてバカな夢を未だに見ていた。其処を擽れば簡単に手の平で踊ってくれましたよ? 貴方の最大の過ちは、俺に同情して俺の皇位継承権を奪わなかった事だ…。お陰で俺は貴方が死ねば皇帝になる事が出来る筈だった。貴方の娘が、其処の小娘をセレジストへ返そうとさえしなければね!!」 

「……だから…だからテレサを殺めたの? お母様の手紙を持っていたから? どうして? テレサに殺されなければならないどんな理由があったと言うの? 結局貴方が例えどんな言い訳をしたとしても、自分の野心の為に何の罪も無い者を殺めた。それは決して許される事では無いわ!!」

 シュナイダーの余りに自分本位な考えに私は黙っている事が出来ず、思わず身を乗り出して叫んだ。

 そんな私をお爺様は一瞥した後、手を上げて制した。そして、今度はシュナイダーにまた視線を戻した。

「私とて、お前の境遇に同情はしていた。だからこそ娘を殺められても其れを隠し、本来奪うべきお前の命を助けたのだ。だが、お前にはそんな事すら分からなかった様だな。折角守られた命と王子の立場をお前は間違えた方向に使ってしまった…。シュナイダー、分かっているのか? 私とてお前の父親に愛する娘の命を奪われた被害者なのだ。そして私もまた、皇帝である前に、1人の父親なのだ」

 お爺様は悲痛な声でシュナイダーに語り掛けた。

「…それは…それは貴方が父を皇太子に選ば無かったから…」

「…それが人の命を奪って良い理由になるとでも思うのか!? 良いか、シュナイダー。お前の父はロドリゲスの子では無い。これがどう言う事か分かるか? 貴族とは最も血統を重んじる生き物だ。もしロイドが皇位を継いだとして、奴が皇家の血を持たないと知れてみろ。皇帝に着く名目を持たぬロイドに貴族や民が付いてくると思うのか?」

 何時からかお爺様はシュナイダーの事をではなく、と呼んていた。その言葉からは蔑みでは無く、身内としての愛情を感じた。

「お前もそれが分かっているからこそ、リベルサスに教えを乞い、姿形、立ち居振る舞い、必死にロドリゲスを真似たのであろうが…」

「………」

 お爺様の言い含める様な言葉に、シュナイダーは言葉を失った。きっとシュナイダーも本当は全て分かっていたのだ。ロイドが皇太子になれなれなかった理由を……。だからこそ自分が皇位を継ぐ根拠として、ロドリゲスに似た自分を作り上げようとしたのだろう。

「だが、お前を守ってやれなかった事、正しく導いてやれなかった事、心苦しく思う…」

 お爺様が最後にシュナイダーに声を掛けた。

「今更ですよ」

 シュナイダーは嘲る様にそう答えると、彼もまた罪を償う為連れて行かれた。



 
 











 












































しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

なぜ、私に関係あるのかしら?

シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」 彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。 そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。 「…レオンハルト・トレヴァントだ」 非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。 そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。 「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」 この判断によって、どうなるかなども考えずに… ※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。 ※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、 ※ 画像はAIにて作成しております

恩知らずの婚約破棄とその顛末

みっちぇる。
恋愛
シェリスは婚約者であったジェスに婚約解消を告げられる。 それも、婚約披露宴の前日に。 さらに婚約披露宴はパートナーを変えてそのまま開催予定だという! 家族の支えもあり、婚約披露宴に招待客として参加するシェリスだが…… 好奇にさらされる彼女を助けた人は。 前後編+おまけ、執筆済みです。 【続編開始しました】 執筆しながらの更新ですので、のんびりお待ちいただけると嬉しいです。 矛盾が出たら修正するので、その時はお知らせいたします。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

私と幼馴染と十年間の婚約者

川村 あかり
恋愛
公爵令嬢ロゼリアは、王子アルベルトとの婚約を結んでいるが、彼の心は無自覚に幼馴染のミナに奪われていた。ミナの魔法【魅了】が無意識に周りの男性を狂わせ、アルベルトもその例外ではない。 それぞれが生まれつき得意な魔法があり、ロゼリアは見たものや聞いたものを完璧に記録できる【記録・再生】の魔法を持ち、二人の関係に耐えきれず胃の痛みに悩む日々。そんな中、彼女の唯一の理解者の冷静沈着なキースや毒舌のマリーが心の支えとなる。 アルベルトの側近であるガストンは、魔法【増幅】で騒動を盛り上げる一方、ミナの友人リリィは【幻影】の魔法を使ってロゼリアを貶めようと画策する。 婚約者と幼馴染の行動に振り回されるロゼリア。魔法が絡んだ恋愛模様の中で、彼女は本当の愛を見つけられるのか?

皇后マルティナの復讐が幕を開ける時[完]

風龍佳乃
恋愛
マルティナには初恋の人がいたが 王命により皇太子の元に嫁ぎ 無能と言われた夫を支えていた ある日突然 皇帝になった夫が自分の元婚約者令嬢を 第2夫人迎えたのだった マルティナは初恋の人である 第2皇子であった彼を新皇帝にするべく 動き出したのだった マルティナは時間をかけながら じっくりと王家を牛耳り 自分を蔑ろにした夫に三行半を突き付け 理想の人生を作り上げていく

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

処理中です...