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第百二十五話
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ただ、その時の僕は、初めて見た笑った忍の顔を本当に可愛いと思った。この笑顔をずっと守って行きたいと子供心に思った。今思い返せば、そう思ったって事は、それはもう完全に『恋』だったのは明らかだ。いや、それ以外何物でもないだろう。僕はきっと、知らず知らずの内に隠された忍の『女の子』の部分に気が付いていたのかもしれない。
それから忍と板額は同一人物なので当たり前と言えば当たり前の事ではあるが、それは僕が好きになった板額のあの微笑みと同じだった気がするのだ。しかし、僕は板額の笑顔を見た時にはその事はすっかり忘れていた。まあ、あの時はまだ忍はあくまで『男の子』だと信じていたので仕方ないと言えば仕方ないのだ。
結局、その日から忍は、まるで本当に弟の様に……そう、あの時はそう思っていたんだ……いつも僕の傍にいた。席は少し離れていたけれど、授業が終わるといつの間にか忍は僕の席に来ていた。僕は授業が終わると、少しお行儀が悪いけれどいつも机の上に座って集まって来たみんなと話していた。そうして空席になった僕の椅子にちょこんと座り、僕を嬉しそうに見上げて僕が集まって来たクラスの者たちと談笑するのをじっと聞いていた。
ああっ、そうか、板額は今のクラスで僕と同じことをしていたのだ。あの時の僕の姿を、板額は僕自身に対して演じて見せていたんだ。そして、板額、いや忍からすれば、自分を救ってくれたあの時の僕を、僕自身にもう一度思い出して欲しかったのだろう。この時、僕はやっとそう気が付いた。
そう言えば、クラスの誰だったかに言われたことがあったけ。
「お前らって、まるで彼氏と彼女だよな」
そう言われて僕は……
「バカなこと言うなよ!」
……って少し怒って否定した。
「悪い、冗談、冗談って……」
確か、そいつもすぐにそう言って笑いながら謝った。
でも、その場に居た忍は俯いて何も言わなかった。その時は、自分の事を女の子みたいに言われても、忍の事だから言い返したくても言えずに居るのだと思った。だから、僕は忍に変わってああ言い返したんだ。でも今思うと、忍は恥ずかしがっていたんじゃないかと思う。そう、本物の彼女がああ言われて恥ずかしがるように、忍もそういう意味で恥ずかしがっていた様な気が今はする。いや、実際にはあの時の僕自身も、無意識の内に忍を彼女の様に思っていてそれをズバリ指摘されたから反射的に怒ったのかもしれないと今は思わないでもない。
それから忍の事を色々思い返してみて、今、改めて気が付いたことがある。
それは板額が転校して来て間もない頃、僕からファーストキスを奪った後に言い放ったこの言葉の意味だ。
『嫌だなぁ、与一。
僕と君とは誤解されても良い間柄じゃないか。
だって君はもうすでに僕の一番恥ずかしい姿を見てるんだしね。
この先、君にどんな事をされても僕はもう恥ずかしくないよ』
あの時は、その意味が全く分からなかった。僕の傍にいた緑川や他の女の子を牽制するために口から出まかせを言ったのだと思っていた。でも今ならはっきり分かる。板額は彼女?がまだ忍という男の子だった頃に経験した、そして同時にそれは僕との劇的な出会いでもあった事件の事を言っていたのだ。
そうだ。それは板額にとって一生忘れることは出来ない想い出。その時は人生が終わったかに思えるほどのあまりにつらく残酷で酷い出来事。でも、後から思えば、それは僕という男との出会いであり、あの出来事があったからこそ、板額は僕と深い繋がりを得ることが出来たのだ。
僕がそう思った瞬間だった。
僕の首筋の後ろ辺りに冷たい息の様な物が吹きかかる感じがした。同時に背中から何者かに抱きすくめられている様な感じもした。それは明らかに生者の者ではなく、氷の様に冷たく、異界のモノの様だった。
『ああ、そうか……分かってるよ。分かってるから』
僕は心の中でそのモノにそう答えた。
『僕は君の物さ。この体、そして心は君の物だから。
忘れてないから安心しなよ』
僕はそう背中にまとわりつく『白瀬京子の怨霊』そう呟いた。
『ふふふっ……素直なあなたって大好きよ、平泉君』
すると、白瀬京子の怨霊は僕の耳元でそう囁くといつもの様にふわりと気配を消した。
その日から僕と忍はいつも一緒に居た。学校でも、学校が終わった後でも、休みの日でも。あの時の記憶を振り返るとそこにはいつも忍の姿があった。
それから忍と板額は同一人物なので当たり前と言えば当たり前の事ではあるが、それは僕が好きになった板額のあの微笑みと同じだった気がするのだ。しかし、僕は板額の笑顔を見た時にはその事はすっかり忘れていた。まあ、あの時はまだ忍はあくまで『男の子』だと信じていたので仕方ないと言えば仕方ないのだ。
結局、その日から忍は、まるで本当に弟の様に……そう、あの時はそう思っていたんだ……いつも僕の傍にいた。席は少し離れていたけれど、授業が終わるといつの間にか忍は僕の席に来ていた。僕は授業が終わると、少しお行儀が悪いけれどいつも机の上に座って集まって来たみんなと話していた。そうして空席になった僕の椅子にちょこんと座り、僕を嬉しそうに見上げて僕が集まって来たクラスの者たちと談笑するのをじっと聞いていた。
ああっ、そうか、板額は今のクラスで僕と同じことをしていたのだ。あの時の僕の姿を、板額は僕自身に対して演じて見せていたんだ。そして、板額、いや忍からすれば、自分を救ってくれたあの時の僕を、僕自身にもう一度思い出して欲しかったのだろう。この時、僕はやっとそう気が付いた。
そう言えば、クラスの誰だったかに言われたことがあったけ。
「お前らって、まるで彼氏と彼女だよな」
そう言われて僕は……
「バカなこと言うなよ!」
……って少し怒って否定した。
「悪い、冗談、冗談って……」
確か、そいつもすぐにそう言って笑いながら謝った。
でも、その場に居た忍は俯いて何も言わなかった。その時は、自分の事を女の子みたいに言われても、忍の事だから言い返したくても言えずに居るのだと思った。だから、僕は忍に変わってああ言い返したんだ。でも今思うと、忍は恥ずかしがっていたんじゃないかと思う。そう、本物の彼女がああ言われて恥ずかしがるように、忍もそういう意味で恥ずかしがっていた様な気が今はする。いや、実際にはあの時の僕自身も、無意識の内に忍を彼女の様に思っていてそれをズバリ指摘されたから反射的に怒ったのかもしれないと今は思わないでもない。
それから忍の事を色々思い返してみて、今、改めて気が付いたことがある。
それは板額が転校して来て間もない頃、僕からファーストキスを奪った後に言い放ったこの言葉の意味だ。
『嫌だなぁ、与一。
僕と君とは誤解されても良い間柄じゃないか。
だって君はもうすでに僕の一番恥ずかしい姿を見てるんだしね。
この先、君にどんな事をされても僕はもう恥ずかしくないよ』
あの時は、その意味が全く分からなかった。僕の傍にいた緑川や他の女の子を牽制するために口から出まかせを言ったのだと思っていた。でも今ならはっきり分かる。板額は彼女?がまだ忍という男の子だった頃に経験した、そして同時にそれは僕との劇的な出会いでもあった事件の事を言っていたのだ。
そうだ。それは板額にとって一生忘れることは出来ない想い出。その時は人生が終わったかに思えるほどのあまりにつらく残酷で酷い出来事。でも、後から思えば、それは僕という男との出会いであり、あの出来事があったからこそ、板額は僕と深い繋がりを得ることが出来たのだ。
僕がそう思った瞬間だった。
僕の首筋の後ろ辺りに冷たい息の様な物が吹きかかる感じがした。同時に背中から何者かに抱きすくめられている様な感じもした。それは明らかに生者の者ではなく、氷の様に冷たく、異界のモノの様だった。
『ああ、そうか……分かってるよ。分かってるから』
僕は心の中でそのモノにそう答えた。
『僕は君の物さ。この体、そして心は君の物だから。
忘れてないから安心しなよ』
僕はそう背中にまとわりつく『白瀬京子の怨霊』そう呟いた。
『ふふふっ……素直なあなたって大好きよ、平泉君』
すると、白瀬京子の怨霊は僕の耳元でそう囁くといつもの様にふわりと気配を消した。
その日から僕と忍はいつも一緒に居た。学校でも、学校が終わった後でも、休みの日でも。あの時の記憶を振り返るとそこにはいつも忍の姿があった。
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