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第百五十話
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その少し後だった。がやがやと若い女の子の話し声が聞こえた。ふと顔を上げると、僕ら同じくらいの歳だろうと思われる女の子数人が僕らの席の前までやって来ていた。
その直後だった。
「ああっ!与一!何であなたがここ居るのよ!」
素っ頓狂な声が響いた。声のする方を見た僕は一瞬思考が停止してしまった。確かにすごく聞き覚えのある声だったがそれが誰かがすぐには分からなかったのだ。
同時に、その声の主の肩辺りに浮かんでいた女の子が、僕の肩の所までふわふわと風船が漂う様にやって来て耳元でこう囁いた。
「平泉君、これ、マズいじゃない?
今日はナンパ目的で出て来たの?」
そう、こんな事が出来るのは、僕が知る限り一人しかいない。しかもその彼女が一緒だと言う事は、間違いなく、さっきの声の主は……緑川だ!
「与一?
もしかして、彼が巴がいつも惚気てる彼氏なんか?」
さっき香取と一緒に来た女の子が、緑川の上げた声を聞いて聞き返した。
その瞬間、緑川と一緒に来ていた女の子たちが一斉に騒ぎ始めた。
「ええっ! 誰? 誰? どの人?」
「まさか、こんな所で巴女史を虜にしてる彼氏に会えるなんてラッキー!」
同時に、こちらの男どもも騒ぎ始めた。
「おいおい、平泉、お前、彼女居たなんて聞いてないぞ!」
「つうか、偉い美人サンやんけ!
隠しとったんかワレ、この色男が!」
そして、その騒ぎは香取の次の言葉で最高潮に達した。
「待てや、彼女って……
彼女、噂の京大美人新入生やんけ!
どないなってのや!
説明せいや、平泉!」
僕と緑川は妙な所で、しかも白瀬が言う様にかなりヤバい再会した。しかし、その誤解を二人でゆっくり話し合う前に、周りの者たちにもみくちゃにされる事になった。
もう、それからは、僕と緑川をダシに僕らの即席合コングループは、旧知の間柄だったように打ち解けて盛り上がっていった。
話の流れで、この即席合コンがもともと今日の僕らの目的でなく、あくまで香取一人の勝手な行動だったと分かり緑川と白瀬の誤解も解けた頃だった。
「そうか、緑川さんと与一は同じ高校の同級生だったんだ」
「ええ、もっと言えば中学時代からの同級生なんですよ」
僕らの仲間の言葉に、緑川が笑みを浮かべてそう答えていた。
「しっかし、こんなごっつい美人の同級生を彼女にしてたなんて、
与一、お前も隅に置けわなぁ。
どっちかと言うと俺らより、香取グループやんけ」
見るからに羨ましそう石黒の奴が、少しわざとらしい関西弁でそう言った。
その頃には、緑川に突然、会った驚きと焦りも治まっていた。逆に、僕は『噂の京大美人新入生』が僕の彼女だったって事に、少し誇らしい気分にさえなっていた。
忘れもしないちょうどその時だった。
「いやぁ、驚いたよ。
遅れて来てみれば、僕の大事な旦那様が合コンなんかしてるとはね。
確かに巴を愛人として認めてるとは言え、
これ以上、愛人を増やされるのは僕としても許容する訳にゆかないんだ。
さてどうしたものか……」
僕の背中越しに何やら、凄く懐かしい聞き覚えのある口調の声がした。ちなみにこの時、僕と緑川は並んで、通路を背にして座っていた。だからその時、その姿をまだ見てはいなかった。
驚いて僕が振り返ると、そこにはこんな学生がたむろすカフェバーには不似合いな格好の女性が立っていた。
色鮮やかな友禅染の留袖の着物に、少しモダンな柄の帯。細身ながら、かなりの長身。まるで平安時代のお姫様を思わせる長い黒髪。
それはそれは美しい女性だった。
でも、僕はその女性を知っていた。
正確には、僕の記憶の中のその女性とは、ちょっとだけ印象が違った。その上、着物姿って事もあって僕は一目見ただけではその女性が、彼女とは分からなかったのだ。
そう、その女性は僕が知ってる当初から、実際の年齢よりは大人びた感じではあった。でも、いまそこに居る女性は、僕や緑川より年上に見える程の気品と美しさを纏っていたのだ。
「ちょっと、私の事を愛人って何よ。
それに与一を旦那様なんて呼んで。
そもそも、あんた、今の今まで与一を私に預けっぱなした癖に」
その声を聞いて、振り向いた緑川があからさまに憮然とした表情で、その女性にそう言い返した。
しかし、その反応はちょっと不思議だった。自分の事を『愛人』となどと言われれば、緑川なら激怒するはず。僕が言うのも何だけど、今の緑川は僕のお嫁さんみたいなものなんだ。いわば僕を『旦那様』って呼べるのはむしろ緑川の方が相応しい。
その直後だった。
「ああっ!与一!何であなたがここ居るのよ!」
素っ頓狂な声が響いた。声のする方を見た僕は一瞬思考が停止してしまった。確かにすごく聞き覚えのある声だったがそれが誰かがすぐには分からなかったのだ。
同時に、その声の主の肩辺りに浮かんでいた女の子が、僕の肩の所までふわふわと風船が漂う様にやって来て耳元でこう囁いた。
「平泉君、これ、マズいじゃない?
今日はナンパ目的で出て来たの?」
そう、こんな事が出来るのは、僕が知る限り一人しかいない。しかもその彼女が一緒だと言う事は、間違いなく、さっきの声の主は……緑川だ!
「与一?
もしかして、彼が巴がいつも惚気てる彼氏なんか?」
さっき香取と一緒に来た女の子が、緑川の上げた声を聞いて聞き返した。
その瞬間、緑川と一緒に来ていた女の子たちが一斉に騒ぎ始めた。
「ええっ! 誰? 誰? どの人?」
「まさか、こんな所で巴女史を虜にしてる彼氏に会えるなんてラッキー!」
同時に、こちらの男どもも騒ぎ始めた。
「おいおい、平泉、お前、彼女居たなんて聞いてないぞ!」
「つうか、偉い美人サンやんけ!
隠しとったんかワレ、この色男が!」
そして、その騒ぎは香取の次の言葉で最高潮に達した。
「待てや、彼女って……
彼女、噂の京大美人新入生やんけ!
どないなってのや!
説明せいや、平泉!」
僕と緑川は妙な所で、しかも白瀬が言う様にかなりヤバい再会した。しかし、その誤解を二人でゆっくり話し合う前に、周りの者たちにもみくちゃにされる事になった。
もう、それからは、僕と緑川をダシに僕らの即席合コングループは、旧知の間柄だったように打ち解けて盛り上がっていった。
話の流れで、この即席合コンがもともと今日の僕らの目的でなく、あくまで香取一人の勝手な行動だったと分かり緑川と白瀬の誤解も解けた頃だった。
「そうか、緑川さんと与一は同じ高校の同級生だったんだ」
「ええ、もっと言えば中学時代からの同級生なんですよ」
僕らの仲間の言葉に、緑川が笑みを浮かべてそう答えていた。
「しっかし、こんなごっつい美人の同級生を彼女にしてたなんて、
与一、お前も隅に置けわなぁ。
どっちかと言うと俺らより、香取グループやんけ」
見るからに羨ましそう石黒の奴が、少しわざとらしい関西弁でそう言った。
その頃には、緑川に突然、会った驚きと焦りも治まっていた。逆に、僕は『噂の京大美人新入生』が僕の彼女だったって事に、少し誇らしい気分にさえなっていた。
忘れもしないちょうどその時だった。
「いやぁ、驚いたよ。
遅れて来てみれば、僕の大事な旦那様が合コンなんかしてるとはね。
確かに巴を愛人として認めてるとは言え、
これ以上、愛人を増やされるのは僕としても許容する訳にゆかないんだ。
さてどうしたものか……」
僕の背中越しに何やら、凄く懐かしい聞き覚えのある口調の声がした。ちなみにこの時、僕と緑川は並んで、通路を背にして座っていた。だからその時、その姿をまだ見てはいなかった。
驚いて僕が振り返ると、そこにはこんな学生がたむろすカフェバーには不似合いな格好の女性が立っていた。
色鮮やかな友禅染の留袖の着物に、少しモダンな柄の帯。細身ながら、かなりの長身。まるで平安時代のお姫様を思わせる長い黒髪。
それはそれは美しい女性だった。
でも、僕はその女性を知っていた。
正確には、僕の記憶の中のその女性とは、ちょっとだけ印象が違った。その上、着物姿って事もあって僕は一目見ただけではその女性が、彼女とは分からなかったのだ。
そう、その女性は僕が知ってる当初から、実際の年齢よりは大人びた感じではあった。でも、いまそこに居る女性は、僕や緑川より年上に見える程の気品と美しさを纏っていたのだ。
「ちょっと、私の事を愛人って何よ。
それに与一を旦那様なんて呼んで。
そもそも、あんた、今の今まで与一を私に預けっぱなした癖に」
その声を聞いて、振り向いた緑川があからさまに憮然とした表情で、その女性にそう言い返した。
しかし、その反応はちょっと不思議だった。自分の事を『愛人』となどと言われれば、緑川なら激怒するはず。僕が言うのも何だけど、今の緑川は僕のお嫁さんみたいなものなんだ。いわば僕を『旦那様』って呼べるのはむしろ緑川の方が相応しい。
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