漆黒の万能メイド

化野 雫

文字の大きさ
2 / 49

プロローグ2

しおりを挟む
 しかし、アメリアらが行ったのは虐殺だけではなかった。

 礼拝堂の中央に祭られた神像の首を撥ね、撥ねた頭の代わりに修道院長の切り落としさた首が載せられていた。その他、神聖な神具、貴重な絵画や調度品まで破壊の限りを尽くされていた。

 さらには、金庫が破られ、その中のあった貴重品、宝石、金貨などがすべて持ち去られていたのだ。

 まさにそれは悪魔の所業だった。


 そして、この残虐なる行為を行った後、アメリアらは何食わぬ顔で当初の目的であった要塞都市へと進軍し、数に勝る守備兵と騎士たちを物ともせずそこを見事に攻略した。

 アメリアらは要塞都市を守っていた守備兵と騎士を一人残らず皆殺しにした。

 しかしその殺戮は、守備兵と騎士だけでは収まらなかった。

 そこに居た無抵抗の民間人たちまでも一人残らず虐殺したのだ。

 要塞都市に居た民間人は全員、中央の広場に集められた。そしてその後、その周囲をアメリアらが取り巻き、無抵抗のまま一方的に虐殺した。


 今まで難攻不落と言われた要塞都市を攻略し王都に帰還したアメリアらは国民から熱狂的な出迎えを受けた。王都の王宮へ続く中央大通りの両側は何重にも市民たちの厚い壁が出来た。そして、彼らは口々にその偉大な戦いを称賛し、アメリアを英雄と称えた。


 しかし、その後、しばらくして、隣国からの使者がやって来て、事態は一変したのだ。

 当初、この使者は、和睦交渉にやって来たものと誰もが思った。

 確かに、その使者は和睦が目的ではあった。しかし、それはクレサレス側が予想した全面譲歩による事実上の降伏ではなかった。

 要塞都市を落とされた事によって自国の守りが弱まり、このままでは本国が戦場と化すことを恐れた和睦交渉ではあった。しかし、それは全面譲歩ではなかった。

 和睦を受け入れる代わりに、『ロンバルディアの大虐殺』を行ったアメリアとその配下の者たちの厳罰を求めて来たのだ。

 当初は、交渉を有利に進めたいが故の作り話とクレサレス側は思ったが、彼らはクレサレス側も認めざるを得ない証人を複数用意していたのだ。そして、その誰もがアメリアたちが行った大虐殺の跡を克明に語った。

 当時、重い病に倒れていた王に代わってクレサレスの政を行っていたのは、アメリアの妹姫である『マリア=ミシュト=クレサレス』姫だった。マリア姫は事態を重く見て、直ちに実の姉であるアメリアの身柄を拘束した。

 当時、クレサレスは軍事面を『武』に長けたアメリアが、外交と政治などを『智』に長けたマリアがそれぞれ分担して国を治めていた。アメリアが軍事面では圧倒的な才能を持っていたのと同じく、マリアは歳こそまだ二十歳そこそこだったが政治、外交面での才能はどの国の老獪な王たちに勝るとも劣らぬものだった。


「何か弁明はありますか、姉上?」

「私は天地神明に誓って何一つ恥じる事などしていない」

 実の妹であるマリアの問い掛けにアメリアは一言そう答えた後は固く口を閉ざし一言も語らなかったと言う。

 三日三晩、マリアを中心とする審議は続いた。

 そして、その長い審議の末に、アメリアは、王位継承権とすべての特権をはく奪され、しかる後に死罪とされる事が決定された。しかも王家や貴族の者が処されるような自ら毒杯をあおる名誉ある死刑ではなかった。アメリアには、一般の罪人と同じ広場で公開断頭と言う元王女としては異例かつ残虐なの処刑方法が行われる事が決定された。

 最強の名を欲しいままにしていたクレサレス王国、しかも今までは英雄と称えられたアメリアの命を助ける事は決してできない事ではなった。いや、むしろ、普通なら期間限定付きの特権はく奪、自室軟禁で済まされてしまう事が普通だった。多くの民、それはクレサレスの民だけでなく、周りの国々の民も薄々そうなるであろうと思っていた。そして、審議会のメンバーさえ、そのほとんどがそうする方向で意見調整がなされていた。


 しかし、なんとマリア自身が、実の姉アメリアに対し最も残酷な公開断頭処刑と行うと審議会の最後に宣言したのだ。これにはその場にいた誰もが驚いた。

 この事が後の世に……

 姉であるアメリア姫は、あの事件が起こるまでは、多くの華々しい武勲をたていた上に民衆に受けも非常に良く、誰もが次期女王になると疑わなかった。それに嫉妬していた妹のマリア姫は、この機会にアメリア姫を亡き者とし、自身がクレサレス女王になると言う野望を常々持ったのだ。

……と噂される様になった所以である。


 実の妹の口から自身の処遇を聞かされたアメリアは……

「分かった。私は、お前が下したその決定に従おう。
 だたし、罪はこの私が全て負う。
 他の者には温情を……」

……とだけ語ったと言う。

 実の姉が残した最後の言葉とあって、さしものマリアもその言葉を聞き入れた。

 蛮行を行ったとされたアメリア以外の騎士たちはその身分、勲章の全てを剥奪され、一開拓民として辺境の荒れ地に屯田兵として散り散りに流されたが、その命だけはかろうじて救われた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...