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第11話
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「キルシュの奴、遅いなぁ……」
自分のメイドが大変な事になっているとも知らず、商人の若い男はカード手にしたまま、言葉とは裏腹に大した心配もしていない風で独り言を呟いた。相変わらず彼の前には掛け金だった小銭の山が出来ていた。
「あの黒髪のメイドさん、町長さんのお屋敷に行ってるだっけ?」
向かいの席の男が手札を睨みつつ、波々と注がれたショットグラスをぐいっと一気にあおった。
「この時期、鉱山の方の締め日も近くて町長も忙しいから、
少し手続き待たされるじゃねぇかな?
俺は二枚チェンジで……」
右隣の男がそう言って手札の二枚を場に捨てて、中央に積まれたカードの山から二枚引いた。
「やっぱ、あのメイドさんの事が色々心配か?」
左隣の男がくすくす意味ありげに笑いながら商人の男に尋ねた。
「まさか! キルシュはあくまでメイド。
しかも僕が小さい頃に乳母をしてたかなりの年増女ですよ」
商人の男は笑いながらそう答えた。
「あのメイド、あんたの乳母やってたって!
おいおい、まだせいぜい二十歳代半ばって思ってたんだぞ。
じゃあ、あのメイド、いったいいくつなんだよ!」
正面に座り今まで手札をじっと睨んでいた男が、急に顔を上げ驚いた様に声を上げた。
「う~ん……確か……三十路越えて四十路前だったから……」
商人の男は天井を見上げ、何かを想い出すような思案顔になった。
「あっ……そうだ! 三十六……いや三十七だ!」
しばらく考えていた何を想い出したように男は正面の男を見てそう声を上げた。
その瞬間、テーブルを囲んでいた三人の男の顔に、失望とも驚愕ともつかぬ形容しがたい複雑な表情が浮かんだ。
「三十七だって……本当かよ……」
「年増も年増、四捨五入で四十路じゃねぇか……」
「信じられん。どう見て三十路後半なんて思えないぞ……」
男達はそれぞれ独り言の様にそう呟いていた。
「それにキルシュは仮面で素顔を隠してる女ですよ。
女が仮面で素顔を隠してる理由なんて、
『お尋ね者』か『娼館抜け』でなきゃ、
その理由なんてだいたい見当がつくでしょうに……」
商人の男は少し呆れた様な顔で男達を見回して言った。
「そりゃ、まあ、馬鹿な俺たちだってだいたいの見当はつくわな」
「主のあんたを目の前にして言いにくいが、
たぶん、顔に大きな傷みたいなもんがるんだろう?」
「あるいは度を越えて醜い顔立ちとかな……」
男達は気がついていながら今まであえてその事には触れずにいたのだろう。三人が三人ともすまなさそうな、あるいは申し訳なさそうな顔でそう声を落として答えた。
しかし、商人の男はこういう反応には慣れっこの様で、別段特別な反応も示さなかった。それが毎度のルーティーンの様にそう言って愛想笑いを浮かべた。
「良いんですよ、気を使わなくても。
あれはご想像通り、昔、色々あって、
顔に酷い火傷の痕が残ってるんですよ。
まあ、火傷を負う前は確かに美人だったらしいですがね」
商人の男はそう言って少し悲し気な笑みをその口元に浮かべた。
「いや、この際、実際の歳や顔の火傷なんて関係ねぇ!」
一瞬、その場に気まずい空気が流れたが、その空気を吹き飛ばすように、正面に座っていた男が吹っ切れた様な表情に変わって声を上げた。
「おうよ! きっとあのメイドさんなら、
多少顔に火傷の痕があっても普通の女より遥かに美人に決まってる!」
「そうだ、そうだ! 多少の事は個性の内だし、
体に年齢が書かれてるわけじゃねぇし!」
正面の男の言葉を聞いて、その両側の男達も賛同の声を上げる。それはまるであのメイドの親衛隊が急遽ここで結成されたかのようだった。
「キルシュ本人は気にして仮面を外さないけど、
顔の火傷だってそう気にする事なんかないと思うんだよね。
肌艶や触り心地だって少女みたいに若々しいし。
まあ、これもあくまで僕個人の感想だけどね」
そんな男達の声に安心したのか、商人の男は大きめのマグカップに入ったコーヒーを一口飲みながら少し遠慮気味にそう言った。
自分のメイドが大変な事になっているとも知らず、商人の若い男はカード手にしたまま、言葉とは裏腹に大した心配もしていない風で独り言を呟いた。相変わらず彼の前には掛け金だった小銭の山が出来ていた。
「あの黒髪のメイドさん、町長さんのお屋敷に行ってるだっけ?」
向かいの席の男が手札を睨みつつ、波々と注がれたショットグラスをぐいっと一気にあおった。
「この時期、鉱山の方の締め日も近くて町長も忙しいから、
少し手続き待たされるじゃねぇかな?
俺は二枚チェンジで……」
右隣の男がそう言って手札の二枚を場に捨てて、中央に積まれたカードの山から二枚引いた。
「やっぱ、あのメイドさんの事が色々心配か?」
左隣の男がくすくす意味ありげに笑いながら商人の男に尋ねた。
「まさか! キルシュはあくまでメイド。
しかも僕が小さい頃に乳母をしてたかなりの年増女ですよ」
商人の男は笑いながらそう答えた。
「あのメイド、あんたの乳母やってたって!
おいおい、まだせいぜい二十歳代半ばって思ってたんだぞ。
じゃあ、あのメイド、いったいいくつなんだよ!」
正面に座り今まで手札をじっと睨んでいた男が、急に顔を上げ驚いた様に声を上げた。
「う~ん……確か……三十路越えて四十路前だったから……」
商人の男は天井を見上げ、何かを想い出すような思案顔になった。
「あっ……そうだ! 三十六……いや三十七だ!」
しばらく考えていた何を想い出したように男は正面の男を見てそう声を上げた。
その瞬間、テーブルを囲んでいた三人の男の顔に、失望とも驚愕ともつかぬ形容しがたい複雑な表情が浮かんだ。
「三十七だって……本当かよ……」
「年増も年増、四捨五入で四十路じゃねぇか……」
「信じられん。どう見て三十路後半なんて思えないぞ……」
男達はそれぞれ独り言の様にそう呟いていた。
「それにキルシュは仮面で素顔を隠してる女ですよ。
女が仮面で素顔を隠してる理由なんて、
『お尋ね者』か『娼館抜け』でなきゃ、
その理由なんてだいたい見当がつくでしょうに……」
商人の男は少し呆れた様な顔で男達を見回して言った。
「そりゃ、まあ、馬鹿な俺たちだってだいたいの見当はつくわな」
「主のあんたを目の前にして言いにくいが、
たぶん、顔に大きな傷みたいなもんがるんだろう?」
「あるいは度を越えて醜い顔立ちとかな……」
男達は気がついていながら今まであえてその事には触れずにいたのだろう。三人が三人ともすまなさそうな、あるいは申し訳なさそうな顔でそう声を落として答えた。
しかし、商人の男はこういう反応には慣れっこの様で、別段特別な反応も示さなかった。それが毎度のルーティーンの様にそう言って愛想笑いを浮かべた。
「良いんですよ、気を使わなくても。
あれはご想像通り、昔、色々あって、
顔に酷い火傷の痕が残ってるんですよ。
まあ、火傷を負う前は確かに美人だったらしいですがね」
商人の男はそう言って少し悲し気な笑みをその口元に浮かべた。
「いや、この際、実際の歳や顔の火傷なんて関係ねぇ!」
一瞬、その場に気まずい空気が流れたが、その空気を吹き飛ばすように、正面に座っていた男が吹っ切れた様な表情に変わって声を上げた。
「おうよ! きっとあのメイドさんなら、
多少顔に火傷の痕があっても普通の女より遥かに美人に決まってる!」
「そうだ、そうだ! 多少の事は個性の内だし、
体に年齢が書かれてるわけじゃねぇし!」
正面の男の言葉を聞いて、その両側の男達も賛同の声を上げる。それはまるであのメイドの親衛隊が急遽ここで結成されたかのようだった。
「キルシュ本人は気にして仮面を外さないけど、
顔の火傷だってそう気にする事なんかないと思うんだよね。
肌艶や触り心地だって少女みたいに若々しいし。
まあ、これもあくまで僕個人の感想だけどね」
そんな男達の声に安心したのか、商人の男は大きめのマグカップに入ったコーヒーを一口飲みながら少し遠慮気味にそう言った。
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