25 / 49
第22話
しおりを挟む
メイド服の女は町長の言葉に従い、その町長によって嫌と言う程仕込まれた技を使って、若い商人の男に自分に出来る精一杯の奉仕した。あの男の事、うわべだけ行為ではすぐに何か良からぬことを考えていると勘繰られるとあえてそうしたのだ。あの町長はそう言う抜け目ない所がある蛇の様な男なのだ。この永遠とも思えるほど長く感じた数日でメイド姿の女は痛いほど身に染みてそれを知った。そして、その一方、今でも心から愛している主に心の底で深く詫びながら、今自分に救いの手を差し伸べてくれたこの若い男にせめて女として、今できる方法で感謝の意を表したい気持ちも少なからずあった。
一見、今まで通り娼婦の様に無心に若い商人の男に奉仕している様に見せかけながら、女は横目で町長の様子を窺っていた。
それまで町長の膝の上に乗りぐったりとその身を町長に預けていた顔や体に火傷の痕の様な物がある黒髪の女が気だるげに立ち上がり、その場に跪いた。
メイド姿の女にとっては始めて見る黒髪と黒い瞳だった。まるでカラスの様だ。その女を見た時そう思った。とても美しい女だった。自分と同じ歳かあるいは少しばかり上に見えた。顔や体にある火傷の痕らしい物も、これだけ美しい女だと、欠点ではなく男の好奇心を誘う絶好の香辛料になるのだろうと女は感じた。ただ、まるで意思のない人形の様な光を失ったその黒い瞳と見ると、この黒髪の女が町長によってどんな目にあわされたのか痛いほどわかった。もう逆らう事はおろか、自ら死を選ぶ気力すら失っているのだろう。
メイド姿の女は、はっと気がつき、若い商人の男の顔をチラリと見た。男は悲しくそして苦し気な、それでもその瞳に怒りの炎を宿す目で町長の方を見ていた。女にはこの黒髪の女がこの男の連れである事が分かった。それもただの連れではない。きっとこの男は、あの黒髪の女の方とは特別な関係なのに違いない。見かけの年齢からすると、母か、いや姉ではないか? 確かにそう言う感じもするが、それより女は自身と主の関係と同じではないかと思えた。
その黒髪の女が玉座に座る町長の股間に顔を埋めた。すぐに町長は蕩ける様な恍惚の表情を浮かべ、股間から沸き起こる快楽に身を任せて目を閉じた。
それを確認したメイド服の女は、今までの弱々しい感じが嘘だった様に素早く反応した。
若い商人の男の物を一心に口で奉仕する振りをしながらすでに彼の腰にあった鞘の留め金は外してあった。
女は無我夢中でそこにあった短剣を鞘から引き抜くと、それをしっかりと両手で握りしめて腰に当てると町長に向かって一直線に駆けだしていた。
あの若い男は確かに言ったのだ。
「僕は『帝の剣』だ」
……と。
『帝の剣』、その名を知らぬ者はこの国には居ない。いや、この国どころかこの近隣諸国、さらにはこの大陸に住むすべての人間が知っている。
正式名称『クレサレス帝国帝直轄聖剣騎士団』。この大陸、最強と謳われ、最盛期でもその人数は20名そこそこでしかないと言われる程の少人数精鋭の騎士。まさに騎士の中の騎士。ただし、公の場では常に純白の仮面を付けている為、その素顔を知る者は帝以外ではほとんどいないとされている。
その『帝の剣』の一人が、この若い男なのだ。商人風の衣装を着ていたのは、その身分を隠しここを内偵する為だったのかもしれない。そして、たまたま運悪く、連れていたアシスタントにして恋人がここの町長の魔の手に落ちてしまったのだろう。
『帝の剣』が付いているなら何も怖い物はない。
絶対にこちらが負けたまま終わる事はない。
短剣を腰だめにして駆けながらメイド姿の女はそう何度も自分に言い聞かせていた。
もうすぐ目の前にあの憎い町長がいる。やっとこちらに気がつき目を見開き驚いた表情を浮かべている。
殺してやる!
町長の妖計により、主共々その手に堕ち、何日も昼夜を分かたず人として許される範疇を遥かに超え責め苛まれ辱められ続けた。
凄まじい憎悪が沸き上がるのが分かった。今自分は心だけでなくその表情すらきっと鬼女の如き表情に成り果てているのであろうと女は思った。
一見、今まで通り娼婦の様に無心に若い商人の男に奉仕している様に見せかけながら、女は横目で町長の様子を窺っていた。
それまで町長の膝の上に乗りぐったりとその身を町長に預けていた顔や体に火傷の痕の様な物がある黒髪の女が気だるげに立ち上がり、その場に跪いた。
メイド姿の女にとっては始めて見る黒髪と黒い瞳だった。まるでカラスの様だ。その女を見た時そう思った。とても美しい女だった。自分と同じ歳かあるいは少しばかり上に見えた。顔や体にある火傷の痕らしい物も、これだけ美しい女だと、欠点ではなく男の好奇心を誘う絶好の香辛料になるのだろうと女は感じた。ただ、まるで意思のない人形の様な光を失ったその黒い瞳と見ると、この黒髪の女が町長によってどんな目にあわされたのか痛いほどわかった。もう逆らう事はおろか、自ら死を選ぶ気力すら失っているのだろう。
メイド姿の女は、はっと気がつき、若い商人の男の顔をチラリと見た。男は悲しくそして苦し気な、それでもその瞳に怒りの炎を宿す目で町長の方を見ていた。女にはこの黒髪の女がこの男の連れである事が分かった。それもただの連れではない。きっとこの男は、あの黒髪の女の方とは特別な関係なのに違いない。見かけの年齢からすると、母か、いや姉ではないか? 確かにそう言う感じもするが、それより女は自身と主の関係と同じではないかと思えた。
その黒髪の女が玉座に座る町長の股間に顔を埋めた。すぐに町長は蕩ける様な恍惚の表情を浮かべ、股間から沸き起こる快楽に身を任せて目を閉じた。
それを確認したメイド服の女は、今までの弱々しい感じが嘘だった様に素早く反応した。
若い商人の男の物を一心に口で奉仕する振りをしながらすでに彼の腰にあった鞘の留め金は外してあった。
女は無我夢中でそこにあった短剣を鞘から引き抜くと、それをしっかりと両手で握りしめて腰に当てると町長に向かって一直線に駆けだしていた。
あの若い男は確かに言ったのだ。
「僕は『帝の剣』だ」
……と。
『帝の剣』、その名を知らぬ者はこの国には居ない。いや、この国どころかこの近隣諸国、さらにはこの大陸に住むすべての人間が知っている。
正式名称『クレサレス帝国帝直轄聖剣騎士団』。この大陸、最強と謳われ、最盛期でもその人数は20名そこそこでしかないと言われる程の少人数精鋭の騎士。まさに騎士の中の騎士。ただし、公の場では常に純白の仮面を付けている為、その素顔を知る者は帝以外ではほとんどいないとされている。
その『帝の剣』の一人が、この若い男なのだ。商人風の衣装を着ていたのは、その身分を隠しここを内偵する為だったのかもしれない。そして、たまたま運悪く、連れていたアシスタントにして恋人がここの町長の魔の手に落ちてしまったのだろう。
『帝の剣』が付いているなら何も怖い物はない。
絶対にこちらが負けたまま終わる事はない。
短剣を腰だめにして駆けながらメイド姿の女はそう何度も自分に言い聞かせていた。
もうすぐ目の前にあの憎い町長がいる。やっとこちらに気がつき目を見開き驚いた表情を浮かべている。
殺してやる!
町長の妖計により、主共々その手に堕ち、何日も昼夜を分かたず人として許される範疇を遥かに超え責め苛まれ辱められ続けた。
凄まじい憎悪が沸き上がるのが分かった。今自分は心だけでなくその表情すらきっと鬼女の如き表情に成り果てているのであろうと女は思った。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる