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第31話
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「この女、あんたと同じメイドの姿をしてるが、
とてもメイドなどと言う範疇には収まらないとんでもない女だ。
下手すりゃ、いや、確実に俺より剣の腕は立つ。
その上桁違いの能力を持つ『魔女』だ。
もはや『人』としての範疇すら超えてるのかもしれん。
俺が思うに、この女、その男の使用人などではなく、
実際には、この女の方が、その男の主的な立場だろう」
黒髪のメイドと若き帝の騎士の代わりに、痛みが治まり落ち着いた剣士がそう答えた。
「ありゃ、この人、いきなり核心を突いた事を言ってますよ」
「ふっ……こやつ、お前と同じく騎士崩れのヤクザ者を装ってたな」
剣士の言葉に驚く風もなく割と変然とした顔で若き帝の騎士がそう言うと、黒髪のメイドも笑いながらそう答えた。
「何を言うか、一番、装っていたのはあんただろうが……」
黒髪のメイドの言葉を聞いて剣士はそう言って自嘲気味に笑った。
一方、メイド姿の女は一人彼らのしゃべっている真の意味を図りかねて困惑した表情を浮かべた。
「そうだ、お前さんに言っておかなければならないことがある」
突然、黒髪のメイドが真顔になって剣士に行った。その言葉に剣士は怪訝な表情を浮かべた。
「お前に我が二つ名でもある『剣聖』の名をまだ名乗らせるわけにはゆかん。
しかし、その腕、私の目から見ても他に類を見ない程良い腕だ。
我が名においてお前に『剣王』の二つ名を与えてやろう。
ありがたく受け取るがよい」
黒髪のメイドはまるで王が臣下の者に『騎士』の名を与える時の様にそう言って微笑んだ。
「今、何と言った……二つ名が『剣聖』だと。
自称や、周りの奴が誉め言葉で言うならいざ知らず、
『二つ名として剣聖』を持つ者など後にも先にも一人しかいないぞ」
黒髪のメイドの言葉に剣士が驚きの声を上げた。その驚く様を見て黒髪のメイドと若き帝の騎士は顔を見合わせて笑った。
「良いんですか、あなたが誰かバレちゃいますよ」
「別に構わんさ」
若き帝の騎士の言葉に黒髪のメイドは笑いながらそう答えた。
「冗談もたいがいにしろ!
あの女はもう500年以上前に処刑されたんだぞ。
骨一本すら残らず、遺体は灰になるまで焼かれ、
その灰さえ遥か大海のど真ん中へ捨てられたはずだ」
「……ってまさか、あの『呪われた狂王女』!」
剣士が発した言葉に、メイド姿の女が思わずそう叫んだ。
「やはり、その通り名で呼ばれるか」
黒髪のメイドはそう言って苦笑した。
「まあ、仕方ないですよ。
事実はともかく歴史的には、
妹でもある偉大な初代女帝によって処刑された、
『血に飢えた殺戮の王女』ですからね。
姿だってまるで鬼女の様な姿で伝わってますし」
「これでも生前は『美しき戦王女』と呼ばれてたんだぞ」
何が何だかさっぱり分からず困惑気な剣士とメイド姿の女をよそに、黒髪のメイドと若き帝の騎士はそう言って愉快そうに笑った。
「と言う訳で、この妙に高ピーなメイドさんの正体は、
クレサレス王国第一王女『アメリア=ダレア=クレサリス』様。
当然、『クレサレス王国』ってのは、我らが『クレサレス帝国』。
偉大なる初代帝『マリア=ミシュト=クレサレス』様の姉君です」
「と言う訳だ、諸君」
そんな二人に、若き帝の騎士が高らかに宣言するかのように述べると、黒髪のメイドが誇らしげに胸を張って笑った。
「そんな荒唐無稽な事言われても、
はいそうでしたか……と納得できるか!」
「いや、納得できるかどうかって言うより、
私は余計に混乱するだけです」
反発する様に剣士が叫ぶと、メイド姿の女も戸惑いの表情を深めてそう呟いた。
「まあ、そう言うのも仕方あるまい、なら……」
それを見た黒髪のメイドはそう呟くと静に目を閉じた。
「やっぱりそこまでやらないといけないですか……」
それを見て、若き帝の騎士はそう苦笑して呟いた。
すると黒髪のメイドの体がその内部から光が漏れ溢れるかの様に光りだした。その眩しさに剣士とメイド姿の女は思わず目を閉じた。二人が恐る恐る目を開くとそこにはすでに黒髪のメイドの姿はなかった。
そしてそこには……
染み一つない真っ白な絹に金糸の刺繍を施されたロングドレスに黄金の軽鎧を身に纏った長身の女が立っていた。
緩やかに腰までの伸びる白銀に近い金髪。その頂には七色の宝石を散りばめたティアラ。彫が深く整った顔立ち。長い手足。そして、その腰にはあの黒髪のメイドが剣士と剣を交えた時に空中から取り出した細身の美しい剣が吊るされていた。
その姿は、美しく、そして神々しく、まるで神話に語られる『戦乙女』そのものだった。
とてもメイドなどと言う範疇には収まらないとんでもない女だ。
下手すりゃ、いや、確実に俺より剣の腕は立つ。
その上桁違いの能力を持つ『魔女』だ。
もはや『人』としての範疇すら超えてるのかもしれん。
俺が思うに、この女、その男の使用人などではなく、
実際には、この女の方が、その男の主的な立場だろう」
黒髪のメイドと若き帝の騎士の代わりに、痛みが治まり落ち着いた剣士がそう答えた。
「ありゃ、この人、いきなり核心を突いた事を言ってますよ」
「ふっ……こやつ、お前と同じく騎士崩れのヤクザ者を装ってたな」
剣士の言葉に驚く風もなく割と変然とした顔で若き帝の騎士がそう言うと、黒髪のメイドも笑いながらそう答えた。
「何を言うか、一番、装っていたのはあんただろうが……」
黒髪のメイドの言葉を聞いて剣士はそう言って自嘲気味に笑った。
一方、メイド姿の女は一人彼らのしゃべっている真の意味を図りかねて困惑した表情を浮かべた。
「そうだ、お前さんに言っておかなければならないことがある」
突然、黒髪のメイドが真顔になって剣士に行った。その言葉に剣士は怪訝な表情を浮かべた。
「お前に我が二つ名でもある『剣聖』の名をまだ名乗らせるわけにはゆかん。
しかし、その腕、私の目から見ても他に類を見ない程良い腕だ。
我が名においてお前に『剣王』の二つ名を与えてやろう。
ありがたく受け取るがよい」
黒髪のメイドはまるで王が臣下の者に『騎士』の名を与える時の様にそう言って微笑んだ。
「今、何と言った……二つ名が『剣聖』だと。
自称や、周りの奴が誉め言葉で言うならいざ知らず、
『二つ名として剣聖』を持つ者など後にも先にも一人しかいないぞ」
黒髪のメイドの言葉に剣士が驚きの声を上げた。その驚く様を見て黒髪のメイドと若き帝の騎士は顔を見合わせて笑った。
「良いんですか、あなたが誰かバレちゃいますよ」
「別に構わんさ」
若き帝の騎士の言葉に黒髪のメイドは笑いながらそう答えた。
「冗談もたいがいにしろ!
あの女はもう500年以上前に処刑されたんだぞ。
骨一本すら残らず、遺体は灰になるまで焼かれ、
その灰さえ遥か大海のど真ん中へ捨てられたはずだ」
「……ってまさか、あの『呪われた狂王女』!」
剣士が発した言葉に、メイド姿の女が思わずそう叫んだ。
「やはり、その通り名で呼ばれるか」
黒髪のメイドはそう言って苦笑した。
「まあ、仕方ないですよ。
事実はともかく歴史的には、
妹でもある偉大な初代女帝によって処刑された、
『血に飢えた殺戮の王女』ですからね。
姿だってまるで鬼女の様な姿で伝わってますし」
「これでも生前は『美しき戦王女』と呼ばれてたんだぞ」
何が何だかさっぱり分からず困惑気な剣士とメイド姿の女をよそに、黒髪のメイドと若き帝の騎士はそう言って愉快そうに笑った。
「と言う訳で、この妙に高ピーなメイドさんの正体は、
クレサレス王国第一王女『アメリア=ダレア=クレサリス』様。
当然、『クレサレス王国』ってのは、我らが『クレサレス帝国』。
偉大なる初代帝『マリア=ミシュト=クレサレス』様の姉君です」
「と言う訳だ、諸君」
そんな二人に、若き帝の騎士が高らかに宣言するかのように述べると、黒髪のメイドが誇らしげに胸を張って笑った。
「そんな荒唐無稽な事言われても、
はいそうでしたか……と納得できるか!」
「いや、納得できるかどうかって言うより、
私は余計に混乱するだけです」
反発する様に剣士が叫ぶと、メイド姿の女も戸惑いの表情を深めてそう呟いた。
「まあ、そう言うのも仕方あるまい、なら……」
それを見た黒髪のメイドはそう呟くと静に目を閉じた。
「やっぱりそこまでやらないといけないですか……」
それを見て、若き帝の騎士はそう苦笑して呟いた。
すると黒髪のメイドの体がその内部から光が漏れ溢れるかの様に光りだした。その眩しさに剣士とメイド姿の女は思わず目を閉じた。二人が恐る恐る目を開くとそこにはすでに黒髪のメイドの姿はなかった。
そしてそこには……
染み一つない真っ白な絹に金糸の刺繍を施されたロングドレスに黄金の軽鎧を身に纏った長身の女が立っていた。
緩やかに腰までの伸びる白銀に近い金髪。その頂には七色の宝石を散りばめたティアラ。彫が深く整った顔立ち。長い手足。そして、その腰にはあの黒髪のメイドが剣士と剣を交えた時に空中から取り出した細身の美しい剣が吊るされていた。
その姿は、美しく、そして神々しく、まるで神話に語られる『戦乙女』そのものだった。
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