漆黒の万能メイド

化野 雫

文字の大きさ
35 / 49

第32話

しおりを挟む
「この姿ならお前たちも納得しよう」

 その美しい戦乙女はそう言って笑った。

「おい、まさか……本当にそうなのか?」

「これが『アメリア姫』の本当の姿なの?」

 その姿に剣士とメイド姿の女はそう言って絶句した。

「その者たち!
 王位継承を剥奪されたとはいえ、
 わらわをクレサリス王国第一王女アメリアを知ってその態度か!
 頭が高いぞ!」

 その瞬間、戦乙女がそう声を発した。
 
 その声は一点の陰りもなく澄み渡り、しかも威厳と静かな殺気が籠り、どこまでも響き渡るかのようであった。

 その威厳の重みと殺気への恐怖から、剣士とメイド姿の女はほとんど無意識に、いや圧倒的な強者相手に服従を示す動物の本能からその場にひれ伏した。いまだ幻影に囚われたままの町長ですら、気がつくと意識が混濁したままその場にひれ伏していた。

 若き帝の騎士は、忠誠を示すかのように、姿勢正しを胸に手を当て正し立ったままでいた。

「ふっ……この姿に戻って、つい調子に乗ってしまった。
 まあ、良い、そこの二人。
 自分で言っておいてなんだがそうかしこまるな」

 すると今は美しき戦乙女の姿になった黒髪のメイドがそう言って自嘲気味に笑った。途端に纏っていた威厳に満ちた王女の雰囲気が、姿こそそのままながらがらりと親しみのあるものに変わった。

 それを見て剣士はやや安心したのかひれ伏していた頭を上げた。その途端、緊張の糸が緩み、忘れていた腕の痛みを思い出した。

「ちくしょう、また痛んできやがった」

 剣士はそう小さく呟いた。

「悪かったな。
 お前の速さが思ってた以上でつい深く斬りつけてしまった様だ」

 戦乙女はそう言って軽く頭を下げて微笑んだ。

「どのみち俺は、そこでいまだに呆けている町長に連座して、
 良くて一生牢獄、下手すりゃ死刑だ。
 どうせなら、真の『剣聖』であるあんたに斬り殺されたかったよ」

 剣士はそう言うと少し寂し気な笑みを浮かべた。

「なんかさぁ、あんたって、
 あんなクズ町長の用心棒やってる人間には見えないんだよね」

 若き帝の騎士はそう言って剣士を見てから、戦乙女を振り返って尋ねた。

「ひょっとして、姫は、もうこの男の事分かってらっしゃるとか?」

「じゃなきゃ、私が、あんなクズ野郎の用心棒を生かしちゃおかないだろうが」

 すると戦乙女はそう言ってにやりと笑った。

「俺の事を分かってるって?」

 その言葉に剣士は不思議そうな表情を浮かべた。

「ああ、今の私はどっちかって言うと神様に近い存在だからな。
 生きてた時よりさらにレベルが上がってるんだよ。
 まあ、そこでお前の事情も知ったうえで取引だ」

 そう言って戦乙女は剣士の目に自分の目線をしっかり合わせて見て続けた。

「私の騎士団に入れ。
 さすればお前の今までの罪、すべて咎め無しとしよう」

「罪を帳消しにされるのは嬉しいが……、
 『私の騎士団』ってどう言う事だ?
 あんたも『帝の騎士団』の一員じゃなかったのか?
 『帝の騎士団』に入れるか入れないかを決めるのはあの女帝様だろ」

 その言葉に剣士は怪訝な表情で尋ねた。

「それは半分あってるが半分は違う。
 私は『帝の騎士』ではあるが、お前たちの知ってる方じゃない。
 あれは『ライトサイド』の方だ。
 私は『シャドウサイド』の方。
 そして私はその『裏』の『No.1ナイトリーダー』さ。
 『裏』の方に関する全権限は私が持ってるな。
 ちなみに、そいつは『表』と『裏』両方の番号ナンバーを持ってる稀有な存在だ」

 そう言って戦乙女は若き帝の騎士を見た。すると若き帝の騎士は少し誇らしげな顔になって微笑みと剣士を見て軽く頭を下げた。

「まあ、稀有な存在ではあるが、
 剣の腕の方はまったく稀有じゃないがな」

 それを見て戦乙女はそう言って笑った。

「『帝の騎士』に『表』と『裏』なんて聞いたことが無いぞ!」

 戦乙女の言葉になお一層、怪訝な表情を深めた剣士が思わず声を上げた。

「当たり前だ。お前たちが知ってるなら『裏』なんて言わないだろう」

 剣士の言葉にも戦乙女は動じることなく、それがあたかも当然の様にそうさらりと答えた。

「お前みたいな訳アリで腕の立つ奴にはうってつけの就職先だと思うぞ」

 そう言った後、戦乙女はそう言って笑った。

「言葉では俺に選択権がある様だが、
 実際には選択の余地はないんだろうな」

「まあ、ぶっちゃけそう言う事だ」

 剣士が苦笑しながらそう尋ねると、戦乙女はそう答えてからさも愉快げに笑った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...