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エピローグ3(最終話)
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「少なくとも今の私にマリアやクレサレスを恨む気はないぞ」
「まあ、その事は僕も知ってはいるんですけどね。
なんか噂話としては良い感じじゃないかなってね」
アメリアが苦笑しながらそう答えると、ハロルドもそう言って笑った。
「そう、実はあなたがアメリア姫と知ってからずっと不思議に思ってたんです。
姫は何故、『裏』とは言え、
その憎いはずのクレサレスの帝が持つ騎士団を率いているんですか?
最初は、クーデターでも狙ってるのかとも思ってましたが、
どうやらそんな感じでもない様な……」
アメリアとハロルドの会話を聞いていたカゲトキが不思議そうに尋ねた。
「カゲトキ様、実は私も同じことを……」
「シャロン、お前は口慎め。
相手はあの姿であっても『剣聖アメリア姫』だからな」
カゲトキの言葉に思わずそう反応してしまったシャロンをカゲトキががすぐさま制した。
「あっ……私の様な使用人が、出過ぎた事を……、
すみません、お許しください、姫様、カゲトキ様」
シャロンは慌てて後ろを振り返りつつ深々と頭を下げた。
「相手があの『剣聖』では俺もお前を守り切る自信はないからな」
そんなシャロンの耳元でカゲトキが小声でこう囁いた。
どうやらカゲトキはアメリアを機嫌を考えてと言うより、アメリアの気性の激しさを思いシャロンの身の安全を考えての言葉だった様だ。シャロンもそれが分かり、アメリアに頭を下げながらそっと口元に喜びの笑みを浮かべた。
「よいよい……それは私がアメリアと知って誰もが思う疑問だ。
はっきり言って、最初は憎くてたまらなかった。
我が妹であり、罪人として私の首を落としたマリアを、
考えうる一番残酷な方法でじわじわ時間をかけて殺してやろうと思ったよ。
そして私に大悪党の汚名を着せたクレサレスを焦土と化してやろうとな。
でも、そんな気持ちも今はない。
今は、マリアの子孫が治めるこの国を守ってやろうと心から思っている。
まあ、その辺りの事情はまた暇な時にでも二人にも詳しく話してやろう」
アメリアはそう言って笑った。
「それ聞くと、この人がもっと恐ろしくなりますよ」
アメリアに膝枕をしてもらいながらハロルドはそう言って笑った。
「こらこら、新人を脅すでないわ。
せっかく確保した有能な人材、
逃げ出されたらどうすんだ」
アメリアもハロルドの言葉にそう言って高笑いをした。
この時のアメリアは姿こそ、世に噂される黒髪と仮面姿の通称『漆黒の万能メイド』だが、その言葉と纏う雰囲気は完全に『剣聖アメリア姫』そのものだった。
四人を乗せた荷馬車はかろうじて道と分かる細道を森の奥へと進んで行く。
荷馬車は、この『迷いの森』に分け入った者だれもがあの恐ろしい体験をすると言う境界を越えて、なおも奥へと進んで行った。
それでも、森はその姿をいっこうに変えようとはしなかった。
木々の間から木漏れ日が差し込む、のどかで自然豊かな美しい森そのままの姿を保っていたのだ。
荷馬車が森の奥へ進むにつれ、明らかに警戒心を高めていたカゲトキと、不安げな表情を深めていたシャロンも、ここに至り、その表情を戸惑いと驚きに変えていた。
「何事も起こらない……」
「おだやかな森のままですね……」
手綱を握るカゲトキと、いつのまにやらしっかりとカゲトキの片腕にしがみついていたシャロンは、不思議そうな顔つきで周りを見回した。
「当たり前ですよ、ここには城の主が居ますからね。
それに、カゲトキさんとシャロンさんも含めて、
僕らは城の住人『裏』のメンバーですからね」
「そう言う事だ。
城の者に対してこの森はただどこにでもある森だよ」
そんな二人にハロルドとアメリアはそう言って笑った。
やがて、その荷馬車は大きく曲がった道を進み、森の木々の切れ目に出た。
すると荷台に座るカゲトキとシャロンの眼前に、突如、深い森の奥とは思えぬ立派な門と、その後ろにそびえる城が飛び込んで来た。
その城は、あの炭鉱の街にあった町長の居城の様に高くそびえ相手を威圧するかのような感じはなかった。高さは両脇にある塔を除けば二階建て程度。高さより横幅が広く訪れるものに対して優しい感じがした。そして何より、その周囲に広がる庭は色とりどりで美しい花々で埋め尽くしていた。
「こ、これは……凄い」
「素敵……なんて綺麗なお城なんでしょうか……」
荷台に居たカゲトキとシャロンは思わず感嘆の声を上げた。
「カゲトキ、シャロン、
ようこそ、我が城……『隠された城』……、
いや『花の離宮』へ!
私は心からお前たちを歓迎しよう」
そんな二人にアメリアが後ろの荷台から声を掛けた。そして、いつの間にか起き上がっていたハロルドも優しい笑みを浮かべ二人を見ていた。
アメリアがその腕を認め『剣王』の二つ名を与えたカゲトキと、食人鬼のメイドであるシャロンと言う新しいメンバーを加え、クレサレス帝国帝直轄騎士団、その隠されたもう一つの顔である『裏』の新たな物語がこうして始まったのだ。
『漆黒の万能メイド 序章』 完
「まあ、その事は僕も知ってはいるんですけどね。
なんか噂話としては良い感じじゃないかなってね」
アメリアが苦笑しながらそう答えると、ハロルドもそう言って笑った。
「そう、実はあなたがアメリア姫と知ってからずっと不思議に思ってたんです。
姫は何故、『裏』とは言え、
その憎いはずのクレサレスの帝が持つ騎士団を率いているんですか?
最初は、クーデターでも狙ってるのかとも思ってましたが、
どうやらそんな感じでもない様な……」
アメリアとハロルドの会話を聞いていたカゲトキが不思議そうに尋ねた。
「カゲトキ様、実は私も同じことを……」
「シャロン、お前は口慎め。
相手はあの姿であっても『剣聖アメリア姫』だからな」
カゲトキの言葉に思わずそう反応してしまったシャロンをカゲトキががすぐさま制した。
「あっ……私の様な使用人が、出過ぎた事を……、
すみません、お許しください、姫様、カゲトキ様」
シャロンは慌てて後ろを振り返りつつ深々と頭を下げた。
「相手があの『剣聖』では俺もお前を守り切る自信はないからな」
そんなシャロンの耳元でカゲトキが小声でこう囁いた。
どうやらカゲトキはアメリアを機嫌を考えてと言うより、アメリアの気性の激しさを思いシャロンの身の安全を考えての言葉だった様だ。シャロンもそれが分かり、アメリアに頭を下げながらそっと口元に喜びの笑みを浮かべた。
「よいよい……それは私がアメリアと知って誰もが思う疑問だ。
はっきり言って、最初は憎くてたまらなかった。
我が妹であり、罪人として私の首を落としたマリアを、
考えうる一番残酷な方法でじわじわ時間をかけて殺してやろうと思ったよ。
そして私に大悪党の汚名を着せたクレサレスを焦土と化してやろうとな。
でも、そんな気持ちも今はない。
今は、マリアの子孫が治めるこの国を守ってやろうと心から思っている。
まあ、その辺りの事情はまた暇な時にでも二人にも詳しく話してやろう」
アメリアはそう言って笑った。
「それ聞くと、この人がもっと恐ろしくなりますよ」
アメリアに膝枕をしてもらいながらハロルドはそう言って笑った。
「こらこら、新人を脅すでないわ。
せっかく確保した有能な人材、
逃げ出されたらどうすんだ」
アメリアもハロルドの言葉にそう言って高笑いをした。
この時のアメリアは姿こそ、世に噂される黒髪と仮面姿の通称『漆黒の万能メイド』だが、その言葉と纏う雰囲気は完全に『剣聖アメリア姫』そのものだった。
四人を乗せた荷馬車はかろうじて道と分かる細道を森の奥へと進んで行く。
荷馬車は、この『迷いの森』に分け入った者だれもがあの恐ろしい体験をすると言う境界を越えて、なおも奥へと進んで行った。
それでも、森はその姿をいっこうに変えようとはしなかった。
木々の間から木漏れ日が差し込む、のどかで自然豊かな美しい森そのままの姿を保っていたのだ。
荷馬車が森の奥へ進むにつれ、明らかに警戒心を高めていたカゲトキと、不安げな表情を深めていたシャロンも、ここに至り、その表情を戸惑いと驚きに変えていた。
「何事も起こらない……」
「おだやかな森のままですね……」
手綱を握るカゲトキと、いつのまにやらしっかりとカゲトキの片腕にしがみついていたシャロンは、不思議そうな顔つきで周りを見回した。
「当たり前ですよ、ここには城の主が居ますからね。
それに、カゲトキさんとシャロンさんも含めて、
僕らは城の住人『裏』のメンバーですからね」
「そう言う事だ。
城の者に対してこの森はただどこにでもある森だよ」
そんな二人にハロルドとアメリアはそう言って笑った。
やがて、その荷馬車は大きく曲がった道を進み、森の木々の切れ目に出た。
すると荷台に座るカゲトキとシャロンの眼前に、突如、深い森の奥とは思えぬ立派な門と、その後ろにそびえる城が飛び込んで来た。
その城は、あの炭鉱の街にあった町長の居城の様に高くそびえ相手を威圧するかのような感じはなかった。高さは両脇にある塔を除けば二階建て程度。高さより横幅が広く訪れるものに対して優しい感じがした。そして何より、その周囲に広がる庭は色とりどりで美しい花々で埋め尽くしていた。
「こ、これは……凄い」
「素敵……なんて綺麗なお城なんでしょうか……」
荷台に居たカゲトキとシャロンは思わず感嘆の声を上げた。
「カゲトキ、シャロン、
ようこそ、我が城……『隠された城』……、
いや『花の離宮』へ!
私は心からお前たちを歓迎しよう」
そんな二人にアメリアが後ろの荷台から声を掛けた。そして、いつの間にか起き上がっていたハロルドも優しい笑みを浮かべ二人を見ていた。
アメリアがその腕を認め『剣王』の二つ名を与えたカゲトキと、食人鬼のメイドであるシャロンと言う新しいメンバーを加え、クレサレス帝国帝直轄騎士団、その隠されたもう一つの顔である『裏』の新たな物語がこうして始まったのだ。
『漆黒の万能メイド 序章』 完
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