48 / 49
エピローグ2
しおりを挟む
そしてその先にあるのが『迷いの森』。
それは帝都から馬車で半日ほどの距離にある深い森の俗称だった。
外から見れば木々が生い茂り野生の動物も数多く生息する自然豊かな美しい森である。しかも季節ごとに美しい花々や、美味しい木の実やキノコ類までも豊富に自生していた。
しかし、この森に近づく者は皆無だった。
かろうじて、地元の住民が森のほんの周辺部に分け入り珍しいキノコや花々を採取したり、狩りをするに過ぎない。それでも、そんなこの辺りに詳しい地元の狩人たちですら絶対にこの森の奥へ分け入る事はなかった。
一見、自然豊かな美しい森なのだがその奥へ、ある境を越えて一歩でも踏み入ると森は突然その姿を豹変させる。突然、周囲を深い霧に包まれるのだ。それは、文字通り一歩先すら見えない程深い霧。今まで木々の間から差し込んでいたキラキラ輝く眩しい程の木漏れは消え、まるで夜中の様に暗くなる。そして、森の中だと言うのに何故か強い風が吹き始めるのだ。そこへ入った者はすぐさま方向感覚を失ってしまう。
そして、必死に来た道を戻ろうとするのだが、その道すら分からなくなっている。中にはそう言う話を聞いて目印となる物や綱を残して来た者もいたが、気がつくとその目印となる物が消えてしまっているのだ。
そして、どこからともなく、聞いた事の無い何者かの遠吠えの様な物や意味が分からない話し声が聞こえて来るのだ。それが自分の周囲すべての方向からゆっくりとこちらへ向かって近寄って来る気配がする。
森に奥に迷い行った者は、屈強な騎士や狩人ですら、ほとんどすべての者がこの時点で今まで感じた事もない恐怖に意識を失ってしまうと言う。
やがて、森に迷い込んだ者は意識を取り戻す。すると不思議な事に、そこは森へ入った場所のすぐ近くなのだ。木々の間から森の外の草原がもう見えている、そんな場所だった。そこは先ほどまでの不気味さは到底無く、ただ静かで穏やかなのどかな森の風景が広がっているに過ぎない。
故にいつしかこんな噂話が流れるようになった。
『迷いの森』の奥深くには、クレサレス帝国の偉大なる初代女帝マリアによって処刑された実の姉『狂王女アメリア』の城があるのだ。自身を処刑し女帝となり国を奪った妹とその国を恨んで死んでいったアメリア姫はその怨恨と憎悪の深さから死して『魔王』となった。魔王となったアメリア姫は魔界の魔物達を率いていつの日かこのクレサレスを攻め滅ぼそうとしている。その拠点とする為、この場所に魔界と繋がる居城を築いたのだ。そしてその時が来るまで、それを知られない為に結界を張って隠しているのだ。森に迷い込んだ者が聞いた遠吠えや話し声は、アメリア姫に率いられた城を守る魔物達のものだと言う。
今は魔王アメリア姫のお目こぼしでほとんどの者が生きて戻ることが出来ている。しかし、あの『狂王女』の事、いつ気まぐれで殺されるか分からない。もしそうなったら安らかなる死など決してさせてもらえぬ。その時はどんな地獄が待っているか……。
だから、何人も決して『迷いの森』の奥には立ち入ってはならないのだ。
「その噂、実は『当たらずとも遠からず』なんだよ。
実際、隠してるのは私の居城なんだし、
その私が統括する騎士団『裏』の拠点でもあるからな」
その身をカゲトキにもたれ掛からせていたシャロンがそう『迷いの森』のことを話とアメリアがそう言って苦笑した。
「あっ……ひょっとしてその噂、姫が意図的に流したものでは?」
「いえいえ、そのシナリオ書いたのは僕ですよ、カゲトキさん」
カゲトキがそう言ってアメリアを振り向くと、いつの間にか目を覚ましていたハロルドがそう答えた。
「えっ、ハロルドさんがですか?
でも、言われてみればハロルドさんらしい気もします」
「でしょ、でしょ! 洒落が効いてるでしょ!」
ハロルドの言葉にシャロンがそう言って笑うと、ハロルドが寝転がったまま、子供の様に手足をばたばたさせて喜びの声を上げた。
「確かに君らしい話だって気がするな。
姫を『魔王』に仕立て上げるなんて。
俺はそんな恐ろしい事、よう口に出来ん」
同時にカゲトキもそう言って愉快そうに声を上げた笑った。
「姫だってこの話まんざらでもなかったんでしょ?」
すると、ハロルドがアメリアを見上げた尋ねた。
それは帝都から馬車で半日ほどの距離にある深い森の俗称だった。
外から見れば木々が生い茂り野生の動物も数多く生息する自然豊かな美しい森である。しかも季節ごとに美しい花々や、美味しい木の実やキノコ類までも豊富に自生していた。
しかし、この森に近づく者は皆無だった。
かろうじて、地元の住民が森のほんの周辺部に分け入り珍しいキノコや花々を採取したり、狩りをするに過ぎない。それでも、そんなこの辺りに詳しい地元の狩人たちですら絶対にこの森の奥へ分け入る事はなかった。
一見、自然豊かな美しい森なのだがその奥へ、ある境を越えて一歩でも踏み入ると森は突然その姿を豹変させる。突然、周囲を深い霧に包まれるのだ。それは、文字通り一歩先すら見えない程深い霧。今まで木々の間から差し込んでいたキラキラ輝く眩しい程の木漏れは消え、まるで夜中の様に暗くなる。そして、森の中だと言うのに何故か強い風が吹き始めるのだ。そこへ入った者はすぐさま方向感覚を失ってしまう。
そして、必死に来た道を戻ろうとするのだが、その道すら分からなくなっている。中にはそう言う話を聞いて目印となる物や綱を残して来た者もいたが、気がつくとその目印となる物が消えてしまっているのだ。
そして、どこからともなく、聞いた事の無い何者かの遠吠えの様な物や意味が分からない話し声が聞こえて来るのだ。それが自分の周囲すべての方向からゆっくりとこちらへ向かって近寄って来る気配がする。
森に奥に迷い行った者は、屈強な騎士や狩人ですら、ほとんどすべての者がこの時点で今まで感じた事もない恐怖に意識を失ってしまうと言う。
やがて、森に迷い込んだ者は意識を取り戻す。すると不思議な事に、そこは森へ入った場所のすぐ近くなのだ。木々の間から森の外の草原がもう見えている、そんな場所だった。そこは先ほどまでの不気味さは到底無く、ただ静かで穏やかなのどかな森の風景が広がっているに過ぎない。
故にいつしかこんな噂話が流れるようになった。
『迷いの森』の奥深くには、クレサレス帝国の偉大なる初代女帝マリアによって処刑された実の姉『狂王女アメリア』の城があるのだ。自身を処刑し女帝となり国を奪った妹とその国を恨んで死んでいったアメリア姫はその怨恨と憎悪の深さから死して『魔王』となった。魔王となったアメリア姫は魔界の魔物達を率いていつの日かこのクレサレスを攻め滅ぼそうとしている。その拠点とする為、この場所に魔界と繋がる居城を築いたのだ。そしてその時が来るまで、それを知られない為に結界を張って隠しているのだ。森に迷い込んだ者が聞いた遠吠えや話し声は、アメリア姫に率いられた城を守る魔物達のものだと言う。
今は魔王アメリア姫のお目こぼしでほとんどの者が生きて戻ることが出来ている。しかし、あの『狂王女』の事、いつ気まぐれで殺されるか分からない。もしそうなったら安らかなる死など決してさせてもらえぬ。その時はどんな地獄が待っているか……。
だから、何人も決して『迷いの森』の奥には立ち入ってはならないのだ。
「その噂、実は『当たらずとも遠からず』なんだよ。
実際、隠してるのは私の居城なんだし、
その私が統括する騎士団『裏』の拠点でもあるからな」
その身をカゲトキにもたれ掛からせていたシャロンがそう『迷いの森』のことを話とアメリアがそう言って苦笑した。
「あっ……ひょっとしてその噂、姫が意図的に流したものでは?」
「いえいえ、そのシナリオ書いたのは僕ですよ、カゲトキさん」
カゲトキがそう言ってアメリアを振り向くと、いつの間にか目を覚ましていたハロルドがそう答えた。
「えっ、ハロルドさんがですか?
でも、言われてみればハロルドさんらしい気もします」
「でしょ、でしょ! 洒落が効いてるでしょ!」
ハロルドの言葉にシャロンがそう言って笑うと、ハロルドが寝転がったまま、子供の様に手足をばたばたさせて喜びの声を上げた。
「確かに君らしい話だって気がするな。
姫を『魔王』に仕立て上げるなんて。
俺はそんな恐ろしい事、よう口に出来ん」
同時にカゲトキもそう言って愉快そうに声を上げた笑った。
「姫だってこの話まんざらでもなかったんでしょ?」
すると、ハロルドがアメリアを見上げた尋ねた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~
双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。
なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。
※小説家になろうでも掲載中。
※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる