漆黒の万能メイド

化野 雫

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エピローグ2

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 そしてその先にあるのが『迷いの森』。

 それは帝都から馬車で半日ほどの距離にある深い森の俗称だった。

 外から見れば木々が生い茂り野生の動物も数多く生息する自然豊かな美しい森である。しかも季節ごとに美しい花々や、美味しい木の実やキノコ類までも豊富に自生していた。

 しかし、この森に近づく者は皆無だった。

 かろうじて、地元の住民が森のほんの周辺部に分け入り珍しいキノコや花々を採取したり、狩りをするに過ぎない。それでも、そんなこの辺りに詳しい地元の狩人たちですら絶対にこの森の奥へ分け入る事はなかった。

 一見、自然豊かな美しい森なのだがその奥へ、ある境を越えて一歩でも踏み入ると森は突然その姿を豹変させる。突然、周囲を深い霧に包まれるのだ。それは、文字通り一歩先すら見えない程深い霧。今まで木々の間から差し込んでいたキラキラ輝く眩しい程の木漏れは消え、まるで夜中の様に暗くなる。そして、森の中だと言うのに何故か強い風が吹き始めるのだ。そこへ入った者はすぐさま方向感覚を失ってしまう。

 そして、必死に来た道を戻ろうとするのだが、その道すら分からなくなっている。中にはそう言う話を聞いて目印となる物や綱を残して来た者もいたが、気がつくとその目印となる物が消えてしまっているのだ。

 そして、どこからともなく、聞いた事の無い何者かの遠吠えの様な物や意味が分からない話し声が聞こえて来るのだ。それが自分の周囲すべての方向からゆっくりとこちらへ向かって近寄って来る気配がする。

 森に奥に迷い行った者は、屈強な騎士や狩人ですら、ほとんどすべての者がこの時点で今まで感じた事もない恐怖に意識を失ってしまうと言う。

 やがて、森に迷い込んだ者は意識を取り戻す。すると不思議な事に、そこは森へ入った場所のすぐ近くなのだ。木々の間から森の外の草原がもう見えている、そんな場所だった。そこは先ほどまでの不気味さは到底無く、ただ静かで穏やかなのどかな森の風景が広がっているに過ぎない。

 故にいつしかこんな噂話が流れるようになった。

 『迷いの森』の奥深くには、クレサレス帝国の偉大なる初代女帝マリアによって処刑された実の姉『狂王女バーサーカープリンセスアメリア』の城があるのだ。自身を処刑し女帝となり国を奪った妹とその国を恨んで死んでいったアメリア姫はその怨恨と憎悪の深さから死して『魔王』となった。魔王となったアメリア姫は魔界の魔物達を率いていつの日かこのクレサレスを攻め滅ぼそうとしている。その拠点とする為、この場所に魔界と繋がる居城を築いたのだ。そしてその時が来るまで、それを知られない為に結界を張って隠しているのだ。森に迷い込んだ者が聞いた遠吠えや話し声は、アメリア姫に率いられた城を守る魔物達のものだと言う。

 今は魔王アメリア姫のお目こぼしでほとんどの者が生きて戻ることが出来ている。しかし、あの『狂王女』の事、いつ気まぐれで殺されるか分からない。もしそうなったら安らかなる死など決してさせてもらえぬ。その時はどんな地獄が待っているか……。

 だから、何人も決して『迷いの森』の奥には立ち入ってはならないのだ。



「その噂、実は『当たらずとも遠からず』なんだよ。
 実際、隠してるのは私の居城なんだし、
 その私が統括する騎士団『シャドウサイド』の拠点でもあるからな」

 その身をカゲトキにもたれ掛からせていたシャロンがそう『迷いの森』のことを話とアメリアがそう言って苦笑した。

「あっ……ひょっとしてその噂、姫が意図的に流したものでは?」

「いえいえ、そのシナリオ書いたのは僕ですよ、カゲトキさん」

 カゲトキがそう言ってアメリアを振り向くと、いつの間にか目を覚ましていたハロルドがそう答えた。

「えっ、ハロルドさんがですか?
 でも、言われてみればハロルドさんらしい気もします」

「でしょ、でしょ! 洒落が効いてるでしょ!」

 ハロルドの言葉にシャロンがそう言って笑うと、ハロルドが寝転がったまま、子供の様に手足をばたばたさせて喜びの声を上げた。

「確かに君らしい話だって気がするな。
 姫を『魔王』に仕立て上げるなんて。
 俺はそんな恐ろしい事、よう口に出来ん」

 同時にカゲトキもそう言って愉快そうに声を上げた笑った。

「姫だってこの話まんざらでもなかったんでしょ?」

 すると、ハロルドがアメリアを見上げた尋ねた。
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