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エピローグ1
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ガタゴト……ガタゴト……。
おんぼろ荷馬車が、街外れの街道をのんびり進む。
その手綱を握るのは、フード付きのマントを羽織ったやつれた騎士崩れ風の男。
そしてその横には、美しい金髪を綺麗に結い上げ、その上に白いカチューシャを載せたメイド姿の若い女。女は騎士崩れの男に身を任せる様にして寄り添って座っていた。
そして荷台には、この世界では非常に珍しい黒髪に白い仮面をした、前の女同様にメイド姿をした女。そして、いかにもぼんぼんと言う風情の若い商人風の男がいた。その男はまるで母か姉に甘える様に、荷台に座る黒髪のメイドの膝に頭を載せてうたた寝をしていた。
「すみませんね、カゲトキ様。
あなたの様な方に荷馬車の手綱を任せるなんて……」
黒髪のメイドは、自分の膝枕で気持ち良さそうに眠る若い商人の頭を愛おし気に撫でながら、手綱を握る男に声を掛けた。
「他人の目があるならまだしも、
そうじゃなきゃ、恐れ多くてあなたに御者の真似などさせられませんよ」
荷馬車の手綱を握る騎士崩れの男が前を向いたままそう答えた。それを聞いて、男に寄り添うメイド姿の女がくすりと笑った。
そう、手綱を握るのは『剣王』の二つ名を持ち帝の騎士『裏』でもある剣士カゲトキ、そしてその横に寄り添う女は食人鬼のメイドであるシャロンである。そして、荷台に座る黒髪のメイドは言わずと知れた死なずの『剣聖アメリア姫』、その膝枕でうたた寝しているぼんぼん商人風の男が唯一無二の『表と裏両方に籍を持つ帝の騎士』ハロルドだった。
「……で、姫君、これからこのまま帝都へ向かえば良いのでしょうか?」
カゲトキが荷台のキルシュ、またの名をアメリア姫を振り返って尋ねた。
その時、荷馬車は帝都へ向かう街道を進んでいた。しかも、もう半日もこのまま真っ直ぐ街道を進めば帝都に到着すると言う距離まで来ていた。
「そうか、お前にはまだ言ってなかったんだっけ。
とりあえずの目的地は帝都ではない。
我が城『隠された宮殿』だ」
アメリアは、主を慕う年上のメイドらしく優しくハロルドの髪を撫でながらも、その声だけは女帝の風格でそう答えた。
「『隠された宮殿』?
そんな物がこっち方面にあるなんて聞いたことがありませんが?」
カゲトキはいぶかし気な表情でアメリアに尋ねた。
「だから『隠された宮殿』と言うのだよ。
まあ、元々は私が趣味で建てた私の離宮さ。
もっとも当時は『花の離宮』と言う優雅な名でいたのだがな」
「アメリア姫の『花の離宮』は噂では聞いたことがあります。
でも、姫様が処刑されてしまった後ただちに取り壊され、
今となってはその場所すら正確な分からないと言われてます。
伝承やら、噂では色々その名残だと言われる遺跡はありますけど。
当時はアメリア姫が自身の権力に物を言わせて、
贅を尽くして建てた豪華で美しい離宮だったと言われてますね」
アメリアがそう答えると、カゲトキに身を預けていたシャロンがそう言って説明を加えた。
「なんせ伝承の私は大悪人だからな。
国の富を浪費した様に伝わるのはいたしかないか。
しかしな、実際はそんなに華美な物じゃなかった。
元からあった避暑用の離宮を改築したもんだよ。
私の趣味で草花を沢山植えたから『花の離宮』と呼ばれたのだ」
シャロンの説明を聞いてアメリアはくすりと苦笑しながらそう言った。
「あっ……その先の分かれ道を右だ、カゲトキ」
そう言った後、アメリアは荷馬車の手綱を握るカゲトキに命じた。
「えっ……その先を右って、この先は『迷いの森』ですよ、姫」
アメリアの指示にカゲトキが思わず声を上げた。
その先にある分かれ道は、分かれ道と言うにはやや語弊があった。
と言うのも、ここでは道を知らぬ者でも迷う事などまずありえない場所だったのだ。実際、普通なら誰もが帝都へ向かう方の道を無意識の内に選ぶ。もう片方の道などまったく意識される事はない。何故なら、帝都へ向かう道は今まで来た道と同じ様に田舎道ながら広く綺麗に整備されていた。しかし、もう片方はかろうじて荷馬車が一台通れるかどうかと言った程度の狭い道だった。しかも雑草が道にも生え、荒れ放題で油断すれば道なのか野原なのか区別がつかない程だった。
おんぼろ荷馬車が、街外れの街道をのんびり進む。
その手綱を握るのは、フード付きのマントを羽織ったやつれた騎士崩れ風の男。
そしてその横には、美しい金髪を綺麗に結い上げ、その上に白いカチューシャを載せたメイド姿の若い女。女は騎士崩れの男に身を任せる様にして寄り添って座っていた。
そして荷台には、この世界では非常に珍しい黒髪に白い仮面をした、前の女同様にメイド姿をした女。そして、いかにもぼんぼんと言う風情の若い商人風の男がいた。その男はまるで母か姉に甘える様に、荷台に座る黒髪のメイドの膝に頭を載せてうたた寝をしていた。
「すみませんね、カゲトキ様。
あなたの様な方に荷馬車の手綱を任せるなんて……」
黒髪のメイドは、自分の膝枕で気持ち良さそうに眠る若い商人の頭を愛おし気に撫でながら、手綱を握る男に声を掛けた。
「他人の目があるならまだしも、
そうじゃなきゃ、恐れ多くてあなたに御者の真似などさせられませんよ」
荷馬車の手綱を握る騎士崩れの男が前を向いたままそう答えた。それを聞いて、男に寄り添うメイド姿の女がくすりと笑った。
そう、手綱を握るのは『剣王』の二つ名を持ち帝の騎士『裏』でもある剣士カゲトキ、そしてその横に寄り添う女は食人鬼のメイドであるシャロンである。そして、荷台に座る黒髪のメイドは言わずと知れた死なずの『剣聖アメリア姫』、その膝枕でうたた寝しているぼんぼん商人風の男が唯一無二の『表と裏両方に籍を持つ帝の騎士』ハロルドだった。
「……で、姫君、これからこのまま帝都へ向かえば良いのでしょうか?」
カゲトキが荷台のキルシュ、またの名をアメリア姫を振り返って尋ねた。
その時、荷馬車は帝都へ向かう街道を進んでいた。しかも、もう半日もこのまま真っ直ぐ街道を進めば帝都に到着すると言う距離まで来ていた。
「そうか、お前にはまだ言ってなかったんだっけ。
とりあえずの目的地は帝都ではない。
我が城『隠された宮殿』だ」
アメリアは、主を慕う年上のメイドらしく優しくハロルドの髪を撫でながらも、その声だけは女帝の風格でそう答えた。
「『隠された宮殿』?
そんな物がこっち方面にあるなんて聞いたことがありませんが?」
カゲトキはいぶかし気な表情でアメリアに尋ねた。
「だから『隠された宮殿』と言うのだよ。
まあ、元々は私が趣味で建てた私の離宮さ。
もっとも当時は『花の離宮』と言う優雅な名でいたのだがな」
「アメリア姫の『花の離宮』は噂では聞いたことがあります。
でも、姫様が処刑されてしまった後ただちに取り壊され、
今となってはその場所すら正確な分からないと言われてます。
伝承やら、噂では色々その名残だと言われる遺跡はありますけど。
当時はアメリア姫が自身の権力に物を言わせて、
贅を尽くして建てた豪華で美しい離宮だったと言われてますね」
アメリアがそう答えると、カゲトキに身を預けていたシャロンがそう言って説明を加えた。
「なんせ伝承の私は大悪人だからな。
国の富を浪費した様に伝わるのはいたしかないか。
しかしな、実際はそんなに華美な物じゃなかった。
元からあった避暑用の離宮を改築したもんだよ。
私の趣味で草花を沢山植えたから『花の離宮』と呼ばれたのだ」
シャロンの説明を聞いてアメリアはくすりと苦笑しながらそう言った。
「あっ……その先の分かれ道を右だ、カゲトキ」
そう言った後、アメリアは荷馬車の手綱を握るカゲトキに命じた。
「えっ……その先を右って、この先は『迷いの森』ですよ、姫」
アメリアの指示にカゲトキが思わず声を上げた。
その先にある分かれ道は、分かれ道と言うにはやや語弊があった。
と言うのも、ここでは道を知らぬ者でも迷う事などまずありえない場所だったのだ。実際、普通なら誰もが帝都へ向かう方の道を無意識の内に選ぶ。もう片方の道などまったく意識される事はない。何故なら、帝都へ向かう道は今まで来た道と同じ様に田舎道ながら広く綺麗に整備されていた。しかし、もう片方はかろうじて荷馬車が一台通れるかどうかと言った程度の狭い道だった。しかも雑草が道にも生え、荒れ放題で油断すれば道なのか野原なのか区別がつかない程だった。
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