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始まりの予感2
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これ以上、私を惨めにさせないでほしい。
すんなり気持ちを切り替えて新しい人生を歩んでいきたいのに、いつまでも光輝の存在が足枷になる。
何度も繰り返し話すことで裏切られたあの日を思い出すし、何度も心を抉られていくようだ。
それが私を傷つけているとどうして気づいてくれないのだろうか。
「もう話したくない。これ以上、私の心を殺さないで」
ダンボールにガムテープを貼って完全に蓋をする。
もうこの話は終わりだと告げるかのように立ち上がり、順番に玄関まで数個のダンボールを運んでいった。
するとブブッとスマートフォンにメッセージが届く。
相手は夏樹で、夜カフェに行った時に一応交換しておいたことが功を奏したようだ。
メッセージには"荷物重いだろうから部屋まで迎えに行くから"と書かれていた。
一刻も早くこの家から出たくて、カバンとその他の荷物も持って忘れ物がないかを確認する。
もう二度とここに戻ってこなくていいように入念に確認した。
そしてガチャっと玄関を開けると丁度こちらに向かってくる夏樹の姿が目に入る。
「瀬奈待ってよ!」
突然名前を呼ばれたかと思えば、私を追って玄関まで追いかけてきた光輝と荷物を取りに来てくれた夏樹が鉢合わせてしまった。
怪訝そうな視線を夏樹に向ける光輝に対して、夏樹は涼しい顔で笑みを浮かべている。
「瀬奈さん荷物手伝うね」
「⋯ありがとう」
「瀬奈、誰だよその男」
「関係ないでしょ」
「まさか浮気してたのかよ?」
光輝のその言葉に遂に私の怒りがピークに達し、思わず手が出そうになったところを夏樹によって制された。
私の腕を掴んで、距離を取らせるように自分に引き寄せる夏樹。
服越しに夏樹の逞しい身体に触れ、なぜか妙に安心する自分がいた。
夏樹がいれば大丈夫だと、どこかで思っているのかもしれない。
「残念だけど、お兄さんと違って瀬奈さんは浮気なんてしてませんよ」
「誰だよあんたは」
「んーまぁ瀬奈さんの友達兼雇い主ですかね」
夏樹に触れているとなぜだかじわじわと涙が込み上げてきた。
悔しさと悲しさと、安心感といろんな感情が駆け巡りなんの涙かは分からない。
「瀬奈さん、こっち向いて」
そう言って顔を上げさせられたかと思えば次の瞬間、夏樹の唇が私の唇に重なり合った。
突然の出来事すぎて何が起こっているのか頭が追いつかない。
それは光輝も同じなようでキスをする私たちを呆然と見つめながら立ち尽くしていた。
触れるだけの口付けではなく、舌を絡めとるような濃厚なキスに小さな声が思わず漏れる。
「んっぁ」
「な、何してんだよお前!」
「瀬奈さんとお兄さんはもう別れたんでしょ?これ以上、瀬奈さんを傷つけないでもらえません?」
「俺はまだ納得できてない⋯!」
「あんたに選択肢はねーよ。瀬奈さん泣かせて、まだ好きでいてもらえるって思うなんて甘いですよ」
私以外の人が光輝に怒りをぶつけてくれることが嬉しかった。
私は間違ってないんだと、安心して大丈夫だと言ってもらえているような気がする。
私は夏樹の胸に顔を埋め、光輝に背を向ける。
それは私なりの拒絶で、もう二度と戻ることはないことを告げていた。
それが夏樹にも伝わっているのか、私の肩を抱きしめる手に少しだけ力がこもる。
言葉にしなくても安心して、と言われているようだった。
「瀬奈さん行こうか」
「うん⋯」
「瀬奈!待ってよ」
「嫌がってます瀬奈さんが。もうやめましょ」
泣きそうになるのを堪えて私はダンボールを一つ持ち、そのまま夏樹が乗って迎えに来てくれた背の低い黒い車に運び込む。
私たちの姿を見つめる光輝は何も言わずに呆然と立ち尽くしていた。
元婚約者に何も告げることなく、視線を向けることもなく助手席に座った私は夏樹の運転する車に揺られながら思い出がいっぱいの部屋を後にする。
もう二度と戻らない、三年半が詰まった全ての思い出をあそこに残し、私は新しい人生を歩み出すんだ。
すんなり気持ちを切り替えて新しい人生を歩んでいきたいのに、いつまでも光輝の存在が足枷になる。
何度も繰り返し話すことで裏切られたあの日を思い出すし、何度も心を抉られていくようだ。
それが私を傷つけているとどうして気づいてくれないのだろうか。
「もう話したくない。これ以上、私の心を殺さないで」
ダンボールにガムテープを貼って完全に蓋をする。
もうこの話は終わりだと告げるかのように立ち上がり、順番に玄関まで数個のダンボールを運んでいった。
するとブブッとスマートフォンにメッセージが届く。
相手は夏樹で、夜カフェに行った時に一応交換しておいたことが功を奏したようだ。
メッセージには"荷物重いだろうから部屋まで迎えに行くから"と書かれていた。
一刻も早くこの家から出たくて、カバンとその他の荷物も持って忘れ物がないかを確認する。
もう二度とここに戻ってこなくていいように入念に確認した。
そしてガチャっと玄関を開けると丁度こちらに向かってくる夏樹の姿が目に入る。
「瀬奈待ってよ!」
突然名前を呼ばれたかと思えば、私を追って玄関まで追いかけてきた光輝と荷物を取りに来てくれた夏樹が鉢合わせてしまった。
怪訝そうな視線を夏樹に向ける光輝に対して、夏樹は涼しい顔で笑みを浮かべている。
「瀬奈さん荷物手伝うね」
「⋯ありがとう」
「瀬奈、誰だよその男」
「関係ないでしょ」
「まさか浮気してたのかよ?」
光輝のその言葉に遂に私の怒りがピークに達し、思わず手が出そうになったところを夏樹によって制された。
私の腕を掴んで、距離を取らせるように自分に引き寄せる夏樹。
服越しに夏樹の逞しい身体に触れ、なぜか妙に安心する自分がいた。
夏樹がいれば大丈夫だと、どこかで思っているのかもしれない。
「残念だけど、お兄さんと違って瀬奈さんは浮気なんてしてませんよ」
「誰だよあんたは」
「んーまぁ瀬奈さんの友達兼雇い主ですかね」
夏樹に触れているとなぜだかじわじわと涙が込み上げてきた。
悔しさと悲しさと、安心感といろんな感情が駆け巡りなんの涙かは分からない。
「瀬奈さん、こっち向いて」
そう言って顔を上げさせられたかと思えば次の瞬間、夏樹の唇が私の唇に重なり合った。
突然の出来事すぎて何が起こっているのか頭が追いつかない。
それは光輝も同じなようでキスをする私たちを呆然と見つめながら立ち尽くしていた。
触れるだけの口付けではなく、舌を絡めとるような濃厚なキスに小さな声が思わず漏れる。
「んっぁ」
「な、何してんだよお前!」
「瀬奈さんとお兄さんはもう別れたんでしょ?これ以上、瀬奈さんを傷つけないでもらえません?」
「俺はまだ納得できてない⋯!」
「あんたに選択肢はねーよ。瀬奈さん泣かせて、まだ好きでいてもらえるって思うなんて甘いですよ」
私以外の人が光輝に怒りをぶつけてくれることが嬉しかった。
私は間違ってないんだと、安心して大丈夫だと言ってもらえているような気がする。
私は夏樹の胸に顔を埋め、光輝に背を向ける。
それは私なりの拒絶で、もう二度と戻ることはないことを告げていた。
それが夏樹にも伝わっているのか、私の肩を抱きしめる手に少しだけ力がこもる。
言葉にしなくても安心して、と言われているようだった。
「瀬奈さん行こうか」
「うん⋯」
「瀬奈!待ってよ」
「嫌がってます瀬奈さんが。もうやめましょ」
泣きそうになるのを堪えて私はダンボールを一つ持ち、そのまま夏樹が乗って迎えに来てくれた背の低い黒い車に運び込む。
私たちの姿を見つめる光輝は何も言わずに呆然と立ち尽くしていた。
元婚約者に何も告げることなく、視線を向けることもなく助手席に座った私は夏樹の運転する車に揺られながら思い出がいっぱいの部屋を後にする。
もう二度と戻らない、三年半が詰まった全ての思い出をあそこに残し、私は新しい人生を歩み出すんだ。
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