年下上司の溺愛は甘すぎる

春野カノン

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憎まれ続ける覚悟4

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「お母さんに私はそんなこと教えてもらえなかった。そんなふうに考えられる環境にいなかった」

「うん⋯」

「だからそんなふうに私は思えない」


私が知らない間、本当に言葉にできないほど苦労してきたんだろう。
それが美玲の発する言葉からひしひしと伝わってきた。


「ずっと憎くて嫌いって感情だけで私は生きてきたから、今更瀬奈にほかの感情を向けるなんてできない」

「うん」

「でも⋯⋯私だって嫌いになりたくてなったわけじゃない。そうするしかなかった」

「うん⋯分かってる」

「聞き分けが良すぎるところも、きらい」

「ごめん」


もっと早く気づけばよかった。
美玲だけがずっと私をと呼びという言葉を使い続けてくれてたことを。


単純に嫌がらせの意味で言っていたのも事実だろうし、心の奥底ではそれに執着していたのかもしれない。


「⋯⋯みんな瀬奈を無条件に信頼してるとこも嫌い」

「みんな?」

「瀬奈のお父さんも⋯⋯瀬奈の彼氏も」

「どういうこと?」

「瀬奈のお父さんうちに来た、私とお母さんと話に。その時言ってた。瀬奈はきっと私との関係を諦めないって」


確かにお父さんはお母さんと話をつけるとは言っていた。
三人でどんな話をしたかは分からないけど、お父さんがそんなことを言ってくれていたとは。


「あの彼氏も似たようなこと言ってた。瀬奈はきっと、ずっと嫌われ続ける姉であり続けるって。みんな瀬奈のこと分かってくれてて、そんなふうに思ってくれる人がたくさんいて⋯⋯むかつくし⋯⋯⋯羨ましい」

「美玲⋯」

「私には、そんな人いない」


夏樹と美玲が会っていた日にどんな話をしていたのかは知らないが、夏樹は安心して喧嘩し続けていいと言っていたがその言葉の意味がなんとなく分かった気がする。
私がいないところでも私を助けてくれていたことがちゃんと分かった。


「私がこれからそうなるから。美玲を分かる姉になるよ」

「⋯⋯いい、別に。分かってもらわなくても」

「そっか」


私たちはお互い素直じゃない。
長年この関係だったからこそ、手のひらを返すようにすぐ仲良しこよしなんて無理だ。


それでもほんの少しずつでいい、こうしてお互いが思っていることを話せる関係になっていければ。
良いも悪いも話せる関係に。


「これからもずっと私のこと嫌いでいいから。その感情を隠さないで、ぶつけて欲しい」

「仲良くなることなんて一生できないかもよ」

「それはそれでいいの。それが私たち姉妹の関係だよ」


やっぱり私たち家族、姉妹は世間一般から見たら変な関係だと思う。
普通ではないだろうし、仲良し姉妹にはきっとこの先もなれないかもしれない。


それでも私は美玲を見捨てるつもりはなかった。
これが私たち姉妹の在り方。


「⋯⋯あの彼氏はきっと一生瀬奈の味方だね」

「夏樹のこと?」

「うん。何があっても瀬奈がどんなことしてもきっとあの人だけは全部受け止める気がする」

「⋯いい人でしょ、彼」

「⋯⋯むかつくくらいね」


薄らと微笑む美玲の笑顔は今まで見た中で一番綺麗に見えた。
美玲は氷で薄まったミルクティをストローで一気に吸い込み、テーブルに置かれていた伝票を持って立ち上がる。


「美玲。ここは私が⋯」

「いい。借りなんて作りたくないから」

「⋯分かった。ねえ美玲」


呼び止められた美玲は私に背中を向けたまま立ち止まる。
初めて美玲に直接言える言葉があった。


「誕生日おめでとう」


美玲は四月生まれのため今月に会えたら必ず言おうと思っていたんだ。
姉妹なのに一度もそう伝えたことがなかった。


「⋯⋯もう過ぎてるし」

「うん。遅くなってごめんね」

「───ありがと⋯⋯ごめん、お姉ちゃん」


そう言い残し去っていく美玲。
私を呼ぶ"お姉ちゃん"という言葉が少しだけ私たちの関係を変えてくれた気がする。


憎まれ続ける覚悟を私は持っていた。
この数十年の想いを簡単に変えることはできないだろう。


この先何十年かけて、私たちが本当の姉妹になっていければいいな、なんて淡い期待を持つ。
周りから見ればそんな妹なんて絶縁すべきだと言われるかもしれない。


そんなのありえない、家族であり続けるなんておかしいと言われるかもしれない。
だけど私はそれでも美玲と歪でも姉妹で在り続けたかった──。
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