揚げ物、お好きですか?リメイク版

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プロローグ

プロローグ

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 体に一瞬、電流が走り、視界は白く染まった。

 『……ここは…………どこ…だ?』

 その問いに、脳は答えようとはしなかった。

 『……何故、俺は、こんな所に?』

 無理もない。今、目の前に映し出されている風景は、自分の記憶とは大きくかけ離れ過ぎていた。

 「……………!?」

 現状を把握出来ていない俺の横に誰かが並び、語り掛けてくる。
 俺はそれに無意識に、右手を上げ、答えていた。
 その上げた手から落ちる雫。
 じんわりと肌を浸食していくように冷える右半身に、水場に転んだのだと悟った。
 なぜ、俺はこんな事に……。
 いや……でも……まあ、この景色を見れば、答えは納得した。
 薄く苔に被われた外灯から、少し緑がかった明かりが不気味に降り注ぎ。そして、それが映し出すのは、ぎっしりと苔が生えた壁。所々、隆起した岩。ぬかるんだ地面。
 肌に触れる空気は、湿気と冷気をはらみ、唸り声の様な風切り音が、時々、背筋を震わせるように這い上がり、耳に届く。
 そう。簡単に言えば、俺が今居る場所は洞窟と言うやつだろう。
 ……明かりが有ることから、人の手が入っているのは確実。鍾乳洞か、どこかの観光地か?
 しかし、俺の記憶だと、街中を歩いていたはずなんだが……。
 考え込む頭とは別に、体は勝手に、確実に、前へ進む。
 ……やはり、おかしい。
 俺は悪路に慣れる程の環境に身を置いた覚えはないし、何より、この俯瞰したような感覚。普通じゃない。
 
 「ヤマト様!モンスターです!!」

 考え込む中、不意に女性の声が耳に届く。
 すると俺は駆け出し、無慈悲に、容赦なく、腰に掛けてある剣を鞘から抜き、エンカウントするモンスターを次々と切り払っていく。
 ……え?嘘だろ??
 風に流されるように木霊し消えるモンスターの絶叫。
 絶命し、流れ、飛び散り、溢れるはずの……血。
 あれ?飛び散らない……どういうことだ??  
 しかも、そこに血の海は広がらない。
 もちろん、剣や俺の体にも血は付いていない。
 その事に、身体は違和感すら感じないほど、当たり前のように、剣を鞘に収めた。
 ……いやいやいや、ちょっと待ってよ!これ、俺?あり得ないでしょ??なに当たり前のようにファンタジーしてんのよ??ゲームじゃあるまいし……。そもそも、モンスターってなによ?!
 …………。
 ………。
 ……。
 あっ、そうか。モンスターって、これは最新のゲームだろう。VRとかなんかの……。今のゲームはリアルぽいしな。昨日、遅くまでゲームの動画観てたから、それでその時の記憶と……。

 「ヤマト様、次がきます!!」

 思考途中、また横で同じ声が聞こえる。
 その声の後、さっき切り払ったモンスター達より大型のモンスターが姿を現した。
 その姿を確認してか、今度は走り出さず、俺は剣を抜き構える。
 状況をしっかり把握しているって事か?
 スピードと勢いだけでは斬り伏せられないって事だろうか?
 また考え込む俺。
 さっきの戦闘とは違い、構えたままの身体は、動く気配を示さなかった。
 ローディング?バグか??もしかして、オートバトルモードとかじゃないの?
 そう思った瞬間、モンスターの攻撃が俺を襲う。
 やばっ!
 反応が遅れた分、回避は出来そうにない。
 あっ、でもこれゲームなら、実際に当たっても痛くないはず。ただHPと言う数値がが減るだけだろ?
 安心し、そのままモンスターの攻撃を受けようとした瞬間、背筋にスーッと冷たい雫が流れ込む。
 一瞬にして俯瞰していた意識は、その雫に吸い込まれるように体と同化した。
 はっ!やばい!マジでやばい!!
 とっさに、構えていた剣でモンスターの攻撃を払う。
 直撃は免れたものの、勢いで剣は弾き飛ばされ、俺は尻餅をついてしまった。
 やられる!
 
 「ファイアボール!」

 そう思った瞬間、声と共に目の前のモンスターは青い炎に覆われ、断末魔の叫びと一緒に消滅した。

 「大丈夫ですか?ヤマト様??」
 「ああ。大丈夫だ。ありがとう。イリア。」
 「良かったです。……もう、今日は少し様子がおかしいですよ。気をつけて下さいね。」
 「分かった、分かった。」

 ……そうだ。危ないところだった。気を抜いたら『即・死』を覚悟しないといけない『ダンジョン』に居たんだった。俺は。相棒のエルフの女性、イリアと共に。

 『ダンジョン』とは……。
 亜人『エルフ』。そのエルフが住む世界『エルヘイム』に無数に存在する。モンスターが産まれ、棲む、不可思議な場所。
 俺が『元』住んでいた世界で例えると、まさにゲームのRPGの『ダンジョン』だ。
 いや、今で言うとVRMMOと言ったところなんだろうか?モンスターによっては、他のパーティーと共闘する事も度々あるし。よく分からないけど……まあ、その『ダンジョン』その物だ。
 そして、その『ダンジョン』は複雑に入り組んだ洞窟のようだったり、天まで届きそうな塔だったり、はたまた魔王に乗っ取られた神殿であったり……。まあ、多種多様だ。
 ダンジョンはエルフの生活には欠かせない場所になっており、出現するモンスターからは、魔石、ドロップアイテム。そして、食材が穫れる。
 魔石やドロップアイテムは、お金に変換出来たり武器や防具などに用いられる。もちろん食材も売ることが出来るが、文字通りエルフが食する物にもなる。需要性が高く、また貴重性の高い物は、高値で取り引きされている。
 最初、食材より綺麗な魔石や稀に落ちるドロップアイテムの方が余程価値がある物だと思っていた。が、希少性の高い食材がドロップアイテムなどよる高価な物なのだと、ダンジョンに入り、実際に目にして納得した。
 ダンジョンで倒されたモンスターは、魔石やドロップアイテムを残し、一瞬にして消えたり、時間が経てばダンジョンに浸食されてしまうのか?その姿を消すからだ。
 すなわち、食材はモンスターの体の一部。
 例外はなく、それと同じようにダンジョン内に留まっていれば消えてしまうとことになる。
 食材確保は時間との勝負。
 食材は少しでも原形を留めてダンジョンを出れば、採取した時の状態に戻り、食材として世界に留まる事を許されるのだった。
 本当に不可思議な場所だ。この世界を含めて……。
 そのダンジョンは、開拓されたダンジョンもあれば、開拓途中、未開拓のダンジョンまである。階層もまちまちだ。
 開拓されたダンジョン、あるいは開拓途中のダンジョンには、この洞窟のような灯りもあり、魔石の力を利用して作り上げられた『浮遊石』なる階層を行き来できる……言わばエレベーターまでも有る。
 予想外に便利な事もあって最初はビックリした事が多かった。
 そして、俺達は今日、そんな開拓された洞窟型のダンジョンを彷徨っている。
 ミノタウロスの舌『ミノタン』を求めて。
 
 彷徨い始めて、もうそろそろ一時間か……。
 階層は既に五階層まで達していた。
 ミノタンが原形を留められる時間。それが約一時間。
 浮遊石を使えばまだ少し余裕はある。
 しかし、このダンジョンでこれ以上深い階層に潜れば時間的にダンジョン外に出る事が出来なくなり、採取不可能になる。
 もっと上の階層で出てくるダンジョンを選べば良かったか?と後悔しているところに、ようやく、お目当てのモンスター『ミノタウロス』とエンカウントした。
 頭は牛。身体は人。牛頭人身のモンスター、ミノタウロス。
 神話やゲームなどでお馴染みのモンスターだが、実際に居るんだ。と実際に見て知った時は驚いた。その手には、ゲームなどで知っているように、石で作られた巨大な斧、石斧を持っている。
 性格は至って獰猛。
 食材として使えるのは、舌と尻尾のみ。その他の身体は食材としては適用されないのか、切り落としても、ドロップアイテムや魔石を残して消滅してしまう。
 もちろん、ゲームみたいなターン制では無く、ダンジョンのモンスターはエンカウントすると遠慮無く襲い掛かってくる。
 ミノタウロスも例外なく、挨拶と言わんばかりに高らかに吼え、石斧を構えて突進してくる。
 ミノタウロスの渾身の一撃は、その巨漢に見合う力で、石斧は盛大に地面に刺さる程。辺りには、爆風と石などを飛び散らせる。
 初めてミノタウロスとエンカウントした時は、正直ビビった。その爆風の凄まじさと威力。直撃してしまえば、もちろん命は無い。その恐怖に少しオシッコを漏らして逃げ惑ってしまったが……慣れてしまえばどうって事はない。それに、今はマジックアイテムの『疾風の靴』も装備をしているし……。
 
 ミノタウロスの突進。振り下ろされる一撃。
 その一撃と爆風の届かない所まで一気に距離を取り、後は地面に刺さった石斧を『フゴォ!フゴォォ!!』と、一生懸命に抜き取ろうとしているミノタウロスの眉間に一撃をお見舞いしてやればそれで良いのだ。
 石斧を抜き取るのを諦めて回避するなり、なんなりとすると良いのだけれど、律儀にミノタウロスは石斧を抜こうとする。
 例外は『存在しない』。
 それが、ダンジョンという特定の場所で産まれ、そこで学ぶ事もなく生涯を終えるからなのだろうか?子孫を残す事がないからなのか?分からない。
 まあ、そこらへんを俺が考えても仕方がないか……。
 簡単に言ってしまうと……ミノタウロスは意外とお馬鹿さんだった。
 剣を構えて走る俺。マジックアイテム『疾風の靴』のおかげで、まさに疾風になる。

 「うおぉぉぉぉーーー!!」

 激しく吹き付ける風のように、俺の声は静かなダンジョンに響き渡る。
 それと時を同じようにして、ミノタウロスが怒り、そして戸惑うように鳴く、けたたましい叫び声が交錯する。
 そして、ものの数秒後……『グモォォォォ~!』と断末魔の叫びが轟き、ズドン!と倒れる音が響く。
 牛頭人身のモンスター。ミノタウロスは眉間に剣を刺されて絶命した。

 「イリア!包丁、早く包丁!!」

 俺は剣を抜き、急ぐようにイリアに包丁を取るように要求する。

 「はい!ヤマト様!!ただいま!!」

 イリアはバッグから急いで包丁を取り出し、手渡す。剣では長過ぎて、ミノタンの様な細かい部位を切り取るにはやりにくいのだ。
 俺は、長い舌をだらしなく垂らし、絶命したミノタウロスの口をこじ開け、奥に包丁を入れ、出来るだけ奥から舌を切り、取り出した。そして、その後、尻尾も落とす。それを素早くイリアに渡す。

 「イリア!魔法お願い!!」

 イリアは俺の言葉を聞いて魔法を解き放つ。そう、この世界には『魔法』という物が普通に存在している。あと『スキル』それに『レベル』まであるのである。

 「フローズン!」

 本来なら攻撃に用いられるであろう氷魔法は、威力を弱めて放たれ、ミノタウロスの舌と尻尾を一瞬で凍らせる。まさに瞬間冷凍である。そして、それを布で包み、バッグに入れた。

 「よし!ミノタンが消える前に早くダンジョンから出るぞ!!」
 「はい!ヤマト様!!」

 そう言い、俺達はダンジョンの出口へと急いで向かう。
 そして、走りながら、俺は一年前の事を思い出していた。
 ちなみに俺の職業はゲームに出てくる、勇者ではない。『料理人』だ。
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