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ギルドとダンジョンと……
ギルドとダンジョンと……1
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城を出て、初めて見上げた空は、海の青を映したように青く、雲は綿飴のように白くゆっくりと流れ空に溶けていった。
とても綺麗だ……。
心が洗われるようだった。
少し不安だったんだ。もしかしたら、空の色が地獄絵巻のように赤だったりとか……そんな事を思っていた。
吸った空気も、綺麗で澄んでいるのだろう。山や高原などに出掛けた時のように清々しい気持ちになる。
味わうように思わず、瞳を閉じ、息を思いっ切り吸いこんだ。
すると、一瞬だけだが、胸の辺りがチクリと痛んだ。
心臓を移植した影響だろうか?大怪我だったみたいだし。大丈夫なのか?
少し立ち止まり、体の様子をうかがう。
よし。痛み自体はこの一回きりだ……大丈夫。うずくまったり、休憩しないといけないような状態じゃない。
……大丈夫だ。気にしないでいいだろう。
うん。気にしない。気にしない。
ゆっくり瞳を開け、視線を下げ、街の景色を眺める。
空が近いように思えたから、城は高台にあるのだろう。そう思っていた。予想通り、辺りが一望出来る、高ロケーションスポットだ。
やはり。と言うべきだろう。緑が多い。
……いや、想像では、うっそうとおいしげる森の中に小さな城があって、木々の上に住居があったりすると思った。しかし、想像を覆すように開拓され整地されている。高層ビルなどの物凄く高い建設物は無く、高台にある城を中心として周囲には街が出来ていた。それを更に囲み、守るように大規模な城壁が築いてある。
思ったより人間界に似ているのかな?遠くに塔のような物がチラホラと見えるけど……あれは何だ?一つ、二つじゃない。数が多過ぎやしないかい?
「何をボ~ッと眺めていらっしゃるのですか?ヤマト様??そんなに珍しい物でもありましたか?」
イリアさんは俺の方を不思議そうに見つめる。
俺に取っては変でも、イリアさんには普段通りの光景なのだろう。
「あ、いや。たいした事ではないので大丈夫ですよ。」
「……そうですか?それなら、よろしいのですが……。」
「イリアお嬢様。お時間の方が……。」
「ごめんなさい。ターニャ。では、新居へ参りましょうか。ヤマト様。」
「そうですね。分かりました。」
若干、塔の数に疑問を抱いたが、俺達は城を後にした。
石畳で出来た道。街並みは、よくゲームなどであるような、中世ヨーロッパ風。レンガやブロックで作られた住居。たまに木造の住宅もある。遠くから見渡しただけでも美しい街並みだというのが分かっていたが、近くで見ても感動的だった。
そして、気になった事が一つある。電線はないけど、街灯はあるから、電気はあるのだろう。地中に電線が埋めてあるのかな?景観を守る為に、電線を地中に埋める所もあるくらいだから、この世界ではそれが常識なのかもしれない。
まあ……文明自体、違うのだからまだ分からない事だらけだが、元の世界とは環境的にもあまり変わっている気がしなかった。
これなら、人間だって生きていけるのでは?
女王様は、体が耐えれないとか言っていたけど、そんなに変わらないように思えた。俺はそう思い、イリアさんに尋ねてみることにした。
「イリアさん。何で人間の心臓は、この世界に耐えられないんですか?見た感じ、感じた感じでは、あまり変わっている気がしないのですけれど?」
「あっ。それはですね。この世界の空気中には『魔素』と言うのが含まれているからなのですよ。」
「魔素?」
「はい。魔素です。ヤマト様は、心臓の機能をご存知ですか?」
「詳しくは分からないけど、簡単に言うと血液循環させる。血液を送りだすポンプみたいな物でしょ?」
「はい。そうです。この世界の魔素というのは、人間の心臓を徐々に弱らせ、停止させてしまう成分のようなのです。」
「え?そうなんですか?」
「はい。エルフにとって、魔素は必要不可欠な物なのですが、人間にとっては、有害なのです。簡単に言ってしまえば、人間とエルフでは心臓の構造が少し違うのです。まだ詳しくは解明されていないのですが、人間の心臓では魔素を体全体には送り込めず、心臓に蓄積され、弱らせるようです。逆に言いますと、エルフの心臓だと、人間界の空気では魔素が無いので、体全体が弱って長くは生きていけないのです。」
なるほど。だから、俺は元の世界には戻れないのか。少し納得して、俺達は足を進めた。そして、目的地に着き、目の前の建物を見つめ、また地図に目を落とす。
ん~。地図を見る限り……ここで合っているはずなんだが……。
城に一番近い、街の中心部にある大きな広場からもほど近く、人々の往来も多い、好立地条件なのだろうけど、お世辞にも綺麗とは言えない木造で、とにかく小さかった。
外からの見た目で、カウンターやテーブルを置けるスペースも無く、道を歩く人たちにテイクアウトで持って帰ってもらうくらいしか出来ない。丁度、スーパーや商店街のたこ焼き店みたな感じだ。通りに面した壁は、窓と玄関のドアだけでほぼ支配されていた。
地図と一緒に貰った間取り図を見ると、二階に一部屋とトイレがあるだけ。一部屋しかないのだから、強制的にそこで一緒に寝る事になる。当然、浴室などない。縦長の物件かな?と少し期待したが、それはなく、ただ、ただただ小さい物件だった。
「正直……小さいですね。」
「はい。小さいですね……。」
俺の言葉にイリアさんも賛同する。そして、その隣には無言のターニャさんも居た。相変わらず、こちらに向ける視線が痛い。
「でも、仕方ありません。王国の騎士や人々が称える英雄や勇者ではありませんから。何か功績を挙げた訳ではないですし、一般市民になる私達に女王様個人が授けられる最高の褒美だと思います。」
「そうなんですか……。でも、イリアさんは俺と一緒に住むなんていいんですか?それも、一部屋しかないので、同じ部屋ですよ?ターニャさんはどうなさるんです?」
「私は構いません。こうなってしまったのは私の責任でもありますし。それに、私は信じています。ヤマト様は、嫌がる女性には手を出したりする男性ではないと。ターニャには、お城の仕事もありますし、私の家の管理もおこなって貰わないといけないので、私の元の家に帰って貰います。」
ぐはっ!釘を刺されてしまった!!城で変な事を考えていたのがバレていたのか?体はおじさんらしく、変に仰け反るリアクションをしてしまった。もっとクールな対応をするべきだった。
「ふふふ。とりあえず、中に入って今後の事を考えましょう。」
俺の反応で安心したのか、イリアさんは玄関の鍵を開け、中に入る。その後に俺とターニャさんが続く。
中に入り、一通り眺める。
外観と同様、しっかりとした壁があるわけでも、壁紙が貼ってあるわけでもなく、木材が剥き出しの状態だ。そこに木製の階段、すすまみれ、ホコリまみれのかまどが二つ並んでいた。
「……中は、思ったよりも酷いですね。まず、この部屋を綺麗にしましょう。ターニャ。よろしくお願いします。」
「かしこまりました。イリアお嬢様。」
ターニャはイリアさんの前に出て、前に右手をかざし、何やらブツブツと言い始めた。
すると、かざした右手の先には、見たことのないなにか……いや、マンガやアニメでよく見る魔法陣が展開される。
……まじか。あれって本物だったのか……。もしかして、魔法陣という存在も、エルフ界が別にあるって事の証明だったの?
「『クリーン・ウォッシュ』。」
俺が女王様に言われた事を考えていると、部屋全体に大きなシャボン玉が広がり、割れた。すると、どうだろ?さっきまで汚れまみれだった部屋が一瞬で綺麗になっていた。
そんな……。こんな事が起きるのか?
そして、またターニャさんは、ブツブツと呟き。
「『クリーン・ドライ』。」
今度は少し濡れていた床などが全て乾いた。
「ありがとうございます。ターニャ。それでは、二階もお願いしますね。」
「かしこまりました。イリアお嬢様。」
呆気にとられている俺をよそに、イリアさんは壁を押したり歩いて床を確認し、ターニャさんは二階へと移動する。
そうか……。この世界ではこれが当たり前なんだ。これが普通だったら、この世界の文明はどうなんだ??人間界ではこんな事は出来ないぞ。あの塔も高層ビルの類なのか?あの塔に、この世界の文明の利器が詰まっているとか??でも、何でこんな凄い事が出来るのに、かまどなんだ?
「ん~。これは、少し修繕をしないと暮らすのも難しいですね。あちらこちらにガタがきていますし、外観もこれでは、敬遠されてしまうかもしれません。ヤマト様は、前と同じように、この世界で新しい『揚げ物処 大和』をオープンさせたいのですよね?」
「はい。そうですね。難しいですか?」
俺が出来る事と言えば、料理を提供する事以外にはない。ならば、選べる選択肢も限られてくる。この世界で生きていかないといけないんだ。俺にはそれしかない。
イリアさんは少し考える。
「そうですね。まずは、お店とは関係ないのですが、ヤマト様の敬語を止めて頂きたいです。なぜでしょうか?ムズムズとこそばゆいのです。私は普段の喋り方がこうなので、どうしようもありませんが、ヤマト様は敬語など使わないで普通に喋って下さい。それに、仮にとはいえ、これから一つ屋根の下に住む者同士、気安く、イリアとおよび下さい。その方が私も話やすいです。」
いきなり呼び捨てとか恥ずかしいんですけど?でも……イリアさんが言うなら……。
「では、……イリア。」
「はい!ヤマト様!!」
イリアさん改めて、イリアは嬉しそうに返事をし、いつの間にか二階から降りてきていたターニャさんはどこかイラッとした目で俺を見る。一瞬で冷や汗をかいたが、話しを続けた。
「それでは、具体的な話をしましょう。外装や内装は言うまでもなく、改装しなければなりません。普通に住む分にもこの状態ですと苦労しますし、床が突然抜けたりしては危険です。工事は後程手配しましょう。早いうちに頼めば、簡単な修繕なら今日中には終わるはずです。」
え?まじか?!早すぎない??悪い場所だけ直すのかな?
「それでは、肝心なお店を開く為に必要な事です。まず一つ目は。ダンジョンの食材であろうと、自然の食材だろうと、何であろうと、王都で食べ物を提供するなら『王名許可証』が必要なんです。」
そう言えば、城でも聞いたな。コカトリスって存在に驚愕して聞き流してたけど、ダンジョンって何?ゲームやアニメに出てくる迷宮みたいな所?
「あ……の。イリア?ダンジョンって何??迷宮みたいなもの?」
「そうでした。ヤマト様はこの世界の常識はおわかりにならないのでした。私としたことが、うっかりして、申し訳ありません。そうです。ダンジョンは簡単に言うと迷宮のようなものです。そこには、モンスターなどが生息しています。」
なるほど……本当にゲームのダンジョンと同じなんだ。ファンタジー要素が強い。
「ダンジョンは何となく分かった。『王名許可証』?飲食店を始めるにあたっての営業許可証みたいなもの?」
「そうです。私達はその許可証を持っていません。まずはそれを取得しなければなりません。それが一つ目です。そして、二つ目。仕入れです。食べ物を提供するならば、食材を仕入れはしないといけませんよね?その方法ですが、そのダンジョンで食材を採取する方法。自然に生息する動物やモンスターを倒して食材を採取する方法。養殖場やお店から仕入れる方法。この三つです。」
「効率や味を考えると、どうなるんだ?」
「そうですね。安定供給、味で言うなら、ダンジョン。安全、安定供給なら、養殖場やお店から仕入れた方がいいですね。自然の物になると、下処理が難しいので上手くいかなければ、味も良くはありません。養殖場やお店ならば、血抜きなどの処理もおこなって貰えますし、ダンジョンでは採れない部位のお肉も手に入ります。」
「なら、基本はダンジョンと養殖場や店から仕入れる。って事か。」
「はい。そうですね。どうしても手に入らない自然の物がない限りは、ダンジョンとお店などから仕入れる事になると思います。ダンジョンだと、コカトリスのような、養殖場では仕入れられない食材も入手できます。養殖場で入手出来る食材は限られていますし。お店には、ダンジョンで取れる食材も置いてありますけど、高価な物が多いです。」
ん~。なら、ダンジョンとやらに赴かないといけないという事だろう。
「ただ、私個人の意見なのですが……。」
「なに?」
「出来れば、ダンジョンより養殖場の方がオススメです。ダンジョンでは、命を落とす危険があります。ダンジョンのモンスターは非常に好戦的で、ダンジョンでは亡くなられる方が大勢います。私はヤマト様に死んで欲しくありません。一度、自分の不注意で命の危険にさらしておいて言うのはなんですけど……。」
「ダンジョンで死んでも、魔法で生き返らせる事が出来るんじゃないのか?」
イリアは首を横にふる。
「蘇生魔法という物は存在しません。女王様が使った、蘇生魔法……正確には心臓が移植でき、それを機能させる魔法が使えるのは女王様だけです。ですが、脳が死んでしまっては……完全に死んでしまっては、手の施しようがありません。それに、女王様が使った魔法が使えるのは、数百年に一度だけ……。この前は、たまたま運が良かっただけなのです……。」
そうなのか……。そりゃそうだな。長命だと言われるエルフが毎回蘇生出来るなら、この世界は人口爆発を起こして、食糧難になるはず……。それなら、納得か。
でも、俺にはお金がない。養殖場や店から仕入れるにも、他の食材を仕入れるにしても、包丁やフライパンなんかを買うお金もない。
あっ、ダンジョンに持って行く武器なんかもないわ……。八方塞がりじゃないか?
俺の表情を見て察したのか、イリアは口を開く。
「当面の間、お金の心配はしなくて良いです。私の貯金もありますし。お家の改築費、王名許可証代も私が払います。お店が軌道に乗るまでは大丈夫です。だから、ヤマト様は心配しないで下さい!」
なんと優しい子だよ~。おじちゃん。涙が……。この子、女王様にポンコツ呼ばわりされてたけど、全然ポンコツなんかじゃないじゃないか。
しかし、俺も男。こんな美人の女の子に世話にばかりなってはいられない。俺はある決断をした。
とても綺麗だ……。
心が洗われるようだった。
少し不安だったんだ。もしかしたら、空の色が地獄絵巻のように赤だったりとか……そんな事を思っていた。
吸った空気も、綺麗で澄んでいるのだろう。山や高原などに出掛けた時のように清々しい気持ちになる。
味わうように思わず、瞳を閉じ、息を思いっ切り吸いこんだ。
すると、一瞬だけだが、胸の辺りがチクリと痛んだ。
心臓を移植した影響だろうか?大怪我だったみたいだし。大丈夫なのか?
少し立ち止まり、体の様子をうかがう。
よし。痛み自体はこの一回きりだ……大丈夫。うずくまったり、休憩しないといけないような状態じゃない。
……大丈夫だ。気にしないでいいだろう。
うん。気にしない。気にしない。
ゆっくり瞳を開け、視線を下げ、街の景色を眺める。
空が近いように思えたから、城は高台にあるのだろう。そう思っていた。予想通り、辺りが一望出来る、高ロケーションスポットだ。
やはり。と言うべきだろう。緑が多い。
……いや、想像では、うっそうとおいしげる森の中に小さな城があって、木々の上に住居があったりすると思った。しかし、想像を覆すように開拓され整地されている。高層ビルなどの物凄く高い建設物は無く、高台にある城を中心として周囲には街が出来ていた。それを更に囲み、守るように大規模な城壁が築いてある。
思ったより人間界に似ているのかな?遠くに塔のような物がチラホラと見えるけど……あれは何だ?一つ、二つじゃない。数が多過ぎやしないかい?
「何をボ~ッと眺めていらっしゃるのですか?ヤマト様??そんなに珍しい物でもありましたか?」
イリアさんは俺の方を不思議そうに見つめる。
俺に取っては変でも、イリアさんには普段通りの光景なのだろう。
「あ、いや。たいした事ではないので大丈夫ですよ。」
「……そうですか?それなら、よろしいのですが……。」
「イリアお嬢様。お時間の方が……。」
「ごめんなさい。ターニャ。では、新居へ参りましょうか。ヤマト様。」
「そうですね。分かりました。」
若干、塔の数に疑問を抱いたが、俺達は城を後にした。
石畳で出来た道。街並みは、よくゲームなどであるような、中世ヨーロッパ風。レンガやブロックで作られた住居。たまに木造の住宅もある。遠くから見渡しただけでも美しい街並みだというのが分かっていたが、近くで見ても感動的だった。
そして、気になった事が一つある。電線はないけど、街灯はあるから、電気はあるのだろう。地中に電線が埋めてあるのかな?景観を守る為に、電線を地中に埋める所もあるくらいだから、この世界ではそれが常識なのかもしれない。
まあ……文明自体、違うのだからまだ分からない事だらけだが、元の世界とは環境的にもあまり変わっている気がしなかった。
これなら、人間だって生きていけるのでは?
女王様は、体が耐えれないとか言っていたけど、そんなに変わらないように思えた。俺はそう思い、イリアさんに尋ねてみることにした。
「イリアさん。何で人間の心臓は、この世界に耐えられないんですか?見た感じ、感じた感じでは、あまり変わっている気がしないのですけれど?」
「あっ。それはですね。この世界の空気中には『魔素』と言うのが含まれているからなのですよ。」
「魔素?」
「はい。魔素です。ヤマト様は、心臓の機能をご存知ですか?」
「詳しくは分からないけど、簡単に言うと血液循環させる。血液を送りだすポンプみたいな物でしょ?」
「はい。そうです。この世界の魔素というのは、人間の心臓を徐々に弱らせ、停止させてしまう成分のようなのです。」
「え?そうなんですか?」
「はい。エルフにとって、魔素は必要不可欠な物なのですが、人間にとっては、有害なのです。簡単に言ってしまえば、人間とエルフでは心臓の構造が少し違うのです。まだ詳しくは解明されていないのですが、人間の心臓では魔素を体全体には送り込めず、心臓に蓄積され、弱らせるようです。逆に言いますと、エルフの心臓だと、人間界の空気では魔素が無いので、体全体が弱って長くは生きていけないのです。」
なるほど。だから、俺は元の世界には戻れないのか。少し納得して、俺達は足を進めた。そして、目的地に着き、目の前の建物を見つめ、また地図に目を落とす。
ん~。地図を見る限り……ここで合っているはずなんだが……。
城に一番近い、街の中心部にある大きな広場からもほど近く、人々の往来も多い、好立地条件なのだろうけど、お世辞にも綺麗とは言えない木造で、とにかく小さかった。
外からの見た目で、カウンターやテーブルを置けるスペースも無く、道を歩く人たちにテイクアウトで持って帰ってもらうくらいしか出来ない。丁度、スーパーや商店街のたこ焼き店みたな感じだ。通りに面した壁は、窓と玄関のドアだけでほぼ支配されていた。
地図と一緒に貰った間取り図を見ると、二階に一部屋とトイレがあるだけ。一部屋しかないのだから、強制的にそこで一緒に寝る事になる。当然、浴室などない。縦長の物件かな?と少し期待したが、それはなく、ただ、ただただ小さい物件だった。
「正直……小さいですね。」
「はい。小さいですね……。」
俺の言葉にイリアさんも賛同する。そして、その隣には無言のターニャさんも居た。相変わらず、こちらに向ける視線が痛い。
「でも、仕方ありません。王国の騎士や人々が称える英雄や勇者ではありませんから。何か功績を挙げた訳ではないですし、一般市民になる私達に女王様個人が授けられる最高の褒美だと思います。」
「そうなんですか……。でも、イリアさんは俺と一緒に住むなんていいんですか?それも、一部屋しかないので、同じ部屋ですよ?ターニャさんはどうなさるんです?」
「私は構いません。こうなってしまったのは私の責任でもありますし。それに、私は信じています。ヤマト様は、嫌がる女性には手を出したりする男性ではないと。ターニャには、お城の仕事もありますし、私の家の管理もおこなって貰わないといけないので、私の元の家に帰って貰います。」
ぐはっ!釘を刺されてしまった!!城で変な事を考えていたのがバレていたのか?体はおじさんらしく、変に仰け反るリアクションをしてしまった。もっとクールな対応をするべきだった。
「ふふふ。とりあえず、中に入って今後の事を考えましょう。」
俺の反応で安心したのか、イリアさんは玄関の鍵を開け、中に入る。その後に俺とターニャさんが続く。
中に入り、一通り眺める。
外観と同様、しっかりとした壁があるわけでも、壁紙が貼ってあるわけでもなく、木材が剥き出しの状態だ。そこに木製の階段、すすまみれ、ホコリまみれのかまどが二つ並んでいた。
「……中は、思ったよりも酷いですね。まず、この部屋を綺麗にしましょう。ターニャ。よろしくお願いします。」
「かしこまりました。イリアお嬢様。」
ターニャはイリアさんの前に出て、前に右手をかざし、何やらブツブツと言い始めた。
すると、かざした右手の先には、見たことのないなにか……いや、マンガやアニメでよく見る魔法陣が展開される。
……まじか。あれって本物だったのか……。もしかして、魔法陣という存在も、エルフ界が別にあるって事の証明だったの?
「『クリーン・ウォッシュ』。」
俺が女王様に言われた事を考えていると、部屋全体に大きなシャボン玉が広がり、割れた。すると、どうだろ?さっきまで汚れまみれだった部屋が一瞬で綺麗になっていた。
そんな……。こんな事が起きるのか?
そして、またターニャさんは、ブツブツと呟き。
「『クリーン・ドライ』。」
今度は少し濡れていた床などが全て乾いた。
「ありがとうございます。ターニャ。それでは、二階もお願いしますね。」
「かしこまりました。イリアお嬢様。」
呆気にとられている俺をよそに、イリアさんは壁を押したり歩いて床を確認し、ターニャさんは二階へと移動する。
そうか……。この世界ではこれが当たり前なんだ。これが普通だったら、この世界の文明はどうなんだ??人間界ではこんな事は出来ないぞ。あの塔も高層ビルの類なのか?あの塔に、この世界の文明の利器が詰まっているとか??でも、何でこんな凄い事が出来るのに、かまどなんだ?
「ん~。これは、少し修繕をしないと暮らすのも難しいですね。あちらこちらにガタがきていますし、外観もこれでは、敬遠されてしまうかもしれません。ヤマト様は、前と同じように、この世界で新しい『揚げ物処 大和』をオープンさせたいのですよね?」
「はい。そうですね。難しいですか?」
俺が出来る事と言えば、料理を提供する事以外にはない。ならば、選べる選択肢も限られてくる。この世界で生きていかないといけないんだ。俺にはそれしかない。
イリアさんは少し考える。
「そうですね。まずは、お店とは関係ないのですが、ヤマト様の敬語を止めて頂きたいです。なぜでしょうか?ムズムズとこそばゆいのです。私は普段の喋り方がこうなので、どうしようもありませんが、ヤマト様は敬語など使わないで普通に喋って下さい。それに、仮にとはいえ、これから一つ屋根の下に住む者同士、気安く、イリアとおよび下さい。その方が私も話やすいです。」
いきなり呼び捨てとか恥ずかしいんですけど?でも……イリアさんが言うなら……。
「では、……イリア。」
「はい!ヤマト様!!」
イリアさん改めて、イリアは嬉しそうに返事をし、いつの間にか二階から降りてきていたターニャさんはどこかイラッとした目で俺を見る。一瞬で冷や汗をかいたが、話しを続けた。
「それでは、具体的な話をしましょう。外装や内装は言うまでもなく、改装しなければなりません。普通に住む分にもこの状態ですと苦労しますし、床が突然抜けたりしては危険です。工事は後程手配しましょう。早いうちに頼めば、簡単な修繕なら今日中には終わるはずです。」
え?まじか?!早すぎない??悪い場所だけ直すのかな?
「それでは、肝心なお店を開く為に必要な事です。まず一つ目は。ダンジョンの食材であろうと、自然の食材だろうと、何であろうと、王都で食べ物を提供するなら『王名許可証』が必要なんです。」
そう言えば、城でも聞いたな。コカトリスって存在に驚愕して聞き流してたけど、ダンジョンって何?ゲームやアニメに出てくる迷宮みたいな所?
「あ……の。イリア?ダンジョンって何??迷宮みたいなもの?」
「そうでした。ヤマト様はこの世界の常識はおわかりにならないのでした。私としたことが、うっかりして、申し訳ありません。そうです。ダンジョンは簡単に言うと迷宮のようなものです。そこには、モンスターなどが生息しています。」
なるほど……本当にゲームのダンジョンと同じなんだ。ファンタジー要素が強い。
「ダンジョンは何となく分かった。『王名許可証』?飲食店を始めるにあたっての営業許可証みたいなもの?」
「そうです。私達はその許可証を持っていません。まずはそれを取得しなければなりません。それが一つ目です。そして、二つ目。仕入れです。食べ物を提供するならば、食材を仕入れはしないといけませんよね?その方法ですが、そのダンジョンで食材を採取する方法。自然に生息する動物やモンスターを倒して食材を採取する方法。養殖場やお店から仕入れる方法。この三つです。」
「効率や味を考えると、どうなるんだ?」
「そうですね。安定供給、味で言うなら、ダンジョン。安全、安定供給なら、養殖場やお店から仕入れた方がいいですね。自然の物になると、下処理が難しいので上手くいかなければ、味も良くはありません。養殖場やお店ならば、血抜きなどの処理もおこなって貰えますし、ダンジョンでは採れない部位のお肉も手に入ります。」
「なら、基本はダンジョンと養殖場や店から仕入れる。って事か。」
「はい。そうですね。どうしても手に入らない自然の物がない限りは、ダンジョンとお店などから仕入れる事になると思います。ダンジョンだと、コカトリスのような、養殖場では仕入れられない食材も入手できます。養殖場で入手出来る食材は限られていますし。お店には、ダンジョンで取れる食材も置いてありますけど、高価な物が多いです。」
ん~。なら、ダンジョンとやらに赴かないといけないという事だろう。
「ただ、私個人の意見なのですが……。」
「なに?」
「出来れば、ダンジョンより養殖場の方がオススメです。ダンジョンでは、命を落とす危険があります。ダンジョンのモンスターは非常に好戦的で、ダンジョンでは亡くなられる方が大勢います。私はヤマト様に死んで欲しくありません。一度、自分の不注意で命の危険にさらしておいて言うのはなんですけど……。」
「ダンジョンで死んでも、魔法で生き返らせる事が出来るんじゃないのか?」
イリアは首を横にふる。
「蘇生魔法という物は存在しません。女王様が使った、蘇生魔法……正確には心臓が移植でき、それを機能させる魔法が使えるのは女王様だけです。ですが、脳が死んでしまっては……完全に死んでしまっては、手の施しようがありません。それに、女王様が使った魔法が使えるのは、数百年に一度だけ……。この前は、たまたま運が良かっただけなのです……。」
そうなのか……。そりゃそうだな。長命だと言われるエルフが毎回蘇生出来るなら、この世界は人口爆発を起こして、食糧難になるはず……。それなら、納得か。
でも、俺にはお金がない。養殖場や店から仕入れるにも、他の食材を仕入れるにしても、包丁やフライパンなんかを買うお金もない。
あっ、ダンジョンに持って行く武器なんかもないわ……。八方塞がりじゃないか?
俺の表情を見て察したのか、イリアは口を開く。
「当面の間、お金の心配はしなくて良いです。私の貯金もありますし。お家の改築費、王名許可証代も私が払います。お店が軌道に乗るまでは大丈夫です。だから、ヤマト様は心配しないで下さい!」
なんと優しい子だよ~。おじちゃん。涙が……。この子、女王様にポンコツ呼ばわりされてたけど、全然ポンコツなんかじゃないじゃないか。
しかし、俺も男。こんな美人の女の子に世話にばかりなってはいられない。俺はある決断をした。
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気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。
そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。
幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、
“とっておき”のチートで人生を再起動。
剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。
そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。
これは、理想を形にするために動き出した少年の、
少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。
【なろう掲載】
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