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ラックスター
ラックスター5
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お城に行って二日後。俺達はダンジョン探索の帰りにギルドに来ていた。
「ヤマト君。女王様の所には行ったの?」
朝会わなかった、アリシアは既に仕事口調ではなかった。何かラックスターの一件から少し雰囲気も変わった気がする。
「ああ。行ったよ。何でラックスターが歴史から葬られた理由も聞けたよ。やっぱり、ラックスターは英雄だった。」
俺の答えにアリシアは満足そうに言う。
「そかそか~。良かった~。やっぱり、ラックスターさんはいい人だったんだね。あっ、ヤマト君。ギルドカード更新しないと……。」
あっ。そうだった。ついつい忘れてしまうギルドカード更新。
「すまないね。」
そう言い、俺はギルドカードをアリシアに渡した。ちなみに、イリア達は先にアイテム換金に行っている。
俺は今回の更新を少し楽しみにしていた。ラックスターが俺に技を教えてくれる。と、言ったからだ。それに、俺の心臓が英雄の物だと知ってから、ステータスも跳ね上がっているのではないかと期待していた。
「はい。お待たせ。」
よし!きたきた!!俺はギルドカードを楽しみに確認した。
レベル130
ステータス、力1300、魔力0、敏捷1250、耐久1850、器用870、運1100。SP659。MP0。
ん?んん?!
イレギュラーのモンスターを倒した分のレベルがグーンと上がった程度でステータスもその分上がった感じしかしてないんですけど??
あれ?どゆこと??英雄の力は???
ラックスターは俺に何を託してくれたんだ??
ギルドカードをもう一度見る。
すると、スキルの欄に一つ技が増えていた。
『鬼神三枚おろし』
え?えええ!?これだけ!!ほんとに技だけ!?
……まじか~。少しは強くなれると期待していたのに……。
俺は少し落ち込んだ。
「ヤマト君?どうしたの??」
アリシアは落ち込んでいる俺のギルドカードを覗く。
「……あれ?レベルは凄く上がってるけど、ステータスもその分しか上がってないね。あっ、でもでも、新しいスキルを覚えれるんだからさ……。ね?ほら、スキルを覚えて。」
俺は言われるように、スキルを押す。そして、『鬼神三枚おろし』を覚えた。
……それだけだった。スキル習得したら、力が湧き上がってくる!とかいうイベントもなかった。
更に落ち込んだ俺に、アリシアは声を掛ける。
「あっ。そうそう。ヤマト君に渡さないといけない物があったんだ。あの、イレギュラーのモンスターが落としたアイテム。包丁だと思うんだけど……はい。これ。」
俺はアリシアから包丁を受け取った。その包丁は微かに冷気を纏っているように感じた。この包丁で食材を剥ぎ取ったら綺麗に剥ぎ取れるかもしれないな。切れ味も良さそうだし……。
「ありがとう。アリシア。あっ、そうだ。この前食べ損ねたファーラビット。今日、いっぱい狩ったから、カツレツにしてみようと思うんだ。食べに来るか??」
「うん!行く!!」
アリシアは嬉しそうに答える。ラックスターも少しは喜ぶかな?俺はそう思った。
そして、それとほぼ同時に換金を終えたイリア達がやってきて、なぜか俺のしがみついた。右手にはイリア、左手にはララ。そして、背後からエリ。
嫌な予感のする俺をよそに、四人は見つめ合う。そして、アリシアは机をバン!と、この前怒った時のように叩き立ち上がり言った。
「私、ギルド、辞める!!辞めて、ヤマト君の所で一緒に働く!!!」
え?
ええーーーー!?
ラックスター事件は変な風に幕を閉じた。
やはり。この言葉がぴったりとしっくりとくる。
ララはヤマトの左手に抱きつきながらそう思った。
ラックスターの過去を少し知っている魔王様の言葉でみんなは、ラックスターがヤマトの体を乗っ取ろうとしている。そんな危惧をしていた。
しかし、ララは、そんなはずはない。そんな事はしない。そんな確信に近いものがあったのだ。
ラックスターは、黄昏のキマイラを単騎で倒した英雄。としてだけ、名前が語られている程度だ。
しかし、勇者として世界を旅してきたララはラックスターの公には語られる事のない逸話を少しだが耳にしていた。
ある者は『英雄の中の英雄』
ある者は『真の英雄』
ある者は『伝説の英雄』
そう称えるのだ。みんな笑顔で。他の勇者や英雄の名前を聞いても、笑顔でない者も多い。
それの名を聞く度に、その顔を見る度に、ララは考える。
そもそも、『英雄』とはなんだ?『勇者』とはなんだ??彼が異質、異端なのは分かっている。比べられるものではないのかもしれない。
しかし、ララはラックスターの名を、話を聞いて、自分自身にそう何度も問い掛けていた。
勇者とは……。
読んで字の如く。
『勇ましい者』……この世界では、そのままだ。
聖剣などに選ばれ、三大厄災を鎮める。それが大まかな役目。依頼されダンジョンのイレギュラーの処理や、各国の小間使い的な事もやる。運悪く、神々の気まぐれに遭遇すれば、その処置にもあたる。その先陣に立ち、勇ましく戦う。まさしく『勇者』だ。だが、そこに己の意志は余りない。
役目だから……。
抗えない運命だから……。
沢山の人の命が掛かってる?そんな事は、ほとんど考えない。結果、そうなるだけだ。同族愛が強いとされているエルフとしては、異質な存在なのかもしれない。勇者に選ばれる者は異端なのかもしれない。
助けたくない。そう思った者には容赦しないし、手を差し伸べる事はしない。
現にララにはそんな過去がある。
勇者だからだと言って、私情を挟まないのは無理な事なのだ。
これは、他の歴代勇者でも同じ事が言える。数々の偉業の裏には必ず語れない話がある。
そもそも、勇者に選ばれる者は、得てして不幸な境遇があるからだ。
『英雄』はどうだ?
他のエルフより優れ、偉業を成し遂げた者。
イリアやエリはこれにあたるだろう。彼女達も数々の困難を乗り越えている。
『勇者』と違うところは、聖剣などに選ばれていない事。エリのような例外は存在するが。その他には、先天的に能力が高い事。これくらいだ。
『英雄』と呼ばれる者は、各国の騎士団などに所属している事もあれば、冒険者である事も多い。
各国に所属している者は勿論、国の為だけに働き、冒険者である者は依頼の為に働く。
慈善活動でイレギュラーや神々の気まぐれに挑んだりはしない。そんな命知らずの事はしない。
この点を考えると、『英雄』と『勇者』は、たいして変わらない。ただ、エルフとして有るべき同族愛が欠けているくらいだ。いや。欠けているからこそ、力があるのかもしれない。
そして、ラックスター。
彼は魔力を持たない魔法の使えないエルフ。
ずば抜けた運。そして、恵まれた身体能力に剣技。
彼は、国には所属しておらず冒険者だった。
その活動範囲は世界中。どこかでイレギュラーが発生したと聞けば駆けつけ、神々の気まぐれが起こったと聞けば、例えどんな辺境の地までも訪れる。国や人々に見捨てられた集落でもだ。いや、そんな場所にラックスターはよく現れていた。
そして、その行動には報酬も求めない。ドロップアイテムやギルドのクエスト報酬なら別の話だが。金銭を渡そうとしても断られ。村一番の女性を差し出されても断る。受けるのは一晩の宿と食事。それだけだ。
人柄も素晴らしかったと聞いている。
訪れ、救った村々では、直ぐに村人達と解け合い、酒を酌み交わしていたそうだ。その事すら、その村々では伝説になっている程だった。
魔法を使えない。それを除けば、人間性、功績、技術、ラックスターは紛れもなく歴代の英雄や勇者の中でもトップクラスだろう。
ララは、村々でラックスターの話を聞く度に心が躍った。
願わくば、自分もこんな英雄になりたい。そうも思った。拭えない、過去の数多くの過ちがあったとしても。
ララは……勇者ララノアは英雄ラックスターに憧れていたのだ。
そんなラックスターの心臓がヤマトの心臓であって良かった。ララは嬉しかった。ラックスターがヤマトを乗っとらないか?全く不安が無かったか?と言われれば嘘になるだろう。しかし、信じていた。英雄ラックスターがそのような事はしない。そう信じていた。
ラックスターは、勇者ララノアが唯一憧れた存在だったのだから。
「でも……憧れと……恋心は別。マスターはマスターじゃないとダメ。マスターがマスターのままで良かった。」
ララはそう小さく呟いてヤマトの左手を握る手に少し力を込めるのであった。
「ヤマト君。女王様の所には行ったの?」
朝会わなかった、アリシアは既に仕事口調ではなかった。何かラックスターの一件から少し雰囲気も変わった気がする。
「ああ。行ったよ。何でラックスターが歴史から葬られた理由も聞けたよ。やっぱり、ラックスターは英雄だった。」
俺の答えにアリシアは満足そうに言う。
「そかそか~。良かった~。やっぱり、ラックスターさんはいい人だったんだね。あっ、ヤマト君。ギルドカード更新しないと……。」
あっ。そうだった。ついつい忘れてしまうギルドカード更新。
「すまないね。」
そう言い、俺はギルドカードをアリシアに渡した。ちなみに、イリア達は先にアイテム換金に行っている。
俺は今回の更新を少し楽しみにしていた。ラックスターが俺に技を教えてくれる。と、言ったからだ。それに、俺の心臓が英雄の物だと知ってから、ステータスも跳ね上がっているのではないかと期待していた。
「はい。お待たせ。」
よし!きたきた!!俺はギルドカードを楽しみに確認した。
レベル130
ステータス、力1300、魔力0、敏捷1250、耐久1850、器用870、運1100。SP659。MP0。
ん?んん?!
イレギュラーのモンスターを倒した分のレベルがグーンと上がった程度でステータスもその分上がった感じしかしてないんですけど??
あれ?どゆこと??英雄の力は???
ラックスターは俺に何を託してくれたんだ??
ギルドカードをもう一度見る。
すると、スキルの欄に一つ技が増えていた。
『鬼神三枚おろし』
え?えええ!?これだけ!!ほんとに技だけ!?
……まじか~。少しは強くなれると期待していたのに……。
俺は少し落ち込んだ。
「ヤマト君?どうしたの??」
アリシアは落ち込んでいる俺のギルドカードを覗く。
「……あれ?レベルは凄く上がってるけど、ステータスもその分しか上がってないね。あっ、でもでも、新しいスキルを覚えれるんだからさ……。ね?ほら、スキルを覚えて。」
俺は言われるように、スキルを押す。そして、『鬼神三枚おろし』を覚えた。
……それだけだった。スキル習得したら、力が湧き上がってくる!とかいうイベントもなかった。
更に落ち込んだ俺に、アリシアは声を掛ける。
「あっ。そうそう。ヤマト君に渡さないといけない物があったんだ。あの、イレギュラーのモンスターが落としたアイテム。包丁だと思うんだけど……はい。これ。」
俺はアリシアから包丁を受け取った。その包丁は微かに冷気を纏っているように感じた。この包丁で食材を剥ぎ取ったら綺麗に剥ぎ取れるかもしれないな。切れ味も良さそうだし……。
「ありがとう。アリシア。あっ、そうだ。この前食べ損ねたファーラビット。今日、いっぱい狩ったから、カツレツにしてみようと思うんだ。食べに来るか??」
「うん!行く!!」
アリシアは嬉しそうに答える。ラックスターも少しは喜ぶかな?俺はそう思った。
そして、それとほぼ同時に換金を終えたイリア達がやってきて、なぜか俺のしがみついた。右手にはイリア、左手にはララ。そして、背後からエリ。
嫌な予感のする俺をよそに、四人は見つめ合う。そして、アリシアは机をバン!と、この前怒った時のように叩き立ち上がり言った。
「私、ギルド、辞める!!辞めて、ヤマト君の所で一緒に働く!!!」
え?
ええーーーー!?
ラックスター事件は変な風に幕を閉じた。
やはり。この言葉がぴったりとしっくりとくる。
ララはヤマトの左手に抱きつきながらそう思った。
ラックスターの過去を少し知っている魔王様の言葉でみんなは、ラックスターがヤマトの体を乗っ取ろうとしている。そんな危惧をしていた。
しかし、ララは、そんなはずはない。そんな事はしない。そんな確信に近いものがあったのだ。
ラックスターは、黄昏のキマイラを単騎で倒した英雄。としてだけ、名前が語られている程度だ。
しかし、勇者として世界を旅してきたララはラックスターの公には語られる事のない逸話を少しだが耳にしていた。
ある者は『英雄の中の英雄』
ある者は『真の英雄』
ある者は『伝説の英雄』
そう称えるのだ。みんな笑顔で。他の勇者や英雄の名前を聞いても、笑顔でない者も多い。
それの名を聞く度に、その顔を見る度に、ララは考える。
そもそも、『英雄』とはなんだ?『勇者』とはなんだ??彼が異質、異端なのは分かっている。比べられるものではないのかもしれない。
しかし、ララはラックスターの名を、話を聞いて、自分自身にそう何度も問い掛けていた。
勇者とは……。
読んで字の如く。
『勇ましい者』……この世界では、そのままだ。
聖剣などに選ばれ、三大厄災を鎮める。それが大まかな役目。依頼されダンジョンのイレギュラーの処理や、各国の小間使い的な事もやる。運悪く、神々の気まぐれに遭遇すれば、その処置にもあたる。その先陣に立ち、勇ましく戦う。まさしく『勇者』だ。だが、そこに己の意志は余りない。
役目だから……。
抗えない運命だから……。
沢山の人の命が掛かってる?そんな事は、ほとんど考えない。結果、そうなるだけだ。同族愛が強いとされているエルフとしては、異質な存在なのかもしれない。勇者に選ばれる者は異端なのかもしれない。
助けたくない。そう思った者には容赦しないし、手を差し伸べる事はしない。
現にララにはそんな過去がある。
勇者だからだと言って、私情を挟まないのは無理な事なのだ。
これは、他の歴代勇者でも同じ事が言える。数々の偉業の裏には必ず語れない話がある。
そもそも、勇者に選ばれる者は、得てして不幸な境遇があるからだ。
『英雄』はどうだ?
他のエルフより優れ、偉業を成し遂げた者。
イリアやエリはこれにあたるだろう。彼女達も数々の困難を乗り越えている。
『勇者』と違うところは、聖剣などに選ばれていない事。エリのような例外は存在するが。その他には、先天的に能力が高い事。これくらいだ。
『英雄』と呼ばれる者は、各国の騎士団などに所属している事もあれば、冒険者である事も多い。
各国に所属している者は勿論、国の為だけに働き、冒険者である者は依頼の為に働く。
慈善活動でイレギュラーや神々の気まぐれに挑んだりはしない。そんな命知らずの事はしない。
この点を考えると、『英雄』と『勇者』は、たいして変わらない。ただ、エルフとして有るべき同族愛が欠けているくらいだ。いや。欠けているからこそ、力があるのかもしれない。
そして、ラックスター。
彼は魔力を持たない魔法の使えないエルフ。
ずば抜けた運。そして、恵まれた身体能力に剣技。
彼は、国には所属しておらず冒険者だった。
その活動範囲は世界中。どこかでイレギュラーが発生したと聞けば駆けつけ、神々の気まぐれが起こったと聞けば、例えどんな辺境の地までも訪れる。国や人々に見捨てられた集落でもだ。いや、そんな場所にラックスターはよく現れていた。
そして、その行動には報酬も求めない。ドロップアイテムやギルドのクエスト報酬なら別の話だが。金銭を渡そうとしても断られ。村一番の女性を差し出されても断る。受けるのは一晩の宿と食事。それだけだ。
人柄も素晴らしかったと聞いている。
訪れ、救った村々では、直ぐに村人達と解け合い、酒を酌み交わしていたそうだ。その事すら、その村々では伝説になっている程だった。
魔法を使えない。それを除けば、人間性、功績、技術、ラックスターは紛れもなく歴代の英雄や勇者の中でもトップクラスだろう。
ララは、村々でラックスターの話を聞く度に心が躍った。
願わくば、自分もこんな英雄になりたい。そうも思った。拭えない、過去の数多くの過ちがあったとしても。
ララは……勇者ララノアは英雄ラックスターに憧れていたのだ。
そんなラックスターの心臓がヤマトの心臓であって良かった。ララは嬉しかった。ラックスターがヤマトを乗っとらないか?全く不安が無かったか?と言われれば嘘になるだろう。しかし、信じていた。英雄ラックスターがそのような事はしない。そう信じていた。
ラックスターは、勇者ララノアが唯一憧れた存在だったのだから。
「でも……憧れと……恋心は別。マスターはマスターじゃないとダメ。マスターがマスターのままで良かった。」
ララはそう小さく呟いてヤマトの左手を握る手に少し力を込めるのであった。
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