揚げ物、お好きですか?外伝 勇者ララノア物語

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聖剣

聖剣 3

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 「わあ!やった!!また釣れた~。」

 釣り場を湖から川へ移したララの竿は引かない事がなかった。正に入れ食い状態だ。村人みたいな大きなバケツではない、ララの桶は、いつの間にか満杯になっていた。しかし、幼いララはその事を気にせず、あまりにも釣れるので楽しくて、周りを警戒する事を怠っていた。そして、背後から何かが忍び寄る。

 「ガ……グググ、グガ。」

 獣のような異臭と、獣とは違う、異様な鳴き声。
 その声が、耳に入った時、やっとララは、その存在に気が付いた。

 「誰!?」

 ララは慌てて、後ろを振り返る。
 そこには、鼻が高く、自分と同じように耳が長い。ボロボロの布を腰に巻いた、全身緑色の小さな生き物がいた。ゴブリンだ。しかし。
 
 「あれ?お肌の色は違うけど……耳も私と同じように長いし、どこかの村の子かな?どうしたの??」

 ララはその事に気が付かった。ゴブリンというモンスターを見たことも無く、どんな物か説明も聞いた事がない。ララの村には同年代の子供は居らず。長命種のエルフは、繁殖力が弱く、子供がなかなか生まれないのだ。しかも、ララの村では、6歳になると親元を離れ、それぞれ自分に合った学校へと進学するために村を離れるのだ。ララが物心がついた頃には、今の自分と同じような子供を見た事が無かった。ゴブリンを同じエルフだと勘違いしてしまったのだ。

 「グガ!ガガガ!!グガガ!!」
 「何て言ってるか分からないよ?」
 「グガ!!!」

 グ~~~~。
 ゴブリンがそう言った後、ゴブリンの腹の虫が鳴った。
 この、腹の音が事態を急変させる事になる。

 「ん?お腹空いてるの??このピチョンパが欲しいのかな??」

 ララは赤い大きなエビをゴブリンに差し出した。
 ゴブリンは恐る恐る、そのエビを奪い取るように素早く取って、口にする。

 「ああ~。ピチョンパ、生で食べたらダメだよ。……でも、美味しいのかな?もっと要る?」
 「ンガ、グガガ。」
 
 言葉の通じない一人と一匹は、なぜか通じ合ってしまった。普通の子てして生まれたララだが、もしかしたら、モンスターと通じ合う特別な力があったのかもしれない。

 「お名前、なんて言うの?私はララ。」
 「ガ……ガ。ンガ、グガグガ。」
 「ガガじゃないんだけど……いっか。グガグガちゃんで良いのかな?」
 「ンガ。」
 「そっか~。グガグガちゃんか~。よろしね!」
 「ンガ!」
 
 この日から、一週間、ララとグガグガちゃんのふれあいは始まった。この川に来れば、大きなエビが直ぐ釣れる。桶一杯に釣ってしまえば、後は遊ぶ時間だ。

 「グガグガちゃん。これが塩焼きだよ。」
 「ンガ!ガグンガ!!ガングガ!!」

 着火用の小さな火魔法の入った魔原石を持ち出し、焚き火をし、グガグガちゃんに塩焼きを振る舞ったり。

 「ほら!グガグガちゃん!!引いてる!引いてるよ!!」
 「グガ!!グググガ!!!」

 木の枝を拾い、ララと同じような釣り竿を作り、釣りをしたり。同年代の友人が居なかったララは、グガグガちゃんと、川遊びをしたり、森を探検したり、追いかけっこをしたりして、遊んだ。
 今まで『遊ぶ』という事をしていなかったララはとても充実した一週間を過ごした。しかし、その、充実した日々は長く続かなかった。村に聖剣が現れたのだ。


 四方を山に囲まれた、カルム村の冬は早い。紅く色づいた森林の葉は、寒さ身を震わせ、地面に絨毯を敷き詰める。
 動物やモンスターは冬越しの為、食料や食い溜めをし、エルフもまた、冬を越す為の準備を始めた。
 そんな中、空から神託が下る。

 『海の覇者、リヴァイアサンが復活した。この聖剣を抜きて、討伐せよ。老若男女、全ての者が対象である。不正を働けば、この村ごと滅ぶ事になるであろう。直ちに、村の中央に集まれ。』

 一時、村は騒然となる。

 「隣村に、聖剣が現れたって本当だったんだな。」
 「何時いらいだろうか?剣なんて。この前は杖だったか?」
 「聖剣なんて厄介な物が……。」
 「ほら、そんな愚痴言ってないで、さっさと並ぶぞ。」

 あちこちから話し声が聞こえ、村の者達が次々と村の中央に集まり、鎮座するように聖剣が岩に刺さっていた。
 
 「みんな、並んで、順番に抜いてみてくれ……。」

 村長は言葉を濁し複雑そうな顔をする。その表情と村人の反応で、ララは不思議に思う。

 「おばあちゃん、聖剣っていうのは、そんなにダメな物なの?」
 「ん~。聖剣自体は、悪くないと思うのじゃよ。結局はいずれ、誰かが抜いて、リヴァイアサンを倒さねばならぬからの。聖剣を抜く事自体は名誉でもあるし、勇者が村から出る事自体も名誉な事なのじゃ。しかしの……わしらのような貧しい村じゃと……おっと。わしらの番じゃよ。ララ。とりあえず、抜いてみるかの。」
 「うん……。」

 エレノアも言葉を濁し、聖剣に手をかける。が……。

 「ふぬ!あたた。やはり、わしでは抜けんな。ほれ、ララの番じゃよ。」
 「うん。やってみる。」
 
 しかし、ララの身長では、聖剣の柄や握りを掴んで引き上げる事が出来ない。
 それを見かねた村長が踏み台を用意してくれた。
 
 「ほら、ララ。ララはこれに乗って抜いてみなさい。」
 「うん。ありがとうございます。村長さん。」

 ララは聖剣の握りに手をかける。すると、気持ちの悪い感覚がララを襲った。
 握りを掴んだ手から血管を伝って、虫が入り、這っているような感覚。痛みは特にないが、頭の中で何かが囁くような声が聞こえる。とにかく、気持ちが悪い。

 『モンスターは殺せ。モンスターは殺せ。モンスターは殺せ。モンスターは……。』

 その声と虫のような物が次々とララの体の中に入ってくる。

 (気持ち悪いよ~。頭もグルグルするし……。)

 ララは聖剣を離そうとした。しかし、手から聖剣が離れない。

 「何で!?剣から手が離れないよ!?おばあちゃん!助けて!!」
 
 それを聞いてエレノアは直ぐにララの元へ行くが、見えない壁に遮られたように、ララに近付けない。

 「ララ!手を!早く、手を離すんじゃ!!早く!!!」
 「出来ないの!離れないの!!!」

 ララの意志とは無関係に聖剣は勝手に岩から抜け出そうとしている。
 ララは、嫌だ、嫌だ。と言わんように、首を横に振る。しかし、聖剣はララの意志を無視し、勝手に抜けてしまった。
 村中が静まり返った。
 聖剣の刺さっていた岩はいつの間にか無くなり、刃を剥き出しだった聖剣は、見事な装飾の鞘に収まっていた。
 そして……。

 『ここに、新たな勇者が誕生した。名を、ララノア・ニールベル。』
 
 神託を告げた声がまた、空から聞こえた。
 ここから、ララノア・ニールベルの勇者としての日々が始まった。
 
 
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