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おいかけて、マグロ丼

おいかけて、マグロ丼編1

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 やっと暑さも落ち着きを見せ始めた頃。
 長くなった夜を楽しむように、虫達は演奏を楽しんでいた。
 閉店時間、間際。
 店内には大森さんが、食後のほうじ茶ラテを飲みながらくつろいでいた。
 「やっと秋らしくなってきましたね。」
 「うふふ。そうですね。虫達も楽しそう。」
 ちなみに、姉さんもほうじ茶ラテを大森さんの横に座って飲んでいる。
 まだ、就業時間中だぞ!とは言わない。もう、他のお客さんも居ないし、今日もバタバタと頑張ったし、いいだろう。よくある景色でもあるし。
 「早苗ちゃんは、明日お休みなんですね~。ウチも明日はお休みなんですよ~。何かご予定はあるんですか~?」
 もう、姉さんは完全にOFFモードになっている。
 「予定はないですね。ぶらっとお買い物にでも行こうかな~?」
 そこでなぜか、大森さんは僕の方をチラッと見たような気がした。
 「いいですね~。お買い物。私達は、何しましょうかね?ねぇ、京ちゃん?」
 姉さんがそう言った矢先、勢い良く、店のドアが開いた。
 「はぁはぁはぁ……。京ちゃん!愛奈ちゃん!!う、うちのミィちゃん見んかったね!?」
 魚屋の鉄男(てつお)さんが、息を切らしながら、血相を変えて店に入って来た。
 何事か?と大森さんは窓の近くの鉄男さんを見て、キョトンとしている。
 「まあまあ、落ち着いて下さい。鉄男さん。」
 僕はお冷やを鉄男さんに渡す。
 「ありがとう。」
 勢い良くお冷やを飲み干して落ち着いた鉄男さんは、もう一度、僕達に聞く。
 「ミィちゃん見んかった?帰ってこんとたい。ミィちゃんが!」
 ミィちゃんとは、鉄男さん宅で飼っている白猫の事だ。
 僕と姉さんは顔を見合わせ、姉さんは首を横に振った。
 ミィちゃんはよくウチの店のテラス席で日向ぼっこをしていたりする。昨日も、テラス席の方でくつろいでいるのを僕達は見たけど、今日は見ていなかった。
 その事を鉄男さんに伝えると、鉄男さんは肩を落とした。
 「……すまんかったね。」
 鉄男さんは店を出て行こうとする。
 「あっ!鉄男さん。ちょっと待って下さい。後で探すのお手伝いに行きます。」
 姉さんは鉄男さんにそう告げる。鉄男さんは「ありがとう。」と言い、ミィちゃんを探しに出掛けた。
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