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追憶のキーマカレー編
追憶のキーマカレー編7
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スカウトされて、丁度、三週間。
閉店後の店内。岩下さんは、僕達の目の前に座っていた。
「早速で申し訳ありません。京一郎さんのお答えをお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
岩下さんは、僕を見つめて言う。
「……岩下さん。すみません。お話はお断りさせて頂きます。」
僕は岩下さんに頭を下げる。
「……理由をお聞きしてよろしいでしょうか?」
「はい。……お恥ずかしいのですが、僕の幼い頃からの夢でして……。」
「ほう……。夢ですか?」
「はい。夢です。僕の幼い頃の夢は、両親と姉とこの『かもめ』を一緒にやる事でした。両親と一緒と言うのは叶いませんでしたけど、今はこうして姉さんと二人でやれています。」
岩下さんは黙って僕の話しを聞いている。
「それに僕には、僕の料理を食べさせたい、食べて欲しい人達が沢山居ます。僕はその人達の笑顔が大好きなんです。」
「我が社のシェフになれば、食べて欲しい人達はもっと増えると思いますが?」
「そうですね。岩下さんの仰る通りだと思います。もっと、いっぱいの人達に笑顔を届けられるんだと思います。でも、僕はわがままなんです。僕は『かもめ』にやってきてくれる方を笑顔にしたい。姉さんや大森さん、景子さん、静江ばあちゃん……いっぱい笑顔にしたい人達が居るんです。小さい事ですけど、僕は『かもめ』で料理をしていたい。」
一時の沈黙が流れる。
「はぁ~。やっぱりダメでしたか……。」
岩下さんは溜め息を一つ吐いて、にこやかに、こちらに笑いかけながら呟いた。
「厳しいだろうとは思っていたのです。きっと、京一郎さんは私どもの会社には来てくれないだろうな……と。それでも、私は貴方が欲しかった。」
「なんで、そんなに僕の事を買ってくれているのですか?」
大企業の社長さんが、なんでこんなど田舎にあるカフェの料理に……。
「私が貴方の料理のファンだからですよ。たまたま、出張でこちらにやってきて、テレビを観て、訪れて、食べてみて……私は、貴方の料理のファンになったのです。言い方は良くありませんが、技術もまだまだ。味も一流と言うには程遠い。それでも、貴方の料理からは情熱や料理にたいする愛を感じた。私は、凄く美味しいと感じた。技術や味覚は我が社で研鑽すれば磨かれる。磨かれた、貴方の料理を私は食べてみたい。そう思ったのです。……これは、私のわがままですね。」
岩下さんはそう言い、腕時計を見て、席を立った。
「すみません。本日はありがとうございました。不躾がましい事ですが、先に言っておきます。私はまた貴方にお声掛けをすると思います。申し訳ありません。それと、何か御座いましたら、何時でも連絡をお待ちしております。」
そう言い残し一礼して、岩下さんはお店を後にした。
岩下さんを見送った後、ずっと黙っていた姉さんは、堰を切ったように大声で泣き出した。
「ぅぅぅ……。ぎょうちゃん!お姉ぢゃん、こわかっだよ~!ほんとは、こわかっだんだよ~~!!一人になっぢゃうんじゃないがっで!自分のじんじるみぢを歩いでなんが言っだげど、ほんどは、ずごぐこわかっだんだよ~~!!」
姉さんは子供の頃に戻ったように鼻水まで垂らしてるよ。日頃はおっとりとしているのに、結構、感情的になるんだよな。
あっと、ティッシュ、ティッシュ。
僕がティッシュを持って来ようと、カウンターに行こうとした時。勢い良く、お店のドアが開いた。大森さんだ。
「愛奈さん!どうしたんですか?!まさか、マスター……。」
大森さんは姉さんを見るなり、同じように、大声で泣き始めた。
ま、まじか……。ど、どうしよう。
閉店後の店内。岩下さんは、僕達の目の前に座っていた。
「早速で申し訳ありません。京一郎さんのお答えをお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」
岩下さんは、僕を見つめて言う。
「……岩下さん。すみません。お話はお断りさせて頂きます。」
僕は岩下さんに頭を下げる。
「……理由をお聞きしてよろしいでしょうか?」
「はい。……お恥ずかしいのですが、僕の幼い頃からの夢でして……。」
「ほう……。夢ですか?」
「はい。夢です。僕の幼い頃の夢は、両親と姉とこの『かもめ』を一緒にやる事でした。両親と一緒と言うのは叶いませんでしたけど、今はこうして姉さんと二人でやれています。」
岩下さんは黙って僕の話しを聞いている。
「それに僕には、僕の料理を食べさせたい、食べて欲しい人達が沢山居ます。僕はその人達の笑顔が大好きなんです。」
「我が社のシェフになれば、食べて欲しい人達はもっと増えると思いますが?」
「そうですね。岩下さんの仰る通りだと思います。もっと、いっぱいの人達に笑顔を届けられるんだと思います。でも、僕はわがままなんです。僕は『かもめ』にやってきてくれる方を笑顔にしたい。姉さんや大森さん、景子さん、静江ばあちゃん……いっぱい笑顔にしたい人達が居るんです。小さい事ですけど、僕は『かもめ』で料理をしていたい。」
一時の沈黙が流れる。
「はぁ~。やっぱりダメでしたか……。」
岩下さんは溜め息を一つ吐いて、にこやかに、こちらに笑いかけながら呟いた。
「厳しいだろうとは思っていたのです。きっと、京一郎さんは私どもの会社には来てくれないだろうな……と。それでも、私は貴方が欲しかった。」
「なんで、そんなに僕の事を買ってくれているのですか?」
大企業の社長さんが、なんでこんなど田舎にあるカフェの料理に……。
「私が貴方の料理のファンだからですよ。たまたま、出張でこちらにやってきて、テレビを観て、訪れて、食べてみて……私は、貴方の料理のファンになったのです。言い方は良くありませんが、技術もまだまだ。味も一流と言うには程遠い。それでも、貴方の料理からは情熱や料理にたいする愛を感じた。私は、凄く美味しいと感じた。技術や味覚は我が社で研鑽すれば磨かれる。磨かれた、貴方の料理を私は食べてみたい。そう思ったのです。……これは、私のわがままですね。」
岩下さんはそう言い、腕時計を見て、席を立った。
「すみません。本日はありがとうございました。不躾がましい事ですが、先に言っておきます。私はまた貴方にお声掛けをすると思います。申し訳ありません。それと、何か御座いましたら、何時でも連絡をお待ちしております。」
そう言い残し一礼して、岩下さんはお店を後にした。
岩下さんを見送った後、ずっと黙っていた姉さんは、堰を切ったように大声で泣き出した。
「ぅぅぅ……。ぎょうちゃん!お姉ぢゃん、こわかっだよ~!ほんとは、こわかっだんだよ~~!!一人になっぢゃうんじゃないがっで!自分のじんじるみぢを歩いでなんが言っだげど、ほんどは、ずごぐこわかっだんだよ~~!!」
姉さんは子供の頃に戻ったように鼻水まで垂らしてるよ。日頃はおっとりとしているのに、結構、感情的になるんだよな。
あっと、ティッシュ、ティッシュ。
僕がティッシュを持って来ようと、カウンターに行こうとした時。勢い良く、お店のドアが開いた。大森さんだ。
「愛奈さん!どうしたんですか?!まさか、マスター……。」
大森さんは姉さんを見るなり、同じように、大声で泣き始めた。
ま、まじか……。ど、どうしよう。
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