釣りはじめました

アジング編

アジング編1

　一日置いた、イカ刺しは歯ごたえがモチっとなり、甘みが増して美味しかったな～。そんな記憶が少し残るくらいの時間は過ぎた。
　秋は足早に過ぎ、季節は冬へと変わる。
　街にはクリスマスソングが流れ始め、慌ただしさを増す日常の中に、人々は隠しきれない期待感、微かな不安を抱えながら歩いていた。
　今年も後１ヶ月を切り、建屋内の熱気はヒートアップする。
　『島田鉄工所』の繁盛期は冬。今まさに、修羅場の真っ最中だった。
　去年の今頃だったら、もっとあたふたしていただろう自分も一年が過ぎて、少し成長したのかもしれない。だいぶ落ち着いて仕事が出来るようになっていた。
　「瀬高。次はこれをよろしく。」
　島田社長に次の物件の図面を渡される。
　それを受け取り、それまでに渡された図面の納期を確認して、入れ込めそうな所にそれを入れる。
　また仕事が増えたよ。と愚痴を言いたい反面。やる気はなぜか萎えなかった。
　それはなぜか？
　そう。今週は約１ヶ月ぶりに釣りに行けるのだ。
　今回はもちろん、ヨシさん達と。今回は初挑戦のアジングに……。
　テンションが上がらない訳がない。
　ラジオの告げる天気予報では、天気も良さそうだし、早く釣りがしたくて身体はうずうずしていた。
　今日も残業を終えて帰宅する。会社で残業飯を食べているけれど、家のご飯も勿論食べる。
　食べて、お風呂に入り、ヨシさんから借りたDVDを観る。これがここ数週間の日課になっていた。
　DVD『アジング研究所』
　アジング界のパイオニア 　家内英人(かない　ひでと)さんが出演、監修したDVDだ。
　ヨシさん達に、アジングでアジを釣りに行こう。と最初に言われた時は、正直、「え～？」と思った。アジならサビキで釣れば大量に釣れるのではないか？と思ったからである。
　それが顔に出ていたのか、ヨシさんは「まあまあ。」と言い、このDVDを貸してくれた。
　DVDを観て、衝撃を受けた。
　アジングはワームと言う、ソフトルアーを使って釣る事が多い。
　アジはそのワームを食べて本物でないと感じ、吐き出すのだけれど、その吐き出すスピードが尋常ではない。
　実にそのスピード、速い時には0.2秒で吐き出すと言うもの。
　え？それって人間のスピードでは間に合わなくない？
　そう思いながら、DVDを観ていると、釣る釣る。
　詳しく説明してくれながらも、釣る釣る。
　すげぇ。
　しかも、アジは上顎か下顎の固い部分にフッキングしないとバレる確率が大幅に上がるとか……。恐ろしくゲーム性の高い釣りらしい。
　アタリにも色々あり、コツっときたり、フワッときたり、様々あるようで……。
　そう言われると、もう興味しか湧いてこない。もう、アジングをしてみたくてみたくて堪らない気分になった。