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アジゴ編18

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 ぬおおぉ!!ぬおお~!!!
 まじか!?キタ~~~~ッ!!何かキタ~~~ッ!!!!
 どっしりとくる重量感。ロッドは大きくしなり、激しくリズムを刻む!
 忘れてないぞ!前回と同じだ!!
 ラインは行き場を無くし、僕をロッドごと、そのまま海へと引きずり込まとせんばかりに暴れる。
 落ち着け!落ち着け!!
 心は熱く!頭はクールに!!
 今日は皆の味方『よくばり君』を装備している!
 大丈夫!落ち着け~!!!なんか、なんかあったはず!
 てっ、あれ?何だったってけ!?どうすれば良かったっけ!?!?
 えぇ~と、えぇ~~と!?
 それを見ていたヨシさんがやって来て助け船を出してくれた。
「ヒロ。ドラグ緩めて。ドラグ。」
 そうだった!ドラグだ!ドラグ!!
 スプールの上に、ネジ式になってるやつがあったんだった!
 少しずつ緩める。そうすると、ラインが魚の引きによって出される。引き込まれそうだったロッドに余裕が出来る。
「ラインが出るのが止まったら、リールを巻いて。焦らず、ライトを緩めないように、ゆっくりでいいから。ロッドは立てすぎずに、魚が動いた方にロッドを動かして。」
 マジか!?ゆっくり!?そんな悠長に構えてたら、また逃げられるんじゃないの!?
 しかし、ヨシさんの言うことだ!信じる!!
 心臓はドキドキ感で破裂しそうだが、僕は言われたとおりに、慌てず、焦らず、ゆっくりと自分に言い聞かせながら、やりとりをする。右へ左へ魚が動くたびに慣れない手つきで、右へ左へ……。
 うへっ。結構疲れる。神経も使う……。
「よかよ~。よかよ~。瀬高。その感じばい。」と島田社長が網を持って来てくれていた。
 何分続けただろうか?魚の抵抗が弱くなり。魚が見えてきた。……大きい!アジゴとは比べ物にならない位に大きい!!更に、心臓のスピードは早くなる。
 魚が水面まで上がってきた。多少の抵抗をみせようとするが、虫の息みたいだ。
「瀬高。そのまま、タモの方に魚ば持ってきて。」
「このままです……か?」
「そぎゃん。頭がタモの方に向くようにばい。」
 島田社長の言うとおり、魚を網へ近づける。魚をすくうというより、網に魚を入れる様な感じだった。魚は見事に網に入り。島田社長は伸ばした網を縮めながら、魚を引き上げてくれた。
 魚をバラさなかった事、釣り上げられた安堵感と充実感が身体を襲う。興奮のあまりに、脚がガクガク震え、立っていられるのがやっとだった。
 やった!やった!!と歓喜の雄叫びを叫びたい気分になるが、まだ心臓が全く落ち着かず、口をパクパクするのがやっとだった。
 「よかシーバスの釣れたばいね~。」
 島田社長の言葉に、まだ興奮で声が出ない。
 いつの間にか見にきていたのだろう。お隣のご夫婦に少し離れていた所で釣っていた小さな兄妹が話かけてきた。
 「あんちゃん、よかとば釣ったね!すごか~。」
 「お兄ちゃん、すげぇ!これ、何て魚?何て魚??」
 「シーバスばい。」
 まだ答えられない僕の代わりに、島田社長は答えてくれた。それを聞いた兄妹は目をまん丸としながら「お父さん、お母さん、お兄ちゃんがおっきかシーバスば釣らした~!!」と走り出し家族の元へ戻って行った。
 何か誉められているようで、なんだか村の、いや、漁港の勇者になった気分だった。
 でも、シーバスってなんだ?
 流石に釣りをしない僕でもブラックバスと言うのは聞いた事がある。それの仲間なんだろうか?あれは池や湖の魚だろ?
 「シーバスって何ですか?」 
 僕は不思議に思い聞いた。
 「スズキだよ。釣り人の間ではシーバスって言われているね。正確に言えば、このサイズはスズキに届かない、ハクラだな。」
 「ハクラ?」
 ん?スズキではないの?サイズで違うの??
 「そう。スズキは出世魚だからね。地方によって呼び方が違うんだけど、こっちでは、30~40cmまでがセイゴ。40~60cmまでがハクラ。関東では、ハクラサイズの事をフッコって言うんだ。そして、それ以上がスズキだよ。ちなみに、80cm超えると釣り人の間では、ランカーシーバスって言って憧れの的なんだぞ。」
 僕が釣ったサイズが、ハクラサイズなら60cm未満ということになる。
 「とりあえず、締めてからサイズば計ろうかね。」
 島田社長はそう言うと、道具箱からナイフとメジャーらしき物を取り出した。
 ナイフをシーバスのエラの中に入れて、ひと刺し、ザクザクっと。活きが良かったシーバスは一瞬、痙攣し直ぐに沈黙した。そして、尻尾の方もひと刺し。するとエラからはもちろん、尻尾からも血が出てきた。それを確認してか、シーバスを取り込んだ網にまた入れて、海につける。少しの間つけ、ジャブジャブ濯ぐように上下に揺すった後、引き上げて、タオルで綺麗に拭き始めた。僕には、島田社長が何をやっているか検討がつかず、ヨシさんにたずねることにした。
 「ヨシさん。島田社長は何をしてたんですか?」
 「あ~。あれな。あれは、血抜きだよ。」
 「血抜き?ですか?」
 「そうそう。アジゴとかの小魚なら氷締めでいいんだけどな。これくらいのシーバスになると、ちゃんと締めて血抜きをしてやると美味しく頂けるんだ。魚を釣って、殺生をする訳じゃないか?それなら、美味しく食べてあげるのが、せめてもの礼儀だろう?」
 確かにそうだ。僕達は、魚にせよ、肉にせよ、命を頂いているんだ。それならば、美味しく大切に食べる事は当たり前の事のように思えた。
 「そうですね。命を頂くわけですからね。美味しく頂きたいですよね。」
 「うんうん。そういうことだよ。」
 ヨシさんは、僕の答えに満足だったのか、うんうんと頷いていた。
 「よし。それじゃ、計ろうかね。」
 そうこうしていると、サイズを計る準備が出来たのか、島田社長が僕らを呼ぶ。いよいよである。

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