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02 不機嫌な友人
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ずっとクラスが同じだった二コーラ・アトリーとジェトゥリオ・スルバランにだけは、友情らしい気持ちを持っていたが、いつからか、彼らとも徐々に疎遠になっていた。
「レオシュ、歴史、どの辺だったの?」
いつも二コーラは、そんなレオシュの気持ちを意識していないように声をかけてくる。
「ドーム移行期」
「また?」
「ぼくだけなのかな?」
「まあ、重要な項目だから繰り返し出てくるけど、それにしても多い気がする。ねえ、ジェトゥリオ」
何か月か前に、急に髪を短くした二コーラは、まだそのことに慣れていないらしく、長い髪を扱うような仕草をしながらジェトゥリオの大きな体を振り返った。
「まあな」
ジェトゥリオは、レオシュの方を見ようともせずに、気のない返事をした。
「どうしてなのかな?」
本当はそれほど真剣でもないのに、考え込むような仕草をする二コーラは、女の子としてなかなかに魅力的だ。クラス以外でも、彼女のファンは結構いるらしい。
「さあ」
レオシュには、そうとしか返事のしようがない。
「EMSのエラーじゃない?」
「エラーなんてあるの?」
「聞いたことはないけどね」
「何だよ、それ」
彼女はこんな風に適当にものを言っているようで、実はレオシュに気を遣っているのだろう。レオシュにもそれは分かる。分かるが、それに応える気持ちがどうしても湧いてこない。
「そろそろ行こうか」
ジェトゥリオは、三人の気まずさを嫌ったのだ。
「レオシュも行く?」
二コーラは、懲りもせずに、今日もまたそう尋ねる。
「いや、やめとく」
レオシュも、初めて誘われたように、そう答える。
「そう、じゃあ、またね」
あっさりと引き下がるあたりも、彼女の気遣いなのだろうが、レオシュにしてみると、その何もかもが面倒だった。
「じゃあな」
ジェトゥリオも、一応の笑顔を向ける。
その日最後のレッスンが終わったので、自然研究部の活動に参加するのだろう。
以前は、二コーラやジェトゥリオと一緒に、レオシュも自然研究部に所属していた。いや、現在も所属だけはしているから、二コーラも先ほどのように誘うのだ。
クラブ活動は任意だが、ほとんどの生徒が何かしらのクラブや同好会に所属している。それは限られた自らの意思による選択だからかも知れないし、帰属意識を感じられる数少ない場面だからかも知れない。
クラスルームを出たところで、二コーラとジェトゥリオは顔を見合わせた。
「いつからかな?」
「何が?」
「レオシュが、あんな風にわたしたちを避け出した時期よ」
「さあ、一年くらいになるかな」
ジェトゥリオはつまらなさそうに、そう答えた。
「もうちょっと経つんじゃない?」
「そうかもな」
「どうして?」
二コーラの声は、怒っていた。
「レオシュが、あんな風になった理由か?」
「違う。ジェトゥリオがそんなに無関心な理由よ」
「……」
ジェトゥリオは黙ってしまった。
「ごめん……」
「いや、おれだって、前のようにならないかとは思ってるんだけどな」
二コーラの気持ちに配慮してそう言ったのだが、ジェトゥリオの本心でもあった。
「本当?」
「ああ。無関心なんじゃなくて、真正面から考えるのが嫌なだけだよ」
「別にジェトゥリオのせいじゃないでしょ」
「ああ、きっとおれが何かをしたわけじゃない。もちろん、二コーラもな。何かしたのなら、まだ気が楽だったのかも知れないけど。そこそこ仲良くやっていたのに、いつからだか、気付いたらあんなだろ? 結局、心を開いていたのはこちらだけで、レオシュの方は、最初からそんなことなかったってことじゃないのか?」
「そんな……」
「何があったのかは知らないけど、何があったのかを、おれたちが知らない、想像もできないってことが問題なんだろうな」
「……」
今度は二コーラが黙る番だった。
レオシュがスクールから帰宅しても、家には誰もいない。彼の両親は、二人とも自分自身の仕事を持っていた。
「お帰りなさいませ」
迎えてくれるのは、HKR(Housekeeping Robot)の声だ。
「ただいま」
返答しなくてもよい相手には、自然に言葉が出る。ロボットと言っても、実体があるわけではないことが理由なのかも知れない。
「お飲物をご用意しましょうか」
「いいよ。すぐに出かけるから」
「どちらにお出かけでしょうか?」
彼が戻るよりも前に、父か母が帰宅した場合には、報告しなければならない。
「いつものところ」
「了解いたしました」
レオシュは、MR(Motor Ride)に乗った。
滑らかなMRW(Motor Ride Way : MR専用道路)の下は、もちろん、いく層ものコンクリートや金属などで天然の土から隔てられているはずだ。バスやモノレールといった公共交通網も十分に利便性が考えられているが、それでもスクールがあまり便利な場所にないので、生徒たちの多くはMRをよく使っている。
彼が向かっている境界の付近も、当然ながら交通の便はあまりよくない。その代わり、なかなかの景色が楽しめる。その美しい芝生や立木も、すべてはよくできた模造品だが、レオシュは、それらを見ていると気分が落ち着いていくのを感じる。
MRWでは、スタートとストップ以外は、ほぼ自動運転だ。運転者は、ハンドルに軽く手を添え、ブレーキペダルを押す準備さえしておけばよい。景色に気を取られても、さほどの危険はない。
「レオシュ、歴史、どの辺だったの?」
いつも二コーラは、そんなレオシュの気持ちを意識していないように声をかけてくる。
「ドーム移行期」
「また?」
「ぼくだけなのかな?」
「まあ、重要な項目だから繰り返し出てくるけど、それにしても多い気がする。ねえ、ジェトゥリオ」
何か月か前に、急に髪を短くした二コーラは、まだそのことに慣れていないらしく、長い髪を扱うような仕草をしながらジェトゥリオの大きな体を振り返った。
「まあな」
ジェトゥリオは、レオシュの方を見ようともせずに、気のない返事をした。
「どうしてなのかな?」
本当はそれほど真剣でもないのに、考え込むような仕草をする二コーラは、女の子としてなかなかに魅力的だ。クラス以外でも、彼女のファンは結構いるらしい。
「さあ」
レオシュには、そうとしか返事のしようがない。
「EMSのエラーじゃない?」
「エラーなんてあるの?」
「聞いたことはないけどね」
「何だよ、それ」
彼女はこんな風に適当にものを言っているようで、実はレオシュに気を遣っているのだろう。レオシュにもそれは分かる。分かるが、それに応える気持ちがどうしても湧いてこない。
「そろそろ行こうか」
ジェトゥリオは、三人の気まずさを嫌ったのだ。
「レオシュも行く?」
二コーラは、懲りもせずに、今日もまたそう尋ねる。
「いや、やめとく」
レオシュも、初めて誘われたように、そう答える。
「そう、じゃあ、またね」
あっさりと引き下がるあたりも、彼女の気遣いなのだろうが、レオシュにしてみると、その何もかもが面倒だった。
「じゃあな」
ジェトゥリオも、一応の笑顔を向ける。
その日最後のレッスンが終わったので、自然研究部の活動に参加するのだろう。
以前は、二コーラやジェトゥリオと一緒に、レオシュも自然研究部に所属していた。いや、現在も所属だけはしているから、二コーラも先ほどのように誘うのだ。
クラブ活動は任意だが、ほとんどの生徒が何かしらのクラブや同好会に所属している。それは限られた自らの意思による選択だからかも知れないし、帰属意識を感じられる数少ない場面だからかも知れない。
クラスルームを出たところで、二コーラとジェトゥリオは顔を見合わせた。
「いつからかな?」
「何が?」
「レオシュが、あんな風にわたしたちを避け出した時期よ」
「さあ、一年くらいになるかな」
ジェトゥリオはつまらなさそうに、そう答えた。
「もうちょっと経つんじゃない?」
「そうかもな」
「どうして?」
二コーラの声は、怒っていた。
「レオシュが、あんな風になった理由か?」
「違う。ジェトゥリオがそんなに無関心な理由よ」
「……」
ジェトゥリオは黙ってしまった。
「ごめん……」
「いや、おれだって、前のようにならないかとは思ってるんだけどな」
二コーラの気持ちに配慮してそう言ったのだが、ジェトゥリオの本心でもあった。
「本当?」
「ああ。無関心なんじゃなくて、真正面から考えるのが嫌なだけだよ」
「別にジェトゥリオのせいじゃないでしょ」
「ああ、きっとおれが何かをしたわけじゃない。もちろん、二コーラもな。何かしたのなら、まだ気が楽だったのかも知れないけど。そこそこ仲良くやっていたのに、いつからだか、気付いたらあんなだろ? 結局、心を開いていたのはこちらだけで、レオシュの方は、最初からそんなことなかったってことじゃないのか?」
「そんな……」
「何があったのかは知らないけど、何があったのかを、おれたちが知らない、想像もできないってことが問題なんだろうな」
「……」
今度は二コーラが黙る番だった。
レオシュがスクールから帰宅しても、家には誰もいない。彼の両親は、二人とも自分自身の仕事を持っていた。
「お帰りなさいませ」
迎えてくれるのは、HKR(Housekeeping Robot)の声だ。
「ただいま」
返答しなくてもよい相手には、自然に言葉が出る。ロボットと言っても、実体があるわけではないことが理由なのかも知れない。
「お飲物をご用意しましょうか」
「いいよ。すぐに出かけるから」
「どちらにお出かけでしょうか?」
彼が戻るよりも前に、父か母が帰宅した場合には、報告しなければならない。
「いつものところ」
「了解いたしました」
レオシュは、MR(Motor Ride)に乗った。
滑らかなMRW(Motor Ride Way : MR専用道路)の下は、もちろん、いく層ものコンクリートや金属などで天然の土から隔てられているはずだ。バスやモノレールといった公共交通網も十分に利便性が考えられているが、それでもスクールがあまり便利な場所にないので、生徒たちの多くはMRをよく使っている。
彼が向かっている境界の付近も、当然ながら交通の便はあまりよくない。その代わり、なかなかの景色が楽しめる。その美しい芝生や立木も、すべてはよくできた模造品だが、レオシュは、それらを見ていると気分が落ち着いていくのを感じる。
MRWでは、スタートとストップ以外は、ほぼ自動運転だ。運転者は、ハンドルに軽く手を添え、ブレーキペダルを押す準備さえしておけばよい。景色に気を取られても、さほどの危険はない。
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