師匠の訓練は理不尽ですか?いいえ、魔改造です。

raimaru

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お使い編

第11話 お土産と忠告でした

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 賑やかな声と酒の匂いと料理の匂いでそこは充満していた。
 フェル村の警備兵御用達の店『ほろ酔い処・二日酔い』。感性を疑っても仕方がない名前だ。ほろ酔いと言いつつ二日酔いとはこれ如何に。
 そんな名前でも、出てくる料理と酒は店主が拘(こだわ)っているようで、フェル村で随一という声も多い。その店の中は警備兵たちと場違いと思われる1人の少年と大きな魔獣がいた。
 
「なぁ、ラート。エル坊の話は本当だと思うか?」
 
「どうですかね、今回の報告とエルド君が話した内容。どちらも信じがたいのが本音ですけどね・・・。でも、彼が嘘を言っているとは個人的には思いたくないですね。」
 
「だよなぁ、でも、俺は実際目にしてるしなぁ。しかも、ちゃんと死体が集まってたんだぜ?集団戦闘で。俺にはぜっっっっったいに無理だな!」
 
「大丈夫ですよ、ムース隊長。俺も無理ですから。それにその光景を目にしてたら絶対に引きます。サイファ君がやったら、納得出来そうですけど、エルド君ですからね・・・。」
 
 ムースとラートはカウンターで飲んでいた。詰め所で聞いたエルドの話を肴にして。肴にしては消化しきれるかどうか分からないほど大物だと思われるが。それでも話さずにはいられないほど内容がぶっ飛びすぎていたのだ。彼らにはエルドが行った訓練内容もそれを実行した“師匠”という存在も理解しようもなかった。
 自分たちが同じ内容をした場合、確実に死ぬことだけは理解できた。それだけだった。だから、彼らはエルドの話を肴にして直ぐに消化しようとしたのだ。同じ理解不能同士として。
 
「それが理解不能になっちまう最たる原因だな。あいつは一体、どんなスキル持ってるんだろうな。聞いちゃいけないと分かっちゃいるが聞きてえな。」
 
「でえすね、尋問したいぐらいですよ。」
 
 ラートは既に酔い始めていた。呂律が少し怪しいことがその証左だ。エルドの強さがどれくらいかということよりどんなスキルを持っているのかに焦点が移っていた。所持しているスキルに何か要因があるのではと思っている2人である。
 
「まぁ、それをやったら俺達が全滅するけどな、あっけなく。まぁ、最大の問題はだ。エル坊の“師匠”の名前だ。本当だとしたら・・・。あいつの強さは“カーマ様”が原因だ。あの若さであの技量、あの速さ、あの冷徹さ。デタラメなのは間違いなく彼女のせいだ。」
 
「そうですね、その名前を出さないように忠告しないと。彼女の名前を語ることの意味と偽りだった場合のことを。」
 
 呂律が怪しかったラートが一瞬で酔いが冷めたように真剣な表情になる。それに黙って頷くムース。救ってもらった恩をどうにか返したい隊長と副隊長はそう考えていた。ましてやシッカーの素材を半分も分けてもらった。警備隊の装備を整えるために。そこまでしてもらって好感を持たないヒトはいなかった。もし、そんな恩知らずがいたら有難い拳が脳天に炸裂すると供に有難いお言葉が待っているだろう。
 
「“暴虐の赤”。その存在を知らない奴がいるなんてな。」
 
 ぽつりとムースが呟き、警備兵に囲まれている少年に眼を向けた。
 
 
 場所は変わって、店の地下でネルスラニーラはエルドが採取してきた玉石草を興味深く眺めていた。玉石草の特性で採取した者の魔力を吸い取り、その透明な花弁を染める。それは採取者の魔力特性だけはなく、為人(ひととなり)も表現していると言われていた。
 
「本当に綺麗な青色。カーマの弟子とは思えないぐらい。青の系統は純粋な性格。時に荒れ、時に恵みをもたらす。全てを洗い流すほどの。まぁ、思い込みは激しいのかも。でも、怒らせるのは得策じゃないわね、そこだけ気をつけていれば、優しい子ね。特に淡い色合いが多いのがその証拠ね。」
 
 玉石草の花弁はアクセサリーの材料として優秀だ。様々な色をしており加工自体も削ればいいだけで硬いわけではない。本来は何色も混ざるのだが、そちらは安価で庶民の宝石とも言われている。ただ混ざり気がない純粋色は宝石と何ら変わりがないほど高級だ。そして今回、エルドが採取してきたものは高級品としても一級品だったのだ。
 
「これは加工しても売り物にはできないわね、高すぎるし。まぁ、あの魔導具ほど高級ではないけどね。カーマの弟子っていうことだし。良い子だったから、まぁ、いいか。それに劣化したものならエルド君の採取してきてくれたもので出来そうだし。」
 
 カーマのことを知る数少ない仲間のネルスラニーラは仲間の間ではこう呼ばれていた“魔導具技師”と。
「たまに混ざっている濃い青。これを見る限り、彼の逆鱗に触れたらとんでもないことになりそうね。それこそ、理不尽なまでの天災のような暴力で。流石はカーマの弟子と言ったところかしら。」
 
 ネルスラニーラもカーマの暴虐性を目の当たりにしてきた1人だった。彼女を押さえることを苦労してきたとも言うが。
 
「さぁ、短距離用の使いやすい物もお土産に作ってあげましょうか。」
 
ニコニコと微笑みながら作業をし始めるネルスラニーラだった。
 
 
翌朝、ネルスラニーラの部屋に泊まっていたエルドとサイファが帰り支度をし始める。エルドは泊めてくれたお礼に食事の準備をし始めた。
 
「ネルスラニーラさんは嫌いな食べ物とかありますか?なければこのまま作ってしまいますが。」
 
「ありがとう、エルド君。嫌いな物はないわ。よろしくお願いするわね。」
 
 エルドはカーマに作るようにトントントンとリズム良く材料を刻み込んでいく。肉を焼き、出汁を取りつつ、スープを作り、メインは鶏肉を焼いてステーキのようにして上から刻み野菜を乗せて煮詰めた調味料をかけたものだ。
 それらをテラスのテーブルに並べて、優雅な朝食となった。サイファは大皿に焼いた肉をのせただけだったが、いつもそれで満足しているので文句はないようだ。
 
「美味しかったわ。ありがとう、エルド君。」
 
「いえいえ、お粗末様でした。泊めていただいたお礼になればいいのですけど。」
 
 2人は食後のお茶を飲み、サイファは日光浴をしてうずくまっていた。
 昨日の朝に行われた殲滅戦が嘘のような穏やかな天候だ。時折吹く風の心地よさ、風に揺れる庭にある1本の木の葉の音、その枝に止まっている鳥の歌の声。その中でお茶を飲んでいたエルドはゆったりした時間を過ごしていた。
 
「そうそう、忘れないうちに渡しておくわ。お土産よ。玉石草の質が思ったよりも良かったし、エルド君も良い子だからちょっと奮発しちゃいたくて。」
 
 笑顔で言われたエルドは報酬も結構な価値があると思うのでは?と疑問に思ったが、笑顔を崩すこともないかと思い直して、素直に受け取り礼を述べた。
 
「ありがとうございます。昨日も価値ある報酬を頂いたのに、お土産まで。ネルスラニーラさん、ありがとうございます。」
 
「いいのよ、カーマと仲良くやってもらってるし。あの子が弟子を取るなんて思わなかったから。」
 
「仲良くやっているというか、地獄を見させられているというか何というか。でも、今の僕があるのは師匠のおかげは間違いありません。それで、お土産の確認してもよろしいですか?」
 
「まぁ、あの子だものねぇ。普通のヒトは耐えきれずに死んでしまってるわ。お土産はねぇ・・・。昨日、渡した物の近距離版よ!もちろん、何個も入れてあるわ!無駄な装飾はなくて指輪にもイヤリングにもなるわ!ただ、サイファ君用に作ろうと思ったのだけど、近距離版は触って起動させるから指輪はちょっとね。なので、夜がんばっちゃいました!」
 
 徐々に熱を帯びたネルスラニーラの説明に顔を引きつらせながら聞いていると、眠っていないことでおかしな気分にでもなっているのだろうとエルドは見当をつけた。
 そのまま、ネルスラニーラに説明を求めると遠距離用は魔力を流し込むことで起動できるが短距離用は接触しながらでないと起動しないという仕様で使い分けができるということだった。サイファは暇だと思ったら直ぐに寝るように蹲る癖があるので前足の上の方につけられるように新しく作ったとのこと。その製作が楽しくてついつい夜更かししてしまい、舞い上がっているのだとか。
 そして、短距離の通信魔導具は起動した物同士で会話用の通路を構築するので、1度起動していればどのような場所でも魔力を感知させないようにできるということだった。
 それも大概だと思いますと、言いかけたが今の高いテンションのネルスラニーラにケチをつけるようなことを言うのは野暮だなと思い直し、エルドは素直に話を聞いていた。
 
 
「さて、そろそろお暇しましょうか、サイファ。」
 
「じゃあ、あの方のところに戻るのか?」
 
「そうですよ、あくまでも今回はお使いですからね。あまり時間をかけても私たちに良いことはありませんよ。」
 
「そうだな、あまり放っておくと何を思いつくか分かったもんじゃない・・・。」
 
 げんなりした様子で会話をする2人をよそにうつらうつらとし始めたネルスラニーラ。完全に寝る前にお別れの言葉述べる2人だった。
 
「ネルスラニーラさん、色々とお世話になりました。感謝の念が絶えません。このような魔導具まで頂いて、有難く使わせて頂きます。」
 
「ネルさん、ありがとうよ。ここの寝心地は最高だった。」
 
「いいのよ、また来てね。今度はお使いじゃなくて遊ぶためでもかまわないわ。私と貴方たちの縁は紡がれたもの。」
 
 笑顔で別れをする3人だった。
 エルドは詰め所に寄ってから帰ることも伝えて、ネルスラニーラの家を後にした。
 
 
 エルドたちは詰め所へと到着し、昨日の宴会で楽しく飲んでいた警備兵に挨拶され中へと通された。既にムースとラートが待っていた。彼らの前に革袋が2つほどあった。
 
「よう、来たか。これがシッカーの素材を売ってできた金だ。受け取ってくれ。」
 
 ムースが革袋の1つをエルドの目の前に出した。もう片方よりは大きく重そうに思えた。
 ずしりと音をさせた革袋を受け取ると、たしかにと言いつつエルドは受け取った。
 
「もう、1つはシッカー達の魔石で質が良い物があったからそれを入れてある。個数はあまり多くないけどな。」
 
 そして、ムースはもう片方の革袋もエルドに近づけた。
 エルドはそれを拒否しようとしたが、今度はラートが言葉を発する。
 
「エルド君、シッカー達の素材は予想外に高く売れましたし、それを素材として警備兵全員に装備を渡せるのです。魔石自体はこの村では加工に使えるものが少なかったのと質が良い物はエルド君に渡そうと警備兵全体の賛成で決まりました。なので、遠慮はしないで下さい。」
 
「分かりました。そういうことなら有難く頂きます。」
 
 エルドが2つの革袋を受け取ると、ほっとしたのか息を漏らすムースとラートだった。そして、これからどうするのかとエルドが尋ねられると。
 
「本来の目的はネルスラニーラさんの依頼でしたし、それも無事に達成できたのでこれから家に帰ろうと思っています。」
 
 そう返事をすると、急に2人の雰囲気が変わった。どうしたのかと、エルドが尋ねようとする前にムースが口を開いた。
 
「エルド、気を悪くしないで聞いてくれ。お前の師匠の“カーマ様”について言っておくことがある。」
 
「師匠のことで?」
 
 エルドはムースの言葉で首を傾げるが、ムースは構わずに話を続けた。
 
「エルド、お前の師匠の“カーマ様”はな。この国ではとんでもない方なんだ。」
 
 その言葉で更に困惑するエルドは、とんでもないことは今に始まったことじゃないと答えようとするのだが、ムースの言葉で考え込んでしまった。
 
「あの方の逸話はどこまで知っている?」
 
「・・・。」
 
「何も知らない様だな。それなら、俺から話すことじゃないかもしれないな。あの方は自分のことを話されるのを心底嫌いらしいからな。だから、俺からは話せないから。ただ、忠告だけしたい。」
 
「逸話が気になって仕方がないんですが・・・?」
 
 遠慮がちにムースに聞いてみると、ムースとラートの顔色が変わり、冷や汗が流れ始めた。それを見たエルドは聞くことを諦めて、忠告が何なのかと聞くことにした。
 
「それで、忠告というのはなんでしょうか?」
 
「師匠が“カーマ様”だということを言うのを止めた方がいいというものなんだ。」
 
「はい?実際に師匠の名前はカーマですけど、それを止めた方がいいというのは何故でしょうか?」
 
「それはあの方には味方も多いが敵も多いと言うことと確実に不審がられたり、笑われるからだ。まぁ、納得はできないだろう。エルドのせいじゃないんだ。あの方は今までどんなに願い請われても弟子を取ったことがないんだ。正確には弟子になる前に全員が逃げ出してしまったんだ。」
 
 そう言うと、ムースは水を飲んで呼吸を整えた。エルドは黙って、続きを聞いていく。
 
「あの方の弟子の審査はとんでもないものだったらしい。俺も噂でしか知らないが、曰く珍しい鉱物を誰も入ったことない山脈から取って来いだの、曰く魔物の集落を1日で何個も殲滅してこいだの、曰くカーマ様の模擬戦で根を上げなかったらいいだの、曰く、曰くとまだまだあるんだが・・・。」
 
「それ、全部やらされてますけど?」
 
 エルドはさも当たり前のように言ったため、ムースは額に溜まった汗を拭い、一気に水を飲み干した。
 
「(はぁ、だよなぁ。やっぱりそうだよなぁ。)逸話の件は本人に確かめてくれて。俺はまだ死にたくない。それで、そのうち面倒になったらしくてあの方の威圧に耐えたら合格ということになったんだが、それでも誰も耐えることができなかったんだ。」
 
「でしょうね、あの師匠の威圧を耐えることが出来るようになるのは苦労しましたよ。何回、気絶したことか・・・。」
 
 エルドは気絶しても起こされては気絶をするという苦行を思い出したせいか顔が歪んでしまう。そして、それにつられたのかムースの顔色が更に悪くなり、緑色となる。
 
「え、えるど・・・。お前、あの方の威圧に耐えられるのか?」
 
「もちろんですよ、耐えられるまでやらされて、それを耐えなかったら戦い方を教えてくれませんでしたからね。」
 
 エルドは知らなかった。カーマの威圧がどの程度のものかということを。そして、ムースはエルドの言動からエルドが嘘を言っていないことを確信し、その威圧を目の前で見ていたムースの顔色は緑を超えて青くなった。しかし、ここで話を終えることはエルドのためにならないと踏ん張るのだった。
 
「ラート、水のおかわりを頼む。」
 
 ラートの顔色も良いものではなかったが、それ以上に悪くなっている隊長の頼みを断ることなど出来ず、すぐさま水を入れるのだが、その両手は震えていた。
 
「エルド、繰り返すことになるがカーマ様がお前の師匠であることは言うな。隠した方が良いと言ってるんじゃないんだ。人間関係が出来てから、信頼の置けるヒトにだけ伝えた方が問題が起こらないと俺はそう思うんだ。」
 
 エルドは何故、自分の師匠のことを言うだけでどういう問題が起こるのかそのことに言及していないムースに聞こうかと思ったが、顔色が悪い隊長のことを不憫に思い、尋ねることを断念した。
 そして、自分のことを思って忠告してくれたことと面倒事が起こらないように配慮してくれたことの両方に感謝したのだった。
 
(まぁ、どうせあの人のことだ。何かしらやらかしているんだろう。味方も多いが敵も多いか・・・。師匠らしいからまぁ、いいか。それに、下手に巻き込まれてもイヤだし、何かに巻き込まれたら、それこそ最終兵器“師匠”を出せば・・・。それも止めよう。もっと酷いことになりそうだし・・・。)
 
 なんとか考えを踏み止めたエルドは水のおかわりを飲んで落ち着いたのか、顔色が徐々に戻りつつあるムースにお礼を言う。
 
「ムース隊長、ご忠告ありがとうございます。師匠がカーマであることは伏せておきます。それでは、帰り着くのが遅くなってもいけないのでそろそろお暇しようと思うのですが、よろしいですか?」
 
 幾分か落ち着いたのか、ムースとラートは普段通りの返事をすることが出来た。
 
「そうだな、長くなってすまんな、エルド。気をつけて帰るんだぞ。サイファもな。」
 
「この度の件、本当にありがとうございます、エルド君。サイファ君も気をつけて下さい。」
 
「あいよ、気遣いありがとな。隊長さんに副隊長さん。またな。」
 
 3人は椅子から立ち上がり互いに握手し、サイファには軽く手を上げて別れの挨拶とした。
 ムースとラートはエルドとサイファが詰め所から出て行くと疲労を隠さず曝け出して、椅子にだらしなく座ったり、テーブルに突っ伏していた。それを見た警備兵に何があったか心配されたが、何でもないと手を振ることしか出来なかった。
 
 
 
 
 フェル村の賑やかな通りを歩いて、来たときと同じ門に辿り着き、警備兵に村を出ることを伝える前に昨日の宴会の話になってしまい、ちょっとだけ時間がかかったが何事もなく通された。
 
「さぁ、サイファ。さっさと帰りましょう。走れば、夕方までには家に着けるでしょう。」
 
「そうだな、さっさと帰ろう。俺達の平穏のために。今回、俺は何もしてないからな、乗っていいぞ、相棒。」
 
「それじゃあ、ここは甘えますか。よろしくお願いしますね。」
 
 エルドはサイファに飛び乗り、手触りの良い体毛を撫でながら。サイファは相棒に撫でられながら、来たときよりも更に速度上げて帰路についた。春のような穏やかな陽の光を浴びて、風になりながら。

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