師匠の訓練は理不尽ですか?いいえ、魔改造です。

raimaru

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武器と商人と傭兵と

報告と再会でした

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 イムニト宅へと着いたエルドとサイファを出迎えたのはホクホク顔の主だった。
 
「おかえり、お二人さん。随分と時間がかかったようだけど、登録するのに何か問題でもあったのかい?」
 
 2人が出掛けたのは朝と昼の中間ぐらいの時間帯で今は夕暮れになっていた。
 エルドはその問いかけに少し考え込んで答えた。
 
「問題らしい問題は起こっておりません。ただ、イムニトさんの予想とは違う結果になっていると思います。」
 
「と言うと?」
 
「こちらをご覧ください。」
 
 エルドはイムニトに三角形の金属を手渡した。
 イムニトはその金属を見ると驚いた表情になる。
 
「エルド君、これは傭兵証じゃないか!!」
 
「そうですね。事の経緯をご説明しますので、中に入りませんか?」
 
「そうだね、落ち着いて聞かせてもらうとしよう。サイファ君はどうするかね?」
 
「俺は庭先で休んでるわ。ただ、晩飯はよろしく頼むぜ。」
 
 サイファの言葉に笑顔で応えるとエルドを中へ入るように促したのだった。
 2人が邸宅の中に入ると子供達が走ってきてエルドに抱きついた。
 
「おかえりなさい、エルド兄ちゃん!何してたの!」
 
「あっ、お兄ちゃん!わたしが最初に聞くんだから!!エルド兄ちゃん、お外で何してたの!」
 
 ラザックとサーヒが2人で言い合うようにエルドを取り囲み、エルドは身動きが取れず困ってしまう。
 それを見たイムニトは頬をポリポリと掻いて子供らを優しく嗜めた。
 
「こらこら、2人共。エルド君は今、戻ってきたばかりなのだから困らせてはいけないよ。」
 
「えぇー!だって、お話聴きたいんだもん!」
 
「そうよ、父様!お話を聴きたいの!」
 
 ラザックとサーヒの言い分を聞いて、弱ったなぁという顔をしているイムニトとエルドだったが、そこに家のボスとも言えるトーラが笑顔をしながら危険な気配を漂わせながら近付いて来た。
 
「エルド君おかえりなさい。遅かったわね。困ったことにならなかった?大丈夫?」
 
「トーラさん、ただいま戻りました。困ったことは起きませんでしたが、何かは起こりました。それをご説明したいのですが・・・。」
 
 足に抱きつかれていて身動きが取れないと暗に主張したエルドを見てトーラは頷くなり、危険な声を出した。
 
「ラザック、サーヒ。貴方達は何をしているの?」
 
 分かり易く背筋を伸ばした2人は自分達の母親の顔を恐る恐る見てみると、笑顔の後ろに怒りのオーラが滲み出ていた。
 
「エルド君は武器を携帯しているのよ?それも腰に留め金があるの。いくら刃がついていない武器だといっても危ないのが、貴方達には分からないのかしら?」
 
 素早くエルドから離れてトーラの前に整列した2人は汗を滝のように流しては震えている。前よりもトーラの怒りが壮絶だったためだ。
 
「貴方達を返事も出来ない子に育てた覚えはないのだけど?」
 
「「はい、お母さん!!」」
 
「返事をして欲しいわけじゃないの。危険なことがわからないのかって聞いているのよ?」
 
 笑顔から一転して怒りを露わに自分の子供達を見つめるトーラ。
 ラザックとサーヒはやってしまったと猛省するが時は既に遅い。どうにか言い訳をしようと頭を働かせようとするが、トーラの怖さに頭が働くわけもなく、震えることしか出来なかった。
 
「私は貴方達に何度も言っているわね?危険なことはしてはいけないと。何故だか分かるかしら?」
 
「「自分も他のヒトにもケガをさせないためです!!」」
 
 手を勢いよく上げて答える2人。いつもならここでトーラの怒りは収まるのだが、今回は違った。
 
「そうね。でも、優しく言っても分かって貰えないから、向こうでお話しましょうか?」
 
 2人ともトーラと初めてのお話し合いである。
 緊張のためだろうか、2人はとうとう歯をガクガク言わせ始めた。
 
「さぁ、行くわよ。エルド君の話は後で主人から聞くから心配しないでね。」
 
 エルドには柔やかに笑って話しかけたトーラは歩き出せない2人の手を引っ張って奥の方へと消えていった。
 
「イムニトさん、トーラさんは怒らせたらいけませんね。」
 
「あ、あぁ。彼女のあの顔を久しぶりに見たよ。今見ても身震いするね。」
 
 エルドは今の出来事を心に刻み込み、イムニトは過去の出来事を思い出していた。
 
「さぁ、夕食の前に話を聞かせて貰おうか。エルド君。もしかしたら、先に夕食も食べてしまうかもしれないけれど。」
 
「そうですね。うちの食いしん坊が我慢できるとは思えないですから。先に報告から済ませることにします。」
 
 エルドとイムニトは居間に移動した。2人はテーブルを挟んで相対している。
 そこで、冒険者組合で聞いた話を元にどういう判断をしたのか、そして、傭兵組合に行き何が起こってどうなったのかをエルドはイムニトに話した。
 
「なるほどね。指名依頼の性質を嫌ったのか・・・。」
 
「そうです。私には名誉や地位など手に入れたいと思えるようなものではないで。自由気ままにとまではいかなくとも所属する組織の暗黙の理解に縛られたくはないのです。」
 
「そうか、君は名誉や栄誉や地位を求めていないのだね・・・。」
 
(中々、珍しい生き方をする子だ。しかし、彼が相棒と呼ぶかの魔獣を見ているとそういう生き方になるのもある意味、納得できるのも事実だな。)
 
「君の生き方に理解を示すよ。でも、その生き方に嫉妬する輩がいることも君は覚えておいた方が良いね。」
 
 イムニトは自身が気に入っている少年を邪魔する存在が少なからず出てくると思い、忠告するのだった。
 そして、エルドから預かった素材の話に切り替える。
 
「そうそう、君が卸してくれた素材なんだけどね。良い値で売れたよ。その販売価格からうちの手数料を差し引いたのがこの金額になる。」
 
 イムニトは事前に準備していた革袋をテーブルの上にドンと置いた。
 エルドはその革袋の大きさに驚く。
 その数は4つあった。
 
「金貨にして200枚、袋に金貨、銀貨、銅貨で分けてあるよ。使いやすい方が良いかと思ってね。」
 
「ご配慮、痛み入ります。伺いたいのですが、この金額でどれくらい暮らせていけますか?」
 
「ん~。一概には言えないけど、4人家族に置き換えさせて貰うと金貨5枚程度で1ヶ月は食事に困らず生活できるかな。だから、当分は気にせずに暮らせるはずだよ。予定外の出費がなければね。」
 
「そうですか。結構な金額になったのですね。」
 
 エルドは今まで経済感覚がなかったため商会を運営しているイムニトに尋ねてみたのだ。それによると今までエルドが得た金額でおよそ5年は何もせずに暮らしていける計算だが、食いしん坊と行動するため、節約は大事だなと思い直すことにした。
 
「トーラの話はまだ終わらないみたいだ。先に夕食にしよう。」
 
「その様ですね。では、同席させて頂きます。それとお願いがあるのですが、今晩も泊めて頂けないでしょうか?」
 
「もちろんだとも!うちも儲けさせて貰ったしね!」
 
「それは僥倖です。宿泊費については後ほど。」
 
「それは貰えないね。すでに君は十分な費用を私達に払ってくれているから。相棒君のご飯の準備もさせないとね。」
 
 その夜、イムニト家で楽しい食事をしたのは夫婦2人とハーフエルフの少年と珍しい魔獣だけだった。子供達は「アブナイコト、ヨクナイ」と何度も呟いていたという。
 
 
 翌朝、穏やかな朝食を済ませた後。エルドはイムニトとトーラに家から離れることを伝えると反対された。
特にトーラの反対は凄まじかった。子供達が迷惑を掛けたのにそんなことはさせられないとかエルド君が居なくなると子供達が悲しむとかサイファ君が泊まる場所なんてあるのとか捲し立てた。
 
「良い、エルド君。君はまだ幼いんだから、大人に遠慮なんてしたらいけないわ!!」
 
「いや、あのトーラさん・・・。申し訳ないのですが、私はもう成人しております。」
 
 エルドは年齢より幼くて申し訳ないという顔をして、トーラはただ、申し訳ないという顔をしていた。それでも、トーラは謝りながらも続ける。
 
「えっ?その、なんというかごめんなさい。でもね、成人してても関係ありません!!ウチの家族だけでなく、商会までもお世話になったんだから、この家から出ていくことは私が許しません!!」
 
 暴論である。
 エルドは家の主はイムニトなのでは?と疑問を持ちつつ視線をイムニトに移すとクスクスと笑いながらこちらを眺めていたようで、徐ろに口を開いた。
 
「エルド君、妻もこう言っているし、この街にいる間は遠慮なく泊まっていってくれないかな?それに、こうなったらトーラは誰に言うことにも耳を貸さないよ?」
 
「はぁ、分かりました・・・。では、お世話になります。」
 
 エルドの返事を聞くとトーラの笑顔は良いものになり、上機嫌になっていた。それを見たエルドはお世話になるのも悪くないかと思い直して、今後の予定を話そうとすると、商会員が慌ててイムニト宅に駆け込んできた。
 
「会頭、大変です!店舗の方に来て下さい!!」
 
「何事ですか?説明しなさい。」
 
「は、はい!4人組の男達が会頭を出せと騒いでまして、男性職員達が応対しているのですが、今にも武器を抜きそうで!!」
 
「職員達にケガは今のところないのですか?」
 
「呼びに来るまでは大丈夫でした!」
 
 女性職員は息も絶え絶えにイムニトの質問に答えていくと、話しながらも準備を終えて店舗に向かおうとするとエルドも立ち上がる。
 
「イムニトさん、私も一緒に参ります。まだ傭兵に成り立てですけど、お役には立てると思います。」
 
「エルド君!危険よ!」
 
「トーラさん、お言葉ですが、私は傭兵になったのです。荒事なんて日常ですよ。大したことではありません。」
 
「だけど!」
 
「トーラ、落ち着きなさい。エルド君は魔物も狩れる。そこら辺のヒト相手なら困ることはないでしょう。それにエルド君の生き方を君が制限することがおかしい。」
 
「いや、でも・・・。」
 
「ご心配ありがとうございます。大丈夫ですよ、トーラさん。イムニトさん、他のお客様に迷惑にならないように早く参りましょう。」
 
「そうだね、エルド君。行こうか。」
 
 エルドもイムニトが話している間に準備を終えていた。そして、イムニトを先頭に3人は走り、商会へと急ぐ。
 商会の裏口から中に入ると喚き散らしている声が届いた。イムニトは声の方に進んでいくと男子職員が壁となって立ち塞がっている。
 
「どうしました?お客様?私に何かご用があると伺いましたが?」
 
 その壁の向こうから落ち着いた声でイムニトが声を掛けると壁が割れ、騒いでいた4人組の姿が露わになる。
 
(あれは、昨日絡んできた4人組じゃないか。クレームか?それとも違う目的が?)
 
 昨日、傭兵組合でエルドに打ち据えられた4人組であった。昨日の事もあり、イムニトに危害が加えられる前にどうにかしようと前に出るイムニトを押さえて、エルドが面前に立った。
 
「あなた方、ここに何しに来られたのですか?」
 
 鋭い目線を向けながら、一番前に立っている男に問いただすエルドにカルニが凄む。
 
「なんだぁ、ガキ。お前に用はないから引っ込んでな!」
 
 一歩前に出て更に凄んでエルドを睨むが、エルドは全く怯まなかった。
 それを見たカルニは苛立ちを募らせて、さらに威圧する。
 
「ガキが!痛い目見ないと分かんねぇようだな!!」
 
「昨日の事を覚えていないようですね。この格好で分かりませんか?」
 
 エルドはローブを羽織り、フードを被って傭兵組合に居たときの格好になると、カルニは更に声を大きくした。
 
「てめぇは昨日の!!丁度良い、てめぇも痛い目に遭わせてやる!!」
 
「それは構いませんが、ここでそれが出来るのですか?物が溢れているこの場所で?」
 
「ちっ、表へ出やがれ!!お前ら行くぞ!!!」
 
今のカルニの発言で何の目的で来たのか察したエルドは店の外へと誘導した。
 カルニはカルニで棚や商品が陳列してある店内で小柄のエルドがちょこまか動かれるより広い外で相手取った方がマシだと判断して、その誘導に乗った。
 店の入り口に出来ていた人だかりが、5人が近づくにつれ散っていく。
 店の外に出るとエルドは4人に囲まれた。4人組はそれぞれ腰に差してあった刃渡り50cmほどの小剣を抜いて威嚇した。
 
「痛い目にというのは刃物で刺すことを仰っているのですか?」
 
「この状況でビビりもしねぇか。根性が据わってるところだけは褒めてやらぁ。」
 
「そうなんだな!」
 
「カルニの言う通りでしょう!そうでしょう!」
 
「少年!今度は君が地面に口付けするのさ!」
 
 4人組が喧しく言うがエルドはどこ吹く風。それを見た周りの野次馬が心配そうにエルドを見ているだけだった。
 
「質問に答えられないほどのおバカさんが脅してるだけですし。それにそういう脅し文句はどうでも良いので、さっさと掛かって来て下さい。動くのも面倒なので。それとも刃物で脅すだけしかできない阿呆も追加で言いましょうか?」
 
 エルドは既に言っていた。
 カーマ仕込の煽りが染み込み過ぎて無意識に発動する。エルドの煽りに耐えきれないようにカルニが合図も出さず突っ込んだ。
 残りの3人も慌てたように襲いかかろうとした。が、カルニが飛び出したことで呼吸が合わない。それでもどうにか連携を取ろうと遅れて三方から突っ込んだ。
 
 エルドはため息をつきながらカルニの対処を開始した。
 上段から斬りかかってきたカルニの小剣を半身になることで躱し、右手で小剣を握る手を叩きつけて小剣を落とさせ、痛みで蹲った所を腹に膝蹴り食らわせる。
 
 カルニが宙に舞う間に3人が距離を詰め、同時に斬りかかろうとした。しかし、エルドは逆に踏み込み、一番背の低いクスルの顎を掌底で打ち、頭を揺らす。
 
 残り2人になり、左右からの突きをクスルに突っ込んだことで既に躱していたエルドは身体を反転させ、突き終わりで伸びきった腕を掴み、強引にクスルの方へと引っ張った。
 
 肩から地面を引きずられるように進み、クスルと並び、川の字のようになった。そこへカルニが3人の上へ落ちてきた。
 
「がっ!」
「ぎっ!?」
「ぐっ!」
「げぇえっ!」
 
「呻く声も汚いヒト達でいらっしゃる。ともあれ、さっさとここから消えて下さい。聞こえていますか?」
 
 4人は既に気を失っていた。カルニとクスルはエルドによって。キミキとケケエは宙から落ちてきたカルニよって。
 その様を見たエルドは再度、ため息を吐いて、その場を後にしようとした。
 そこへ、野次馬達の頭2つも3つ分も大きな男が近寄ってきた。
ヴァーチだった。
その肩には愛娘のミロチが興奮していた。ミロチがヴァーチの肩から飛び降りるとエルドの周りをキラキラとした顔で飛び跳ねていた。
 
「エルド兄ちゃ!すごい!!強い!手際が良い!!ウチはあんなに手際よく出来ないっ!それもすごい速かったっ!すごい、スゴイ!!」
 
「お前も結構出来る奴だったんだな!!」
 
 大男がその実力を認め、少女がローブを着た人物を褒め称えている光景を見て、野次馬達が少しずつ歓声を上げ始めた。それが呼び水となり、歓声が一気に爆発した。
 
「すげぇぞ、兄ちゃん!!やるな!!」
「俺は何が起こったのか分かんなかったぞ!」
「物怖じしない、その肝っ魂も気に入った!」
「素敵よ!!」
「格好良かったわ!!」
「抱いてっ!!今すぐに!!」
 
 次々と掛けられる声にエルドはどう反応して良いか分からず、少し焦っていた。
 
(こんな風に声を掛けられたことなんてないから、どうしたら良いのか分からない・・・。どうしよう・・・。)
 
 少し、焦っていたエルドだが、この人集りを利用することを思いついた。
商会の入口まで進み、群衆へ振り返り、手を上げて注目を集める。そして、歓声に負けない声を張り上げた。
 
「皆さん、イムニト商会は品揃えも良く、会頭のイムニトさんも商会で働いていらっしゃるヒトも皆、素晴らしい方々です!お買い物はぜひ、イムニト商会へ!!」
 
 その言葉で歓声がより大きくなった。エルドはそのまま商会へ消えていくと、野次馬達が商会へと殺到する。気絶した4人はその存在を認知されず、様々な足に踏みつけられていった。最早、ボロ雑巾と成り果てた様を見て、ヒトが通りすがる度に嘲笑された。
 
「ミロチ、エルドはどこまで強いか分かるか?」
 
「ん・・・。父ちゃが本気を出したら、分からない・・・かも?」
 
「そうか・・・。まぁ、アイツは良い奴だし、敵対することはないだろうがなぁ。じゃあ、用事を済ませるとしようか。」
 
「あい!」
 
 ミロチをいつもの指定席に乗せて、ヴァーチはイムニト商会へと入っていった。
 ヴァーチがイムニトを探して辺りを見回していると、イムニトがエルドに笑顔で話しかけていた。ヴァーチはイムニトの居る方へと歩いて行く。
 
「よう、イムニトの旦那。残金を持参してきたぜ。」
 
「ヴァーチさん、いらっしゃいませ。では、あちらで受け取りますので。どうぞ。エルド君も着いてきて貰ってもいいかな?」
 
「よろしいのですか?」
 
「構わないとも、ヴァーチさんにも伝えたほうがいい話もあるからね。」
 
「分かりました。同席させて頂きます。」
 
「事後承諾になるけど、良いかな?ヴァーチさん。」
 
「あぁ、構わないぜ。」
 
 4人は商会の奥にある個室へと進んでいった。エルドの話を聞くことで今回の出来事が逼迫したものかもしれないと思わされてしまったのだった。

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