師匠の訓練は理不尽ですか?いいえ、魔改造です。

raimaru

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武器と商人と傭兵と

相棒が相手をしました

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 エルドとミロチが離れていく間も大男と獣は互いに火花を散らすような視線を交わしている。
 
 
「てめえは大体、最初から俺のことをおっさん呼ばわりしやがって。俺はおっさんじゃねえんだよ!!まだ20代だ!!」
 
「ハン!ヒトの20代が若いかどうかなんて俺に分かるわけがねぇだろうが。兄ちゃんとでも呼ばれたかったのか?そりゃ、無理だろ。テメェがおっさんにしか見えねぇんだからよ!」
 
「あんだと?さっきは仲間になりたくて下手に出てたが、翌々、考えりゃどっちが上かハッキリさせとかねぇと今後困りそうだな。この際だ、てめえより、俺の方が上だときっちり躾けてやるよ!!この獣がっ!!」
 
「テメェはバカか?三下相手にウジウジ悩んで、判断もできねぇおっさんが俺より強ぇわけがねぇだろ?躾けてやる?そんな甘いこと考えてるから油断すんだよ!えぇ?実力五流の老け顔兄ちゃんよ?」
 
「誰が老け顔だ!躾は俺の優しさだ、馬鹿野郎が!それにバカはてめえだろうが!五流なんて言葉はねえんだよ!」
 
「老け顔なんて、テメェしかいねぇだろうが!五流って言葉がなかろうが貶されてることも分からねぇのか?バカはテメェで決定だな!!」
 
「もう勘弁ならねえ・・・。エルドの相棒だろうが何だろうが、てめえはここでぶっ潰す!!」
 
「おぅおぅ、ブッ潰すなんて意気がんなよ、五流が!」
 
「大体、てめえは」
「大体、テメェは」
 
 
「「最初から気に食わねえんだよっ!!」」
 
 
 ヴァーチは煽り合っていた最中に抜いた愛剣を下段に構えてサイファに飛び込んでいった。対するサイファは悠然と立ち、身構えることもせず自然体のままだった。
 
「うぉらー!!」
 
 気合いを込めた下段からの払いをサイファは尻尾で軽く受け止めた。ヴァーチは止められたことを気にもせず、正面から斬りつけていく。
 甲高い音が連続して聞こえてくる。
 縦、横、斜めと次々に攻撃を繰り出すが、全てを受け止められる。だが、ヴァーチの顔には次第に焦りが生まれていた。
 
(ちっ、どんな代物だ。あの尾は!打ち合った衝撃が伝わってきやがらねぇ!)
 
 キィンという音が何度聞こえてきたか分からない。ただ、ヴァーチの手には打ち合った衝撃が全くない。水を斬りつけている方がまだ手応えがあると感じていた。
 攻撃が全く通じないヴァーチはその場から大きく飛び退いた。
 
 
「おぃおぃ、五流のおっさん。嘗めてんのか?俺があの三下より弱いわけねぇだろうが。さっさと全力で来ねぇと死ぬぞ?」
 
「いや、嘗めてねえよ。口先ばっかりの奴ってのもいるからよ。てめえもてっきりその口かと思って試しただけだ。」
 
「口先ばかりの奴ってのは分かるがな。俺はエルドの相棒だぞ?んな訳がねぇだろうが。それを“嘗めてる”っていうんだよ!」
 
 
 サイファの尾が唸りを上げてヴァーチに襲いかかる。突進と見間違えるような一撃を大剣の腹で受け止めるヴァーチに丸太で打ちつけられたような衝撃が走る。
 そして、ヴァーチは尾に押されるがまま大剣ごと地面を削りながら後ろへ押された。
 
(攻撃されたら、衝撃があるとかどうなってんだよっ!アイツ!)
 
 最初は太く見えたサイファの尾は次第に細くなり、ヴァーチを5mほど引き離すと持ち主の元へと戻っていった。
 
ヴァーチが大剣を戻した。
地面を見ていた顔を上げる。
 身体から『身体強化』の光とは違う色が揺らめき立ち昇る。
その眼に覚悟が宿っていた。
 
 
「そうだな、悪かった。それが嘗めるってことだな。」
 
「そうだぞ、五流。さっさとやれよ。」
 
 
 ヴァーチから立ち昇る光を見て、サイファは警戒を強めた。そして、ヴァーチは大剣を地面に突き刺した。
 
 
「ああ。いくぞ。『強角』っ!!」
 
 
 ヴァーチの苦しそうな呻き声があたりに響き、揺らめいた光が絡み合ってヴァーチの腕や脚、胴体へと何者も寄せ付けないよう纏わり付いていく。
 ヴァーチがより一層大きく呻くと光が弾けた。
 
 光が収まり、姿が露わになるとそこにはこめかみから2本の角を生やし、短かった髪が肩まで伸び、眼を緑に染めた大男がいた。
 
 
「大分、様変わりしたじゃねぇか?おっさん。」
 
「ああ、変わったのは見た目だけじゃねえところを見せてやるよ。」
 
 
 ヴァーチは地面に突き刺した愛剣をゆっくりと引き抜いた。そして、構えもせずサイファを視線だけで射貫いた。
 視線の鋭さ、強さで今までとは違うと感じたサイファは牙を見せて顔を歪める。
 
 
「そういうことは最初からやっとくもんだぜ?」
 
「少しばかり時間がかかるんでな。後、この姿はあまりヒトに見せたくない。」
 
「そこらへんに理由がありそうだが、今は関係ねぇ。」
 
「そうだな。今はそんなことは関係ない。」
 
「おっさんも根性見せたことだし、俺も少しはやる気を出してやるよ。がっかりさせんなよ?」
 
「それはこっちのセリフだ。馬鹿野郎。」
 
 
 サイファの尾が3本に分れる。蠢くように動く尾が宙に浮き、尾の先が正三角形の頂点の位置にくるとピタッと止まった。その3本、全てがヴァーチに狙いを定めていた。
 ヴァーチは片手で大剣を持ったまま歩き、次第に速さを上げ、またも正面からサイファに突っ込んでいく。
 
 正面に辿り着いたヴァーチが大剣を突き上げようと沈み込む。そこへ2本の尾が逆に突き刺そうと襲いかかる。
 ヴァーチはそれに構わず、攻撃を繰り出そうとするが、尾の方が速い。
 身体が貫かれる、その瞬間、ヴァーチの身体がかき消える。
 
 ヴァーチはサイファの側面に現れ、上段から大剣を叩きつけた。
 だが、残った1本の尾が斬撃をギャリギャリと音を立てながら防ぐ。ヴァーチは防がれたことに気を落とすどころか笑っていた。
 
(ようやく手応えを感じたぞ、やれる!!)
 
 笑いながらも斬りつけているヴァーチをサイファは鼻で笑いながら煽った。
 
 
「防がれたのがそんなに嬉しいのか?五流?」
 
「ああ、嬉しいね。さっきとは違う手応えがあるんでね。にしても、不思議な尻尾持ってやがんな。」
 
「特別なのは尾じゃねぇよ。」
 
「あん?」
 
「俺が特別なのさ。」
 
 牙を見せ、ニタリという表情を作って見せたサイファにヴァーチは大声を上げて笑い始めた。
 
「ククク、ハハハ!!平然と言ってのけるとはなっ!だが、いくら特別だろうが負ける気はねえ!」
 
 叫んだヴァーチの姿がまたもかき消える。
 反対側に現れ、サイファの身体を両断するべく薙ぎ払う。だが、尾がそれを許さない。
数秒間に何度も現れては消え、突きや斬撃を繰り返す。それはヴァーチが何人も分れ、同時に攻撃を繰り出しているように錯覚させた。
 
 しかし、サイファは最初の位置から全く動いていなかった。いや、動く必要が無いとそう思わせるように自然と立っている。
 ヴァーチは忌々しげに舌打ちして距離を取った。
 
 
「おぃおぃ。同じ事の繰り返しばっかりじゃねぇか?でっかい剣を振り回すしか能がねぇのか?」
 
「そう言うなよ。こっちも少しは攻撃が通るかと思ってたんだからよ。じゃあ、お次はこれだ!『破斬』!」
 
 離れた場所からヴァーチは強く踏み込んで右から左へ横払いを繰り出した。何も無い空間を斬ったかと思えば斬った軌跡をなぞった斬撃がサイファに向かって矢の如く飛んでいく。
 サイファは片眼を吊り上げるが、それだけだった。2本の尾がサイファの前に躍り出て、飛んでくる斬撃を上に跳ね上げた。
 
 
「たかだか、1本飛ばせるぐらいで俺をどうにかできると思ったのか?」
 
「まさか。本番はこれからだよ。『破斬はざん縦波たてなみ
 
 
 上段に構えた大剣が薄い光を纏うとヴァーチは山をも切り裂く勢いで振り下ろし、そのまま地面も切り裂いた。
 縦に地面すれすれで飛んでいく一条の光が突然、6つに増え、縦に延びた扇形の斬撃になった。だが、ヴァーチの攻撃はそれだけで終わらなかった。
 地面を切り裂いたあと、身体を限界まで捻る。捻り上げた力を解放するように横払いを繰り出した。
 
 
「おまけだ!『破斬・横波』」
 
 
 真横に広がる斬撃が6つに増え、『縦波』の後を追従する。サイファに逃げ場のない格子状の斬撃が向かっていく。
 しかし、サイファは鼻で笑った。
 2本の尾が交差する。空中にバツ字を描くとそのまま衝撃波となって格子の斬撃に向かっていく。そして、残った1本が真一文字に線を描く。
 
 ヴァーチの技とサイファの衝撃波が衝突する。ガラスが割れる音が響いた。押し負けたの
はヴァーチの斬撃だ。
 『縦波』を砕き、『横波』にクロスした衝撃波が襲いかかる。衝突した斬撃と衝撃波が今度は破裂音をさせ、土煙が上がらせた。
 土煙の中へと突き進もうとすヴァーチの目前に真一文字の衝撃波が土煙を裂いて現れた。ヴァーチは反射で沈み込み、衝撃波を回避して、低姿勢のまま土煙の中へと突っ込んでいく。
 
 今度は俺の番だと言わんばかりに土煙を突き破り、サイファの真正面に踏み込んだ。だが、サイファはヴァーチを見下ろすとまたも笑う。
 
 
「おい、おっさんのくせに子供遊びが好きなのか?もう少し、真面な攻撃をしてくれよ。」
 
 
 サイファのセリフが終わると同時にヴァーチが突き飛ばされた。踏み込んだヴァーチの腹にサイファの尾の薙ぎ払いが直撃したのだ。
 ヴァーチは数度、地面に叩きつけられ、転がされるが、勢いが弱まると何とか飛び起き、地面に手を突いて体勢を保った。
 
 互いの距離が一連の攻防前に戻る。立ち上がったヴァーチが口から血が零れていた。それに気付いたヴァーチは手で乱暴に拭い上げると、愛剣を正眼に構えた。
 サイファはその様子をのんびりと眺めている。
 
 
「子供の遊びのつもりじゃ無かったんだがな。形振り構わずいくしかねえか・・・。」
 
「全力を出して野垂れ死ぬ馬鹿じゃねぇ事は分かったが、せめて俺に一撃でも加えてみろ。最初の位置から動かせてねぇぞ?」
 
「うるせえな、んなことは分かってんだよ!」
 
 
 悔しそうに噛み締めた奥歯が軋みを上げる。ヴァーチは打開策を考えていた。全ての攻撃が住なされ、向こうの攻撃は相殺できない。後先考えずにいけば、どうにか出来るかもしれないが、分の悪い賭けにしか思えない。
 しかし、実力を見せねば仲間になることすら出来ない。
 
 ヴァーチは賭けに出た。自分の身体がどうなろうとも、一矢報いることだけに集中する。余計な考えを捨て、ヴァーチは呼吸を整えていく。
 
 相手の雰囲気が変わってもサイファは悠然と立ったままだった。だが、尾はヴァーチの何かを警戒しているのか、先をヴァーチに向けたままふわふわと宙を漂っている
 
 
「『強角』まで使えばどうにか出来ると思ってたんだがな。それじゃあ、駄目らしい。」
 
「言ったはずだぞ、五流。全力で来いってな。まだ、頭がおめでたいみてぇだな、テメェは。」
 
 少しずつヴァーチの呼吸が深くなっていく。
 
「おめでたいね・・・。娘に父親の酷え姿を見せたくなかったんでよ。」
 
 ヴァーチの呼吸から白い靄が出始める。
 
「嬢ちゃんに見せたくねぇってのだけは同意してやるよ。それが“親”ってもんらしいな。」
 
「てめえにも優しさってもんがあるんだな。意外だぜ。」
 
「俺は相棒とは違って情け深いんだよ。」
 
 出始めた靄がヴァーチの頬をつたって立ち昇っていく。緑の瞳が光っていく。
 
「そうかい。じゃあ、俺にブチのめされて、娘に良いとこ見させてくれよ!!」
 
 ヴァーチが爆発したように弾け飛んだ。
 
「そりゃ、出来ねぇ相談だなっ!!」
 
 
 弾け飛ぶようにヴァーチはサイファの右斜めに接近した。と、同時に尾がヴァーチの身体に突きを入れようとする。だが、ヴァーチは半身になってそれを避けた。
 今まで避けられなかった一撃を見事に避けたヴァーチにサイファは笑う。
 
 
「出来るんなら、端っからそれで来いよっ!おっさん!!」
 
 
 サイファのちょっとした挑発にヴァーチは反応しなかった。いや、反応出来なかった。尾が己を突き刺そうと唸りを上げる、痛打を与えようとしなって迫る、叩き潰そうと上から襲いかかる。
 それら一つ一つを避ける作業に感覚を研ぎ澄ませた。そして、避けながらもフェイントを交え、サイファに近付き、さも攻撃をするように牽制し始めた。そして、額に汗を浮かばせながらも笑っていた。
 
(避ける度に身体が痛え、一撃、一撃に背筋が凍りやがる・・・。たった一撃、それだけに集中しろ!)
 
 軋み始めた身体を叱咤し、危険信号を無視して、ヴァーチは速さを一段階上げた。サイファの攻撃を避け、攪乱しながら言葉を紡いでいく。
 
 
「我が腕は鋒
 我が胴は刃
 我が脚は柄
 
 その場から離れ、大剣を上段に構える。サイファの真正面へ全速で駆け出す。
 
 我、全て突き刺す角なり
 我、全て断つ剣《つるぎ》なり」
 
 振り上げた大剣が中心を青にその周りが緑に染まっていく。
 草が割れ、風の如く、ヴァーチが道を作った。
 3つの尾は懲りずに真正面から来る大男を打ち砕かんと突撃する。
 
 
「『角撃剣断かくげきつるぎだち』!!」
 
 
 染まった大剣が激しく光る。
 
 ――ギンギン
 
 互いの目の前で3本の尾と大剣が激しくぶつかり合う。
 ヴァーチの全精力を込めた一撃でもサイファの顔は揺るがない。逆にヴァーチは焦っていた。押し勝つどころか押し負け始めたからだ。
 押し出され、地面に食い込ませている脚を無理矢理動かし、一歩前にヴァーチは踏み込んだ。
 
 
「か・ら・のお『強断』ーーーっ!!!」
 
 
 ヴァーチは前掛かりになって右肩を押し込み、左腕を引いて尾に沿わせながら大剣を振り抜いた。
 大剣の光がガラスが罅割れた音と共に消え、大地に大剣が埋め込む音が低く響く。
 宙に陽の光に反射した青に見える毛が舞う。
 
 
「一撃、入れてやったぞ・・・。獣め・・・。」
 
 
 ヴァーチはそう言いながら地面に倒れ込んだ。
 サイファはのそりのそりとヴァーチに近付くと前足を使ってヴァーチを仰向けにする。顔は汗まみれ、必死に空気を取り込むように何度も吸い込んでいた。
 
 
「おぃおぃ、毛を少し切ったぐらいで気分が良さそうな顔をしてるじゃねぇか?」
 
「ハァハァ、わ、悪い、か、よ。」
 
「まぁ、別に悪かねぇがな。でもまぁ、ケジメは付けねぇとな。」
 
「そう、だな。」
 
「じゃあ、あばよ。」
 
 
 丸く柔らかそうだった尾の先が青い光を纏い、針の様に鋭く尖っていく。ゆらゆらと揺れながら3本の尾がヴァーチに狙いを定め、サイファの右足がヴァーチの胴体をそっと抑えつける。
 ヴァーチはしっかりとサイファを見ていた。それはサイファもだった。
 
 
「『貫き撃ち』」
 
 
 青い光がヴァーチを貫こうと真上から狙い澄ました瞬間、サイファがその場から飛び退いた。
 砂塵が巻き起こり、怪しい光がサイファを見つめ、荒い呼吸が聞こえてくる。
 
 
「フー、フー、フー・・・。ア゛ア゛ア゛!!」
 
 
 サイファに襲いかかったのはミロチだ。だか、様子がまるで違う。苦しそうに叫び、涎を垂らしてヴァーチを庇っている。
 呼吸は定まらず、左のこめかみから紫色の捻れた角が後ろに向かって延びており、左目の眼球が黒く染まり、右目も少し浸食されるようかのようだ。
 殺意とも狂気とも言えそうな禍々しい雰囲気を撒き散らして、サイファを睨んでいた。
 
 

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