Dreaamless child

瑠俱院 阿修羅

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Dreamless Child 前編

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机に向かい、友里恵は無心に鉛筆を動かしては消しゴムに持ちかえる。
ドアのノックと「入るよ」の声。兄の翔だ。
「前から読みたいって言ってた『弥勒の剣』、貸してあげる。返すのはいつでもいいよ」
「ありがとう。そこに置いてて」
友里恵は、少し離れてケント紙をながめた。
「ダメ。アイディアが浮かばない。スランプだ」
「こんをつめすぎだよ。最近、なんか暗い顔してるし、具合でも悪いの?お父さんがいない時に友里恵に何かあったら責任重大だ」
 友里恵は思い切って切り出した。
「体は別になんともないけど、ナーバスなの。『夢がなくなった』せいかな」
「あるじゃないか、少女マンガ家になるって夢が」
「じゃなくて、夜みる夢。もう何ヶ月も見てないの」
 翔の表情がくもった。
「別に困ることじゃないだろ?」
「友達が『昨日はSnow Manの蓮君の夢みちゃった』とか『空を飛ぶ夢をみた』とか、『先生が実は宇宙人で、宇宙語で何か叫びながら追いかけてきて泣きながら目が覚めた』とか言うのを聞いてるとうらやましいの」
「最後のも…うらやましいの?」
「話に入れないと寂しい。それに夢は私のマンガのインスピレーションだったの。変?」
「いいや。夢は昔から科学者や画家のインスピレーションだよ」
「はぁー。夢がみたいなぁ」
「そんなに…夢がみたい?」
「みたい」
翔は寂しそうな表情を浮かべた。
「もう3時だよ。眠ったほうがいい。おやすみ」
「おやすみ」

学校の休み時間。友里恵は背を丸め、ひたすらノートの上でシャーペンを走らせていた。クラスメイトの祐二が顔をのぞきこんだ。
「休み時間まで勉強か?」
「ノートの端にパラパラマンガ描いてたの」
「友里恵って、そんなの描いてても勉強できるんだからすごいよなぁ」
「そんなのって何よ。マンガは立派な文化よ、バカにする気?」
「い、いや、そういうわけじゃないけどさ。怒るなよ…。幼なじみだろ」
「幼なじみの彼は毎月、お兄ちゃんのコロコロコミックを借りてはボロボロコミックにして返してたわよね」
「も、もう時効だろ?」
「あら?犯人が勝手に時効を決めるの?」
「もしかしてあの頃アニキ怒ってた?」
「怒らないの。昔から自分のことより人の事を考えるタイプ。昨日もね、私が元気ないって心配してくれたの。私、ボーイフレンドにするならお兄ちゃんみたいな人がいい。いつか、お兄ちゃんをモデルにマンガ描こう」
「マンガもいいけど、今度の日曜さ、プラネタリウム行かない?」
始業のチャイムが鳴った。
「あ、返事は今でなくていいから」
 席に戻る裕二に、友里恵は小声で言った。
「ごめん、今はマンガのことしか考えられないの」

翔はドア越しに友里恵に呼びかけた。
「どうしたんだよ、朝から部屋にこもって」
「夢みられないなら、もう二度と眠らない。何も食べない」
「食べないと体に毒だよ。病気になるよ」
「夢がみられないのも、ある種の病気よ。もうどうでもいい…私の才能の泉もかれはててしまったんだから」
「大げさだなぁ…ちょっとのスランプで。お父さんが聞いたら悲しむよ」
「子供たちをほったらかして仕事で世界中飛びまわってるんだから気づくはずないじゃない」
「お母さんだって、そんな友里恵を見たら…」
「天国に下界の映像モニターありません」
「分かったよ。じゃあ、晩ごはんはここに置いておくからね」
翔の声が遠ざかると、友里恵はいつの間にか眠りに落ちていた。
「友里恵」
 目の前に見おぼえのある顔があった。
「ふあぁ、何よ、杏奈。こんな時間に私の部屋で」
「急がないと、上昇気流に乗り遅れちゃうよ」
杏奈は両腕を翼にして友里恵の周りを軽やかに一周し、飛び去ってしまった。
「あれ?杏奈って一昨年転校したんじゃ…」
 見回すと一面雲の大海原。足の下に小さく町並みが見える。
「ここ、空じゃない!どうなってんの?」
「友里恵」
「杏奈!久しぶり。元気だった?」
「うん、さあ、もっと上まで行こう」
「わかった。これ夢なんだね」
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