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Dreamless Child 後編
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嬉しくなった友里恵は腕を大きく広げ、飛んだ。二人はいつの間にか、宇宙空間に来ていた。
「すごいよねー、見渡す限り星だらけ。そうだ、星屑すくいしない?」
「星屑すくい?」
「はい、これ」
杏奈は友里恵に虫取り網を手渡した。
「待って、星屑って本当はゴツゴツした岩の塊でしょ?」
「現実の世界ではね。ここでは、ほら、このキラキラしたのがそうよ。それっ」
杏奈が網を振ると、宇宙空間を浮遊していた細かい光の粒子が網に入り、取りこぼされたものは四方に散らばった。それを見て、友里恵も網を振る。
「それっ、けっこう難しい。それっ、あ、かすった」
「それっ」
二人はしばらく夢中で遊んだ。
「ふー、杏奈、うまいねー」
「ふふふ、テニスのプロ目指してるからね。友里恵は相変わらずマンガ家志望?」
「うん、そう」
友里恵は大きくうなずいた。
「う…何あれ?」
「なんか動いてる…白い…獣みたいな」
二人は空中遊泳で白い生き物に近づいていった。
「ムーッ、ムグーッ」
ずんぐりした白い体で顔の先の細くなった生き物が苦しそうな唸り声をあげている。
「友里恵、離れたほうがいいよ」
「一人でこんなところにいるなんて何かわけがあるに違いないよ」
「ダメ、私これ以上近づけない…。友里恵、ごめんだけどもう行くね」
杏奈は一瞬で宇宙空間の果てへ飛んで行ってしまった。
「可哀そうに…おまえ、何かあったの?群れからおいていかれたの?待って。どこ行くの?」
手を触れようとした時、白い生き物は宇宙の闇に溶けるようにすっと消えてしまった。
「何だったんだろう?また一人ぼっちか。でも、いいんだ。夢だってわかってるんだから。目が覚めればベッドの中。心配せずに宇宙遊泳を楽しもうっと」
きらきら光る魚の群れが土星の輪に沿って泳いでいく。
「魚座流星群ってこと?夢の中ならなんでもありね」
目の前をティンカーベルとピーターラビットが横ぎっていく。
「友里恵」
振り向くと翔がいた。
「あれ?お兄ちゃんどうしてこんなところに?あ、そういえばこれ、夢だった」
「これだけじゃない。今までに友里恵がみた夢、全部返してあげてるところだよ。明日からはまた、普通に夢がみられるはずさ」
「返す…ってどういうこと?」
「君の兄貴は、去年の夏に海で溺れてた子供を助けて、自分は力尽きて死んでしまっただろう」
「え?え?何言ってるの?お兄ちゃん。目の前にいるじゃない」
「僕は君の兄じゃない。白バクだ」
「バク?」
「そう、夢をエサにして生きる生物。君の兄貴が死んだ後、君の記憶を操作し兄貴の死を忘れさせた」
「お兄ちゃんの…死?」
「そして君の兄貴になりすまし、君の夢を食べてきたんだ。君は夢が消えたことで悩んでいた。知らんふりをしようと思ってけど、でも、食べ損ねた夢の中に出てきた僕を、君はかわいそうだと言ってくれた。だから、今まで食べた夢を全部返してあげることにしたんだ。君の才能の泉を」
「お兄ちゃんの言ってること、わからない」
「君も思い出しかけてるだろう。僕の言ってることは全部本当だよ」
友里恵は翔の声が少しずつ弱っていることに気づいた。
「お兄ちゃん。顔色が悪いよ」
「体の中に取りこんだ夢を全部返してあげてるところだからね。エネルギー源が無くなったんだ」
「大丈夫なの?」
「もうすぐ僕は消えてしまうだろう」
「ダメ!お兄ちゃん消えないで」
「去年の夏からもう、君の兄貴はいないんだ」
「だって…だってお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。何も変わらない、困ったときには助けてくれたし、悩んでるときには励ましてくれた、嬉しいときには自分の事のように喜んでくれた。誰よりも私の事を思ってくれた」
「君の夢を食べることと引き換えにね。ギブアンドテイクだよ」
「本当のお兄ちゃんみたいだった」
「でも、違うんだ」
「本当のお兄ちゃんじゃなくてもいい。もう少しお兄ちゃんでいて!」
「無理だよ。今まで君の食事を作ったりして世話してくれていたのはナミ伯母さん。もういないお兄ちゃんと話している君を心配してる。安心させてあげて」
翔は弱々しく微笑んだ。
「夢がみたいって言ったけど、こんな夢は嫌だ。せっかく途中まで楽しかったのに…やっぱり夢なんて要らない!こんなの嫌だ。覚めろ、覚めろ」
友里恵は自分の顔をつねり、思い切りひっぱたいた。
「今までごめん。さよなら」
翔の姿は徐々に透けて消えていく。
「いや、いやだったら!お兄ちゃん!」
叫んでその体を捕まえようとする友里恵の手は、虚しく空をつかんだ。
「お兄ちゃんの自慢話を、全部わかってて聞いてくれた友達がいるだろ。彼と仲良くね」
最後の言葉は終わった時、友里恵はなぜ自分が空中に手を差しのべているのかわからなかった。ただ、わけもなくあとからあとから涙がこぼれた。
「すごいよねー、見渡す限り星だらけ。そうだ、星屑すくいしない?」
「星屑すくい?」
「はい、これ」
杏奈は友里恵に虫取り網を手渡した。
「待って、星屑って本当はゴツゴツした岩の塊でしょ?」
「現実の世界ではね。ここでは、ほら、このキラキラしたのがそうよ。それっ」
杏奈が網を振ると、宇宙空間を浮遊していた細かい光の粒子が網に入り、取りこぼされたものは四方に散らばった。それを見て、友里恵も網を振る。
「それっ、けっこう難しい。それっ、あ、かすった」
「それっ」
二人はしばらく夢中で遊んだ。
「ふー、杏奈、うまいねー」
「ふふふ、テニスのプロ目指してるからね。友里恵は相変わらずマンガ家志望?」
「うん、そう」
友里恵は大きくうなずいた。
「う…何あれ?」
「なんか動いてる…白い…獣みたいな」
二人は空中遊泳で白い生き物に近づいていった。
「ムーッ、ムグーッ」
ずんぐりした白い体で顔の先の細くなった生き物が苦しそうな唸り声をあげている。
「友里恵、離れたほうがいいよ」
「一人でこんなところにいるなんて何かわけがあるに違いないよ」
「ダメ、私これ以上近づけない…。友里恵、ごめんだけどもう行くね」
杏奈は一瞬で宇宙空間の果てへ飛んで行ってしまった。
「可哀そうに…おまえ、何かあったの?群れからおいていかれたの?待って。どこ行くの?」
手を触れようとした時、白い生き物は宇宙の闇に溶けるようにすっと消えてしまった。
「何だったんだろう?また一人ぼっちか。でも、いいんだ。夢だってわかってるんだから。目が覚めればベッドの中。心配せずに宇宙遊泳を楽しもうっと」
きらきら光る魚の群れが土星の輪に沿って泳いでいく。
「魚座流星群ってこと?夢の中ならなんでもありね」
目の前をティンカーベルとピーターラビットが横ぎっていく。
「友里恵」
振り向くと翔がいた。
「あれ?お兄ちゃんどうしてこんなところに?あ、そういえばこれ、夢だった」
「これだけじゃない。今までに友里恵がみた夢、全部返してあげてるところだよ。明日からはまた、普通に夢がみられるはずさ」
「返す…ってどういうこと?」
「君の兄貴は、去年の夏に海で溺れてた子供を助けて、自分は力尽きて死んでしまっただろう」
「え?え?何言ってるの?お兄ちゃん。目の前にいるじゃない」
「僕は君の兄じゃない。白バクだ」
「バク?」
「そう、夢をエサにして生きる生物。君の兄貴が死んだ後、君の記憶を操作し兄貴の死を忘れさせた」
「お兄ちゃんの…死?」
「そして君の兄貴になりすまし、君の夢を食べてきたんだ。君は夢が消えたことで悩んでいた。知らんふりをしようと思ってけど、でも、食べ損ねた夢の中に出てきた僕を、君はかわいそうだと言ってくれた。だから、今まで食べた夢を全部返してあげることにしたんだ。君の才能の泉を」
「お兄ちゃんの言ってること、わからない」
「君も思い出しかけてるだろう。僕の言ってることは全部本当だよ」
友里恵は翔の声が少しずつ弱っていることに気づいた。
「お兄ちゃん。顔色が悪いよ」
「体の中に取りこんだ夢を全部返してあげてるところだからね。エネルギー源が無くなったんだ」
「大丈夫なの?」
「もうすぐ僕は消えてしまうだろう」
「ダメ!お兄ちゃん消えないで」
「去年の夏からもう、君の兄貴はいないんだ」
「だって…だってお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。何も変わらない、困ったときには助けてくれたし、悩んでるときには励ましてくれた、嬉しいときには自分の事のように喜んでくれた。誰よりも私の事を思ってくれた」
「君の夢を食べることと引き換えにね。ギブアンドテイクだよ」
「本当のお兄ちゃんみたいだった」
「でも、違うんだ」
「本当のお兄ちゃんじゃなくてもいい。もう少しお兄ちゃんでいて!」
「無理だよ。今まで君の食事を作ったりして世話してくれていたのはナミ伯母さん。もういないお兄ちゃんと話している君を心配してる。安心させてあげて」
翔は弱々しく微笑んだ。
「夢がみたいって言ったけど、こんな夢は嫌だ。せっかく途中まで楽しかったのに…やっぱり夢なんて要らない!こんなの嫌だ。覚めろ、覚めろ」
友里恵は自分の顔をつねり、思い切りひっぱたいた。
「今までごめん。さよなら」
翔の姿は徐々に透けて消えていく。
「いや、いやだったら!お兄ちゃん!」
叫んでその体を捕まえようとする友里恵の手は、虚しく空をつかんだ。
「お兄ちゃんの自慢話を、全部わかってて聞いてくれた友達がいるだろ。彼と仲良くね」
最後の言葉は終わった時、友里恵はなぜ自分が空中に手を差しのべているのかわからなかった。ただ、わけもなくあとからあとから涙がこぼれた。
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