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予期せぬ出会い 1
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1999年。
恐怖の大王が到来して世界が滅びるとノストラダムスが予言し、また、バブル崩壊を認めたがらなかった最後の数名が渋々認めたのがこの年である。
山道を歩く6つの人影があった。
前を行く5人は手ぶらである。少し離れて、小柄な女性がよたよたと続く。背負ったり肩にかけたり両手に持ったりして運んでいるリュックやスポーツバッグが実に6つ。そのうえ首からステンボトルを一本さげている。
前から2番目の男が伸びをしながら言う。
「やっぱり自然はいいなあ」
「うーん、空気がうまい」と3番目。
「目に青葉」と4番目。
「山から小僧が下りてきた」と5番目。
「ぜえぜえ、佐藤君、それはちょっと違うと思うわ」
後ろの小柄な女性に言われ、佐藤はふりむいてピースサインをする。
「田原坂社長。鈴木さん、苦しそうですよ。鈴木さんには荷が勝ちすぎていると思いませんか?」
その声に先頭の田原坂がふりかえる。
「そうかね?鈴木君にだけ責任重大な仕事をさせているつもりはないが」
「いや、そうじゃなくてあの荷物。見てください。あれじゃまるで、荷物の成る木です」
鈴木はそれを聞くと、肩で息をしながら荷物をしっかり押さえ、毅然とした顔つきで山田と田原坂を見た。
「いいんです。田原坂社長。私だってここにいる佐藤、田中、高橋、山田という平凡の見本市のような男性たちと同じ新入社員。そして、私の名字は奇しくも鈴木。特別扱いなんかしてほしくありません。登山道入り口でジャンケンに負けた以上、ルールどおり人が通りかかるまで荷物を運び続けます。さあ、がんばっていきましょう」
がんばっていきましょうといっても鈴木はバランスをとるのがせいいっぱいで、なかなか前へ進まない。
「鈴木さん、同じ新入社員と言っても俺たちはできたばかりのこの会社に新卒で入社、鈴木さんは別の会社で勤続20年の後入社。体力が違うでしょ」
田中が心配そうに隣を歩き始めると反対側に山田も来た。
「新卒以外は任意って言われた研修に同行する姿勢は立派だけど、定年まで仕事するつもりなら何事もペース配分考えないと、途中でバテるよ」
「総務の畠中さんから聞いたけど、39歳の誕生日が3回来てるでしょ」
高橋のこの言葉に佐藤がふりかえる。
「畠中さんって鈴木さんとは昔からの仲いい友だちだって聞いてたけど、そういうことバラすかなあ」
「あんなにきれいな人なのに」
「天使の顔と悪魔の心。意外にバランスが取れてていいかもしれない」
「畠中さんも来るって言ってたのに、なぜ来なかったんだ?」
「家にいないと、いつヨネスケが来るかわからないからだって」
ヨネスケとは当時、アポなしで一般家庭に上がりこみ食事してそれを批評する番組に出演していたテレビタレントである。
彼らは勝手な話で盛り上がりながら、鈴木を取り囲むように歩き始めていた。その速度で歩いていれば、ほとんど疲れなくてすむからだ。
先頭の田原坂はスタートと全く同じペースで進んでいるため、いつしか木の間がくれにも見えなくなってしまった。
「ふあー。田原坂社長一人、ヤケに元気がいいぜ」
「背が高くて肩幅が広くて眉が上がって目元涼しい典型的なアスリート」
「ただでさえ俺たちとはコンパスの違いがあるのにあんなに大またで歩いて、いかにも新進気鋭の青年実業家でございますって感じで、ついていけない」
山田が顔をしかめた。
「俺なんかよく、だらけてるとかなってないとかって、長々と説教されるだろ。見上げてるとだんだん首が疲れて、ふと気がつくとシャツの第二ボタンのあたりをぼんやり見てるんだ。俺は卒業式の女子高生じゃない」
そんな佐藤に田中が応じる。
「道理でかわいげがないと思った」
「佐藤にかわいげがあってもしょうがないだろ。あったらどうしようっていうんだ」
高橋があきれ顔になる。
「それにしても、新入社員の研修がなんでこんな山奥なんだよ」と佐藤。
「研修が山奥の寺なんて、よくある話じゃないか」と山田。
「健全な企業に限って言えば、よくある話じゃないな。単位が取れなくて2回もダブって、やっと出てきた時には仕事がみつからなくて就職浪人して、挙句の果てのゴールがこれかよ」
佐藤がため息をつく。
「塾に通って高校に入り、予備校に通ってようやく大学に入り。そんな熾烈な受験戦争をかいくぐって、卒業する頃には就職氷河期。不運に見舞われたが、俺はこの会社に拾ってもらえただけでありがたいと思ってるよ」
田中が胸を張り、声はもっと張った。
「サンタクロースに大学の合格通知をお願いして3か月後に届いた時には嬉しかったな。サンタの正体が父親だと知った俺は合格が実力だったと喜ぶより、じゃあ母親は実は宇宙人で兄貴は半魚人で妹は妖怪すねこすりかもしれないと思った」
「高橋。田中の話の腰を折りたい一心でしょうもない嘘つくな」
「俺のじいちゃん伝説のツッパリで、霊柩車ハコ乗りしてた」
「佐藤。おまえまでつられてくだらん嘘つくな」
「嘘じゃない。俺は嘘つくと鼻が長くなる体質なんだ」
「俺は嘘つくと口がバッテンになり、それが続くとミッフィーに変身する」
山田が真顔で言う。
「ミッフィーの顔は下向きの鼻とへの字型の口だ。みんな、我勝ちに嘘つくのやめろ。いいか?いったん落ち着こう」
そんな田中の語尾にかさねて、高橋が「あっ」と叫ぶなり座りこんだ。
「どうした。ミッフィーのバッテンの口がイソギンチャク型に開くところを思い浮かべたか?」
山田が駆け寄る。
「冗談言ってる場合じゃないぞ。おい、大丈夫か?」
つづく佐藤の後姿に田中が冷ややかな一言を浴びせる。
「何が何でもミッフィーのネタを強行するヤツ。そして、そいつに介抱されるニセ病人。高橋、立てよ。おおかた、腹が減って動けないってジェスチャーだろ」
「違う。何か動いた。親父から幻の生物ツチノコの話、聞いたことがあるんだ。あれがもしそうだったら、金持ちアンド有名になれるぞ。うまくいけば社畜回避だ。まだそこらにいるんじゃないか」
高橋があまりに熱心に草むらをかきわけるので、つられて全員がツチノコ探しを始めた。高橋のつかんだ草と田中の草が根でつながっていて、引き合いになった。田中はあわてて草を放し、バツの悪そうな顔で立ち上がった。
「あきらめろ。ツチノコの正体は何かの卵を丸呑みしたヘビだと本に書いてあった」
「皮が伸びきってるから、盲腸の手術後でもあったら裂けちまうな」
「爬虫類に盲腸があるか」
「もういいよ、行こう」
高橋が名残り惜しそうに立ち上がると、4人はまた鈴木のペースに合わせてのろのろと歩き出した。その後1分と経たないうちに、佐藤が道の奥に向って呼びかけた。
「田原坂社長。このへんで弁当にしましょう」
「佐藤。おまえあい変らず食い意地が張ってるな。まだ12時5分前だぞ」
「その5分の間に恐怖の大王が降りてきて世界が滅びたらどうするんだ」
「世界が滅びてる最中にのんびりメシ食ってられるのか、おまえは」
そんなことを言い合っている間にも、荷物のせいで鈴木と男子グループとの距離はどんどん離れていく。ついに鈴木が力尽きてがっくりと膝をついた。
「もうだめ。私にかまわず行って」
山田が気づいて引き返す。
「鈴木さん、少し持つよ」
「ダメ。人が通りかかるまでこの荷物、死んでもはなすわけにいかないわ」
「じゃ、どうするんだよ。 この中には、みんなの弁当も入ってるんだぞ」
高橋の大声を聞きつけ、田原坂が引き返してきた。
「みんな、どうしたんだ。自分はもう頂上まで行ってやまびこと輪唱までしてきたぞ。しかし、思ったんだが、あれは始めるのはいいがやめるタイミングが難しいな」
「田原坂社長。鈴木さんが、もう動けないから先に行って、って」
田原坂は腕組みして鈴木の前に立った。
「鈴木君。こんなことは言いたくないが、もしかして、みんなの弁当を食べるつもりじゃないのかね?」
「そ…そんな」
他の3人も集まってきた。
「きっとそうだ。みんながいなくなった後で弁当を六つぺろりとたいらげて」と田中
「みんなが戻ってきたら熊が出たとかなんとか口からでまかせ」と佐藤
「ああ怖かったとしおらしく泣いて」と山田。
「ここらで熱いお茶が怖い」と高橋。
「なんて女だ」
一同の声がきれいにそろう。
慌てて鈴木が言った。
「ちょっと待って。今時、その落語を知っている人がどれだけいると思うの?こうしましょう。ここでお弁当にするっていうのはどう?」
「鈴木君。それはいいアイディアだ。諸君。ここで昼食にしよう」
「田原坂社長。その意見はなんら斬新なものではありません。現にその案ならさっき僕が出しています」
「佐藤。弁当食うのに意見も案もないだろう」
6人は登山道を離れて草むらに入った。大木の下に敷物を敷き、車座になって弁当をひろげる。
「社長。どうぞ」
田中が田原坂に紙コップを手渡し、ステンボトルからお茶を注ぐが、手元が狂って田原坂の手の指にかけてしまった。
「熱っ!」
「す…すみません」
「熱つつつつつぅ」
田原坂は急いで右足の靴と靴下を脱ぎ足の指の間にヤケドした手の指をはさんだ。あっけに取られて見守る新入社員たちに田原坂が説明する。
「何もびっくりすることはないよ。こないだ測ってみたら私の場合、全身の中で耳たぶより足の指の間の方が、体温が低いことがわかったんだ」
新入社員たちはあいまいな微笑で返事に替えた。
皆が食事を終え立ち上がろうとした時、林の奥からわざとらしく朗らかな笑い声が聞こえてきた。絵に描いたように健康的な青年が現れ、続いて、あどけなさを表すために強烈にデフォルメされた少年と少女のあやつり人形がこちらに近づいてくる。人形たちは色違いの格子柄の綿シャツにそろいのデニムのオーバーオール。髪の毛は、一本一本が極太の毛糸より太く、それぞれ金色とモスグリーン。棒使いらしく背中と肘から棒が出ていて、背中の方の一本は地面の上を引きずっている。
恐怖の大王が到来して世界が滅びるとノストラダムスが予言し、また、バブル崩壊を認めたがらなかった最後の数名が渋々認めたのがこの年である。
山道を歩く6つの人影があった。
前を行く5人は手ぶらである。少し離れて、小柄な女性がよたよたと続く。背負ったり肩にかけたり両手に持ったりして運んでいるリュックやスポーツバッグが実に6つ。そのうえ首からステンボトルを一本さげている。
前から2番目の男が伸びをしながら言う。
「やっぱり自然はいいなあ」
「うーん、空気がうまい」と3番目。
「目に青葉」と4番目。
「山から小僧が下りてきた」と5番目。
「ぜえぜえ、佐藤君、それはちょっと違うと思うわ」
後ろの小柄な女性に言われ、佐藤はふりむいてピースサインをする。
「田原坂社長。鈴木さん、苦しそうですよ。鈴木さんには荷が勝ちすぎていると思いませんか?」
その声に先頭の田原坂がふりかえる。
「そうかね?鈴木君にだけ責任重大な仕事をさせているつもりはないが」
「いや、そうじゃなくてあの荷物。見てください。あれじゃまるで、荷物の成る木です」
鈴木はそれを聞くと、肩で息をしながら荷物をしっかり押さえ、毅然とした顔つきで山田と田原坂を見た。
「いいんです。田原坂社長。私だってここにいる佐藤、田中、高橋、山田という平凡の見本市のような男性たちと同じ新入社員。そして、私の名字は奇しくも鈴木。特別扱いなんかしてほしくありません。登山道入り口でジャンケンに負けた以上、ルールどおり人が通りかかるまで荷物を運び続けます。さあ、がんばっていきましょう」
がんばっていきましょうといっても鈴木はバランスをとるのがせいいっぱいで、なかなか前へ進まない。
「鈴木さん、同じ新入社員と言っても俺たちはできたばかりのこの会社に新卒で入社、鈴木さんは別の会社で勤続20年の後入社。体力が違うでしょ」
田中が心配そうに隣を歩き始めると反対側に山田も来た。
「新卒以外は任意って言われた研修に同行する姿勢は立派だけど、定年まで仕事するつもりなら何事もペース配分考えないと、途中でバテるよ」
「総務の畠中さんから聞いたけど、39歳の誕生日が3回来てるでしょ」
高橋のこの言葉に佐藤がふりかえる。
「畠中さんって鈴木さんとは昔からの仲いい友だちだって聞いてたけど、そういうことバラすかなあ」
「あんなにきれいな人なのに」
「天使の顔と悪魔の心。意外にバランスが取れてていいかもしれない」
「畠中さんも来るって言ってたのに、なぜ来なかったんだ?」
「家にいないと、いつヨネスケが来るかわからないからだって」
ヨネスケとは当時、アポなしで一般家庭に上がりこみ食事してそれを批評する番組に出演していたテレビタレントである。
彼らは勝手な話で盛り上がりながら、鈴木を取り囲むように歩き始めていた。その速度で歩いていれば、ほとんど疲れなくてすむからだ。
先頭の田原坂はスタートと全く同じペースで進んでいるため、いつしか木の間がくれにも見えなくなってしまった。
「ふあー。田原坂社長一人、ヤケに元気がいいぜ」
「背が高くて肩幅が広くて眉が上がって目元涼しい典型的なアスリート」
「ただでさえ俺たちとはコンパスの違いがあるのにあんなに大またで歩いて、いかにも新進気鋭の青年実業家でございますって感じで、ついていけない」
山田が顔をしかめた。
「俺なんかよく、だらけてるとかなってないとかって、長々と説教されるだろ。見上げてるとだんだん首が疲れて、ふと気がつくとシャツの第二ボタンのあたりをぼんやり見てるんだ。俺は卒業式の女子高生じゃない」
そんな佐藤に田中が応じる。
「道理でかわいげがないと思った」
「佐藤にかわいげがあってもしょうがないだろ。あったらどうしようっていうんだ」
高橋があきれ顔になる。
「それにしても、新入社員の研修がなんでこんな山奥なんだよ」と佐藤。
「研修が山奥の寺なんて、よくある話じゃないか」と山田。
「健全な企業に限って言えば、よくある話じゃないな。単位が取れなくて2回もダブって、やっと出てきた時には仕事がみつからなくて就職浪人して、挙句の果てのゴールがこれかよ」
佐藤がため息をつく。
「塾に通って高校に入り、予備校に通ってようやく大学に入り。そんな熾烈な受験戦争をかいくぐって、卒業する頃には就職氷河期。不運に見舞われたが、俺はこの会社に拾ってもらえただけでありがたいと思ってるよ」
田中が胸を張り、声はもっと張った。
「サンタクロースに大学の合格通知をお願いして3か月後に届いた時には嬉しかったな。サンタの正体が父親だと知った俺は合格が実力だったと喜ぶより、じゃあ母親は実は宇宙人で兄貴は半魚人で妹は妖怪すねこすりかもしれないと思った」
「高橋。田中の話の腰を折りたい一心でしょうもない嘘つくな」
「俺のじいちゃん伝説のツッパリで、霊柩車ハコ乗りしてた」
「佐藤。おまえまでつられてくだらん嘘つくな」
「嘘じゃない。俺は嘘つくと鼻が長くなる体質なんだ」
「俺は嘘つくと口がバッテンになり、それが続くとミッフィーに変身する」
山田が真顔で言う。
「ミッフィーの顔は下向きの鼻とへの字型の口だ。みんな、我勝ちに嘘つくのやめろ。いいか?いったん落ち着こう」
そんな田中の語尾にかさねて、高橋が「あっ」と叫ぶなり座りこんだ。
「どうした。ミッフィーのバッテンの口がイソギンチャク型に開くところを思い浮かべたか?」
山田が駆け寄る。
「冗談言ってる場合じゃないぞ。おい、大丈夫か?」
つづく佐藤の後姿に田中が冷ややかな一言を浴びせる。
「何が何でもミッフィーのネタを強行するヤツ。そして、そいつに介抱されるニセ病人。高橋、立てよ。おおかた、腹が減って動けないってジェスチャーだろ」
「違う。何か動いた。親父から幻の生物ツチノコの話、聞いたことがあるんだ。あれがもしそうだったら、金持ちアンド有名になれるぞ。うまくいけば社畜回避だ。まだそこらにいるんじゃないか」
高橋があまりに熱心に草むらをかきわけるので、つられて全員がツチノコ探しを始めた。高橋のつかんだ草と田中の草が根でつながっていて、引き合いになった。田中はあわてて草を放し、バツの悪そうな顔で立ち上がった。
「あきらめろ。ツチノコの正体は何かの卵を丸呑みしたヘビだと本に書いてあった」
「皮が伸びきってるから、盲腸の手術後でもあったら裂けちまうな」
「爬虫類に盲腸があるか」
「もういいよ、行こう」
高橋が名残り惜しそうに立ち上がると、4人はまた鈴木のペースに合わせてのろのろと歩き出した。その後1分と経たないうちに、佐藤が道の奥に向って呼びかけた。
「田原坂社長。このへんで弁当にしましょう」
「佐藤。おまえあい変らず食い意地が張ってるな。まだ12時5分前だぞ」
「その5分の間に恐怖の大王が降りてきて世界が滅びたらどうするんだ」
「世界が滅びてる最中にのんびりメシ食ってられるのか、おまえは」
そんなことを言い合っている間にも、荷物のせいで鈴木と男子グループとの距離はどんどん離れていく。ついに鈴木が力尽きてがっくりと膝をついた。
「もうだめ。私にかまわず行って」
山田が気づいて引き返す。
「鈴木さん、少し持つよ」
「ダメ。人が通りかかるまでこの荷物、死んでもはなすわけにいかないわ」
「じゃ、どうするんだよ。 この中には、みんなの弁当も入ってるんだぞ」
高橋の大声を聞きつけ、田原坂が引き返してきた。
「みんな、どうしたんだ。自分はもう頂上まで行ってやまびこと輪唱までしてきたぞ。しかし、思ったんだが、あれは始めるのはいいがやめるタイミングが難しいな」
「田原坂社長。鈴木さんが、もう動けないから先に行って、って」
田原坂は腕組みして鈴木の前に立った。
「鈴木君。こんなことは言いたくないが、もしかして、みんなの弁当を食べるつもりじゃないのかね?」
「そ…そんな」
他の3人も集まってきた。
「きっとそうだ。みんながいなくなった後で弁当を六つぺろりとたいらげて」と田中
「みんなが戻ってきたら熊が出たとかなんとか口からでまかせ」と佐藤
「ああ怖かったとしおらしく泣いて」と山田。
「ここらで熱いお茶が怖い」と高橋。
「なんて女だ」
一同の声がきれいにそろう。
慌てて鈴木が言った。
「ちょっと待って。今時、その落語を知っている人がどれだけいると思うの?こうしましょう。ここでお弁当にするっていうのはどう?」
「鈴木君。それはいいアイディアだ。諸君。ここで昼食にしよう」
「田原坂社長。その意見はなんら斬新なものではありません。現にその案ならさっき僕が出しています」
「佐藤。弁当食うのに意見も案もないだろう」
6人は登山道を離れて草むらに入った。大木の下に敷物を敷き、車座になって弁当をひろげる。
「社長。どうぞ」
田中が田原坂に紙コップを手渡し、ステンボトルからお茶を注ぐが、手元が狂って田原坂の手の指にかけてしまった。
「熱っ!」
「す…すみません」
「熱つつつつつぅ」
田原坂は急いで右足の靴と靴下を脱ぎ足の指の間にヤケドした手の指をはさんだ。あっけに取られて見守る新入社員たちに田原坂が説明する。
「何もびっくりすることはないよ。こないだ測ってみたら私の場合、全身の中で耳たぶより足の指の間の方が、体温が低いことがわかったんだ」
新入社員たちはあいまいな微笑で返事に替えた。
皆が食事を終え立ち上がろうとした時、林の奥からわざとらしく朗らかな笑い声が聞こえてきた。絵に描いたように健康的な青年が現れ、続いて、あどけなさを表すために強烈にデフォルメされた少年と少女のあやつり人形がこちらに近づいてくる。人形たちは色違いの格子柄の綿シャツにそろいのデニムのオーバーオール。髪の毛は、一本一本が極太の毛糸より太く、それぞれ金色とモスグリーン。棒使いらしく背中と肘から棒が出ていて、背中の方の一本は地面の上を引きずっている。
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