虹の橋 封鎖できません

瑠俱院 阿修羅

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虹の橋 封鎖できません

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ジョルジュは17歳。人間で言うと84歳。ハイシニアと呼ぶらしい。
といっても正確な年齢はわからない。
初めての健康診断で獣医に連れて行った時に聞いた大体の年齢に1年ずつ足していっただけで、断言はできないのだ。
とりあえずジョルジュは、世間の同年代の猫に比べてまだまだ元気だ。
自分はランチに200円のパンをかじりながらでも、ジョルジュの健康長寿の為にピュリナワンを与えている飼い主の懐事情も、多分知っている。
ピュリナワン1980円。
手術が必要になった時の為のペット保険が年間17000円。
これだけあったらあれも買える、これも買える。
そう思うこともあるが、結局ジョルジュの健康より欲しいものはない。
見返りは可愛い姿と甘えゴロゴロと膝のりとスリスリとあごのせ。
世間でいう高齢猫の例にもれず、ジョルジュは動き回るより寝ているほうを好むようになった。
フタが軒のようにかぶさって中がよく見えない横向き段ボールの寝床が、今のジョルジュのお気に入りだ。
壊れて使わなくなった高座椅子のクッションをはずして、中に敷いてある。
そんなジョルジュ、弟たちに猫じゃらしを振っていると、唐突に滑り込んできて遊び始めることがある。
たまにだが、おもちゃの占有権を主張する弟に、なんだよ、とタッチ程度のふわっとした猫パンチをすることもある。
一度、丸まったカーペットに猫キックをしながら夢中になって転げ回って遊んでいて、弟たちがちょっとひいていたことがある。
それに気づいたジョルジュは急に立ち上がり、「いや、別にじゃれてねえし」みたいな顔で立ち去って行った。
飼い主的にはじゃれたり遊んだりしてくれた方が嬉しいが、猫にも年上のプライドがあるようだ。
ジョルジュはよく、ご飯を食べた後すぐにご飯くれアピールをする。
これがいわゆる認知症に近いのか、ただの食いしん坊なのか判断がつかない。
人間でも高齢になると一度にたくさんは食べられないはずと考え、あと、朝は特に、もどしてしまうことがあるので念のため少なめにしている。
そのせいかもしれない。
食べてすぐの腹減ったアピール。
つぶらな瞳キラキラ攻撃。
スリスリしながら飼い主の手を甘噛み。
少しなら、とついあげてしまう。
保護したばかりの頃は、飛んでいる虫まで食べようとしていた。
そうか、この子は死ぬほどお腹がすいたことがあるんだ、とそれを思い出したらかわいそうになってしまうのだ。
「健康長寿のため、太らないように気をつけています」と獣医さんに言って、「人間もそうだけど、小太りくらいが健康長寿にはちょうどいいです」と言われたことがある。
じゃあ、我慢させずに食べたいだけ食べさせたらいいのかな、と思って一度欲しがるたびにフードとトリーツを与えてみた。
無限に食べる。
ギャル曽根じゃなくて『ジョル曽根』。
怖くなってそれはやめた。
少なすぎてもすぐにせがまれるし、欲しがるたびにダラダラ不規則に与えていては体に良くない。
色々考え、1日2回だったご飯を1日3回に変え、1日の量は変わらないけど1回の分量が少なくなるようにした。
ところが、今度は弟たちが昼にもご飯を欲しがるようになった。
「ジョルジュお兄ちゃんは朝のご飯が少なかったんだよ」と猫に理解させる方法はない。
次に考えたのが、昼に3兄弟にカリカリを与える。
その際、ジョルジュはご飯の分量、弟たちはおやつの分量、というやり方。
これはうまく機能するように思えたが、ご飯の時間と違っておのおの好きな場所でくつろいでいるので、カリカリを皿に入れる音がしても集まってこないことがある。
キッチンのあるフロアにみんないる時もあり、ジョルジュだけがいる時もあれば他の子が片方だけいる時もある。
いない子の分はもういいかな、と思っても、なんか不公平な気がして取っておき、来た時にあげる。
すると、他の子が「僕も」と寄ってくる。
「あなたはさっき食べたでしょ」と猫に理解させる方法はない。
仕方がないのでお昼に一度に済むように、その場にいない子のところまで皿を持っていって与える。
2階の一番奥の部屋の段ボール箱の中にいるモネのところまでおやつの皿を持ってデリバリーしに行って、ふと思った。
人間が猫のためにわざわざ階段を上がっておやつを運んで行って給仕をしている。
これってつまり…。
猫様の役にも立つ人間用ダイエットプログラムにもなるということではないだろうか。

猫様3匹との穏やかな至福の日々。
できたら虹の橋のことは考えたくない。
可能なら封鎖したい。でも、「虹の橋、封鎖できません」。
だから、自分にできることは猫たちの健康を維持することだけ。
現在、検索と経験の結果たどり着いたご飯とオヤツの適量を与えて、食前には一緒に遊んで運動もしてもらっている。
自分の健康にも気を使っている。
これはひとえに、ジョルジュ、ルネ、モネの健康と長生きを全力でサポートするためだ。

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