2 / 45
2. 後輩をかばうベーシスト天使テュリクセル
しおりを挟む
同じ日の午後、ポンペイの山中を、縦一列になって歩く八つの人影があった。
8人とも、背中に翼を生やしている。
後ろから2番目だけが、荷物を山積みにしたリヤカーを引いている。最後尾の長身の天使がその背中に手を当て、他のメンバーに気づかれないように時々そっと押している。
リヤカーを引いているのはギタリストで身長180㎝の美青年天使ヒュリエル、その後ろが身長190㎝あり、見ようによっては凛々しいがかなりいかつい顔のベーシスト天使テュリクセルだ。
リヤカーの荷箱の側面は図案化した翼の形をしている。
砂にうずもれかけた列柱が虚しく天を支える遺跡があちこちに点在する道なき道を、彼らはかれこれ2時間もこうやって歩いてきた。
「ヒュリエル。もう少し速く歩けないか?」
テュリクセルに言われて上目づかいに睨みつけながら、梶棒に前かがみになったヒュリエルが答える。
「地面は石ころだらけだし、荷物が重過ぎてなかなか前に進まないんだ」
「国連軍の亡霊に頼んで目的地に投下してもらいわけにもいかんだろう。楽器なんだから」
第二ドラマーのナイジェルが生え際前線の後退した額に皺を寄せ、顔に同情の色をうかべた。
「なぜ、8人もいて、僕だけがこんなに重い荷物を一人で運ばなきゃならないんだ」
「おまえが後輩だからだよ。ヒュリエル」
キーボードの魔術師、ギヒテルが答える。
彼は身長が2メートル近くあり、髪は金髪、とここまではいいのだが顔はほとんど雪男で、ぼさぼさむさくるしい口髭とあご髭を生やしている。
かつて、彼はこの髪を背中まで伸ばし、銀色のマントを着てステージに立っていた。
「《ケルビム》といえば、天使なら誰でも一目おく名門バンド。2026年に人類が滅亡した後、人間と神の仲介役だった我々天使は手持ち無沙汰になって無人の地上に降り立ち、そこに残されていた楽器を手にとって演奏活動を始めた。それが、肉体から魂が離れたものの天に召されることもできず地上をさまよっていた亡霊たちに異様にウケて、盛り上がってしまったのは周知の事実。
我々《ケルビム》はそんな天使バンドの中で最も歴史が古く、活動は13年に及ぶ。メンバーは逸材揃い。そんなバンドに入れてもらえたんだから、荷物持ちくらい自分から買って出るのが当然だろう」
「けっ。ごたいそうに。たかが失業者のヒマつぶしの延長じゃないか。たしかに歴史は一番古いが、それは安息天使の中でも最初に職場離脱をしたってことだ。
だいたい、さんざんメンバー・チェンジを繰り返した挙句一度解散したのは自分たちだろう。
そこで《ケルビム》の全ての活動に終止符が打たれたはずだ。
それなのに、その一年後に、最初に脱退した初期メン含む残党3人に美しい僕を加えて《4エンジェルス》として新しくスタートして、ヒットを連発したら、レコード会社のプッシュで出戻りのジョフィエルが強引に加入してきた。名前も《5エンジェルス》に変更。
ジョフィエルがリーダー面でさんざんひっかきまわした挙句、最近になって他の元メンバーまでぞろぞろ芋ずる式に連れ戻して結局8人の大所帯になっちまった。
その後は、よってたかって僕を若輩者扱い。
Uターン組は最長4年のブランクを棚にあげて後輩の新参者のと僕を顎でこき使い、ことあるごとにやれ自分たちは名門だ、逸材ぞろいだとひとを見下して。
それに、昔のメンバーが全員そろったからってまたバンド名を《ケルビム》に戻すことはないだろう。《8エンジェルス》にすればいいことじゃないか。
そもそも、〈ケルビム〉っていうのは智天使で、一般の天使からすれば七つも位が上だぞ。よくもまあ、図々しくつけたもんだ。それに、本物の〈ケルビム〉だって、主な功績といえばエデンの園の入り口でアダムとイブが舞い戻らないように見張ってたくらいのものじゃないか。テーマパークのチケットスタンドといったいどこが違うっていうんだ?そもそも、最初に人類が誕生して400万年以上。最後の一人までハケた今、〈ケルビム〉なんて名前にどんな権威があるっていうんだ」
「何か言ったか?ヒュリエル」
「かなりいろいろ言ったよ。ご希望なら一言一句違えずに全部初めからくりかえすけど」
ギヒテルの怒りの表情をもとのともせず、ヒュリエルがしれっと答える。
8人とも、背中に翼を生やしている。
後ろから2番目だけが、荷物を山積みにしたリヤカーを引いている。最後尾の長身の天使がその背中に手を当て、他のメンバーに気づかれないように時々そっと押している。
リヤカーを引いているのはギタリストで身長180㎝の美青年天使ヒュリエル、その後ろが身長190㎝あり、見ようによっては凛々しいがかなりいかつい顔のベーシスト天使テュリクセルだ。
リヤカーの荷箱の側面は図案化した翼の形をしている。
砂にうずもれかけた列柱が虚しく天を支える遺跡があちこちに点在する道なき道を、彼らはかれこれ2時間もこうやって歩いてきた。
「ヒュリエル。もう少し速く歩けないか?」
テュリクセルに言われて上目づかいに睨みつけながら、梶棒に前かがみになったヒュリエルが答える。
「地面は石ころだらけだし、荷物が重過ぎてなかなか前に進まないんだ」
「国連軍の亡霊に頼んで目的地に投下してもらいわけにもいかんだろう。楽器なんだから」
第二ドラマーのナイジェルが生え際前線の後退した額に皺を寄せ、顔に同情の色をうかべた。
「なぜ、8人もいて、僕だけがこんなに重い荷物を一人で運ばなきゃならないんだ」
「おまえが後輩だからだよ。ヒュリエル」
キーボードの魔術師、ギヒテルが答える。
彼は身長が2メートル近くあり、髪は金髪、とここまではいいのだが顔はほとんど雪男で、ぼさぼさむさくるしい口髭とあご髭を生やしている。
かつて、彼はこの髪を背中まで伸ばし、銀色のマントを着てステージに立っていた。
「《ケルビム》といえば、天使なら誰でも一目おく名門バンド。2026年に人類が滅亡した後、人間と神の仲介役だった我々天使は手持ち無沙汰になって無人の地上に降り立ち、そこに残されていた楽器を手にとって演奏活動を始めた。それが、肉体から魂が離れたものの天に召されることもできず地上をさまよっていた亡霊たちに異様にウケて、盛り上がってしまったのは周知の事実。
我々《ケルビム》はそんな天使バンドの中で最も歴史が古く、活動は13年に及ぶ。メンバーは逸材揃い。そんなバンドに入れてもらえたんだから、荷物持ちくらい自分から買って出るのが当然だろう」
「けっ。ごたいそうに。たかが失業者のヒマつぶしの延長じゃないか。たしかに歴史は一番古いが、それは安息天使の中でも最初に職場離脱をしたってことだ。
だいたい、さんざんメンバー・チェンジを繰り返した挙句一度解散したのは自分たちだろう。
そこで《ケルビム》の全ての活動に終止符が打たれたはずだ。
それなのに、その一年後に、最初に脱退した初期メン含む残党3人に美しい僕を加えて《4エンジェルス》として新しくスタートして、ヒットを連発したら、レコード会社のプッシュで出戻りのジョフィエルが強引に加入してきた。名前も《5エンジェルス》に変更。
ジョフィエルがリーダー面でさんざんひっかきまわした挙句、最近になって他の元メンバーまでぞろぞろ芋ずる式に連れ戻して結局8人の大所帯になっちまった。
その後は、よってたかって僕を若輩者扱い。
Uターン組は最長4年のブランクを棚にあげて後輩の新参者のと僕を顎でこき使い、ことあるごとにやれ自分たちは名門だ、逸材ぞろいだとひとを見下して。
それに、昔のメンバーが全員そろったからってまたバンド名を《ケルビム》に戻すことはないだろう。《8エンジェルス》にすればいいことじゃないか。
そもそも、〈ケルビム〉っていうのは智天使で、一般の天使からすれば七つも位が上だぞ。よくもまあ、図々しくつけたもんだ。それに、本物の〈ケルビム〉だって、主な功績といえばエデンの園の入り口でアダムとイブが舞い戻らないように見張ってたくらいのものじゃないか。テーマパークのチケットスタンドといったいどこが違うっていうんだ?そもそも、最初に人類が誕生して400万年以上。最後の一人までハケた今、〈ケルビム〉なんて名前にどんな権威があるっていうんだ」
「何か言ったか?ヒュリエル」
「かなりいろいろ言ったよ。ご希望なら一言一句違えずに全部初めからくりかえすけど」
ギヒテルの怒りの表情をもとのともせず、ヒュリエルがしれっと答える。
0
あなたにおすすめの小説
花鳥見聞録
木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。
記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?
レオナルド先生創世記
ポルネス・フリューゲル
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ベテラン精霊王、虐げられ皇子の子育てに励みます
はんね
ファンタジー
大陸で最も広大な領土と栄華を誇るアストラニア帝国。
その歴史は、初代皇帝ニコラスと精霊王バーティミアスが“疫病王ヴォラク”を討ち倒したことから始まった。ニコラスとバーティミアスは深い友情を結び、その魂を受け継ぐ皇子たちを永遠に見守り、守護する盟約を交わした。
バーティミアスは幾代もの皇帝を支え、帝国は長き繁栄を享受してきた。しかし、150年の眠りから目覚めた彼の前に現れた“次の皇帝候補”は、生まれたばかりの赤ん坊。しかもよりにもよって、十三番目の“虐げられ皇子”だった!
皮肉屋で老獪なベテラン精霊王と、世話焼きで過保護な月の精霊による、皇帝育成(?)奮闘記が、いま始まる——!
人物紹介
◼︎バーティミアス
疫病王ヴォラクを倒し初代皇帝ニコラスと建国初期からアストラニア帝国に使える精霊。牡鹿の角をもつ。初代皇帝ニコラスの魂を受け継ぐ皇子を守護する契約をしている。
◼︎ユミル
月の精霊。苦労人。バーティミアスとの勝負に負け、1000年間従属する契約を結びこき使われている。普段は使用人の姿に化けている。
◼︎アルテミス
アストラニア帝国の第13皇子。北方の辺境男爵家の娘と皇帝の息子。離宮に幽閉されている。
◼︎ウィリアム・グレイ
第3皇子直属の白鷲騎士団で問題をおこし左遷されてきた騎士。堅物で真面目な性格。代々騎士を輩出するグレイ家の次男。
◼︎アリス
平民出身の侍女。控えめで心優しいが、アルテミスのためなら大胆な行動に出る一面も持つ。
異世界転生した元開発担当、チート農業スキルで最高級米を作って「恵方巻」を流行らせます!没落令嬢と組んでライバル商会をざまぁする
黒崎隼人
ファンタジー
コンビニ弁当の開発担当だった俺は、過労の果てに異世界へ転生した。
手に入れたのは、触れるだけで作物を育て、品種改良までできる農業チートスキル『豊穣の指先』。
でも、俺が作りたいのは普通の野菜じゃない。
前世で最後に食べ損ねた、あの「恵方巻」だ!
流れ着いた先は、パンとスープが主食の田舎町。
そこで出会ったのは、経営難で倒産寸前の商会を切り盛りする、腹ペコお嬢様のリリアナだった。
「黒くて太い棒を、無言で丸かじりするんですか……? そんな野蛮な料理、売れるわけがありません!」
最初はドン引きしていた彼女も、一口食べればその美味さに陥落寸前?
異世界の住人に「今年の吉方位を向いて無言で願い事をする」という謎の風習を定着させろ!
米作りから海苔の養殖、さらにはライバル商会とのバトルまで。
チート農家と没落令嬢がタッグを組んで挑む、おいしくておかしなグルメ・サクセスストーリー、開店!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
異世界へ行って帰って来た
バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。
そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる