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13.確執をしらみつぶしに思い出してけなし合う大御所バンドメンバー
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バンドの活動が長くなると、多くの場合、『おまえが過去をむしかえすなら俺だって連鎖』を恐れて、禍根にはなるべくふれない暗黙のルールがいつの間にか成立する。
しかし、この《過去抑止力》、一旦激情に駆られた一人が暴走するとあっという間に均衡が破れ、牽制しあっていた二つの国がもてる核兵器を使い果たすまで続く核戦争のごとき惨状へと発展する。
「まだ、あるぞ。亡霊たちのパーティーがうるさいといって、廃墟の中でも比較的保存状態がよくて天使バンドの定宿になっていたホテルを壊した」
「僕一人でやったわけじゃない」
「かねてから〈前衛天球派〉の祖である我々は天使バンドの見本となるよう紳士的にふるまわなければならない、と言っていた君が12フィートもある棒で電球を壊したから、ナイジェルやラウエルもあとに続いたんじゃないか。なまじ、図体がでかいと主犯だと思われて、何もしてないのにしぼられた俺とギヒテルはえらい迷惑だ」
ジョフィエルが過去の二人の関係に言及しないとわかれば、テュリクルも強気だ。
「ライブのオープニングで新譜のインストルメンタルを予定してたのに、ステージング・プロデューサーの目をぬすんで直前にデータを差し替え、個人的な友だちの曲を流したこともあったな」
ここでテュリクセルの言う〈個人的な友だち〉もまた、ゴルゴポタモス・阿・ヴァン・アンク・O・タオ・ギーダ、こと《神》である。
ジョフィエルとのコラボレーション・アルバム以来、多くの〈前衛天球派〉音楽ファンの間に広くその名は知られるようになったが、《ケルビム》のメンバーたちももちろん、いまだにその正体を知らない。
「さあ、どうだ。まだまだ、いくらでもあるぞ」
「今さら反省しても遅いよ」
「本人が言うなよ」
ジョフィエルは、そろそろ誰か止めてくれないかと周りを見回した。程度の差こそあれ、同意の表情を浮かべた5つの顔があった。
どこかで声変わりのことを告げなければならないからと、他の天使たちとともに歩いてここまで来たが、こんなことなら、いつものように自分だけ飛んでくればよかったとジョフィエルは後悔した。
「ところで、ヒュリエルはどうした?山のような荷物に悪戦苦闘していたようだが」
「ヒュリエルならリヤカーと一緒にすごいスピードで、転がるように坂を下っていった。先に行って荷解きを片付けるつもりだろう。いつもならそんな心遣いとは無縁の君が、こんな時だけ彼のことを気にかけるふりなんかして話をはぐらかそうったって、そうはいくか。
君はいつもそうだ。舌先三寸で相手をケムにまいて自分のペースに巻きこみ、バンドを私物化してやりたい放題。第一期《ケルビム》時代、みんな面と向かって口には出さなかったが、君のしてきたことに反対意見や苦情はいくらでもあったんだ。そろそろ、自分が、演奏テクをひけらかすだけの鼻持ちならないアカデミック集団に陥らないためのバンドの護符、『精神性』と書かれた看板にすぎなかったことを自覚するんだな」
テュリクセルは頭一つ上からまくしたて、その横ではロドフェルが、次は自分の番だとばかりにうずうずして待っている。ジョフィエルは、ここはともかく謝るのが得策だと判断した。
「さっきから君が言っている僕のかつての行い。全部は憶えてないが、大体合ってると思う。悪かったよ。テュリクセル」
それから、ロドフェルに向きなおり、同じ表情で詫びた。
「ロドフェル。悪かった。君たちを呼び集めたのは別に、万魔殿行きが近いとかそういう理由からじゃない。角がとれて丸くなった、というのかな。別々の道を歩んでいた時の確執を忘れてみんな仲良くできたらいいなと思っただけだ。天使の本分を思い出したんだよ」
「いや。僕のほうこそ悪かったよ」
「角が取れて丸くなったとたんにスターダムから転がり落ちた天使バンドは多いが、僕たちなら大丈夫」
「転がり落ちてもまた、頂点に逆戻りしてみせるさ。チョロQのように。な、ラウエル」
「そうだとも。《ケルビム》の地位は永遠に不動だ。そうだな、ギヒテル」
「その通りだ。おい、ナイジェルとゼピエルもにこやかにうなずくだけじゃなく何とか言えよ」
「そんなこと言ったって」
と、ゼピエル。
「感激で言葉が出ない」
と、ナイジェル。
ここでやや間があった。ロドフェルがさっきと同じ顔に戻って言う
「言葉があり余って整理がつかないよりマシだろう」
「どういう意味だ。ロドフェル」
「おや。心あたりでもあるのか。ジョフィエル。目にクジラが立ってるぞ」
こうして、ジョフィエルの声変わりの問題がうやむやになり、天使間の人間関係が修復寸前からまた木っ端みじんに瓦解したところで、いつしか一行は火口壁の斜面を下りきり、新しくGD制作用に建てられた〈レイク・スタジオ〉に到着した。
しかし、この《過去抑止力》、一旦激情に駆られた一人が暴走するとあっという間に均衡が破れ、牽制しあっていた二つの国がもてる核兵器を使い果たすまで続く核戦争のごとき惨状へと発展する。
「まだ、あるぞ。亡霊たちのパーティーがうるさいといって、廃墟の中でも比較的保存状態がよくて天使バンドの定宿になっていたホテルを壊した」
「僕一人でやったわけじゃない」
「かねてから〈前衛天球派〉の祖である我々は天使バンドの見本となるよう紳士的にふるまわなければならない、と言っていた君が12フィートもある棒で電球を壊したから、ナイジェルやラウエルもあとに続いたんじゃないか。なまじ、図体がでかいと主犯だと思われて、何もしてないのにしぼられた俺とギヒテルはえらい迷惑だ」
ジョフィエルが過去の二人の関係に言及しないとわかれば、テュリクルも強気だ。
「ライブのオープニングで新譜のインストルメンタルを予定してたのに、ステージング・プロデューサーの目をぬすんで直前にデータを差し替え、個人的な友だちの曲を流したこともあったな」
ここでテュリクセルの言う〈個人的な友だち〉もまた、ゴルゴポタモス・阿・ヴァン・アンク・O・タオ・ギーダ、こと《神》である。
ジョフィエルとのコラボレーション・アルバム以来、多くの〈前衛天球派〉音楽ファンの間に広くその名は知られるようになったが、《ケルビム》のメンバーたちももちろん、いまだにその正体を知らない。
「さあ、どうだ。まだまだ、いくらでもあるぞ」
「今さら反省しても遅いよ」
「本人が言うなよ」
ジョフィエルは、そろそろ誰か止めてくれないかと周りを見回した。程度の差こそあれ、同意の表情を浮かべた5つの顔があった。
どこかで声変わりのことを告げなければならないからと、他の天使たちとともに歩いてここまで来たが、こんなことなら、いつものように自分だけ飛んでくればよかったとジョフィエルは後悔した。
「ところで、ヒュリエルはどうした?山のような荷物に悪戦苦闘していたようだが」
「ヒュリエルならリヤカーと一緒にすごいスピードで、転がるように坂を下っていった。先に行って荷解きを片付けるつもりだろう。いつもならそんな心遣いとは無縁の君が、こんな時だけ彼のことを気にかけるふりなんかして話をはぐらかそうったって、そうはいくか。
君はいつもそうだ。舌先三寸で相手をケムにまいて自分のペースに巻きこみ、バンドを私物化してやりたい放題。第一期《ケルビム》時代、みんな面と向かって口には出さなかったが、君のしてきたことに反対意見や苦情はいくらでもあったんだ。そろそろ、自分が、演奏テクをひけらかすだけの鼻持ちならないアカデミック集団に陥らないためのバンドの護符、『精神性』と書かれた看板にすぎなかったことを自覚するんだな」
テュリクセルは頭一つ上からまくしたて、その横ではロドフェルが、次は自分の番だとばかりにうずうずして待っている。ジョフィエルは、ここはともかく謝るのが得策だと判断した。
「さっきから君が言っている僕のかつての行い。全部は憶えてないが、大体合ってると思う。悪かったよ。テュリクセル」
それから、ロドフェルに向きなおり、同じ表情で詫びた。
「ロドフェル。悪かった。君たちを呼び集めたのは別に、万魔殿行きが近いとかそういう理由からじゃない。角がとれて丸くなった、というのかな。別々の道を歩んでいた時の確執を忘れてみんな仲良くできたらいいなと思っただけだ。天使の本分を思い出したんだよ」
「いや。僕のほうこそ悪かったよ」
「角が取れて丸くなったとたんにスターダムから転がり落ちた天使バンドは多いが、僕たちなら大丈夫」
「転がり落ちてもまた、頂点に逆戻りしてみせるさ。チョロQのように。な、ラウエル」
「そうだとも。《ケルビム》の地位は永遠に不動だ。そうだな、ギヒテル」
「その通りだ。おい、ナイジェルとゼピエルもにこやかにうなずくだけじゃなく何とか言えよ」
「そんなこと言ったって」
と、ゼピエル。
「感激で言葉が出ない」
と、ナイジェル。
ここでやや間があった。ロドフェルがさっきと同じ顔に戻って言う
「言葉があり余って整理がつかないよりマシだろう」
「どういう意味だ。ロドフェル」
「おや。心あたりでもあるのか。ジョフィエル。目にクジラが立ってるぞ」
こうして、ジョフィエルの声変わりの問題がうやむやになり、天使間の人間関係が修復寸前からまた木っ端みじんに瓦解したところで、いつしか一行は火口壁の斜面を下りきり、新しくGD制作用に建てられた〈レイク・スタジオ〉に到着した。
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