プログレた天使たち 

瑠俱院 阿修羅

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21. ラウエルの実力行使 ジョフィエルの計算に関するロドフェルの考察

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「オレなら笑わないと思ったらしい」
「で?」
「もちろん、のたうち回って笑い転げたよ。真面目一筋のヤツがいきなり《求愛のダンス》なんて言い出すんだから」
「おまえに相談するくらいなら、木の洞か地面に掘った穴に向かって叫んだほうがましなのに。『王様の耳はロバの耳』ってな具合に。地底人から『うるさい』って苦情が来るけどな」

 ギヒテルのオヤジジョークをさらりと流して、ロドフェルが続ける。
「あいつの気持ちを知りながら、ジョフィエルはわざとそ知らぬふり。思いあまってあいつが実力行使にでた時には、ジョフィエルは小鳥のようにおびえてみせながら、心の中ではガッツポーズをしたはずだ。こうしてラウエルはテュリクセルの地位を取って代わった。
そして、その数年後に例の解散だ。あの後、テュリクセルには怪我の功名で新しい恋人ができたが、ソロで活躍していた間も今も、ラウエルの心はジョフィエルでいっぱい」

「だけどさ、誘惑されたにしろなんにしろ、恋愛感情は催眠術でも強制でも魔術でもなく、ラウエルの本心なんだろう。彼がそれでいいと思っているのなら、我々がとやかく言うべきじゃないんじゃないかな」
「ギヒテル。なんでそう、ジョフィエルをかばうんだ」
ここでギヒテルは腕組みして考えこんだ。
「うーん。言われてみれば…。なぜかな。別に味方したいわけじゃないんだよ。ジョフィエルを敵に回したらどんな目に遭うかわからないと、心のどこかで思っているからだろう」

 それを聞いてロドフェルはため息をついた。
「なるほど。たしかにあいつは普通じゃない。サイコパスというヤツだ。常識が通用しないし、何をしても罪の意識なんかカケラもない。自分さえよければいいという己が性格を、生存本能の基本に忠実なんだと前向きに信じきってる」
「宇宙規模のきれいごとと見苦しい保身のギャップに、自分では何の疑問も持っていないらしいし」

「とにかく、ジョフィエルはラウエルが今も自分にぞっこんだと確信していた。だから、再加入の話をもちかける時にわざと思わせぶりな態度をちらつかせた。利用できる者はテレ死に寸前まで褒めたおし、邪魔者は徹底的にけなす。これがヤツのやり方だ。
オレがよそで活動してる間、ヤツに何と言われていたか、ま、今さらくどくど言うまい。だが、〈前衛天球派〉の再燃なんか一過性の現象だとわかりきってる。かつての栄光の甘い香りだけに誘われてラウエルが戻ってきたと思うか?我々3人の中で一番の成功を収めてたヤツが。第一期《ケルビム》時代からの固定ファンがいて、彼個人のプレイに憧れる崇拝者も少しずつだが増えていたのに。
見せ餌につられて戻ってきてはや3ヶ月。ラウエルはいまだに、あてにしていた褒美をもらっていない。理由は一つ。ジョフィエルと神との関係だ。そして今、ラウエルはテュリクセルとともに、《5エンジェルス》のマテリアルにある、神に捧げる愛の歌のコーラス・パートを歌わされているんだ」

「本当だとしたらひどい話だ」
「彼にはコウモリの翼こそふさわしい。なのにジョフィエルは、この世界に一人だけ天使として生き残ろうとしている。この世で最後のオメガ・エンジェルとして」
「まさか」
「可能性がないと言い切れるか?人類があんなに早くかつすみやかに滅びるなんて誰が想像した?しかも、善人ほど順番が早かった。天使も同じだ。『憎まれっ子世にはばかる』というだろう」

「人類滅亡は、神として当然の処置だろう。『大気と海は汚染してオゾン層に穴あけといたから後は頼んだぞ』みたいなことを7世代ばかり続けたあいつらに、神は怒り心頭に発したんだ。
地球の異常な加熱をオーバーヒートではなく〈温暖化〉とのんきに呼び習わし、海岸線がどんどん上がってきてるのに、『いいさ、神様だって一度は沈めたんだ』的なノリで軽くすませてた」

「人類の場合は自業自得だが、天使はどうだ?『憎まれっ子世にはばかる』をなぜ、止めない。思いやりに恵まれた人格健常者は〈性格の不自由な方〉をいたわり暖かく見守らなきゃならないのか」
「ジョフィエルだって、自分の性格は自分でもわかってて、治そうと努力してるはずだ」

「努力なんか21世紀までの人類文明で言えば、シーワールドのイルカ、アシカ、シャチ、サーカスの象にクマ、コメディアンの連れの猿にもできた。“フリント・ロック”や“ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック”にまでできたという者もいる。要するに、問題は資質だ。みんなが、やれ唯一無二の天使の歌声だ、天使の顔だともてはやすから、いい気になるんだ。スパイとでもユダとでも呼んで、自分のしていることの重大さをわからせてやるのが親切ってもんだ。
あれだけ平然とひとを踏みつけ利用するヤツには初めから、善なる天使の資質が欠けていると考えていい」

「たぐいまれな美しい声と詩の才能に恵まれた僕が、性格までよければというのは、欲張りすぎだろう」
ジョフィエルの声がした。
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